「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・散狐抄 2
麒麟を巡る話、第385話。
禍々しき母。
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2.
「一聖、……だと?」
天狐は構えたまま、少女と言葉を交わす。
「人違いじゃねーのか? オレは天狐だ」
「いいえ、一聖様。我らが主様より、真の名を伺っております」
「ケッ」
天狐は舌打ちし、少女との間合いを詰める。
「ポンコツめ。人の区別も付きゃしねーのかよッ!」
天狐に応じるように、少女も剣を振り上げて彼女に襲いかかる。
「ふざけてんじゃねえぞ、このガラクタッ!」
しかし次の瞬間、少女の握っていた剣は、その右腕ごと彼方へと飛んで行った。
「あっ」
「何が『あっ』だ、寝ぼけんのも……」
続けざまに、天狐は魔術を放つ。
「大概にしとけやあああッ!」
極太の雷に撃ち抜かれ、少女は――己の名前、トリノを名乗る暇も与えられず――真っ二つに裂かれ、そして蒸発した。
「……ケッ。あのイカレ女め、これしきのオモチャでオレをどうにかできると思ったか?」
天狐は苛立つ様子を見せながらも、未だ壁に磔(はりつけ)にされたままの鈴林に目をやる。
「生きてるか、鈴林?」
「……い……生き……てる……」
「しゃべり辛そうだな。いいよ、今抜いてやっから黙っとけ」
天狐はコキコキと首を鳴らしつつ、鈴林の方へと近付いた。
だが、その足が途中で止まる。
「……」
天狐はくる、と横を向き、再度鉄扇を構えた。
「そんなにオレを怒らせて楽しいか、ババア」
「その不躾な口、それ以上わたくしに開くな」
天狐の視線の先には、白いローブに身を包んだ女性――克難訓が立っていた。
「その言葉、そっくり返してやんぜ。
そもそもババア、何故お前は今更、オレの前に現れた?」
「知れたこと。お前を殺すためだ」
「だから、何で今更なんだよ」
天狐は一歩、難訓に詰め寄る。
「親父から聞いた話だけど、お前は『契約』したらしいな。オレを殺さない、と」
「何を聞いたのやら」
難訓は大仰な仕草で、肩をすくめて見せた。
「重要な点がいくつも欠けている。大事なことを何ら聞いていやしない。ああ、やはりお前は欠陥品だ。わたくしの血を分けたなどと考えたくもない、怖気の走る駄作!」
「言ったはずだぞ、ババア。その躾のなってねえ口を、オレに利くなと!」
天狐はさらに距離を詰め、難訓に斬りかかった。
だが難訓はそれをすい、と紙一重で避け、嘲笑うように語りかける。
「まず第一に、その『契約』は非常に限定的なものだ。『わたくしが手を出してはいけない』と言う、実行者のみ限定した内容だ」
更に二度、三度と鉄扇を振り回し、難訓を追うが、彼女はひらりひらりとかわし、話し続ける。
「第二にわたくしは、『一聖を殺さない』と言ったのだ。
お前は、違う。お前は一聖本人ではない。駄作を更に劣化コピーしただけの、ただの肉人形だ」
「ソレがどうしたッ!?」
天狐は怒りに任せ、鉄扇を投げつける。
だが難訓はそれを魔杖で弾き――。
「である故に、人形たるお前をどうしようと、わたくしがあの方と交わした『契約』には、何ら抵触することはない」
そのまま天狐に向けて、魔術を放った。
「『バールマルム』」
次の瞬間、びちゃっ、と廊下に水音が響く。
「テ……メ……エ」
続いて、天狐の声が弱々しくこだまする。
その天狐の左上半身は肉塊となって、廊下にバラ撒かれていた。
「まだ抗う気か、ゴミめ」
「抗う……さ……テメエにゃ……死んでも……負けたく……ねえんだよ……」
天狐の九つある尻尾が、1本光る。
そしてその1本が消えると同時に、天狐の体は元通りに復元された。
「ここで引導渡してやらあッ! 消し飛べ、ババアああああッ!」
天狐はパン、と手を合わせ、そして引く。投げ付け、どこかに飛んで行った鉄扇が、再び彼女の掌中に現れた。
「『ナインヘッダーサーペント』!」
鉄扇の先から、9つの電撃がほとばしる。
「クスクスクスクス」
難訓は一歩も動くこと無く、その電撃に呑まれた。
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禍々しき母。
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「一聖、……だと?」
天狐は構えたまま、少女と言葉を交わす。
「人違いじゃねーのか? オレは天狐だ」
「いいえ、一聖様。我らが主様より、真の名を伺っております」
「ケッ」
天狐は舌打ちし、少女との間合いを詰める。
「ポンコツめ。人の区別も付きゃしねーのかよッ!」
天狐に応じるように、少女も剣を振り上げて彼女に襲いかかる。
「ふざけてんじゃねえぞ、このガラクタッ!」
しかし次の瞬間、少女の握っていた剣は、その右腕ごと彼方へと飛んで行った。
「あっ」
「何が『あっ』だ、寝ぼけんのも……」
続けざまに、天狐は魔術を放つ。
「大概にしとけやあああッ!」
極太の雷に撃ち抜かれ、少女は――己の名前、トリノを名乗る暇も与えられず――真っ二つに裂かれ、そして蒸発した。
「……ケッ。あのイカレ女め、これしきのオモチャでオレをどうにかできると思ったか?」
天狐は苛立つ様子を見せながらも、未だ壁に磔(はりつけ)にされたままの鈴林に目をやる。
「生きてるか、鈴林?」
「……い……生き……てる……」
「しゃべり辛そうだな。いいよ、今抜いてやっから黙っとけ」
天狐はコキコキと首を鳴らしつつ、鈴林の方へと近付いた。
だが、その足が途中で止まる。
「……」
天狐はくる、と横を向き、再度鉄扇を構えた。
「そんなにオレを怒らせて楽しいか、ババア」
「その不躾な口、それ以上わたくしに開くな」
天狐の視線の先には、白いローブに身を包んだ女性――克難訓が立っていた。
「その言葉、そっくり返してやんぜ。
そもそもババア、何故お前は今更、オレの前に現れた?」
「知れたこと。お前を殺すためだ」
「だから、何で今更なんだよ」
天狐は一歩、難訓に詰め寄る。
「親父から聞いた話だけど、お前は『契約』したらしいな。オレを殺さない、と」
「何を聞いたのやら」
難訓は大仰な仕草で、肩をすくめて見せた。
「重要な点がいくつも欠けている。大事なことを何ら聞いていやしない。ああ、やはりお前は欠陥品だ。わたくしの血を分けたなどと考えたくもない、怖気の走る駄作!」
「言ったはずだぞ、ババア。その躾のなってねえ口を、オレに利くなと!」
天狐はさらに距離を詰め、難訓に斬りかかった。
だが難訓はそれをすい、と紙一重で避け、嘲笑うように語りかける。
「まず第一に、その『契約』は非常に限定的なものだ。『わたくしが手を出してはいけない』と言う、実行者のみ限定した内容だ」
更に二度、三度と鉄扇を振り回し、難訓を追うが、彼女はひらりひらりとかわし、話し続ける。
「第二にわたくしは、『一聖を殺さない』と言ったのだ。
お前は、違う。お前は一聖本人ではない。駄作を更に劣化コピーしただけの、ただの肉人形だ」
「ソレがどうしたッ!?」
天狐は怒りに任せ、鉄扇を投げつける。
だが難訓はそれを魔杖で弾き――。
「である故に、人形たるお前をどうしようと、わたくしがあの方と交わした『契約』には、何ら抵触することはない」
そのまま天狐に向けて、魔術を放った。
「『バールマルム』」
次の瞬間、びちゃっ、と廊下に水音が響く。
「テ……メ……エ」
続いて、天狐の声が弱々しくこだまする。
その天狐の左上半身は肉塊となって、廊下にバラ撒かれていた。
「まだ抗う気か、ゴミめ」
「抗う……さ……テメエにゃ……死んでも……負けたく……ねえんだよ……」
天狐の九つある尻尾が、1本光る。
そしてその1本が消えると同時に、天狐の体は元通りに復元された。
「ここで引導渡してやらあッ! 消し飛べ、ババアああああッ!」
天狐はパン、と手を合わせ、そして引く。投げ付け、どこかに飛んで行った鉄扇が、再び彼女の掌中に現れた。
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