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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・傑士録 4

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    晴奈の話、第159話。
    好敵手との思い出。

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    4.
    「ウィル!」
     晴奈が飛び起きると、そこは天玄館で晴奈が借りている寝室だった。
     周りには明奈、リスト、そしてエルスがいる。
    「お姉さま、気が付きましたか!」
     明奈は髪を拭きながら、心配そうな声をかけてくる。
    「明奈? ……ここは」
     ぼんやりしている晴奈を見て、エルスが苦笑しつつ説明してくれた。
    「川の中で戦って力尽きた君を、明奈が引っ張ってきてくれたんだよ。いやぁ、帰って来た時はビックリしたよ、ホントに」
     リストは泣きそうな顔で、晴奈に怒鳴ってくる。
    「アンタ、心配かけんじゃないわよ! マジで死んだかと思っちゃったわよ!?」
     晴奈は三人の顔を順に見つめ、深々と頭を下げた。
    「……すまない」

     その後、ウィルバーの姿が天玄で発見されることは無かった。



     戦争終結を受けて、天玄では記念式典が行われていた。
     それらの雑事をエルスに任せ、晴奈は一人、街をぶらついていた。
    「……」
     やがて歩くことに飽き、晴奈は河原に座り込む。
     あの死闘など無かったかのように、川は穏やかに流れている。
    「……明奈。そんなところでぼーっとしてないで、こっちに来い」
    「あっ、は、はい」
     晴奈は背後に立っていた明奈に気付き、背を向けたまま呼びかけた。
     明奈はいそいそと、晴奈の横に座り込む。
    「式典はどうなった?」
    「今はお父様が演説なさってます。その後は適当にエルスさんが話されて、お開きになるかと」
    「そうか。父上の演説なら、30分はかかるだろうな。エルスの出番までには戻っておくか」
     そこで会話が途切れる。
     初夏の川は美しく輝き、二人の顔を照らしている。だがそんな景色を目にしても、晴奈の心はさっぱり晴れない。
    「なあ、明奈」
    「はい?」
     唐突に、晴奈が口を開く。
    「ずっと前から、ぼんやり考えていたことがあるんだ」
    「何ですか?」
    「私と、ウィルのことだ」
     晴奈の言葉に、明奈は目を見開く。
    「お姉さま、ウィルバーのことを想ってらしたの?」
    「そんな話じゃない。あいつと私は似ていた。そんなことを考えていた」
    「似ていた……?」
     晴奈は遠くを眺め、ぽつぽつと語り出す。
    「あいつはあの夜の戦いで、『自分は戦うことが好きだった』と言ったのだ。
     それは私も同じだ。戦っている時は非常に心が昂ぶり、ワクワクするんだ。きっとあいつも同じだったんじゃないか……、とな」
    「楽しいもの、なのですか?」
     明奈は信じられない、と言うような顔で見つめている。晴奈は苦笑しつつ、説明する。
    「ふふ……、確かに命の危険はあるさ。いつも余裕で戦っているわけでも無い。正直、逃げ出したくなる時もあるんだ。
     でもそんな感情とは別に、心のどこかで『生きている』と感じる。自分はこの切羽詰った状況にいて、まだまだ元気に動いている。まだまだ活路を見出せる。そんなことが、何より楽しいんだ。
     明奈。この『生きているのだ』と言う実感は、何物にも変え難い甘露なんだ。これに比べれば酒や博打など、かすんでしまう」
     晴奈の説明に、明奈はけげんな表情を浮かべている。
    「……変なお姉さま。戦いを好まぬわたしにも、生きていることは十分に分かりますよ? 心臓が動いておりますし、地に足も着いておりますから」
    「いや、そう言うこととは、少しばかり違うのだが、……いや、どうにも説明がしにくいな。
     まあいい。この話はもう、これでおしまいだ」
     晴奈は苦笑しつつ立ち上がり、明奈に手を差し出す。
    「さ、明奈。いくらなんでも、父上の演説はもう済んでいる頃だ。戻るとしよう」
    「そうですね。戻りましょうか」
     明奈は晴奈の手を借り、立ち上がる。
    「ねえ、お姉さま」
    「うん?」
     河原から街路に上がる途中で、明奈は尋ねてみる。
    「お姉さま、本当にウィルバーのこと、想っていらっしゃらなかったの?」
    「……分からないな」
     晴奈は街路に上がったところで立ち止まり、首をかしげて答える。
    「あいつには確かに因縁めいたものを感じていた。すごく近しい何かを、感じずにはいられなかった。
     でもそれが何なのかと問われれば、私にはどうとも答えられないんだ。単なる友情じゃない。愛情と言うのも違う。その情を何と形容すべきか、私の中に的確な言葉は無いんだ。
     ともかく『何か』は、あいつと私の間にあった。それだけは、確実に言える」
    「ふうん……」
     明奈はさっぱり分からないと言いたげな顔でうなずいた。晴奈はそれに構わず、ぽつりとつぶやいた。
    「もう会うことは無いだろうな、あいつとは」
     歩きながら、晴奈はあの夜の戦いで聞いた、ウィルバーの言葉を思い出す。
    ――オレ、還るわ。オレのような修羅に似合う、地獄の底に――
    (修羅、か。
     様々な経験の末、私は修羅にはならなかった。反面、あいつは修羅の道に堕ちた。
     どこかで道を間違えれば、修羅になっていたのはあいつではなく、私だったのかも知れない)
     そう思った晴奈の心に、薄ら寒さと後悔の念が押し寄せ、口から言葉がこぼれ出す。
    「あいつは傑士だった。
     もし敵として出会わなければ、いい友になれたのかも知れぬ。……それとも」
     その後に続く言葉は、口には出せなかった。
     胸に沸きあがるその感情を、やはり何と説明すればいいのか分からなかったし、その感情をはっきりと形にすることも、心の何処かで妙に恐れてもいたからだ。

     さわやかな夏の風も、今の晴奈には心地よく感じることはできなかった。

    蒼天剣・傑士録 終

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    2016.04.08 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    おっと失礼。同じ時期に楓井さんのメモとっていたのでまちがえちゃったみたいです。すみません。

    今日は第四部を再読します~。

    NoTitle 

    晴奈と比較すると見劣りはするでしょうが、3人ともひとかどの人物。
    あとほんのちょっとだけでも運があれば、あるいは篠原が朔美に出会う、この一事さえ無ければ、この3人の誰もが、悲劇的な結末を迎えることは無かったでしょう……。

    なお、指摘は野暮とは思いますが、「藤川」です。

    NoTitle 

    トリビア 焔流苦労人列伝

    楢崎瞬二 473年生まれにして、501年に28歳で免許皆伝。皆伝後道場を開いて、苦労に苦労を重ねながら門人を集めるも、509年に子供をさらわれて道場を乗っ取られる、焔流剣士の苦労を一人ですべて背負い込んだような半生である。ちなみに493年に生まれ、506年に13歳で焔流に入門した黄晴奈は、わずか6年の修行で512年に19歳で免許皆伝、年齢的には楢崎瞬二がまだ皆伝目指して修行中だったころの、25歳の518年には数多の戦で大活躍して克大火に自分専用の神器まで打ってもらうんだから、もうこの天才ってやつはまったく(^^;) 楢崎瞬二の苦労話は記憶ではまだまだ続いたはずだから、続きを読むのが怖い気がする(笑)

    藤井英心 この遅咲きの楢崎瞬二がいてさえ、焔重蔵が「技量も体も凡庸」(戦凪録3)と述べた人物。長所は打たれ強くて人格がいいこと。そんな彼が、免許皆伝までどれだけ努力してどのくらいの時間がかかったのだか怖くてとても調べる気になれない(^^;) あまつさえ最期は非業の死であった。霙子ちゃんが復讐の鬼になるのも当然だといえよう。

    篠原龍明 日記を読んだエルス・グラッドからはボロクソに言われてるけど、ごく普通の人間らしい弱点を持った真面目な人。向上心の高い奥さんを持ったがゆえに心に反する裏切りの連続となる生涯を送った末、最後には曲がりなりにも5年間を育てた養女の霙子ちゃんに呪われながら死んだ人。

    ……人生だなあ。

     

    あら、今回はご感想がいただけなくて残念(´・ω・)

    強さのレートがFFとドラクエのHP表示くらい違いますからねぇ。
    ただ……、こっちでも強い人は補正なしで通用すると自負してますよw

    キャラをお借りされる時は、またご連絡を。

     

    同人ゲームで1900年を出すのであれば、ウェンディも出してもいいなあ・・・と考える今日この頃です。
    どうも、LandMです。まあ、セイナとかは無理ですけどね。これからウェンディも活躍してくるんでしょうね。
    予定通りいけば、来月ぐらいに依頼をかけます。グッゲンハイム補正というか、原作より華やかな感じになると思いますのでよろしくお願いします。…でないと、他のキャラと張り合えないので。もちろん、注文は厳守しますのでよろしくです。
    それでは失礼します。
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