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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第8部

    白猫夢・三狐抄 2

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    麒麟を巡る話、第404話。
    なにわぶし。

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    2.
     5分後、モデノがマロを連れて、客間に現れた。
    「よお、マロ。久しぶりやな」
     ルカが気さくに声をかけたが、マロは応じない。
    「……」
    「こら、マロ」
     その態度を、モデノが咎める。
    「目上に挨拶されて無視するアホがおるか」
    「……あ」
     と、マロはのろのろと顔を上げ、ルカと目を合わせる。
    「すんません、ボーっとしてました。お久しぶりです、ルカおじさん」
    「ああ、ええよええよ。やっぱり疲れとるみたいやな」
    「ええ、ちょっと……」
    「悪かったなぁ、いきなり呼び付けて。ま、これでも呑んで許したってくれや」
    「いやいや、そんな……」
     取り繕おうとするモデノに構わず、マロは父より先にソファに座り込んだ。
    「おい、マロ!」
    「はい?」
    「順序があるやろが。親より先に座るヤツがあるかいな」
    「……あ、ごめん」
     マロが立ち上がりかけたところで、モデノははあ、とため息を付いてそれを止める。
    「ええわ、もう。……お前、ホンマに大丈夫かいな?」
    「それや。俺も選管から話聞いて、心配になってな」
     ルカはワインのコルクを抜きながら、マロに尋ねる。
    「なんやあったんか? えらい落ち込んどるって聞いたけど」
    「いや……、別に」
    「何もあらへんことないやろ? 見抜けへんほど短い人生、俺らは送っとらへんで」
    「……」
     ルカの問いかけに対し、マロはうつむいたまま応じない。
     その態度にモデノは眉を潜めてはいたが、不意につぶやく。
    「女やろ」「……っ」
     顔を挙げたマロに、ルカがグラスを差し出した。
    「図星やな。それもものっすごい、手ひどいフラれ方をしたと見える」
    「……ええ」
    「まあ、どんな目に遭ったかは聞かんけども」
     モデノもグラスを受け取り、マロをやんわりとなぐさめる。
    「人生長いもんや。1回や2回フラれたかて、どうもあるかいな。わしなんか16回フラれとる。うち3回は離婚もんやし」
    「モデノ……。それは自分のガキに言う話やないやろ。見てみい、引いとるで」
     ルカは呆れつつ、二人のグラスにワインを注ぐ。
    「まあ、そんでもマロ。モデノの言う通り、人生色んなことが起こるもんや。
     そら確かに、好きや好きやと思っとった子にフラれるっちゅうのんはきついもんや。それはよお分かる。
     しかしや、人生楽あれば苦あり、苦あれば楽ありや。今、『もうあんなええ娘、二度と俺の前に現れんわ』と嘆いとる、……としてもや。そのうちまた、ええ娘に巡り会える。くじけず生きとったら、またそのうちええことあるもんや。
     せやからな、あんまり思いつめんときや。な?」
    「……ええ」
    「さ、とりあえず気ぃ取り直すっちゅうことで、や。呑も、呑も」
     ルカはグラスを掲げ、マロに向けた。
    「うちら金火狐の繁栄と、苦難に飲み込まれつつも勇気ある一歩を踏み出したマロに」
    「……ども」
    「乾杯!」
     ぼそぼそと礼を言ったマロに構わず、ルカとモデノは一息にワインをあおった。

     その後、立て続けに二度、三度とグラスを空にしたところで、ルカがとろんとした口調でマロに尋ねた。
    「ほんでや、マロぉ。お前がフラれたんって、どんな女やってん?」
    「その……、一言で言うたら」
     落ち込んでいたマロも、酒の効果が現れてくる。
    「超人っちゅうか、女神さんみたいな人でしたわ」
    「めがみぃ? 開祖さんみたいな、っちゅう感じか?」
    「いや……、それとは別方向にすごい人です。ゼミん時の同級生やったんですけど、勉強もめっちゃできるし、剣術の試合出た時も圧勝してはったし、党でも……」「党?」
     と、マロの言葉に、ルカは充血していた目を光らせた。
    「党ってアレかぁ? 最近大暴れしとる、白猫党のことか?」
    「ええ。知ってはるんですか?」
    「アホぉ、知っとるも知らんもあるかいな。ついこないだ、ミッドランドやらバイエルやらに攻め込んだアホタレどもや無いかぁ。
     まさかお前、そいつらと付き合いあるんとちゃうやろなぁ?」
    「付き合いっちゅうか、以前は、……あ、いえ」
     かつて党の幹部であったことを打ち明けそうになったが、マロは口をつぐんだ。
    「……まあ、そこら辺でこじれてフラれたようなもんですわ。今は何の関係もありまへん」
    「ん、……そうか。ならええねん、うん。
     ホンマ、とんでもない奴らやでぇ。こないだかて、モントの嫁さんの実家に攻め込んだらしいし、日を追うごとに版図を拡げてきとる。
     このまま放っといたら、いずれ市国にも攻めこんで来よるんや無いかっちゅうのが、もっぱらのうわさやでぇ」
    「……」
     憤るルカに、マロは目を合わせることができなかった。
    「せや、マロ」
     が、ルカはマロのそうした仕草に気付いた様子は無い。
    「もしもこのまま戦いが長引くようなことになったら、次の総帥が真っ先にやるであろう仕事はソレやろな。白猫党の奴らと真っ向から戦わなアカンことになる。
     ホンマ大変やで、総帥は」
    「……でしょうね」
     ルカの言葉を、マロは別の意味で捉えていた。
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