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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第8部

    白猫夢・三狐抄 5

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    麒麟を巡る話、第407話。
    暗躍する人形。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
    「え、ちょ、……っと」
     近付いて来る少女に恐れ、ルーマは後ずさる。
    「いかがでしょう」
    「いや、そんなん言われても」
     後ずさるルーマに対し、少女はもう一歩踏み込む。
    「お受けになった方が懸命と思われます」
    「でも、なんか嘘、感じるんですけど」
     ルーマの言葉に、少女はぴた、と動きを止める。
    「嘘と申しますと」
    「今、あなたのお願い聞いても、あたし30日までに殺される気がするんですけど」
    「……」
     両者の間に、沈黙が流れる。
     そして唐突に、少女が口を開いた。
    「その通りでございます」
     少女はナイフを振り上げ、ルーマに向けて投げ付けた。

     と――そのナイフが、ルーマに届くその寸前で静止する。
    「え」「ひゃ、……あ?」
     ナイフはルーマの首筋から、ほんの2、3センチのところで止まったまま、動かない。
    「下衆だね。絵に描いたような下衆だ」
     路地の曲がり角から、誰かが現れる。
    「私欲のためだけだね。お前がベラベラベラベラ立て並べた言葉は、全部お前らの利益のためだけ。相手にゃ欠片も、利益を与えやしない。
     コレが取引だ、契約だと言えるかねぇ?」
     声の主に対し、少女はくる、と振り向き、淡々と答える。
    「取引など、元よりするつもりはございません。わたくしどもが行っているのは、『命令』でございます」
    「あっ、そう」
     ルーマたちの前に現れた、その魔術師の格好をした狐獣人は、「いかにも」としか言い様のない三角帽子のつばをくい、と上げる。
    「だったら話は無駄ってワケだね」
    「その通りでご」
     がつっ、と音を立てて、少女の背中にナイフが突き刺さる。
    「ざ……っ……」
     がくんと膝を付いた少女に構わず、魔術師はルーマに手招きする。
    「なら、コレで終わりだね。ルーマ、こっち来な」
    「あ、は、はい」
     言われるがまま、ルーマは魔術師の方へ歩く。
     が、途中で心配になり、少女の方をチラ、と見る。
    「……あれ? 血、出てへん」
    「そりゃ出ないね。そいつは人形だからね」
    「にん……ぎょう?」
    「早く来なってね」
    「あ、はーい」
     ルーマが魔術師の背後に隠れたところで、少女はよろよろと立ち上がる。それを眺めていた魔術師は、口角を上げて嘲笑う。
    「そーゆー時、『ああ、人の形してて損した』って思うんじゃないね?」
    「う……く……」
     少女は自分の背中に手を回しているが、どちらの手も、背後に突き刺さったナイフには届かない。
    「今日のところはもう帰りな。いいや、二度と私らの前に現れるんじゃないね」
    「……」
     少女はしばらくもがいていたが、やがて静止し、魔術師をにらみつけた。
    「あなたは何者でしょうか」
    「人に名前聞くってんならね、まず自分が名乗るってのが筋じゃないね?」
    「承知いたしました。わたくしの名前は、セリカと申します」
    「ご紹介痛み入るね。じゃあ名乗ってやろうかね。私の名前はモールさ」
    「モール……」
     セリカと名乗った少女は、その名前を繰り返す。
    「モール・リッチ様でございますね」
    「そのとぉーり。分かったらさっさと消えな、ポンコツ」
    「……」
     間を置いて、セリカは小さく頭を下げた。
    「承知せざるを得ないと判断いたしました」
     そう言い残し、セリカは瞬時にその場から消えた。
    「……はーぁ。危ないところだったね、ルーマ」
    「ありがとうございます、……えっと、モールさん、でしたっけ」
    「おう」
     ルーマはモールにぺこ、と頭を下げ――がば、と上げた。
    「あーっ!」
    「ど、どうしたね?」
    「い、今何時です!?」
    「何時って、自分の腕時計見りゃいいじゃないね」
     モールに言われ、ルーマは右腕に付けた腕時計を確認する。
    「……ひゃー!」
    「約束でもあるって感じだね。何時の予定さ?」
    「く、9時です」
    「……ヤバいじゃないね。もう過ぎてるね」
    「も、もも、モールさん、この辺り詳しいです?」
    「まあ、そこそこ」
    「じゃ、じゃあ、あのっ、ここってどう行くんか教えて下さいっ」
     慌てふためくルーマに、モールは呆れた表情を浮かべつつ、道を教えてくれた。
    「この路地出て右行って、その先の右手にもういっこ路地があるから、ソコ入ったらすぐのトコだね」
    「ありがとうございますっ! あ、また会えますか!?」
    「ん?」
    「助けてくれたお礼せなあきませんもん! あ、じゃあ、12時に『ランクス&アレックス』ってお店に来てください! 絶対ですよ!
     それじゃ、ごめんなさい、ホンマ急ぐんで、ごめんなさーい!」
    「ああ、行ってらっしゃい。……ふぅ」
     ルーマがバタバタと走り去り、姿が見えなくなったところで、モールは三角帽子を深めにかぶり直した。
    「やーれやれ、名前の通り(Vento:風)に騒がしい子だねぇ」
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