「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・三狐抄 6
麒麟を巡る話、第408話。
大御所。
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6.
少し遅れてしまったものの、どうにか商談をまとめ終えたルーマは、またもバタバタと走っていた。
「もう5分前切っとるぅー!」
大急ぎで次の約束の場所、レストラン「ランクス&アレックス」に到着し、店員に尋ねる。
「ぜぇ、ぜぇ……、ご、ごめんなさい、今日の正午、に、予約しとりました、……はぁ、はぁ、ルーマ・ベント・ゴールドマンですけど」
「お待ちしておりました、ゴールドマン様。……お席にご案内する前に、お水とおしぼり、お持ちしましょうか?」
「ありがとう、ございます……」
店員から水とおしぼりを受け取り、ルーマは汗を拭きながら、一息に水を飲み干す。
「……ぷはー。ああ、しんどかった」
「ふふっ、うふふふ……」
と、店の奥から笑い声が聞こえてくる。
それを耳にしたルーマは、ぺたんと狐耳を伏せた。
「お、おばあちゃん……、もう来てたん?」
「もう正午になりますもの。来ていなければおかしいでしょう、ルーマ?」
「へへ……、ごめんなさい」
「謝らなくても大丈夫ですよ。今、正午になったところですから」
そう返し、ルーマの祖母――第18代金火狐総帥の妻であり、公安局長や総帥顧問などの要職を歴任してきた金火狐の重鎮中の重鎮、フォルナ・ファイアテイル女史は、ルーマに向けてにっこりと笑った。
ルーマが席に着き、どうにか体裁を整えたところで、フォルナが口を開く。
「ところで、ルーマ。今日は大丈夫でした?」
「え?」
何のことを言っているか分からず、ルーマは返答に詰まる。
と、フォルナの背後の席から、呆れた声が飛んできた。
「もう今朝のコト、忘れたね? なかなか肝が太いね、君」
「あっ、……えーと、ムーアさん?」
「モールだっ!」
モールは立ち上がり、憮然とした顔をルーマに向ける。
「まあ、まあ、モールさん。わたくしの顔に免じて、ね?」
「フン」
まだ口を尖らせながらも、フォルナの横の席に着いたモールに、ルーマは唖然とした。
「モールさんて、おばあちゃんのお友達やったんですか?」
「ま、そんなトコだね。
で、今朝の話をするけどもね。その時も言った通り、あのセリカってのは人形さ。ある女から何やかや命じられて動く、いわゆる『駒』なんだ」
「ある女、と言うのは?」
「そりゃ、聞かない方がいいね。色々知っちゃいけない秘密があるんだよ、世界にはね」
「はあ……?」
話をはぐらかされ、面食らっているルーマに構わず、モールは話を続ける。
「重要なのは、だ。何で今、この時期に君を狙ってるのかってコトだね。ま、頭のいい君ならピンと来るだろ?」
そう問われ、ルーマはうなずく。
「総帥選挙、ですか?」
「正解。君とあの、エミリオとか言う高慢ちきなお坊ちゃんを総帥にさせたくないらしいんだよね。
と言って単純に、もう一人残ってるあの、マロだかボロだかって奴を総帥に仕立てあげるのが目的じゃ無い。総帥にした上で、あの白猫党が攻めてきた時、市国を無条件降伏させるためなのさ」
「んー……、もしかしてですけど、その『ある女』の方って、ホワイト・クラムをいっぱい持ってはるんですか?」
「ほーぉ……? どうしてそう思うね?」
この問いにも、ルーマははきはきと答えた。
「白猫党さんは数年前、デノミ政策としてヘブンズ・クラムからそっちに切り替えはったって話、どこかで聞きました。うまいこと行かへんかった、っちゅうのんも聞いてますけど。
でも最近、央中のあっちこっちで戦争やって領土を拡げてはるせいで、じわじわクラム高エル安の流れになってきてますし、ここで大きな話題があれば、より一層クラム高になるやろうと、あたしは見てます。
モールさんが今言うてた無条件降伏がホンマの話になったら、エル崩壊とクラム暴騰が同時に起こるでしょうね。その人がもし、今は紙くず同然のクラムを大量に持ってたとしたら、信じられへんくらいの大儲けがでけると思います」
「なかなか賢いじゃないね、君」
「ええ、それはもう。この子は22の若さで、金火狐の金融業に就いておりますもの」
モールが滅多に人をほめない性質と知っているフォルナは、嬉しそうに笑っていた。
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大御所。
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少し遅れてしまったものの、どうにか商談をまとめ終えたルーマは、またもバタバタと走っていた。
「もう5分前切っとるぅー!」
大急ぎで次の約束の場所、レストラン「ランクス&アレックス」に到着し、店員に尋ねる。
「ぜぇ、ぜぇ……、ご、ごめんなさい、今日の正午、に、予約しとりました、……はぁ、はぁ、ルーマ・ベント・ゴールドマンですけど」
「お待ちしておりました、ゴールドマン様。……お席にご案内する前に、お水とおしぼり、お持ちしましょうか?」
「ありがとう、ございます……」
店員から水とおしぼりを受け取り、ルーマは汗を拭きながら、一息に水を飲み干す。
「……ぷはー。ああ、しんどかった」
「ふふっ、うふふふ……」
と、店の奥から笑い声が聞こえてくる。
それを耳にしたルーマは、ぺたんと狐耳を伏せた。
「お、おばあちゃん……、もう来てたん?」
「もう正午になりますもの。来ていなければおかしいでしょう、ルーマ?」
「へへ……、ごめんなさい」
「謝らなくても大丈夫ですよ。今、正午になったところですから」
そう返し、ルーマの祖母――第18代金火狐総帥の妻であり、公安局長や総帥顧問などの要職を歴任してきた金火狐の重鎮中の重鎮、フォルナ・ファイアテイル女史は、ルーマに向けてにっこりと笑った。
ルーマが席に着き、どうにか体裁を整えたところで、フォルナが口を開く。
「ところで、ルーマ。今日は大丈夫でした?」
「え?」
何のことを言っているか分からず、ルーマは返答に詰まる。
と、フォルナの背後の席から、呆れた声が飛んできた。
「もう今朝のコト、忘れたね? なかなか肝が太いね、君」
「あっ、……えーと、ムーアさん?」
「モールだっ!」
モールは立ち上がり、憮然とした顔をルーマに向ける。
「まあ、まあ、モールさん。わたくしの顔に免じて、ね?」
「フン」
まだ口を尖らせながらも、フォルナの横の席に着いたモールに、ルーマは唖然とした。
「モールさんて、おばあちゃんのお友達やったんですか?」
「ま、そんなトコだね。
で、今朝の話をするけどもね。その時も言った通り、あのセリカってのは人形さ。ある女から何やかや命じられて動く、いわゆる『駒』なんだ」
「ある女、と言うのは?」
「そりゃ、聞かない方がいいね。色々知っちゃいけない秘密があるんだよ、世界にはね」
「はあ……?」
話をはぐらかされ、面食らっているルーマに構わず、モールは話を続ける。
「重要なのは、だ。何で今、この時期に君を狙ってるのかってコトだね。ま、頭のいい君ならピンと来るだろ?」
そう問われ、ルーマはうなずく。
「総帥選挙、ですか?」
「正解。君とあの、エミリオとか言う高慢ちきなお坊ちゃんを総帥にさせたくないらしいんだよね。
と言って単純に、もう一人残ってるあの、マロだかボロだかって奴を総帥に仕立てあげるのが目的じゃ無い。総帥にした上で、あの白猫党が攻めてきた時、市国を無条件降伏させるためなのさ」
「んー……、もしかしてですけど、その『ある女』の方って、ホワイト・クラムをいっぱい持ってはるんですか?」
「ほーぉ……? どうしてそう思うね?」
この問いにも、ルーマははきはきと答えた。
「白猫党さんは数年前、デノミ政策としてヘブンズ・クラムからそっちに切り替えはったって話、どこかで聞きました。うまいこと行かへんかった、っちゅうのんも聞いてますけど。
でも最近、央中のあっちこっちで戦争やって領土を拡げてはるせいで、じわじわクラム高エル安の流れになってきてますし、ここで大きな話題があれば、より一層クラム高になるやろうと、あたしは見てます。
モールさんが今言うてた無条件降伏がホンマの話になったら、エル崩壊とクラム暴騰が同時に起こるでしょうね。その人がもし、今は紙くず同然のクラムを大量に持ってたとしたら、信じられへんくらいの大儲けがでけると思います」
「なかなか賢いじゃないね、君」
「ええ、それはもう。この子は22の若さで、金火狐の金融業に就いておりますもの」
モールが滅多に人をほめない性質と知っているフォルナは、嬉しそうに笑っていた。
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