「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・三狐抄 7
麒麟を巡る話、第409話。
対抗措置。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
3人前の食事が運ばれてきたところで、フォルナが話を継ぐ。
「そもそも、今回の件はモールさんの方からお声をかけて下さったのよ」
「そうなんですか?」
尋ねたルーマに、モールは偉そうにうなずいて返す。
「ああ、そうとも。あの人形たち、今、央中の西で起こってる戦争で、裏から手を引いてるっぽいんだよね。
あっちこっちで偽の白猫党員に演説させて、本物に戦争起こさせる口実を作ったのをきっかけに、白猫党が攻める国や街の情報をそれとなく党側に流したり、相手側の軍事物資を奪ったり燃やしたりして無力化させたりして、何が何でも白猫党を勝たせようと、躍起になってるね。
理由は君が前述した通りだろうね。ただ、私の意見だけど、白猫党とそいつらには直接のつながりは無さそうだね」
「どうして?」
「工作活動を行ってるコト自体知られまいと、白猫党にまで隠して、全部コソコソやってるからさ。きっと白猫党も、ここまで快進撃が続くのを不思議がってるだろうね。
ま、そんな話は君にゃ関係ないね。重要なのは、この央中での戦争の最終ライン、即ちこの市国を陥落させるため、奴らは総帥選挙に絡んできてるってコトだね。
そして知ってるかね? 今回の選挙に出馬したアキュラ家側のお坊ちゃんは、白猫党員だったってコトをね」
「あら、そうなんですか?」
「そうなんだよね。そして現在、トーナ家側で出馬を表明した奴は、既に襲われたっぽいんだよね」
「それは本当ですか?」
血相を変えて尋ねたフォルナに、モールは深々とうなずいて見せる。
「顎に切り傷があった。恐らく昨日か一昨日かくらいに、あのセリカって人形に脅しを入れられたみたいだね。そして多分……」
「多分?」
「切られた時に、何かしらのオマケも付けられただろうね。ほらルーマ、セリカは君に何か言ってたよね?」
「えーと……、まず『自分たちの存在を誰にも言うな』と。それから、『25日に病気になってくれ』って」
「ソレさ。恐らく切った時、何かしらの病原菌を植え付けてるはずだね。アイツが言ってた通り、25日になったらトーナ家の奴、本当に倒れる羽目になるだろうね」
これを聞いて、フォルナは表情を曇らせた。
「治療は可能でしょうか?」
「ああ。診りゃ多分、ちょいちょいって治せるだろうね。
でもフォルナ、いいのかね? 本心じゃ、ルーマを選挙に勝たせたいんじゃないね?」
「……」
フォルナは一瞬黙り込み――突然、モールの鼻をつまんだ。
「ふひゃっ!?」
「賢者と呼ばれた方が、何とはしたないことを仰るのかしら。もっと年相応に、弁えた身の振りをなさってはいかが?」
「ほのほほは、ほっふいおはえひふふへっ(その言葉、そっくりお返しするねっ)」
「お黙りなさい。えいっ」
フォルナは鼻をつかんでいた手を、ぴっと放す。その拍子に、モールの口と鼻から妙な音が漏れた。
「ぷひゃっ!」
「ふふ、お返しですわ」
モールは鼻をさすりながら、憮然とした顔をした。
「何だね、『お返し』って……」
「あら、覚えていらっしゃらないの?」
「何をさ?」
「ふふ……、まあ、よろしいでしょう。
確かにあなたの仰る通り、わたくしの意見としては、ルーマが次代総帥にふさわしいと考えています。
だからこそ、わたくしは公正な判断の元で、その地位を得るべきとも考えておりますの」
「なるほどね。ルーマの一人勝ちじゃ、面白かないってコトか」
「そう言う意味ではございません。
それ以前に、エミリオもわたくしの大事な家族です。二つに割ったビスケットの片方を美味しいと賞賛し、もう片方をまずいと批判するのは、誰の目にもおかしな行いと見えるはずですわ」
「はいはい、分かったね。んじゃ、ご飯食べ終わったら二人で、ソイツのところに……」「『ソイツ』、ではございません。エミリオと言う立派な名前が付いています」「……分かったよ、エミリオ、ね」
「ふふ……、あははっ」
賢者と称されるモールが、自分の祖母に小突かれる様子を眺めていたルーマは、こらえ切れずに笑い出した。
「何笑ってるね、まったく。……っと、話が逸れたね。
本題はこうだ。君とエミリオの身を、30日の選挙日まで守る。そのために、私はココに来たね」
「それは本当に、ありがたいお申し出ですわ。よろしくお願いいたします、モールさん」
フォルナは深々と、モールに頭を下げる。
「よろしくお願いしまーす」
ルーマも並んで、頭を下げた。
こうして第19代金火狐総帥選挙戦は、これまでにない不穏な形で幕を開けた。
白猫夢・三狐抄 終
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3人前の食事が運ばれてきたところで、フォルナが話を継ぐ。
「そもそも、今回の件はモールさんの方からお声をかけて下さったのよ」
「そうなんですか?」
尋ねたルーマに、モールは偉そうにうなずいて返す。
「ああ、そうとも。あの人形たち、今、央中の西で起こってる戦争で、裏から手を引いてるっぽいんだよね。
あっちこっちで偽の白猫党員に演説させて、本物に戦争起こさせる口実を作ったのをきっかけに、白猫党が攻める国や街の情報をそれとなく党側に流したり、相手側の軍事物資を奪ったり燃やしたりして無力化させたりして、何が何でも白猫党を勝たせようと、躍起になってるね。
理由は君が前述した通りだろうね。ただ、私の意見だけど、白猫党とそいつらには直接のつながりは無さそうだね」
「どうして?」
「工作活動を行ってるコト自体知られまいと、白猫党にまで隠して、全部コソコソやってるからさ。きっと白猫党も、ここまで快進撃が続くのを不思議がってるだろうね。
ま、そんな話は君にゃ関係ないね。重要なのは、この央中での戦争の最終ライン、即ちこの市国を陥落させるため、奴らは総帥選挙に絡んできてるってコトだね。
そして知ってるかね? 今回の選挙に出馬したアキュラ家側のお坊ちゃんは、白猫党員だったってコトをね」
「あら、そうなんですか?」
「そうなんだよね。そして現在、トーナ家側で出馬を表明した奴は、既に襲われたっぽいんだよね」
「それは本当ですか?」
血相を変えて尋ねたフォルナに、モールは深々とうなずいて見せる。
「顎に切り傷があった。恐らく昨日か一昨日かくらいに、あのセリカって人形に脅しを入れられたみたいだね。そして多分……」
「多分?」
「切られた時に、何かしらのオマケも付けられただろうね。ほらルーマ、セリカは君に何か言ってたよね?」
「えーと……、まず『自分たちの存在を誰にも言うな』と。それから、『25日に病気になってくれ』って」
「ソレさ。恐らく切った時、何かしらの病原菌を植え付けてるはずだね。アイツが言ってた通り、25日になったらトーナ家の奴、本当に倒れる羽目になるだろうね」
これを聞いて、フォルナは表情を曇らせた。
「治療は可能でしょうか?」
「ああ。診りゃ多分、ちょいちょいって治せるだろうね。
でもフォルナ、いいのかね? 本心じゃ、ルーマを選挙に勝たせたいんじゃないね?」
「……」
フォルナは一瞬黙り込み――突然、モールの鼻をつまんだ。
「ふひゃっ!?」
「賢者と呼ばれた方が、何とはしたないことを仰るのかしら。もっと年相応に、弁えた身の振りをなさってはいかが?」
「ほのほほは、ほっふいおはえひふふへっ(その言葉、そっくりお返しするねっ)」
「お黙りなさい。えいっ」
フォルナは鼻をつかんでいた手を、ぴっと放す。その拍子に、モールの口と鼻から妙な音が漏れた。
「ぷひゃっ!」
「ふふ、お返しですわ」
モールは鼻をさすりながら、憮然とした顔をした。
「何だね、『お返し』って……」
「あら、覚えていらっしゃらないの?」
「何をさ?」
「ふふ……、まあ、よろしいでしょう。
確かにあなたの仰る通り、わたくしの意見としては、ルーマが次代総帥にふさわしいと考えています。
だからこそ、わたくしは公正な判断の元で、その地位を得るべきとも考えておりますの」
「なるほどね。ルーマの一人勝ちじゃ、面白かないってコトか」
「そう言う意味ではございません。
それ以前に、エミリオもわたくしの大事な家族です。二つに割ったビスケットの片方を美味しいと賞賛し、もう片方をまずいと批判するのは、誰の目にもおかしな行いと見えるはずですわ」
「はいはい、分かったね。んじゃ、ご飯食べ終わったら二人で、ソイツのところに……」「『ソイツ』、ではございません。エミリオと言う立派な名前が付いています」「……分かったよ、エミリオ、ね」
「ふふ……、あははっ」
賢者と称されるモールが、自分の祖母に小突かれる様子を眺めていたルーマは、こらえ切れずに笑い出した。
「何笑ってるね、まったく。……っと、話が逸れたね。
本題はこうだ。君とエミリオの身を、30日の選挙日まで守る。そのために、私はココに来たね」
「それは本当に、ありがたいお申し出ですわ。よろしくお願いいたします、モールさん」
フォルナは深々と、モールに頭を下げる。
「よろしくお願いしまーす」
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