「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・幹談抄 3
麒麟を巡る話、第412話。
総帥の質問。
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3.
7月20日。
現在の総帥夫妻が暮らし、また、財団の重要な会議が催される場でもある金火狐一族全員の本拠、通称「フォコ屋敷」の前に、ルーマは立っていた。
選挙前の唯一の所信表明の場、幹部面談会に出席するためである。
「あっ」
と、彼女とほぼ同時に、屋敷の前にエミリオが現れた。
「おはよう、エミリオくん」
「……ああ、おはよう」
エミリオの顔色は悪い。どうやらセリカに植え付けられた病気が進行しているらしい。
「大丈夫?」
思わず尋ねたルーマに対し、エミリオはフン、と鼻を鳴らした。
「人の心配をするより、自分の心配をしたらどうや?」
「大丈夫そうやね」
「当たり前や。こんな大事な日に体調を崩す奴がおるわけない。もしおったら、そいつは総帥職を軽く見とるアホや。体調管理もでけへんような奴が、……ぐ」
いつものように高圧的な言葉を吐いていたエミリオが、突然口を押さえ、黙り込む。
「エミリオくん?」
「……ゴホン。何でもない、先、行く」
エミリオはそれ以上言葉を交わさず、足早に屋敷へ入っていった。
(全然、大丈夫そうやないやないの)
ルーマははあ、とため息を付き、自分も屋敷へと入る。
と、玄関に着いたところで、もう一人の候補者――マロと会う。
「あ、マロくん」
「どうも」
十数年ぶりに再会した親戚を眺め、ルーマはぽつりとつぶやく。
「あたしと同い年やったよね?」
「確か、そのはずやで。22やんな?」
「うん。……なんか、老けたね」
老けたと言われ、マロは顔をしかめさせた。
「色々あってん。……先、行ってるで」
「うん」
背を向けたマロを見たルーマは、今度は心のなかでつぶやいた。
(マロくんの背広、っちゅうか背中。……なんか煤けたみたいに見える)
その後、ルーマも控室に入ったが、討論会が始まるまでの30分、誰も言葉を発しなかった。
同日、午前11時。
ルーマたち3名は、屋敷2階の会議室へと移動した。
「失礼します」
まず、エミリオから入室し、ルーマ、マロと続く。
「本日はお忙しい中、ご苦労さんです」
いつものひょうきんな様子を一切見せず、監査局長ルカが挨拶する。
そして金火狐の現総帥、レオン・モント・トーナ・ゴールドマン――通称、レオン6世が3人に声をかけた。
「まあ、座りや」
言われるがまま、ルーマたちは着席する。
「ほな、早速質問していこか。
まず、……せやな」
そう前置きし、レオンはニヤっと笑う。
「好きなおやつでも聞こか」
「……へっ?」
この質問に、マロは素っ頓狂な声を上げる。一方で、エミリオは表情を変えず、淡々と答えた。
「アップルパイです。中でも、シナモンがかかったものを特に好んで食べます」
「うん、確かに美味いな。ルーマはどうや?」
「あ、は、はひ、……はい」
裏返りかけた声を何とか立て直し、ルーマも答える。
「メイプルシロップが仰山かかったパンケーキが好きです。ミルクティと一緒に食べるのんが特に好きです」
「ええな。ほんで、マロはどうや?」
「あっ、お、えー、そうですな、……ええと」
どうやらレオンの質問があまりにも予想外だったらしく、マロは目を白黒させている。それでもどうにか、しどろもどろながらに答えた。
「み、ミッドランドで食うた、ショコラシフォンケーキ。今まで食べた中で一番美味かったで、……す」
「確かに美味そうやな。今度持ってきてくれるか?」
「あ、は、はい。……ミッドランドの封鎖が解けてたら」
「ああ……、せやったな。ちょっとかかりそうやな。まあええ。
次の質問や。去年一年、何して過ごしてた? ……せやな、今度はルーマからマロ、エミリオの順で、1分で答えてくれ」
「はい。去年は会社を立ち上げようと思て、金火狐商会のあっちこっちに顔を出してました。
あとはおばあちゃん、……あ、失礼しました、総帥の奥様と政治や経済について、何度か意見交換を行いました。
それ以外では、趣味で家庭菜園と陶芸を、少々。あと、先程の回答にパンケーキを上げましたが、それが美味しい店を、友達と一緒に探してました」
「ふむ」
レオンはチラ、と時計を見て、それからこう返した。
「フォルナと政治経済の話しとったっちゅうてたけど、実際は二人でパンケーキの店探してたやろ」
「……分かります?」
はにかんだルーマに対し、レオンは肩をすくめて返した。
「私が何年あいつと一緒にいる思てんねん。で、美味しいとこは見つかったんか?」
「はい。一番のお気に入りは、『ランクス&アレックス』ちゅうお店です」
「分かった。後でフォルナに聞いてみるわ。美味そうやし。
次、マロ」
「はっ、はい」
マロは額の汗を拭いつつ、やはりしどろもどろに答えた。
「去年は、ええと、央北で、まあ、その、銀行業のようなものに、手を貸してたっちゅうか、加担して、……やなくて、あの、た、携わっとりました。
あ、あとは、まあ、同僚と一緒に酒飲みに行ったり、まあ、経済の話をしたりして、まあ、えーと、他は、えー」「もうええ」
あまりにたどたどしかったためか、レオンはマロをにらみつけ、話を止めさせた。
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総帥の質問。
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7月20日。
現在の総帥夫妻が暮らし、また、財団の重要な会議が催される場でもある金火狐一族全員の本拠、通称「フォコ屋敷」の前に、ルーマは立っていた。
選挙前の唯一の所信表明の場、幹部面談会に出席するためである。
「あっ」
と、彼女とほぼ同時に、屋敷の前にエミリオが現れた。
「おはよう、エミリオくん」
「……ああ、おはよう」
エミリオの顔色は悪い。どうやらセリカに植え付けられた病気が進行しているらしい。
「大丈夫?」
思わず尋ねたルーマに対し、エミリオはフン、と鼻を鳴らした。
「人の心配をするより、自分の心配をしたらどうや?」
「大丈夫そうやね」
「当たり前や。こんな大事な日に体調を崩す奴がおるわけない。もしおったら、そいつは総帥職を軽く見とるアホや。体調管理もでけへんような奴が、……ぐ」
いつものように高圧的な言葉を吐いていたエミリオが、突然口を押さえ、黙り込む。
「エミリオくん?」
「……ゴホン。何でもない、先、行く」
エミリオはそれ以上言葉を交わさず、足早に屋敷へ入っていった。
(全然、大丈夫そうやないやないの)
ルーマははあ、とため息を付き、自分も屋敷へと入る。
と、玄関に着いたところで、もう一人の候補者――マロと会う。
「あ、マロくん」
「どうも」
十数年ぶりに再会した親戚を眺め、ルーマはぽつりとつぶやく。
「あたしと同い年やったよね?」
「確か、そのはずやで。22やんな?」
「うん。……なんか、老けたね」
老けたと言われ、マロは顔をしかめさせた。
「色々あってん。……先、行ってるで」
「うん」
背を向けたマロを見たルーマは、今度は心のなかでつぶやいた。
(マロくんの背広、っちゅうか背中。……なんか煤けたみたいに見える)
その後、ルーマも控室に入ったが、討論会が始まるまでの30分、誰も言葉を発しなかった。
同日、午前11時。
ルーマたち3名は、屋敷2階の会議室へと移動した。
「失礼します」
まず、エミリオから入室し、ルーマ、マロと続く。
「本日はお忙しい中、ご苦労さんです」
いつものひょうきんな様子を一切見せず、監査局長ルカが挨拶する。
そして金火狐の現総帥、レオン・モント・トーナ・ゴールドマン――通称、レオン6世が3人に声をかけた。
「まあ、座りや」
言われるがまま、ルーマたちは着席する。
「ほな、早速質問していこか。
まず、……せやな」
そう前置きし、レオンはニヤっと笑う。
「好きなおやつでも聞こか」
「……へっ?」
この質問に、マロは素っ頓狂な声を上げる。一方で、エミリオは表情を変えず、淡々と答えた。
「アップルパイです。中でも、シナモンがかかったものを特に好んで食べます」
「うん、確かに美味いな。ルーマはどうや?」
「あ、は、はひ、……はい」
裏返りかけた声を何とか立て直し、ルーマも答える。
「メイプルシロップが仰山かかったパンケーキが好きです。ミルクティと一緒に食べるのんが特に好きです」
「ええな。ほんで、マロはどうや?」
「あっ、お、えー、そうですな、……ええと」
どうやらレオンの質問があまりにも予想外だったらしく、マロは目を白黒させている。それでもどうにか、しどろもどろながらに答えた。
「み、ミッドランドで食うた、ショコラシフォンケーキ。今まで食べた中で一番美味かったで、……す」
「確かに美味そうやな。今度持ってきてくれるか?」
「あ、は、はい。……ミッドランドの封鎖が解けてたら」
「ああ……、せやったな。ちょっとかかりそうやな。まあええ。
次の質問や。去年一年、何して過ごしてた? ……せやな、今度はルーマからマロ、エミリオの順で、1分で答えてくれ」
「はい。去年は会社を立ち上げようと思て、金火狐商会のあっちこっちに顔を出してました。
あとはおばあちゃん、……あ、失礼しました、総帥の奥様と政治や経済について、何度か意見交換を行いました。
それ以外では、趣味で家庭菜園と陶芸を、少々。あと、先程の回答にパンケーキを上げましたが、それが美味しい店を、友達と一緒に探してました」
「ふむ」
レオンはチラ、と時計を見て、それからこう返した。
「フォルナと政治経済の話しとったっちゅうてたけど、実際は二人でパンケーキの店探してたやろ」
「……分かります?」
はにかんだルーマに対し、レオンは肩をすくめて返した。
「私が何年あいつと一緒にいる思てんねん。で、美味しいとこは見つかったんか?」
「はい。一番のお気に入りは、『ランクス&アレックス』ちゅうお店です」
「分かった。後でフォルナに聞いてみるわ。美味そうやし。
次、マロ」
「はっ、はい」
マロは額の汗を拭いつつ、やはりしどろもどろに答えた。
「去年は、ええと、央北で、まあ、その、銀行業のようなものに、手を貸してたっちゅうか、加担して、……やなくて、あの、た、携わっとりました。
あ、あとは、まあ、同僚と一緒に酒飲みに行ったり、まあ、経済の話をしたりして、まあ、えーと、他は、えー」「もうええ」
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