「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・幹談抄 5
麒麟を巡る話、第414話。
怒れるフォルナ、黄昏るレオン。
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5.
最高幹部7人でのほほんと茶を飲んでいる間に、1時間が経った。
「お、もうそろそろ時間やな」
「ほな、行こか」
「フォルナも行くか?」
「ええ」
全員で角部屋を後にし、先程の会議室へと向かう。
「おう、おつかれさ……」
面接開始時と同様、気さくに声をかけようとして、レオンは目を丸くした。
「……どうした!?」
「あ、その……」
討論の書記を務めていた選管委員が、顔を蒼くして説明する。
「たった今、倒れられまして」
「今?」
「え、ええ。ついさっきまで、堂々とした態度で話をされていたのですが」
「……」
顔を真っ赤にし、床に倒れ込んだエミリオの姿を見て、フォルナは悲しそうな表情を浮かべていた。
1時間後、「ランクス&アレックス」。
「よお、フォル……」
やってきたフォルナに挨拶しようと手を挙げかけて、モールは絶句した。
明らかに怒っている様子で、フォルナが足早にやって来たからだ。
「な、何怒ってるね?」
「これが怒らずにいられますか!」
フォルナはモールのすぐ前まで迫り――そしていきなり、モールを平手打ちした。
「あがっ……」
「今すぐ、エミリオを治しなさい!」
「いててて……、分かった、分かったってね、もう」
モールは頬を押さえながら、渋々と言いたげな様子で立ち上がる。
「そんなに焦らなくてもいいじゃないね。元々、今日か明日には治すって約束してたんだしね」
「あなたのことですもの。わたくしが急かさなければ、『はいはい、じゃあこのパンケーキ食べてからね』などと仰りそうですから」
「……ちぇ、信用ないねぇ」
さらに20分後、今度はルーマがやって来た。
「あれ? おばあちゃんもモールさんも、まだ来てへんのかな」
いつもモールが陣取っているテーブルを確認するが、誰も座っていない。
と、店員が恐る恐ると言った足取りでやって来る。
「あのー……、大奥様とあの魔法使いっぽい方ですが、先程までいらっしゃいました」
「え? もう帰ってしもたんですか?」
「いえ、大奥様の方がひどく怒っているご様子で、その……、魔法使いさんを平手打ちされまして」
「平手打ち?」
思ってもいない話に、ルーマは面食らう。
「ええ。その後、二言、三言交わされた後、店を後にされました」
「もしかして、今日のアレかなぁ」
「アレ?」
「……いえ、何でも。じゃあ、あたしもおばあちゃんのとこに行ってみます。また明日、食べに来ます」
ルーマは小さく頭を下げ、店を後にした。
同時刻、フォコ屋敷。
「フォルナさんは?」
「いや……、なんや分からんけど、ものっすごい苛立った感じで、『申し訳ございませんが急用ができました。夕方には戻ります』ちゅうてどっか行きおった」
首を傾げながら答えたレオンに、幹部たちもけげんな顔をする。
「何やそれ」
「多分、エミリオんとこやろな。お見舞いに行ったもんと……」
「それで何で怒るねん」
「知らん。……まあ、ともかく。折角病気をおして討論してくれたんや。内容をちゃんと吟味せなな」
「おう」
6人は刷り上がってきた討論内容の写しを受け取り、読み始めた。
「……エミリオ、ホンマに病気やったんか?」
一人がぼそ、とつぶやく。
「その場でウチの主治医に診てもろたんや。間違いなく何かの病気やと言うとった」
「ふーむ……。にしては、いつものアイツっちゅうか」
「せやな。この偉そうな物の言い方、完璧にいつものアレやな」
「アレやね」
「ああ、アレとしか言いようが無いな」
「アレ言うたら、マロはホンマもんのアレや」
「全く同感だ。ほぼ『うん』とか『そうですな』しか言っていない」
「ホンマに頭ん中、スッカラカンかっちゅうの」
「いや、これは結局んとこ、エミリオ一人でベラベラしゃべり倒した結果やないか?」
「確かに……。ルーマも口を挟めていなかったようだ」
「うわ、ホンマや。ルーマも『ええ』くらいしか言えてへん」
「……アレやなぁ、エミリオ」
「ホンマ、アレやわ。討論や言うてるのに、一人で演説ぶちよって」
幹部らが一通り目を通したところで、ルカが写しを回収する。
「ほな、これは選管の方で預かるわ。今日はこれで解散、ちゅうことで」
「おう」
「おつかれ」
ルカを先頭に、幹部たちがぞろぞろと会議室を後にする。
残ったレオンは、だらりと椅子にもたれかかり、ため息をついた。
「ふう……。後は30日の投票を待つばかり、か。
と言うても――皆もう、誰を推すか確定しとるみたいやな。私も含めて」
レオンは窓のそばに寄り、外の景色を見下ろしながら、ぽつりとつぶやいた。
「……落ち着いたら、まずはゆーっくり、フォルナとパンケーキ食おうかな。アップルパイとかシフォンケーキでもええけど」
白猫夢・幹談抄 終
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怒れるフォルナ、黄昏るレオン。
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最高幹部7人でのほほんと茶を飲んでいる間に、1時間が経った。
「お、もうそろそろ時間やな」
「ほな、行こか」
「フォルナも行くか?」
「ええ」
全員で角部屋を後にし、先程の会議室へと向かう。
「おう、おつかれさ……」
面接開始時と同様、気さくに声をかけようとして、レオンは目を丸くした。
「……どうした!?」
「あ、その……」
討論の書記を務めていた選管委員が、顔を蒼くして説明する。
「たった今、倒れられまして」
「今?」
「え、ええ。ついさっきまで、堂々とした態度で話をされていたのですが」
「……」
顔を真っ赤にし、床に倒れ込んだエミリオの姿を見て、フォルナは悲しそうな表情を浮かべていた。
1時間後、「ランクス&アレックス」。
「よお、フォル……」
やってきたフォルナに挨拶しようと手を挙げかけて、モールは絶句した。
明らかに怒っている様子で、フォルナが足早にやって来たからだ。
「な、何怒ってるね?」
「これが怒らずにいられますか!」
フォルナはモールのすぐ前まで迫り――そしていきなり、モールを平手打ちした。
「あがっ……」
「今すぐ、エミリオを治しなさい!」
「いててて……、分かった、分かったってね、もう」
モールは頬を押さえながら、渋々と言いたげな様子で立ち上がる。
「そんなに焦らなくてもいいじゃないね。元々、今日か明日には治すって約束してたんだしね」
「あなたのことですもの。わたくしが急かさなければ、『はいはい、じゃあこのパンケーキ食べてからね』などと仰りそうですから」
「……ちぇ、信用ないねぇ」
さらに20分後、今度はルーマがやって来た。
「あれ? おばあちゃんもモールさんも、まだ来てへんのかな」
いつもモールが陣取っているテーブルを確認するが、誰も座っていない。
と、店員が恐る恐ると言った足取りでやって来る。
「あのー……、大奥様とあの魔法使いっぽい方ですが、先程までいらっしゃいました」
「え? もう帰ってしもたんですか?」
「いえ、大奥様の方がひどく怒っているご様子で、その……、魔法使いさんを平手打ちされまして」
「平手打ち?」
思ってもいない話に、ルーマは面食らう。
「ええ。その後、二言、三言交わされた後、店を後にされました」
「もしかして、今日のアレかなぁ」
「アレ?」
「……いえ、何でも。じゃあ、あたしもおばあちゃんのとこに行ってみます。また明日、食べに来ます」
ルーマは小さく頭を下げ、店を後にした。
同時刻、フォコ屋敷。
「フォルナさんは?」
「いや……、なんや分からんけど、ものっすごい苛立った感じで、『申し訳ございませんが急用ができました。夕方には戻ります』ちゅうてどっか行きおった」
首を傾げながら答えたレオンに、幹部たちもけげんな顔をする。
「何やそれ」
「多分、エミリオんとこやろな。お見舞いに行ったもんと……」
「それで何で怒るねん」
「知らん。……まあ、ともかく。折角病気をおして討論してくれたんや。内容をちゃんと吟味せなな」
「おう」
6人は刷り上がってきた討論内容の写しを受け取り、読み始めた。
「……エミリオ、ホンマに病気やったんか?」
一人がぼそ、とつぶやく。
「その場でウチの主治医に診てもろたんや。間違いなく何かの病気やと言うとった」
「ふーむ……。にしては、いつものアイツっちゅうか」
「せやな。この偉そうな物の言い方、完璧にいつものアレやな」
「アレやね」
「ああ、アレとしか言いようが無いな」
「アレ言うたら、マロはホンマもんのアレや」
「全く同感だ。ほぼ『うん』とか『そうですな』しか言っていない」
「ホンマに頭ん中、スッカラカンかっちゅうの」
「いや、これは結局んとこ、エミリオ一人でベラベラしゃべり倒した結果やないか?」
「確かに……。ルーマも口を挟めていなかったようだ」
「うわ、ホンマや。ルーマも『ええ』くらいしか言えてへん」
「……アレやなぁ、エミリオ」
「ホンマ、アレやわ。討論や言うてるのに、一人で演説ぶちよって」
幹部らが一通り目を通したところで、ルカが写しを回収する。
「ほな、これは選管の方で預かるわ。今日はこれで解散、ちゅうことで」
「おう」
「おつかれ」
ルカを先頭に、幹部たちがぞろぞろと会議室を後にする。
残ったレオンは、だらりと椅子にもたれかかり、ため息をついた。
「ふう……。後は30日の投票を待つばかり、か。
と言うても――皆もう、誰を推すか確定しとるみたいやな。私も含めて」
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