「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・金冠抄 1
麒麟を巡る話、第415話。
「アレ」なエミリオ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
7月22日。
「おはようございます」
すっきりとした表情で食堂にやって来たエミリオを見て、パルミラはほっとしたような顔で出迎えた。
「おはよう、エミリオ。今日は気分、どうや?」
「昨日、一昨日に比べたら、大分良くなりました」
「治ったみたいやな。良かったわ、ホンマ。おばあちゃんに感謝せなね」
「……? と言うと?」
けげんな顔をしたエミリオに、パルミラが説明する。
「一昨日はあんた、熱で朦朧としとったから、気付かんかったかも知れへんね。
おばあちゃんが魔術師の方を呼んできて、あんたの病気、治してくれたんやで」
「魔術ですって?」
エミリオのけげんな顔に、険が差す。
「何かの詐欺に騙されてるんじゃないですか?」
「アホなこと言わんの。実際、その人が何かしら唱えた途端、あんたそれまで苦しそうにゼエゼエしとったのんが、急にすうすう言うて大人しくなってんで?
それにその魔術師さん、『今日、明日ゆっくり休ませたら、明後日にゃウソみたいに回復するからね』って言うてはったんよ。その通りになっとるやないの」
「いかがわしいですね。僕は信じませんよ、そんなペテン」
エミリオはフン、と鼻を鳴らし、普段通りに新聞を読み始めた。
「……この子はホンマにもう」
同日、正午。
この日は休日のため、ルーマは開店直後から「ランクス&アレックス」に入り浸っていた。
「それにしても、ホンマにモールさんとエミリオくんって、相性悪いですよね」
「ああ、本当にね。胸糞悪いのなんの。治してやったってのに、アイツうわ言で、『金やるからとっとと消えろ』っつってたんだよね」
「……アレな人やから、エミリオくん」
「アレって濁さなくていいんじゃないね? はっきりバカって言やいいんだよ、あんなヤツ」
「頭はええ方なんやけどねー……」
「世の中、『頭のいいバカ』なんてのはザラにいるもんさね。ところでさ」
エミリオについてひとしきり罵倒したところで、モールは話題を変えた。
「残り8日になったワケだけど、この後は本当に何にも無し?」
「ええ。幹部の皆さんも、考える時間は必要でしょうし」
「そっか。……じゃあ、あと8日が正念場ってワケだね。
本音を言うなら、エミリオはもうちょっと治すのを遅らせたかったんだけどね。いや、別にアイツのコトがムカつくからじゃない。敵が君とエミリオとを同時に襲ったら、流石の私でも対処しきれないからね」
「そうは言うても、これ以上エミリオくんが寝込んどったら、流石に候補から外されてしまいますし」
ルーマの言葉に、モールは小さくうなずいて返す。
「ソレもあるね。ま、アレ以上フォルナを怒らせるのも健康に悪いし、潮時っちゃ潮時だったんだよね。
で、だ。残り8日、どうにか君とエミリオを守らなきゃいけない。そのためには、なるべく人の多い場所にいてもらった方がいいね」
「人の多い場所に?」
「ああ。相手のボスが、衆目に晒されるのをすごく嫌うタイプなんだよね。人形にもソレを徹底してるから、目立つような場所じゃ絶対襲ってこないね。
だから残り8日、決して一人になっちゃダメだ。ほんの少しでも人混みから離れたら、即座に狙ってくると思った方がいいね」
「そんなん言うても……」
「難しいコトじゃないね。昼間はこうやって人気のお店にいたり、積極的にお得意先回りすりゃいい。夜、家にいる時は、私が近くを見回ってやるしね。
ただ、エミリオの方が若干危ないんだよね。自分の会社ん中で襲われてるからね」
「おばあちゃんからエミリオくんに、『選挙直前やし何があるか分からんから』って言うてもらって、警備をつけさせたらどうでしょ?」
「まあ、ソレも悪く無いか。アイツら相手にドコまで持ちこたえられるか、微妙だけどね」
この案はその日のうちにフォルナに伝えられ、早速公安局から職員が回されることになった。
ちなみに――あれこれ世話を焼かれることを嫌うエミリオは当然、これを断ろうとしたが、フォルナは「色々物騒でしょう? あなたもおヒゲを剃り損ねるくらいですもの」とカマをかけて、エミリオを黙らせた。
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「アレ」なエミリオ。
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1.
7月22日。
「おはようございます」
すっきりとした表情で食堂にやって来たエミリオを見て、パルミラはほっとしたような顔で出迎えた。
「おはよう、エミリオ。今日は気分、どうや?」
「昨日、一昨日に比べたら、大分良くなりました」
「治ったみたいやな。良かったわ、ホンマ。おばあちゃんに感謝せなね」
「……? と言うと?」
けげんな顔をしたエミリオに、パルミラが説明する。
「一昨日はあんた、熱で朦朧としとったから、気付かんかったかも知れへんね。
おばあちゃんが魔術師の方を呼んできて、あんたの病気、治してくれたんやで」
「魔術ですって?」
エミリオのけげんな顔に、険が差す。
「何かの詐欺に騙されてるんじゃないですか?」
「アホなこと言わんの。実際、その人が何かしら唱えた途端、あんたそれまで苦しそうにゼエゼエしとったのんが、急にすうすう言うて大人しくなってんで?
それにその魔術師さん、『今日、明日ゆっくり休ませたら、明後日にゃウソみたいに回復するからね』って言うてはったんよ。その通りになっとるやないの」
「いかがわしいですね。僕は信じませんよ、そんなペテン」
エミリオはフン、と鼻を鳴らし、普段通りに新聞を読み始めた。
「……この子はホンマにもう」
同日、正午。
この日は休日のため、ルーマは開店直後から「ランクス&アレックス」に入り浸っていた。
「それにしても、ホンマにモールさんとエミリオくんって、相性悪いですよね」
「ああ、本当にね。胸糞悪いのなんの。治してやったってのに、アイツうわ言で、『金やるからとっとと消えろ』っつってたんだよね」
「……アレな人やから、エミリオくん」
「アレって濁さなくていいんじゃないね? はっきりバカって言やいいんだよ、あんなヤツ」
「頭はええ方なんやけどねー……」
「世の中、『頭のいいバカ』なんてのはザラにいるもんさね。ところでさ」
エミリオについてひとしきり罵倒したところで、モールは話題を変えた。
「残り8日になったワケだけど、この後は本当に何にも無し?」
「ええ。幹部の皆さんも、考える時間は必要でしょうし」
「そっか。……じゃあ、あと8日が正念場ってワケだね。
本音を言うなら、エミリオはもうちょっと治すのを遅らせたかったんだけどね。いや、別にアイツのコトがムカつくからじゃない。敵が君とエミリオとを同時に襲ったら、流石の私でも対処しきれないからね」
「そうは言うても、これ以上エミリオくんが寝込んどったら、流石に候補から外されてしまいますし」
ルーマの言葉に、モールは小さくうなずいて返す。
「ソレもあるね。ま、アレ以上フォルナを怒らせるのも健康に悪いし、潮時っちゃ潮時だったんだよね。
で、だ。残り8日、どうにか君とエミリオを守らなきゃいけない。そのためには、なるべく人の多い場所にいてもらった方がいいね」
「人の多い場所に?」
「ああ。相手のボスが、衆目に晒されるのをすごく嫌うタイプなんだよね。人形にもソレを徹底してるから、目立つような場所じゃ絶対襲ってこないね。
だから残り8日、決して一人になっちゃダメだ。ほんの少しでも人混みから離れたら、即座に狙ってくると思った方がいいね」
「そんなん言うても……」
「難しいコトじゃないね。昼間はこうやって人気のお店にいたり、積極的にお得意先回りすりゃいい。夜、家にいる時は、私が近くを見回ってやるしね。
ただ、エミリオの方が若干危ないんだよね。自分の会社ん中で襲われてるからね」
「おばあちゃんからエミリオくんに、『選挙直前やし何があるか分からんから』って言うてもらって、警備をつけさせたらどうでしょ?」
「まあ、ソレも悪く無いか。アイツら相手にドコまで持ちこたえられるか、微妙だけどね」
この案はその日のうちにフォルナに伝えられ、早速公安局から職員が回されることになった。
ちなみに――あれこれ世話を焼かれることを嫌うエミリオは当然、これを断ろうとしたが、フォルナは「色々物騒でしょう? あなたもおヒゲを剃り損ねるくらいですもの」とカマをかけて、エミリオを黙らせた。
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