「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・金冠抄 2
麒麟を巡る話、第416話。
選挙前日の修羅場。
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2.
7月29日、選挙前日の朝。
モールが危惧していた人形による襲撃は結局、この日まで起こらなかった。
「いよいよ明日だね」
「そうですね」
普段はのんきなルーマも、流石に緊張を覚えている。
「選挙っつってもさ、どっかの国や街みたいに国民、市民が大挙して票を入れるようなヤツじゃないんだよね?」
「ええ。明日の3時に最高幹部の皆さんとあたしたち候補者3名が集まって、そこで幹部7名による投票が行われます。
投票結果はその場で開示され、その日のうちに19代総帥が決まるんです」
「人生が変わる瞬間だねぇ」
「ええ、ホンマに。なれてもなれへんかっても、人生変わってしまうでしょうね」
「なれなくても?」
「言わば、各家の代表ですし。総帥になれへんかったら、面目丸潰れと思てはる人は多いみたいですよ」
「そんなもんかね」
「あたしはそんなでも無いんですけどね。なれへんかったらこれまで通り、会社で頑張るだけですし」
「私としちゃ、その考えに賛成だね」
半ば世間話の如く、自分の身の振りを話していたところで――店員がこの店の名物、桃とカスタードクリームを乗せたパンケーキを運んできた。
「お待たせいたしました」
「ありがとうございます。
……あら?」
と、ルーマは店員を見て、きょとんとする。
「今日はセレスちゃんもマリノちゃんもおらへんの?」
「ん?」
その言葉に、モールも店員に目を向ける。
「そう言や、見たコトない顔だね」
「本日よりこちらで働いております」
まるでピアノのように淡々と返した店員に、モールはけげんな顔を向けた。
「答えになってないね。今、ルーマが言ってた2人は?」
「お休みをいただいております」
「飲食店で働いてて、休日に休みってこた無いだろ?」
「ですよね、かきいれ時ですし……? それやのに2人とも休むなんて」
「諸事情がございまして」
「何かあったん?」
「いえ、わたくしは存じません」
「……ちょっと、コレ食ってみ?」
そう言って、モールはたった今店員が持ってきたパンケーキを差し出した。
「食べれるってんならね」
「……」
店員は凍ったように動かない。
「まあ、動けないだろうね。『食べる』って行動は君らにゃ必要ないんだからね」
「え?」
「ルーマ、コイツは人形だ。あのセリカの姉妹ってトコだろ」
「……」
店員は一歩、後ろに下がる。
「その通りでございます」
そう答え――左手をす、とルーマに向けた。
「させるかッ!」
ほとんど同時に、モールが呪文を唱え、魔術の盾を作る。
その直後、ガガガガ……、と言う爆音が店に響き渡った。
「あ……あわわ……」
ルーマのすぐ目の前に、弾丸が浮いている。
「彼女」の左手首がぱかっと割れ、そこから銃身が覗いていた。
「ますますメカって感じのギミック仕込んでやがるね。悪ノリし過ぎだね」
「防御を解除して下さい」
「アホか」
モールは盾を展開したまま立ち上がり、「彼女」に尋ねる。
「名前は? おおっと、私らの名前は知ってるはずだから、『まず自分から名乗れ』とは言わせないね」
「わたくしの名前は、カムリ。強襲用に造られております」
かち、と音を立てて、カムリの左手首が元に戻る。
「じゃあコレは失敗したワケだね。さっさと逃げた方がいいんじゃないね?」
「いえ」
カムリはもう一歩、二歩下がり、また左手を向けた。
「可能な限りは攻撃させていただきます」
「なんだって?」
モールに答える代わりに、カムリは今度は左肘を外し――直径4センチほどの砲身を覗かせた。
「今度こそ、お命頂戴いたします」
次の瞬間、ドゴンという炸裂音が、店のみならず周囲にまで響き渡った。
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選挙前日の修羅場。
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2.
7月29日、選挙前日の朝。
モールが危惧していた人形による襲撃は結局、この日まで起こらなかった。
「いよいよ明日だね」
「そうですね」
普段はのんきなルーマも、流石に緊張を覚えている。
「選挙っつってもさ、どっかの国や街みたいに国民、市民が大挙して票を入れるようなヤツじゃないんだよね?」
「ええ。明日の3時に最高幹部の皆さんとあたしたち候補者3名が集まって、そこで幹部7名による投票が行われます。
投票結果はその場で開示され、その日のうちに19代総帥が決まるんです」
「人生が変わる瞬間だねぇ」
「ええ、ホンマに。なれてもなれへんかっても、人生変わってしまうでしょうね」
「なれなくても?」
「言わば、各家の代表ですし。総帥になれへんかったら、面目丸潰れと思てはる人は多いみたいですよ」
「そんなもんかね」
「あたしはそんなでも無いんですけどね。なれへんかったらこれまで通り、会社で頑張るだけですし」
「私としちゃ、その考えに賛成だね」
半ば世間話の如く、自分の身の振りを話していたところで――店員がこの店の名物、桃とカスタードクリームを乗せたパンケーキを運んできた。
「お待たせいたしました」
「ありがとうございます。
……あら?」
と、ルーマは店員を見て、きょとんとする。
「今日はセレスちゃんもマリノちゃんもおらへんの?」
「ん?」
その言葉に、モールも店員に目を向ける。
「そう言や、見たコトない顔だね」
「本日よりこちらで働いております」
まるでピアノのように淡々と返した店員に、モールはけげんな顔を向けた。
「答えになってないね。今、ルーマが言ってた2人は?」
「お休みをいただいております」
「飲食店で働いてて、休日に休みってこた無いだろ?」
「ですよね、かきいれ時ですし……? それやのに2人とも休むなんて」
「諸事情がございまして」
「何かあったん?」
「いえ、わたくしは存じません」
「……ちょっと、コレ食ってみ?」
そう言って、モールはたった今店員が持ってきたパンケーキを差し出した。
「食べれるってんならね」
「……」
店員は凍ったように動かない。
「まあ、動けないだろうね。『食べる』って行動は君らにゃ必要ないんだからね」
「え?」
「ルーマ、コイツは人形だ。あのセリカの姉妹ってトコだろ」
「……」
店員は一歩、後ろに下がる。
「その通りでございます」
そう答え――左手をす、とルーマに向けた。
「させるかッ!」
ほとんど同時に、モールが呪文を唱え、魔術の盾を作る。
その直後、ガガガガ……、と言う爆音が店に響き渡った。
「あ……あわわ……」
ルーマのすぐ目の前に、弾丸が浮いている。
「彼女」の左手首がぱかっと割れ、そこから銃身が覗いていた。
「ますますメカって感じのギミック仕込んでやがるね。悪ノリし過ぎだね」
「防御を解除して下さい」
「アホか」
モールは盾を展開したまま立ち上がり、「彼女」に尋ねる。
「名前は? おおっと、私らの名前は知ってるはずだから、『まず自分から名乗れ』とは言わせないね」
「わたくしの名前は、カムリ。強襲用に造られております」
かち、と音を立てて、カムリの左手首が元に戻る。
「じゃあコレは失敗したワケだね。さっさと逃げた方がいいんじゃないね?」
「いえ」
カムリはもう一歩、二歩下がり、また左手を向けた。
「可能な限りは攻撃させていただきます」
「なんだって?」
モールに答える代わりに、カムリは今度は左肘を外し――直径4センチほどの砲身を覗かせた。
「今度こそ、お命頂戴いたします」
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