「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・金冠抄 3
麒麟を巡る話、第417話。
戦術的逃走。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
もうもうと立ち上った煙が消え、カムリは周囲を見渡す。
「……」
だが、標的の姿も死体も見当たらなかったため、彼女はその場から歩き去って行った。
「……あっぶねぇ」
完全にカムリの姿が見えなくなったところで、モールとルーマが姿を現す。モールお得意の潜遁術、「インビジブル」である。
「あーあ……、テーブルとパンケーキが木っ端微塵や」
ルーマは穴の空いた床を見て、しょんぼりとする。
「テーブルはともかく、パンケーキは十中八九毒入りだね。食べなくて正解さ。
ともかく、考えを改めなきゃいけないね。セリカと違って、カムリは人目も構わず襲ってくる。アイツを撃退しないコトにゃ、君もエミリオも明日の選挙に出られないだろうね」
「戦う、ちゅうことですか?」
「やりたかないけどね。あーゆー近接戦闘タイプ、私ゃ苦手なんだ」
二人で話しているところに、本物の店員2名がやって来る。
「あ、あの、る、る、ルーマさん……」
「だ、だい、じょうぶ、です、か?」
彼女たちは涙目になっており、ガタガタと震えている。
「あんまり大丈夫じゃないね。選挙前に候補者を亡き者にしよう、ってアレさね」
「は、はあ」
「でも騒ぎを聞きつけて公安がやってくるし、犯人は間もなく捕まるはずさ。この店の損害も財団、いや、ルーマが補償してくれるから、安心しなってね」
「ど、どうも」
「まだ10時前だし客は私らだけだったから人的被害もゼロだし、むしろコレが話題になって2日後、3日後にはわんさと来るさ。
ともかくだ、ほれ。もう公安警邏部の奴らが、大慌てでコッチ来てるのが見えてるだろ?」
「あ、は、はあ」
「き、きてますね、パトカー」
「今私が言ったコトを説明して、現場検証に来る奴らにコーヒーでも振る舞ってやりな。勿論、ルーマのツケでね」
「え、えっと」
「ルーマさんたちは?」
「またあんなのに来てほしくないだろ? 今日、明日は安全なトコに逃げるね」
「わ、わかり、ました」
「お、おきを、つけて」
半泣きの店員たちを放って、モールとルーマはその場を後にした。
ルーマたちが街を歩く間に、街は段々騒がしくなっていく。
赤と黄色に塗装された金火公安のパトカーがあちこちを巡り、騒ぎの張本人を捕まえようと躍起になっているのだ。
「まあ、あいつらにゃ無理だろうね。
あの場から『テレポート』で消えなかったコトを見ると、どうやら高出力の魔術が使えるようにはできてないみたいだけど、その代わりに重火器をわんさか搭載されてるね。
例え取り囲まれたところで、あの自動小銃やグレネード砲を至近距離で撃たれでもしたら、返り討ちに遭うのは目に見えてるね」
「どうしましょう?」
尋ねたルーマに、モールはやや緊張した面持ちで返す。
「兵法の基本さ。攻められにくいところに陣取る。『あそこ』なら普段から多数の公安職員が駐留してるし、建物自体も堅固かつ堅牢。
オマケに明日の選挙に一番乗りできるしね」
「……ちゅうことは」
「そう、フォコ屋敷だね。……歩くのもしんどいし、あいつら捕まえるか」
モールは街中を回るパトカーの一台を停め、こう説明する。
「ちょっと悪いけどね、フォコ屋敷まで頼めるね?」
「これはパトカーだ。タクシーならよそを当たってくれ」
つっけんどんに断った公安職員に、モールはルーマを指差して示す。
「今朝の爆発騒ぎの被害者が行きたいんだってさ。行ってみりゃ要人護送だね」
「なに……?」
運転席から身を乗り出してきた職員に、ルーマは金火狐商会の社員証を見せる。
「……失礼。なるほど、確かに現場の店で聞いた名前だ。
しかしそう言うことなら、はじめから店でパトカーが来るのを待ってれば良かったろうに」
ルーマの身分を知ってなお、職員はうざったそうな表情を崩さない。
「襲撃された現場でそのままじっとしてろって? 犯人が戻ってきて、グレネード砲でも撃たれたらどうするのさ?」
「まさか!」
モールの話を、職員は鼻で笑う。
「こんな市街地の真っ只中で、そんなご大層な戦術兵器を? 馬鹿も休み休み……」
と、職員が文句を言っている、ちょうどその最中に――。
「……! ちょ、ドア開けろって! ヤバい!」
「は?」
通りの向こうから、あの重火器搭載人形、カムリが走ってくるのが見えた。
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戦術的逃走。
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3.
もうもうと立ち上った煙が消え、カムリは周囲を見渡す。
「……」
だが、標的の姿も死体も見当たらなかったため、彼女はその場から歩き去って行った。
「……あっぶねぇ」
完全にカムリの姿が見えなくなったところで、モールとルーマが姿を現す。モールお得意の潜遁術、「インビジブル」である。
「あーあ……、テーブルとパンケーキが木っ端微塵や」
ルーマは穴の空いた床を見て、しょんぼりとする。
「テーブルはともかく、パンケーキは十中八九毒入りだね。食べなくて正解さ。
ともかく、考えを改めなきゃいけないね。セリカと違って、カムリは人目も構わず襲ってくる。アイツを撃退しないコトにゃ、君もエミリオも明日の選挙に出られないだろうね」
「戦う、ちゅうことですか?」
「やりたかないけどね。あーゆー近接戦闘タイプ、私ゃ苦手なんだ」
二人で話しているところに、本物の店員2名がやって来る。
「あ、あの、る、る、ルーマさん……」
「だ、だい、じょうぶ、です、か?」
彼女たちは涙目になっており、ガタガタと震えている。
「あんまり大丈夫じゃないね。選挙前に候補者を亡き者にしよう、ってアレさね」
「は、はあ」
「でも騒ぎを聞きつけて公安がやってくるし、犯人は間もなく捕まるはずさ。この店の損害も財団、いや、ルーマが補償してくれるから、安心しなってね」
「ど、どうも」
「まだ10時前だし客は私らだけだったから人的被害もゼロだし、むしろコレが話題になって2日後、3日後にはわんさと来るさ。
ともかくだ、ほれ。もう公安警邏部の奴らが、大慌てでコッチ来てるのが見えてるだろ?」
「あ、は、はあ」
「き、きてますね、パトカー」
「今私が言ったコトを説明して、現場検証に来る奴らにコーヒーでも振る舞ってやりな。勿論、ルーマのツケでね」
「え、えっと」
「ルーマさんたちは?」
「またあんなのに来てほしくないだろ? 今日、明日は安全なトコに逃げるね」
「わ、わかり、ました」
「お、おきを、つけて」
半泣きの店員たちを放って、モールとルーマはその場を後にした。
ルーマたちが街を歩く間に、街は段々騒がしくなっていく。
赤と黄色に塗装された金火公安のパトカーがあちこちを巡り、騒ぎの張本人を捕まえようと躍起になっているのだ。
「まあ、あいつらにゃ無理だろうね。
あの場から『テレポート』で消えなかったコトを見ると、どうやら高出力の魔術が使えるようにはできてないみたいだけど、その代わりに重火器をわんさか搭載されてるね。
例え取り囲まれたところで、あの自動小銃やグレネード砲を至近距離で撃たれでもしたら、返り討ちに遭うのは目に見えてるね」
「どうしましょう?」
尋ねたルーマに、モールはやや緊張した面持ちで返す。
「兵法の基本さ。攻められにくいところに陣取る。『あそこ』なら普段から多数の公安職員が駐留してるし、建物自体も堅固かつ堅牢。
オマケに明日の選挙に一番乗りできるしね」
「……ちゅうことは」
「そう、フォコ屋敷だね。……歩くのもしんどいし、あいつら捕まえるか」
モールは街中を回るパトカーの一台を停め、こう説明する。
「ちょっと悪いけどね、フォコ屋敷まで頼めるね?」
「これはパトカーだ。タクシーならよそを当たってくれ」
つっけんどんに断った公安職員に、モールはルーマを指差して示す。
「今朝の爆発騒ぎの被害者が行きたいんだってさ。行ってみりゃ要人護送だね」
「なに……?」
運転席から身を乗り出してきた職員に、ルーマは金火狐商会の社員証を見せる。
「……失礼。なるほど、確かに現場の店で聞いた名前だ。
しかしそう言うことなら、はじめから店でパトカーが来るのを待ってれば良かったろうに」
ルーマの身分を知ってなお、職員はうざったそうな表情を崩さない。
「襲撃された現場でそのままじっとしてろって? 犯人が戻ってきて、グレネード砲でも撃たれたらどうするのさ?」
「まさか!」
モールの話を、職員は鼻で笑う。
「こんな市街地の真っ只中で、そんなご大層な戦術兵器を? 馬鹿も休み休み……」
と、職員が文句を言っている、ちょうどその最中に――。
「……! ちょ、ドア開けろって! ヤバい!」
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