「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・金冠抄 7
麒麟を巡る話、第421話。
フォコ屋敷、襲撃さる。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
フォコ屋敷周辺を巡回する職員たちを眼下に眺めながら、ラムダは部屋の奥に座るルーマに声をかける。
「気分はどうだ?」
「あんまり……」
「この状況で気分いいってヤツがいたら変態だね」
モールに突っ込まれ、ラムダは肩をすくめる。
「違いないな。
エミリオ氏の方はどうだろうな? 1時間前に屋敷に到着した、と聞いたっきりだが……」
「状況的には私らと同じだろうね。どうせ公安のヤツらに『おいお前、銃なんか見せんな。目障りやから外でやってくれ』とかブーブー文句言ってるさ」
「……ふっ」
それを聞いて、ルーマが小さく笑う。
「エミリオくんやったら言いそう」
「だろ?」
「俺がこんなこと言うのも不敬だが、……あんまりいい奴じゃなさそうだな」
「ああ、通称『アレな人』さ」
「アレ、……ね。そんな奴が、総帥選挙に出るのか?」
尋ねたラムダに、ルーマが答える。
「経営手腕は確かな人ですから」
「あんたもそうなのか?」
「一応、評価はされてます。会社も順調ですし」
「ふーん……。そう言やあんた、何の商売してるんだ? 金火狐商会って、色々やってるって聞いてはいるが」
話しているうちに、ルーマの緊張も解れてくる。
「金融を任されてます。あ、と言うても高利貸しとかやなくて、お金に困っとるお店さんとかに融資してます」
「そうか。……ん? あんたの会社、名前は?」
「ベント投資信託です」
「もしかして、マセリーニ製造に20万エルだか30万エルの融資したのって」
「多分あたしんとこです。半年前ですよね? 確か30万です」
「そうか、あんただったのか……」
ラムダは嬉しそうな顔をし、こう続ける。
「実家の工場なんだ。俺が公安に行っちゃったから弟が後を継いだんだけど、在庫が余りすぎて潰れそうになったことがあってな……。
本当に助かったって言ってたよ、あの時は」
「ええ、品物は良かったので、在庫さえ捌ければ大丈夫だろうと思って。実際、もう完済されてますし」
「……俺は応援するよ。あんたが総帥になった方が断然いい」
「ありがとうございます」
ルーマがにこ、と笑みを浮かべたところで――ババババ、とけたたましい音が、屋敷の外で響き渡った。
「来やがったか……!」
位置を悟られぬよう、ラムダはカーテンの隙間から外の様子を伺う。
「どうなってるね?」
「屋敷前に置いた機銃がフル稼働だ。同僚もあっちこっちから撃ちまくってる。
……おいおいおいおい!? ……っと、いけね」
ラムダは怒鳴りかけ、口を手で塞ぐ。
「どうしたんですか?」
「あのカムリって奴だ。全弾避けやがったぞ、あいつ。
……まずい、機銃を獲られた!」
モールとルーマも、恐る恐るカーテンの隙間に近付く。
ラムダの言う通り、カムリは相手から奪った軽機関銃を右手一本で振り回し、職員を襲っている。
既に何名かは血まみれで倒れており、重傷を負っているのは明白だった。
「畜生……!」
「ひどい、こんなん……」
「……」
モールは杖を手にし、呪文を唱える。
「モールさん?」
「あいつの意識が前線に向いてる今がチャンスだ。コレ以上犠牲は出させやしないね」
モールは窓を蹴って開き、杖をカムリに向けた。
「『レイブンストーム』!」
カムリの周囲に散らばっていた弾丸や薬莢が変形し、カムリに向かって飛んで行く。
「……」
変形した金属はべたべたとカムリに貼り付き、彼女を包み込んでいく。
やがて体の3分の2が覆われ、彼女は銃を構えた姿勢のまま、その場に倒れた。
「よっしゃ!」
「いや、待て! あいつ、はがしてるぞ!?」
「何ぃ!?」
喜びかけて、慌ててモールはカムリの様子を確認する。
「ぐ……く……」
金属片がまとわりついた腕や脚を、カムリは無理矢理に動かし、曲げる。ばきん、ばきんと金属が折れ、はがれる音を響かせ、カムリは上半身を起こしていた。
「以前のモデルより出力が上がってるみたいだね……。前と同じ戦法は通用しないか。
そんじゃココからグレネード撃って。命中すりゃ、流石に動きが止まるさ」
「おう」
ラムダはグレネード砲に弾を込め、カムリに向けて発射した。
「……!」
カムリは金属片を無理矢理はがした左腕を上げ、こちらもグレネード砲で迎撃する。
その結果――グレネード同士がぶつかり合い、カムリの頭上で炸裂した。
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フォコ屋敷、襲撃さる。
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7.
フォコ屋敷周辺を巡回する職員たちを眼下に眺めながら、ラムダは部屋の奥に座るルーマに声をかける。
「気分はどうだ?」
「あんまり……」
「この状況で気分いいってヤツがいたら変態だね」
モールに突っ込まれ、ラムダは肩をすくめる。
「違いないな。
エミリオ氏の方はどうだろうな? 1時間前に屋敷に到着した、と聞いたっきりだが……」
「状況的には私らと同じだろうね。どうせ公安のヤツらに『おいお前、銃なんか見せんな。目障りやから外でやってくれ』とかブーブー文句言ってるさ」
「……ふっ」
それを聞いて、ルーマが小さく笑う。
「エミリオくんやったら言いそう」
「だろ?」
「俺がこんなこと言うのも不敬だが、……あんまりいい奴じゃなさそうだな」
「ああ、通称『アレな人』さ」
「アレ、……ね。そんな奴が、総帥選挙に出るのか?」
尋ねたラムダに、ルーマが答える。
「経営手腕は確かな人ですから」
「あんたもそうなのか?」
「一応、評価はされてます。会社も順調ですし」
「ふーん……。そう言やあんた、何の商売してるんだ? 金火狐商会って、色々やってるって聞いてはいるが」
話しているうちに、ルーマの緊張も解れてくる。
「金融を任されてます。あ、と言うても高利貸しとかやなくて、お金に困っとるお店さんとかに融資してます」
「そうか。……ん? あんたの会社、名前は?」
「ベント投資信託です」
「もしかして、マセリーニ製造に20万エルだか30万エルの融資したのって」
「多分あたしんとこです。半年前ですよね? 確か30万です」
「そうか、あんただったのか……」
ラムダは嬉しそうな顔をし、こう続ける。
「実家の工場なんだ。俺が公安に行っちゃったから弟が後を継いだんだけど、在庫が余りすぎて潰れそうになったことがあってな……。
本当に助かったって言ってたよ、あの時は」
「ええ、品物は良かったので、在庫さえ捌ければ大丈夫だろうと思って。実際、もう完済されてますし」
「……俺は応援するよ。あんたが総帥になった方が断然いい」
「ありがとうございます」
ルーマがにこ、と笑みを浮かべたところで――ババババ、とけたたましい音が、屋敷の外で響き渡った。
「来やがったか……!」
位置を悟られぬよう、ラムダはカーテンの隙間から外の様子を伺う。
「どうなってるね?」
「屋敷前に置いた機銃がフル稼働だ。同僚もあっちこっちから撃ちまくってる。
……おいおいおいおい!? ……っと、いけね」
ラムダは怒鳴りかけ、口を手で塞ぐ。
「どうしたんですか?」
「あのカムリって奴だ。全弾避けやがったぞ、あいつ。
……まずい、機銃を獲られた!」
モールとルーマも、恐る恐るカーテンの隙間に近付く。
ラムダの言う通り、カムリは相手から奪った軽機関銃を右手一本で振り回し、職員を襲っている。
既に何名かは血まみれで倒れており、重傷を負っているのは明白だった。
「畜生……!」
「ひどい、こんなん……」
「……」
モールは杖を手にし、呪文を唱える。
「モールさん?」
「あいつの意識が前線に向いてる今がチャンスだ。コレ以上犠牲は出させやしないね」
モールは窓を蹴って開き、杖をカムリに向けた。
「『レイブンストーム』!」
カムリの周囲に散らばっていた弾丸や薬莢が変形し、カムリに向かって飛んで行く。
「……」
変形した金属はべたべたとカムリに貼り付き、彼女を包み込んでいく。
やがて体の3分の2が覆われ、彼女は銃を構えた姿勢のまま、その場に倒れた。
「よっしゃ!」
「いや、待て! あいつ、はがしてるぞ!?」
「何ぃ!?」
喜びかけて、慌ててモールはカムリの様子を確認する。
「ぐ……く……」
金属片がまとわりついた腕や脚を、カムリは無理矢理に動かし、曲げる。ばきん、ばきんと金属が折れ、はがれる音を響かせ、カムリは上半身を起こしていた。
「以前のモデルより出力が上がってるみたいだね……。前と同じ戦法は通用しないか。
そんじゃココからグレネード撃って。命中すりゃ、流石に動きが止まるさ」
「おう」
ラムダはグレネード砲に弾を込め、カムリに向けて発射した。
「……!」
カムリは金属片を無理矢理はがした左腕を上げ、こちらもグレネード砲で迎撃する。
その結果――グレネード同士がぶつかり合い、カムリの頭上で炸裂した。
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