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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第8部

    白猫夢・金冠抄 8

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    麒麟を巡る話、第422話。
    撤収。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    8.
    「おわっ、……と。やったか?」
    「完全に壊れたワケじゃないね。とは言え、結構な深手は負わせたっぽいね」
     煙が晴れ、左腕が破壊されたカムリの姿が確認できた。
    「動かないな」
    「ダメージが結構来てるんだろうね。動いたらバラバラになる程度にはね」
     やがて、あちこちから武装した職員たちが集まり、倒れた同僚を助けると共に、カムリを取り囲んだ。
    「おーい、そのまま囲んでてねー」
     モールは窓から職員たちに呼びかける。
    「手負いとは言え、下手に手を出せば君たちも危ないからねー」
     職員たちは揃ってうなずき、銃をカムリに向けた状態で待機してくれた。
    「じゃ、ちょっと行ってくるね。まだセリカがドコにいるのか分からないから、君はルーマを守っててね」
    「分かった」

     モールが到着したところで、職員たちは小銃を構えつつ、敬礼して出迎える。
    「対象、沈黙を続けています」
    「ありがとさん」
     事前にレオンからモールのことを聞かされているため、職員たちは素直に従っている。
    「さて、と。カムリ、君には聞きたいコトが山ほどある。だからこのまま、持って帰らせてもらうね」
    「お断りします」
     カムリは地面に貼り付けられたまま、モールに答える。
    「拒否権は無いね。何なら弾の一発でも撃ってみるかね? 即、蜂の巣だけど」
    「……」
     カムリはモールを見つめたまま、何も言わなくなった。
    「よし、そんじゃ厳重に封印して……」
     言いかけたところで、モールの言葉が途切れる。
    「……くっそ」
     モールが膝を付く。
     その右肩には、ナイフが突き刺さっていた。
    「失礼いたします。お茶をお持ちいたしました。あと、ナイフもお付けいたします」
     声の飛んできた方を、全員が振り向く。そこにはメイド服を着た、セリカの姿があった。
    「……ぐ……、のこのこココに現れて、どうするつもりだね」
    「計画を断念することをお伝えに参りました。あとは意趣返しをば」
     セリカはそう言いながら、左手に持っていたポットを投げ捨てつつ、芝居じみたお辞儀をして見せた。
    「ケッ」
     モールはナイフを抜き、セリカに投げ付ける。それを受け取り、セリカはカムリの方へと歩いて行く。
     職員たちが銃を構えるが、モールは止めさせる。
    「下手な手出しはしない方がいいね。やめるっつってんだしね」
    「ご理解いただき、ありがとうございます。
     主様からの伝言を託っております。『マラネロ様の逮捕と計画の露見、そしてこれまでの、あなた方の極めて強硬な対抗姿勢を受け、わたくし共は今回の件から全面的に撤退することを決定いたしました』、とのことでございます。
     あとは差し支えなければ、カムリの身柄をお引き渡しいただきたく存じます」
    「……いいよ。勝手に持って行きな」
    「痛み入ります。では、失礼いたします」
     セリカが頭を下げると同時に、彼女たちは姿を消した。



    「あの給仕が人形やったんか……。全然分からへんかったわ」
     事の顛末を聞き、レオンは驚いていた。
    「ちゅうことは、ずーっと内部で観察されとったっちゅうことか。あれやこれや重要な会議しとったけど、それも筒抜けか……」
    「あの女のコトだ、インサイダー取引の材料にでもするつもりなんだろうね。ま、財団にとってはコレ以上、実害は無いだろうね。
     ソレよりも私が気になってるコトがあるんだよね」
    「と言うと?」
    「今回の件、穴が多いってコトさ。
     そもそも私が一枚噛んでるって分かった時点で、マロを総帥に仕立てて財団を操るって計画が見破られたコトは明白。頓挫したも同然なんだよね。
     だのにココまで無理無理、計画を引っ張ってきた。ソコが利益第一主義なあの女にしちゃ、おかしい。どんだけ人形を暗躍させても利益が出やしないってとっくに分かってるだろうに、何で今日まで進めてきたのか。コレが分かんないんだよね。
     しかもカムリを正面から向かわせるわ、誰も存在に気付かなかったセリカにわざわざ名乗らせて堂々と姿を見させるわ、兵士の運用としちゃ下の下だね。コレじゃまるで……」
    「まるで?」
     尋ねたフォルナに、モールは言葉を濁した。
    「……いや、大したコトじゃないね。大方、あんまりうまく行かないんで、自棄にでもなったんだろうさ。
     ま、そんなワケで、もう総帥選挙に障害は無いね。後はルーマとエミリオとで、競ってもらうだけさ。
     つっても」
     モールはレオン夫妻に、ニヤッと笑いかけた。
    「結果は既に明らかになってるようなもんだけどね」
    「……せやな」「ええ」
     レオン夫妻も、クスクスと笑って返した。
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