黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第8部

    白猫夢・金冠抄 9

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    麒麟を巡る話、第423話。
    選挙当日。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    9.
     7月30日、未明。
     結局、カムリ襲撃後からそのままフォコ屋敷に泊まっていたルーマは、どうにも眠れなかったため、寝間着姿で屋敷内をうろついていた。
     と――廊下の向こうから、人影が近付いて来る。
    「あ……」
     同様に屋敷に泊まっていた、エミリオである。
    「……」
     エミリオもルーマの姿に気付き、立ち止まる。
    「こ、……こんばんは」
     ともかく挨拶してみたが、エミリオは黙ったままだ。
    「エミリオくんも、眠れへんの?」
    「……ああ。もう明日やからな」
     エミリオは目をそらし、窓に顔を向ける。
    「君には悪いけど、僕は勝つつもりしとる。確信もある。
     あるけど、……はっきりするまでは、やっぱりモヤモヤするもんや。宙に浮いとるようなもんやからな」
    「せやね」
    「まあ、心配せんとき。君に恥かかすつもりはあらへんから。選挙で負けても、ええようにはしたるよ」
    「そう」
     ルーマはじっと、エミリオに目を向けている。
    「マロくんのこと、残念やったね」
    「あ?」
     と、エミリオがけげんな顔をする。
    「折角、候補者になったのになって」
    「何も意味あらへんな」
     エミリオは辛辣な言葉を並べる。
    「誰が来ようと、なるのは僕に変わりないんや。出ん方がマシやないか」
    「エミリオくん」
     ルーマはエミリオに近付き――平手打ちを食らわせた。
    「おゎっ……」
     尻餅を着いたエミリオを、ルーマは叱咤した。
    「君は預言者でも予知能力があるわけでもないんでしょ? なのに、なんでもう『自分が総帥や』みたいなこと、言えるん? 誰にも分からへんことやん」
    「分かり切ったことやないか……」
     エミリオは立ち上がり、ルーマをにらみつける。
    「僕がこの歳で、どんだけすごい仕事してきたか分かってへんから、そんな見当違いなことが言えるんや!
     見とれよ、ルーマ! 僕が総帥になったらまず、お前を追い出してやるからな! こんな恥かかせて、ただで済むと思うなよ!」
     エミリオは頬を押さえながら、廊下の奥へと戻っていった。
    「……」
     ルーマはしばらく突っ立っていたが、やがて深いため息をついた。
    「……はぁ。モールさんの言う通りやわ。
     はっきり言わな、エミリオくんは全然、自分のことも分からへんのやな」



     およそ半日後。
     エミリオとルーマは正装し、幹部陣の前に並んで立っていた。
    「それでは、第19代金火狐財団総帥を選出するため、最高幹部7名による選挙を実施いたします」
    「おう」
     選管委員長の指示に従い、最高幹部たちが投票箱に用紙を入れていく。
    「……」「……」
     その様子を、ルーマたち二人はじっと見つめていた。
     いや、ルーマがチラ、とエミリオの様子を眺めたところ、彼は面倒臭そうな表情をうっすらとだが浮かべているのが確認できた。
    (ホンマ、アレな……、ううん、アホ丸出しな人やわ、エミリオくん。『めんどくさいわ、投票なしで僕を指名したったらええやん』みたいな顔しとる)
     そのうちに7名全員の投票が終わり、選管委員がその場で開票し、用紙に書かれた名前を確認する。
    「……嘘みたい……」「……すごいな……」「……全部……」
     ボソボソと、選管委員の驚いた声が漏れ聞こえてくる。
     それと同時に、エミリオの口角が嬉しそうに歪んでいくのを、ルーマははっきりと見ていた。
    (全部、って聞こえたけど。……まさか)
     と、エミリオと目が合う。その目には勝ち誇った色が浮かんでいた。
    「それでは、投票の結果を発表いたします」
     選管委員長が投票用紙を机に置き、端から順に掲げていった。
    「ルーマ様に一票」
    「……!?」
     エミリオの勝ち誇った顔が、凍りつく。ルーマもぎょっとしていた。
    (全部って言ってて、あたしの名前……? あれ?)
    「ルーマ様に一票」
    「なっ」
     エミリオから声が漏れる。
    「ルーマ様に一票。ルーマ様に一票」
    「ちょ、ま、待てっ」
     エミリオの言葉に構わず、選管委員長は最後まで発表した。
    「ルーマ様に一票。ルーマ様に一票。ルーマ様に一票。
     投票の結果、ルーマ・ベント・ゴールドマン様が、第19代金火狐総帥に、満場一致で選出されました」
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    エミリオは恐らく打ちのめされたでしょうが、
    それでもきっと、多少なりとも良い方向に復活してくれるでしょう。
    マロも散々な目に遭いましたが、
    己の故郷を戦火に晒すようなことだけは、きっとしなかったでしょう。

    二人とも一応、金火狐。
    不撓不屈の精神を持つ、しぶとい人たちの血を受け継いていますから。



    とは言え葵や難訓の誘導如何によっては、
    そういう展開もあり得たでしょうね。
    合成の誤謬なんてこともありますし。

     

    そうか。人望才能乏しいマロくんを切ったのは、エミリオを脱落させてから暴発させるようにしむけ、武力反乱に持ち込み、両者疲弊したところで武力介入し、この町を混乱のうちに乗っ取る作戦か。

    やるなあ葵ちゃん(^_^)
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