「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・排猫抄 1
麒麟を巡る話、第425話。
迫り来る白猫党。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
7月30日、夕方。
「え……!? じゃあ、16日にはもう、あたしで満場一致やったってことですか?」
最高幹部とルーマ、そして選管委員が「ランクス&アレックス」に集い、祝賀会を催していた。
その席で選管委員長とルカから、16日の中間調査の時点で既に、幹部全員がルーマに票を投じようと考えていたことを聞かされたのだ。
「いやぁ……。調査結果見た時はもう、爆笑したわ。
でも一方で、『まあそうやろな』っちゅう気もしたけどな。そこら辺はモントの言っとった通りやな」
「……エミリオくん、大丈夫でしょうか。総帥にこっぴどく叱られてましたけど」
「まあ、確かにあの後ずっと凹んでいたし、祝賀会もキャンセルしたが、元々から我の強い性格だ。そのうち復活するだろう」
「あのまんま復活されたらかなわんけどな」
「ははは……」
一方、パンケーキを刺したフォークを片手に、レオンが妻、フォルナに尋ねる。
「モールさんは? 折角一緒にご飯食べよか思てたのにな」
「それが、どこかに消えてしまったみたいで。また旅に出たのかも知れません」
「うわさ、……っちゅうか伝説通りやな」
「また何かの折にはお会いできますよ、きっと」
「そん時にはゆっくり話が聞きたいもんや」
「ええ、同じく」
「……っと、ちょっとごめんな」
レオンは席を立ち、ルーマの席に向かう。
「ルーマ、改めて今回はおつかれさん、そしておめでとさん」
「ありがとうございます、総帥」
「ふふふ……。来年にはお前が総帥、私はただの『おじいちゃん』や」
「そうですね……」
一転、レオンは真面目な顔をする。
「マロのことやけどな」
「え?」
「実は今朝、公安付属病院から連絡があったんや。ナイフはギリギリ、心臓を外れとったらしい」
「じゃあ……」
「一命を取り留めた、っちゅうやつや。とは言え、まだ面会謝絶やけどな。
まあ、完治し次第、刑務所行きは確実や。多分、30年は出て来られん」
「……」
ルーマは一瞬黙り込み、そしてこう返した。
「保釈金は?」
「1000万、2000万積んだとしても、減刑がせいぜいや。執行猶予も付けられへんやろな。
お前とエミリオに対する件はともかく、財団への業務妨害は如何ともしがたいわ。下手すれば財団だけやなく、市国そのものの崩壊を招く行為やからな」
「そうですね……」
「そしてもう一つ、考えなアカン問題がある。もう白猫党が、すぐ近くまで来とる」
「……!」
レオンはルーマとの距離を詰め、小声で話し始めた。
「実は既に、央中南部の電信・電話網の大部分は掌握されとる。交通網も、報道網もや。
今んとこはそっち関係に緘口令を敷いとるから、パニックは起こっとらん。とは言えもう数日以内に、白猫軍の前線は市国の交通圏内に入るやろう。騒ぎになるのは確実や。
それまでに、最大限の準備をしておくつもりはしとる。陸路には既に、入出国管理局の警備隊が構えとる。一応『同盟』にも手ぇ回して、海路防衛も充実させとるところや。
このままにらみ合いを続ければ、恐らくあと二ヶ月か、三ヶ月後くらいで交戦することになるやろな。そこでお前に、頼みたいことがあるんや」
「あたしに……?」
「……」
レオンはボソボソと、ルーマに耳打ちした。
レオンの予測通り、4日後の8月4日、市国の国境西側に白猫党の偵察部隊が到着したとの情報が、入出国管理局に届けられた。
「白猫党は今後、北側からも攻めこんでくるものと思われます」
「そうか。……しかし恐らく、そのまま駐留するだろう」
「それは何故……?」
尋ねた警備隊長に、管理局長リミノ・ナトリはこう返した。
「向こうはこちらが無血開城することを望んでいるからだ。……と、総帥が言っていた。
私も半信半疑ではあるが、どちらにせよ、こちらからの手出しは禁物だ。あくまで専守防衛を徹底するのだ」
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迫り来る白猫党。
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7月30日、夕方。
「え……!? じゃあ、16日にはもう、あたしで満場一致やったってことですか?」
最高幹部とルーマ、そして選管委員が「ランクス&アレックス」に集い、祝賀会を催していた。
その席で選管委員長とルカから、16日の中間調査の時点で既に、幹部全員がルーマに票を投じようと考えていたことを聞かされたのだ。
「いやぁ……。調査結果見た時はもう、爆笑したわ。
でも一方で、『まあそうやろな』っちゅう気もしたけどな。そこら辺はモントの言っとった通りやな」
「……エミリオくん、大丈夫でしょうか。総帥にこっぴどく叱られてましたけど」
「まあ、確かにあの後ずっと凹んでいたし、祝賀会もキャンセルしたが、元々から我の強い性格だ。そのうち復活するだろう」
「あのまんま復活されたらかなわんけどな」
「ははは……」
一方、パンケーキを刺したフォークを片手に、レオンが妻、フォルナに尋ねる。
「モールさんは? 折角一緒にご飯食べよか思てたのにな」
「それが、どこかに消えてしまったみたいで。また旅に出たのかも知れません」
「うわさ、……っちゅうか伝説通りやな」
「また何かの折にはお会いできますよ、きっと」
「そん時にはゆっくり話が聞きたいもんや」
「ええ、同じく」
「……っと、ちょっとごめんな」
レオンは席を立ち、ルーマの席に向かう。
「ルーマ、改めて今回はおつかれさん、そしておめでとさん」
「ありがとうございます、総帥」
「ふふふ……。来年にはお前が総帥、私はただの『おじいちゃん』や」
「そうですね……」
一転、レオンは真面目な顔をする。
「マロのことやけどな」
「え?」
「実は今朝、公安付属病院から連絡があったんや。ナイフはギリギリ、心臓を外れとったらしい」
「じゃあ……」
「一命を取り留めた、っちゅうやつや。とは言え、まだ面会謝絶やけどな。
まあ、完治し次第、刑務所行きは確実や。多分、30年は出て来られん」
「……」
ルーマは一瞬黙り込み、そしてこう返した。
「保釈金は?」
「1000万、2000万積んだとしても、減刑がせいぜいや。執行猶予も付けられへんやろな。
お前とエミリオに対する件はともかく、財団への業務妨害は如何ともしがたいわ。下手すれば財団だけやなく、市国そのものの崩壊を招く行為やからな」
「そうですね……」
「そしてもう一つ、考えなアカン問題がある。もう白猫党が、すぐ近くまで来とる」
「……!」
レオンはルーマとの距離を詰め、小声で話し始めた。
「実は既に、央中南部の電信・電話網の大部分は掌握されとる。交通網も、報道網もや。
今んとこはそっち関係に緘口令を敷いとるから、パニックは起こっとらん。とは言えもう数日以内に、白猫軍の前線は市国の交通圏内に入るやろう。騒ぎになるのは確実や。
それまでに、最大限の準備をしておくつもりはしとる。陸路には既に、入出国管理局の警備隊が構えとる。一応『同盟』にも手ぇ回して、海路防衛も充実させとるところや。
このままにらみ合いを続ければ、恐らくあと二ヶ月か、三ヶ月後くらいで交戦することになるやろな。そこでお前に、頼みたいことがあるんや」
「あたしに……?」
「……」
レオンはボソボソと、ルーマに耳打ちした。
レオンの予測通り、4日後の8月4日、市国の国境西側に白猫党の偵察部隊が到着したとの情報が、入出国管理局に届けられた。
「白猫党は今後、北側からも攻めこんでくるものと思われます」
「そうか。……しかし恐らく、そのまま駐留するだろう」
「それは何故……?」
尋ねた警備隊長に、管理局長リミノ・ナトリはこう返した。
「向こうはこちらが無血開城することを望んでいるからだ。……と、総帥が言っていた。
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