「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・排猫抄 4
麒麟を巡る話、第428話。
勇み足を撃ち抜く。
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4.
レオン危篤が報じられてからさらに数日後――。
「亡くなったと……!?」
「ええ、つい今朝方」
市国において、「レオンが病死した」と報じられたのである。当然その悲報は、ロンダの下にも届けられた。
「……ふむ、……うーむ」
ロンダはしばらく考え込んでいたが、やがて顔を挙げた。
「よし。この機に乗じて市国に突入し、占拠するのだ。
最高指導者を失い、人心が揺れている今であれば、我々に従うよう説得できるかも知れん。市街地を制圧されれば市政局、ひいては財団も、降伏せざるを得んだろう」
ロンダは出撃を命じ、兵士を市国へと赴かせた。
勿論この時、レオンは死んでなどいない。
「そうか、動きよったか」
レオンはフォコ屋敷で泰然と、ルーマからの報告を聞いていた。
「はい。数はおおよそ、300を超えているとのことです」
「一個大隊相当か……。私が死んだと思って油断しきっとるな。ルーマにも失礼な奴やで、次の総帥やっちゅうのに。
よし、そう言うことであれば、ボチボチもういっこの作戦も進めてもらおか」
「はい。『頭巾』も預かってますから、あたしが直に伝えます」
「おう」
ルーマは某所にいるモールに、通信を送った。
「『トランスワード:モール』。……モールさん、聞こえますか?」
《あいあい、感度良好だね。そっち、動きがあったかね?》
「ええ。管理局とも相談して、あえて市国市街地に入らせてるところです」
《よっしゃ。んじゃ、こっちも動くね》
「よろしくお願いします」
白猫軍が西側から襲撃してくることが予め財団側から伝えられており、既に市民は市国東側へ避難している。
無人の通りを、白猫軍は猛然と突き進んでいた。
「名にし負うあの金火狐財団の、お膝元なだけはあるな。避難指示が手早く、そして適切だ」
つぶやいた将校に、同輩らが応じる。
「確かに。これまでの街とは明らかに対応が違いますね」
「大抵、非戦闘員が右往左往しているか、非戦闘員を巻き込んで無差別に攻撃してくるかでしたからな」
「余計な被害を生まずに済むと言うものだ。これほどの大都市で、こうまで見事な避難措置を執れるとは」
「常々からよほど、財団の運営がしっかりしている、……と言うことでしょうね」
「うむ。総帥とやらが亡くなる前に是非、会ってみたかったものだ」
そんなことを話しながら、進軍していると――。
「……むっ」
前方から、武装した公安職員が現れた。
「白猫党に告ぐ! 直ちに進軍をやめ、市国から退去せよ! 応じなければ侵略の意思ありとみなし、攻撃する!」
「ふむ」
大隊を率いてきた将校が、それに答える。
「我々は無闇に戦闘を行う意思は無い! 速やかに降伏すれば、一切危害を加えないと約束する! 至急、財団の最高責任者に取り次がれたし!」
「その最高責任者、即ち総帥より伝言を託かっている! 『さっさと失せろ、アホタレ』とのことだ!」
「……なるほど。結構な遺言だ」
そのつぶやきが聞こえたのか、それともそう思っていることを読んでいたのか――公安職員はこう続けた。
「なお、第18代総帥はご存命だ! 貴君らを謀(たばか)るために仮病を使っていらっしゃったのだ! ちなみに先程の伝言は、直に我々へと伝えられたものである!」
「……なに?」
「繰り返す! 今すぐ退却せねば、貴君らには侵略の意思があるものとみなし、攻撃する!」
「ふむ」
将校は目をつむり、しばらく黙った後、返事をしようと声を上げかけた。
「良かろう! 退却し……」「退却の意思が無いことを確認! 撃てーッ!」
だが、その声をかき消すように、公安職員が号令をかけた。
「なっ……」
たじろぐ将校に構わず、四方八方から重機関銃を構えた職員が被っていた布を払い、あるいは窓を開けて姿を現す。
「ま、待て、待てっ! 退却だ! 退却するっ!」
しかしその言葉は、バリバリと響き渡る銃声にかき消された。
「た、退却! 全軍退却だ!」
慌てて後退するが、囲まれた白猫軍は重機関銃の猛攻撃にさらされ、次々と兵士が倒れていく。
「な、なんて卑怯な奴らだ! 退却すると言っているのに……!」
「いや、最初から我々を潰すつもりだったのだ!」
じりじりと後退しつつ、将校は嘆く。
「こんな罠にはまるとは、つくづく油断が過ぎたものだ! ……攻撃を許可する! 撃て、撃てッ!」
どうにか応戦するものの、歩兵が持つ自動小銃と、あちこちに据置きされている重機関銃とでは、勝負になるわけが無い。
結局――360名いた大隊は、市街地を脱出するまでに、3分の1以下にまでその数を減らすこととなった。
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勇み足を撃ち抜く。
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レオン危篤が報じられてからさらに数日後――。
「亡くなったと……!?」
「ええ、つい今朝方」
市国において、「レオンが病死した」と報じられたのである。当然その悲報は、ロンダの下にも届けられた。
「……ふむ、……うーむ」
ロンダはしばらく考え込んでいたが、やがて顔を挙げた。
「よし。この機に乗じて市国に突入し、占拠するのだ。
最高指導者を失い、人心が揺れている今であれば、我々に従うよう説得できるかも知れん。市街地を制圧されれば市政局、ひいては財団も、降伏せざるを得んだろう」
ロンダは出撃を命じ、兵士を市国へと赴かせた。
勿論この時、レオンは死んでなどいない。
「そうか、動きよったか」
レオンはフォコ屋敷で泰然と、ルーマからの報告を聞いていた。
「はい。数はおおよそ、300を超えているとのことです」
「一個大隊相当か……。私が死んだと思って油断しきっとるな。ルーマにも失礼な奴やで、次の総帥やっちゅうのに。
よし、そう言うことであれば、ボチボチもういっこの作戦も進めてもらおか」
「はい。『頭巾』も預かってますから、あたしが直に伝えます」
「おう」
ルーマは某所にいるモールに、通信を送った。
「『トランスワード:モール』。……モールさん、聞こえますか?」
《あいあい、感度良好だね。そっち、動きがあったかね?》
「ええ。管理局とも相談して、あえて市国市街地に入らせてるところです」
《よっしゃ。んじゃ、こっちも動くね》
「よろしくお願いします」
白猫軍が西側から襲撃してくることが予め財団側から伝えられており、既に市民は市国東側へ避難している。
無人の通りを、白猫軍は猛然と突き進んでいた。
「名にし負うあの金火狐財団の、お膝元なだけはあるな。避難指示が手早く、そして適切だ」
つぶやいた将校に、同輩らが応じる。
「確かに。これまでの街とは明らかに対応が違いますね」
「大抵、非戦闘員が右往左往しているか、非戦闘員を巻き込んで無差別に攻撃してくるかでしたからな」
「余計な被害を生まずに済むと言うものだ。これほどの大都市で、こうまで見事な避難措置を執れるとは」
「常々からよほど、財団の運営がしっかりしている、……と言うことでしょうね」
「うむ。総帥とやらが亡くなる前に是非、会ってみたかったものだ」
そんなことを話しながら、進軍していると――。
「……むっ」
前方から、武装した公安職員が現れた。
「白猫党に告ぐ! 直ちに進軍をやめ、市国から退去せよ! 応じなければ侵略の意思ありとみなし、攻撃する!」
「ふむ」
大隊を率いてきた将校が、それに答える。
「我々は無闇に戦闘を行う意思は無い! 速やかに降伏すれば、一切危害を加えないと約束する! 至急、財団の最高責任者に取り次がれたし!」
「その最高責任者、即ち総帥より伝言を託かっている! 『さっさと失せろ、アホタレ』とのことだ!」
「……なるほど。結構な遺言だ」
そのつぶやきが聞こえたのか、それともそう思っていることを読んでいたのか――公安職員はこう続けた。
「なお、第18代総帥はご存命だ! 貴君らを謀(たばか)るために仮病を使っていらっしゃったのだ! ちなみに先程の伝言は、直に我々へと伝えられたものである!」
「……なに?」
「繰り返す! 今すぐ退却せねば、貴君らには侵略の意思があるものとみなし、攻撃する!」
「ふむ」
将校は目をつむり、しばらく黙った後、返事をしようと声を上げかけた。
「良かろう! 退却し……」「退却の意思が無いことを確認! 撃てーッ!」
だが、その声をかき消すように、公安職員が号令をかけた。
「なっ……」
たじろぐ将校に構わず、四方八方から重機関銃を構えた職員が被っていた布を払い、あるいは窓を開けて姿を現す。
「ま、待て、待てっ! 退却だ! 退却するっ!」
しかしその言葉は、バリバリと響き渡る銃声にかき消された。
「た、退却! 全軍退却だ!」
慌てて後退するが、囲まれた白猫軍は重機関銃の猛攻撃にさらされ、次々と兵士が倒れていく。
「な、なんて卑怯な奴らだ! 退却すると言っているのに……!」
「いや、最初から我々を潰すつもりだったのだ!」
じりじりと後退しつつ、将校は嘆く。
「こんな罠にはまるとは、つくづく油断が過ぎたものだ! ……攻撃を許可する! 撃て、撃てッ!」
どうにか応戦するものの、歩兵が持つ自動小銃と、あちこちに据置きされている重機関銃とでは、勝負になるわけが無い。
結局――360名いた大隊は、市街地を脱出するまでに、3分の1以下にまでその数を減らすこととなった。
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2015.09.28 修正
2015.12.23 修正
2015.09.28 修正
2015.12.23 修正



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