「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・排猫抄 5
麒麟を巡る話、第429話。
市国の臨戦。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
不用意な深入りによって一個大隊が壊滅したことを伝えられ、ロンダは苦い顔をしていた。
「なんと……。これはまずいな」
自身の性急な判断によって多大な被害が発生したのである。このまま挽回できなければ、何らかの処分は免れない。
「よし、改めて武装を整え、本格的に市国へ攻め入るのだ!
このまま退いたのでは、総裁閣下にも同志らにも顔向けできん! 何としてでも、あの街を陥落させるぞ!」
ロンダは腹を括り、士気が萎みかけていた全軍を鼓舞した。
白猫党が体勢を立て直し、再度侵攻しようとしていると言う情報は当然、迎撃する側である財団にも伝えられた。
すっかり総帥の座に復帰したレオンは、これを聞いてかぶりを振る。
「懲りひん奴らやな。……とは言え、しゃあないか。このまんま逃げ帰ったら、わざわざ熊や虎の巣穴に飛び込んで騒いだだけのアホになってまうからな。
多少なりとも成果は挙げようと、躍起になっとるやろな」
「どうするんです?」
尋ねたルーマに、レオンはこう返す。
「決まっとる。『向こう』の情報が白猫軍に伝わるまで、徹底的に応戦や」
「そうですか……」
ルーマの沈んだ声に、レオンは彼女の内心を察したらしい。
「平和的に済ましたい、ちゅうのんはみんな同じや。そもそも私ら金火狐は、戦争したらアカンと公言しとるしな。
せやけど、それは決して『攻め込まれても抵抗しません』ちゅうことやあらへん。こうして今、攻め込んできよる奴らがおる以上、追い返さな、その後に何されるか分からへん。
その『何されるか』によって、市国のみんなが不幸になることも、十分に有り得る。それは市国を本拠とし、市国の政治・経済と市民生活を支える私らにとっても、大きな不幸や。
このゴールドコースト市国におる1000万人の生活と幸福の半分は、私らに責任があると言っても過言やない。……せやからな、ここだけはどうしても戦わな、アカンのや」
「……はい」
「勿論な」
レオンはルーマの肩に手を置き、こう続けた。
「向こうが何もせえへんかったら、こっちも何もせえへん。それは確かや。
さあ攻め込もか、っちゅう段階で、『いや、やっぱりアカン』と思いとどまってくれるのであれば、私らもそれに沿った対応をする。それは確かや。
平和的に済ましたいんは、私も同じやからな」
翌日。
白猫軍の統率と士気は完全に復旧し、改めて大軍が、市国を取り囲んだ。
「敵は難攻不落、そして老獪だ! 決して昨日のような、安易な進軍をしてはならん!
こちらも着実に、相手の防御・防衛を削ぎ落とすように戦うのだ! 各隊、先走った行動は絶対に行うな! 我が軍の総力を結集し、各個が連携して波状攻撃を仕掛ければ、あの壁は決して崩せぬものではない!
それでは、全軍――攻撃開始だッ!」
ロンダの号令に従い、白猫軍は市国の壁に向かって砲弾を浴びせ始めた。
「退却! 被弾せぬ距離まで退却だ!」
一方、白猫党の攻撃を受けた警備隊は、壁を死守しようとはせず、防衛線をその手前まで退かせていた。
「みだりに応戦するな! どの道、あの壁を崩すのには我々の総力を以ってしても半日以上はかかる!
相手の消耗を待ち、壁が崩れたところで、迎撃を開始せよ!」
こちらもあちこちに重機関銃や砲台を設置し、敵の侵入に備えていた。
そして白猫軍の攻撃開始から、3時間が経った頃――ロンダの元に、伝令が慌てて飛び込んできた。
「どうした?」
「ミッドランドで反乱が起こりました!
既にミッドランド市国全域とその周辺の交通網は奪還されており、北部側の占領地域に兵が向けられているとのことです!」
「な、何っ!?」
ミッドランド北部。
「アハハハ……、ヤツら、慌ててるねぇ」
「そりゃそうだろ、ケケケ」
白猫党が慌てて退却していくのを、モールと、そして克天狐――無論、「黄色い方の」である――が笑って眺めていた。
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市国の臨戦。
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不用意な深入りによって一個大隊が壊滅したことを伝えられ、ロンダは苦い顔をしていた。
「なんと……。これはまずいな」
自身の性急な判断によって多大な被害が発生したのである。このまま挽回できなければ、何らかの処分は免れない。
「よし、改めて武装を整え、本格的に市国へ攻め入るのだ!
このまま退いたのでは、総裁閣下にも同志らにも顔向けできん! 何としてでも、あの街を陥落させるぞ!」
ロンダは腹を括り、士気が萎みかけていた全軍を鼓舞した。
白猫党が体勢を立て直し、再度侵攻しようとしていると言う情報は当然、迎撃する側である財団にも伝えられた。
すっかり総帥の座に復帰したレオンは、これを聞いてかぶりを振る。
「懲りひん奴らやな。……とは言え、しゃあないか。このまんま逃げ帰ったら、わざわざ熊や虎の巣穴に飛び込んで騒いだだけのアホになってまうからな。
多少なりとも成果は挙げようと、躍起になっとるやろな」
「どうするんです?」
尋ねたルーマに、レオンはこう返す。
「決まっとる。『向こう』の情報が白猫軍に伝わるまで、徹底的に応戦や」
「そうですか……」
ルーマの沈んだ声に、レオンは彼女の内心を察したらしい。
「平和的に済ましたい、ちゅうのんはみんな同じや。そもそも私ら金火狐は、戦争したらアカンと公言しとるしな。
せやけど、それは決して『攻め込まれても抵抗しません』ちゅうことやあらへん。こうして今、攻め込んできよる奴らがおる以上、追い返さな、その後に何されるか分からへん。
その『何されるか』によって、市国のみんなが不幸になることも、十分に有り得る。それは市国を本拠とし、市国の政治・経済と市民生活を支える私らにとっても、大きな不幸や。
このゴールドコースト市国におる1000万人の生活と幸福の半分は、私らに責任があると言っても過言やない。……せやからな、ここだけはどうしても戦わな、アカンのや」
「……はい」
「勿論な」
レオンはルーマの肩に手を置き、こう続けた。
「向こうが何もせえへんかったら、こっちも何もせえへん。それは確かや。
さあ攻め込もか、っちゅう段階で、『いや、やっぱりアカン』と思いとどまってくれるのであれば、私らもそれに沿った対応をする。それは確かや。
平和的に済ましたいんは、私も同じやからな」
翌日。
白猫軍の統率と士気は完全に復旧し、改めて大軍が、市国を取り囲んだ。
「敵は難攻不落、そして老獪だ! 決して昨日のような、安易な進軍をしてはならん!
こちらも着実に、相手の防御・防衛を削ぎ落とすように戦うのだ! 各隊、先走った行動は絶対に行うな! 我が軍の総力を結集し、各個が連携して波状攻撃を仕掛ければ、あの壁は決して崩せぬものではない!
それでは、全軍――攻撃開始だッ!」
ロンダの号令に従い、白猫軍は市国の壁に向かって砲弾を浴びせ始めた。
「退却! 被弾せぬ距離まで退却だ!」
一方、白猫党の攻撃を受けた警備隊は、壁を死守しようとはせず、防衛線をその手前まで退かせていた。
「みだりに応戦するな! どの道、あの壁を崩すのには我々の総力を以ってしても半日以上はかかる!
相手の消耗を待ち、壁が崩れたところで、迎撃を開始せよ!」
こちらもあちこちに重機関銃や砲台を設置し、敵の侵入に備えていた。
そして白猫軍の攻撃開始から、3時間が経った頃――ロンダの元に、伝令が慌てて飛び込んできた。
「どうした?」
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「な、何っ!?」
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「アハハハ……、ヤツら、慌ててるねぇ」
「そりゃそうだろ、ケケケ」
白猫党が慌てて退却していくのを、モールと、そして克天狐――無論、「黄色い方の」である――が笑って眺めていた。
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2015.12.23 修正
2015.12.23 修正



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