「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・排猫抄 6
麒麟を巡る話、第430話。
央中侵攻の顛末。
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6.
そもそも、モールが何故これほどタイミングよく、この時期にゴールドコースト市国を訪れたのか――その答えは、一聖にあった。
大火の行方を追うため、そしてミッドランドを白猫党から解放するため、一聖はまず、央中事情に詳しく、また、大火と交流のあるモールと連絡を取った。
とは言え一聖自身はモールとあまり面識が無く、さらには一聖が懇意にしているルナとモールの仲がこじれていたこともあり、モールは当初、相手にしなかった。
しかし一聖からフィオの話を又聞きした途端、モールは態度を一変。自分の「お気に入り」である金火狐財団が危機に見舞われることを知ったモールは、選挙の陰で暗躍していた人形たちの排除に向かうことを一聖に伝えた。
一聖の方でも、市国の情勢が動くことで白猫党が市国方面へ動き、ミッドランド周辺の警戒が緩むことを目論み、密かに天狐をミッドランドへ戻して、今回の蹶起を準備させていたのである。
二人が企てた作戦は完全に成功し、ミッドランド北部に陣取っていた白猫軍は既に、南の彼方へと撤退している。
「ま、残ってるヤツらは各国の努力で何とかしろ、って感じだね。ソコまで面倒見きれないしね」
「同感。オレとしちゃ、ミッドランドが元通りになりゃいいし、な」
「ふっふっふ……」
と、モールが笑い出す。
「なんだよ?」
「いやいや、克とはなかなか意見が合わないし、ルナのコトは二度と顔も見たくないくらい嫌いだけど、君は話してて楽しいね。気も意見も合う。すごく合うね。
なんで今まで君と話さなかったのかねぇ? ちょっと損した気すらするね」
「なんだよ、気持ち悪りいな。……まあ、今回は助かったぜ。礼をしなきゃいけねーな。
良けりゃ、しばらくウチに来いよ。うまい飯も出すぜ。鈴林が」
「ああ、鈴林ちゃんか。懐かしいね」
「お? 鈴林と知り合いなのか、アンタ?」
「色々あってね」
二人はじゃれ合うように歩きながら、ミッドランド島行きの港に向かった。
この後――ゴールドコーストを攻め落とそうとしていた白猫軍本隊は、慌ててミッドランド方面へと引き返した。
しかし時既に遅く、ミッドランド周辺は完全に、天狐およびラーガ家を主軸とする抵抗勢力に奪還されており、白猫軍による再占領は最早、不可能だった。
また、この時点で白猫軍本隊は各拠点から遠ざかってしまっており、あらゆる対応は必然的に、後手後手に回らざるを得なくなった。
当然、市国へ攻め込むことも事実上できなくなり、白猫党は市国への侵攻をあきらめた。さらにミッドランドの攻勢に勇気づけられ、白猫党の支配下にあった各国が次々に立ち上がったため、白猫軍は一転、各国勢力に翻弄される羽目に陥った。
とは言え、その多くはそれほど戦略眼にも戦闘力にも恵まれていなかったため、白猫党を完全に撤退させるまでには至らなかった。
それでも一時は央中の3分の1を手中に収めていた白猫党の勢力圏を、そのさらに3分の2程度、総じて2割程度に縮めさせることには成功した。
《報告は以上であります。
今回の失敗の責任は、すべてこの私にあります。どんな処罰も甘んじて受ける所存です》
電話越しに聞こえてくる、ロンダの憔悴しきった声に、シエナは怒り混じりのため息を漏らした。
「はーっ……。
とりあえず、あなたは戻って来なさい。兵も減ったし、あなたをはじめとして全体の士気も落ちてる。現状、ソレ以上の支配圏拡大は望めそうにないもの」
《はっ……、了解であります》
シエナは電話を切り、もう一度、苛立った様子でため息をついた。
「はー……」「シエナ」
と、背後から突然、声がかけられる。
「アオイ?」
「今回の件で、ミゲルさんを更迭したりしちゃダメだよ」
「何でよ?」
シエナは振り返り、キッと葵をにらむ。
「コレだけの被害を出して、お咎め無しって言うの?」
「シエナ、ずっと無茶ぶりしてたもん。傍から見たらいじめだよ。
ここで一方的にやり込めて追い出したりしたら、例えミゲルさん本人が何も言わなくても、周りが反発するよ。そしたら、今後の計画に差し支える。
どんなに重くても、処罰は3ヶ月無給と6ヶ月減給が妥当だと思うよ」
「……アンタがそう言うなら、そうするわ」
シエナがうなずいたところで、葵はこう続けた。
「それに今回、あたしもミスリードしたもん」
「え?」
「天狐ちゃんが復活することを『見てなかった』から。その可能性をまったく考えずに動いてた。
彼女の蹶起は、あたしにとっても全くの想定外だったもの」
「……ああ、そう」
シエナは葵に背を向け、その場を去る。
その瞳の奥には、ほんのわずかに怒りが浮かんでいた。
「……」
一人になった葵は、ぼそ、とつぶやいた。
「シエナについては、……計画通り、かな」
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央中侵攻の顛末。
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そもそも、モールが何故これほどタイミングよく、この時期にゴールドコースト市国を訪れたのか――その答えは、一聖にあった。
大火の行方を追うため、そしてミッドランドを白猫党から解放するため、一聖はまず、央中事情に詳しく、また、大火と交流のあるモールと連絡を取った。
とは言え一聖自身はモールとあまり面識が無く、さらには一聖が懇意にしているルナとモールの仲がこじれていたこともあり、モールは当初、相手にしなかった。
しかし一聖からフィオの話を又聞きした途端、モールは態度を一変。自分の「お気に入り」である金火狐財団が危機に見舞われることを知ったモールは、選挙の陰で暗躍していた人形たちの排除に向かうことを一聖に伝えた。
一聖の方でも、市国の情勢が動くことで白猫党が市国方面へ動き、ミッドランド周辺の警戒が緩むことを目論み、密かに天狐をミッドランドへ戻して、今回の蹶起を準備させていたのである。
二人が企てた作戦は完全に成功し、ミッドランド北部に陣取っていた白猫軍は既に、南の彼方へと撤退している。
「ま、残ってるヤツらは各国の努力で何とかしろ、って感じだね。ソコまで面倒見きれないしね」
「同感。オレとしちゃ、ミッドランドが元通りになりゃいいし、な」
「ふっふっふ……」
と、モールが笑い出す。
「なんだよ?」
「いやいや、克とはなかなか意見が合わないし、ルナのコトは二度と顔も見たくないくらい嫌いだけど、君は話してて楽しいね。気も意見も合う。すごく合うね。
なんで今まで君と話さなかったのかねぇ? ちょっと損した気すらするね」
「なんだよ、気持ち悪りいな。……まあ、今回は助かったぜ。礼をしなきゃいけねーな。
良けりゃ、しばらくウチに来いよ。うまい飯も出すぜ。鈴林が」
「ああ、鈴林ちゃんか。懐かしいね」
「お? 鈴林と知り合いなのか、アンタ?」
「色々あってね」
二人はじゃれ合うように歩きながら、ミッドランド島行きの港に向かった。
この後――ゴールドコーストを攻め落とそうとしていた白猫軍本隊は、慌ててミッドランド方面へと引き返した。
しかし時既に遅く、ミッドランド周辺は完全に、天狐およびラーガ家を主軸とする抵抗勢力に奪還されており、白猫軍による再占領は最早、不可能だった。
また、この時点で白猫軍本隊は各拠点から遠ざかってしまっており、あらゆる対応は必然的に、後手後手に回らざるを得なくなった。
当然、市国へ攻め込むことも事実上できなくなり、白猫党は市国への侵攻をあきらめた。さらにミッドランドの攻勢に勇気づけられ、白猫党の支配下にあった各国が次々に立ち上がったため、白猫軍は一転、各国勢力に翻弄される羽目に陥った。
とは言え、その多くはそれほど戦略眼にも戦闘力にも恵まれていなかったため、白猫党を完全に撤退させるまでには至らなかった。
それでも一時は央中の3分の1を手中に収めていた白猫党の勢力圏を、そのさらに3分の2程度、総じて2割程度に縮めさせることには成功した。
《報告は以上であります。
今回の失敗の責任は、すべてこの私にあります。どんな処罰も甘んじて受ける所存です》
電話越しに聞こえてくる、ロンダの憔悴しきった声に、シエナは怒り混じりのため息を漏らした。
「はーっ……。
とりあえず、あなたは戻って来なさい。兵も減ったし、あなたをはじめとして全体の士気も落ちてる。現状、ソレ以上の支配圏拡大は望めそうにないもの」
《はっ……、了解であります》
シエナは電話を切り、もう一度、苛立った様子でため息をついた。
「はー……」「シエナ」
と、背後から突然、声がかけられる。
「アオイ?」
「今回の件で、ミゲルさんを更迭したりしちゃダメだよ」
「何でよ?」
シエナは振り返り、キッと葵をにらむ。
「コレだけの被害を出して、お咎め無しって言うの?」
「シエナ、ずっと無茶ぶりしてたもん。傍から見たらいじめだよ。
ここで一方的にやり込めて追い出したりしたら、例えミゲルさん本人が何も言わなくても、周りが反発するよ。そしたら、今後の計画に差し支える。
どんなに重くても、処罰は3ヶ月無給と6ヶ月減給が妥当だと思うよ」
「……アンタがそう言うなら、そうするわ」
シエナがうなずいたところで、葵はこう続けた。
「それに今回、あたしもミスリードしたもん」
「え?」
「天狐ちゃんが復活することを『見てなかった』から。その可能性をまったく考えずに動いてた。
彼女の蹶起は、あたしにとっても全くの想定外だったもの」
「……ああ、そう」
シエナは葵に背を向け、その場を去る。
その瞳の奥には、ほんのわずかに怒りが浮かんでいた。
「……」
一人になった葵は、ぼそ、とつぶやいた。
「シエナについては、……計画通り、かな」
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2015.12.23 修正
2015.12.23 修正



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