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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第8部

    白猫夢・排猫抄 7

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    麒麟を巡る話、第431話。
    年の暮れ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    7.
     570年、年末。
     激動の年も、ようやく終わろうとしていた。



    「結論から申しますと、デノミ政策は成功したと言っていいでしょう」
     白猫党の年末報告で、財務部長オラースは所期の目的が達成されたことを報告していた。
    「今年の大きなトピック、即ち白猫党の央中進出を受け、為替市場におけるクラムの地位は大きく向上しています。
     加えて私の推めていたクラム使用奨励政策と、為替と投資への介入・制限も一定の成功を収めており、ホワイト・クラムは我々の資金として、問題なく扱える段階に到達したと言えるでしょう」
    「そう。やっぱり、あなたに任せて正解だったわね」
    「ありがとうございます」
     オラースは小さく頭を下げ、こう続けた。
    「これはあくまで社会的な見地における、公正、公平な評価と考えていただきたいのですが――最後に小さからざる失敗があったとは言え、央中における我々の勢力圏をゼロから2割にまで拡大できたのは、ひとえにロンダ司令の功績によるものです。
     それを鑑みれば、やはり彼への処罰は公正を欠くと思われます」
    「はい?」
     シエナはあからさまに不快そうな表情を見せ、オラースに尋ねる。
    「じゃあ処罰を取り消せ、と?」
    「完全にとは申しませんが、せめて減給の期間を減らすべきかと」
    「私も賛成です」
     と、幹事長イビーザも手を挙げる。
    「本人の前でこんなことを言うのも気恥ずかしいですが、ロンダ司令は党全体から見ても人気を集めている人物です。彼への処罰が軽くなれば、党員の士気も上がるでしょう。
     勿論、寛大な処置を下した閣下にも、人気が集まるかと」
    「賛成します」
     イビーザに続き、他の幹部も手を挙げる。
     結局、シエナとロンダ本人を除く満場一致となり、シエナは渋々了承した。
    「……分かったわよ。減給はなし。3ヶ月の無給のみとするわ」
    「寛大なご判断、感謝いたします」
     ロンダは立ち上がり、シエナに敬礼した。



    「そっか、もう半月もしたら、あんたが総帥なんだな」
     央中ゴールドコースト市国、「ランクス&アレックス」。
     この日もルーマは店に入り浸っており、すっかり友人となったラムダと話していた。
    「もう大変です。一回、総帥代行してましたけど、その時も次から次に仕事が来るんですよ。目ぇ回りそうでした」
    「だろうな。俺たち庶民にとっちゃ、総帥はカミサマみたいなもんだしな。
     ま、あんたならやれるさ。おっとりして見えるけど、慌てふためいたとこってのは見たこと無いし、どんな時でも落ち着いてる。
     今だって、『大変』とは言ってたけど、『やりたくない』とか『嫌だ』とか、一度も言ってないし。案外、今の総帥より大物になるんじゃないかな」
    「あはは……、ありがとうございます」
    「あ、そうだ。良かったら近いうち、うちに来ないか?」
    「え? ラムダさんのお家ですか?」
    「ああ。家族に是非紹介したい。弟もあんたにお礼言いたいって言ってた」
    「ええですよ、是非」
     ルーマの返事に、ラムダは顔をほころばせた。
    「ありがとな。カミさんも喜ぶ」
    「……あれ? 奥さんいるんですか?」
    「ん、言ってなかったっけ?」
    「聞いてないですよー。びっくりしましたよ、もぉ」



     央北、トラス王国。
    「次の事件は573年だ」
     唐突なフィオの言葉に、「フェニックス」一同は一様に緊張した表情を浮かべる。
    「何があるの?」
     尋ねたルナに、フィオは地図を広げ、西方を指し示した。
    「白猫党がここに攻め込む。ちょうどその時期に、政変が起こっているんだ」
    「西方か……。葵の実家と関係あんのか?」
    「あると言えばある。でも直接じゃない。
     ……まあ、僕が言いたいのは、次が起こるまでに3年、いや、2年の余裕があるってことだ。つまりその間に、タイカ・カツミ探しをしておきたい」
    「大賛成だな」
     一聖は大きくうなずき、フィオの提案に乗る。
    「ドコにいるか、見当は付いてんのか?」
    「いや、まったく。母も分からなかったそうだ。
     でも、カズセちゃん。君にヒントをもらってる」
    「オレに?」
     きょとんとした一聖に、フィオはニヤッと笑いかけた。
    「まあ、ほとんど勘なんだけどね。……これさ」
     フィオは地図の上に、ぱさ、と写真を置いた。
    「コレは……?」
    「これってあの時、僕に見せてくれたやつ?」
     尋ねたマークに、フィオはうなずく。
    「そうだ。これに、もう一つのヒントがある。
     現時点で恐らく、『彼女』はそれを造ってるはずだ。である以上、どこかにその施設がある。ただ、一方でその施設は『彼女』が深く関与していると言うことでもある。そしてカツミが行方不明になるような事態なら、『彼女』が絡んでいてもおかしくない。
     一つの可能性として、カツミはその施設を探してたんじゃないだろうか? そしてそのために、カツミは行方不明になっているんじゃないか? ……と僕は見てるんだ」
    「飛躍してるな、話が。……とは言え、他にアテはねーしな。その施設とやらを探してみるか」



     激動の年が終わるとともに――また次の激動に立ち向かうべく、それぞれが動き始めていた。

    白猫夢・排猫抄 終

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    第8部、終了です。
    今回も政治絡みの話が続いたので、読者さんに呆れられていないかちょっと不安。

    とは言え前々回の所感(第7部終了時)で言っていた「遊び」がちょこちょこ入れられたので、
    個人的にはそこそこ納得行く出来になっています。
    特にパラ。慇懃でぎこちないインターフェイスと、密かに芽生え、成長していく感情。
    この子の将来(を書いていくの)がちょっと楽しみ。

    話はちょっと逸れますが、最近、ドール系の趣味をお持ちの方からの訪問が増えているように感じます。
    パラをはじめとして、「人形」が検索にヒットしてるんでしょうかね……?
    あまりその方面には詳しくないですが、自分も箱庭的な造形物や、
    人工的な人物の造形が好きなので、ドール系の方とは趣味が合いそうな気がします。
    よろしければコメントなどいただきたいな、と。



    閑話休題。
    次の舞台は再び、西方となります。
    成長したあの子もいよいよ、物語に絡んできます。
    そして無敵の葵、そして麒麟を打ち破れるその「秘技」が明らかに――なる、かも。

    その第9部の連載前に、短編を掲載する予定です。
    前作から1年以上空いてしまいましたが……、そう、あの話です。
    またあの二人が帰ってきます! お楽しみに!

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    2015.12.23 修正
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