「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第4部
蒼天剣・悔恨録 3
晴奈の話、第162話。
エルスの過去。
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3.
「セイナ……、セイナ! しっかりして!」
「……う、うう? ……エルス? エルスか?」
晴奈はエルスに抱き起こされた状態で、目を覚ました。
「一体どうしたんだ!? こんなところで、君が倒れているなんて!?」
エルスの問いに応じず、晴奈はフラフラと起き上がり、ナイジェル邸の様子を確かめる。
そして既に賊たちの姿が無いことを確認し、晴奈はエルスの前に土下座した。
「ちょっ、ちょっと、セイナ? どうしたんだよ、一体? 説明してほしいんだけど」
「すまない、エルス! 屋敷に賊が押し入ったのを見ておきながら、逃してしまった!」
「何だって!? 賊!?」
エルスは驚き、慌てて2階に上がる。戻ってきたエルスは、額に汗を浮かべていた。
「うん、確かに、君の言う通り、賊に侵入されてたみたいだね。『剣』が、無くなってる」
「賊を撃退しようとしたのだが、……くっ」
晴奈は自分のふがいなさに肩が震え、それ以上言葉を続けられない。
だが、エルスはいつものように笑みを浮かべながら、晴奈を慰めてくれた。
「剣なんかより君の方が大事だよ。セイナ、君が無事で良かった」
「エルス……! すまない! 本当に、すまない……っ」
それでも晴奈は顔を伏せ、謝り続けていた。
エルスは晴奈を居間に座らせて落ち着かせ、何があったのかを聞き出した。
「状況は大体分かった。それで、他に何か覚えていることは無いかな? 例えば、何か話をしてたとか、そう言うの」
晴奈はしばらく考え込んでいたが、何も出てこない。
「すまぬ、良く覚えていない。さっき話した通りだ」
「そっか。セイナ、ともかく今日はゆっくり休んで。今日のことは気にしなくていいから」
「……」
何も言えず、セイナはヨロヨロと立ち上がる。
と、居間を出ようとしたところで、晴奈は洋巾のことを思い出した。
「あ……、確か洋巾をかぶっていた者がいたのだが、他の者の名を呼んでいた覚えがある。確か『バリー』、『ドール』、『スミス』、それから、『フー』と。
そうだ、それに確か、片目の虎獣人は『日上』と呼ばれていた」
名前を告げた瞬間、エルスは椅子を倒して立ち上がった。
「本当に、そう言ってたの?」
「あ、ああ」
「そんな……、そう、か、……いや、でも」
「知っているのか?」
恐る恐る尋ねた晴奈に対し、エルスは引きつった笑顔を浮かべながら、コクリとうなずいた。
「ああ……。4人とも、僕が北方にいた時の知り合いだ。
特にフー、日上風とは1年ほど、一緒にチームとして行動していたんだ」
エルスは過去、北方にいた時のことを説明してくれた。
「僕は元々、北方の軍事大国――ジーン王国の諜報員をしていた。ある国や組織に忍び込んで、情報や強力な武器を奪うのが主な仕事だったんだ。
僕と一緒に行動していたのは2人。情報収集と援護を担当するリスト・チェスター。そして戦闘要員の日上風。そこに僕がリーダーとして入り、チームで活動していた。
僕がここ、央南に来たきっかけもその仕事がらみだった。黒炎教団の総本山、黒鳥宮にあのタイカ・カツミを撃退できると言われている剣が運び込まれたと言う情報をつかみ、乗り込んだんだ。
剣はあった。古代の戦争でカツミを刺し、瀕死の重傷を負わせた魔剣、『バニッシャー』――教団はカツミの弱点と見なし、破壊しようと企んでいた。長年にわたってカツミ討伐を目論んでいた王国側も、この剣をカツミ討伐の切り札だと考え、何としてでも奪うよう、僕たちに命じた。
で、何とかその剣を奪った僕らは、首尾よく王国に帰還した。そこまでは何の問題も無かった。メイナも助けられたし、上々の成果だった。
だけどそこで、王国軍は暴挙に出ようとした。剣が手に入っただけでカツミを倒せると判断し、討伐チームを組もうとしたんだ。
確かに『バニッシャー』は教団も破壊できない魔剣だったし、魔力を封じる効果があることも分かっていたから、魔術師であるカツミに有効な打撃を与えうる武器なんだろう。だけど剣は剣、単なる刃物だ。カツミに並ぶかそれ以上か、それくらい腕のある剣の達人でもいなけりゃ、倒せるわけが無い。
そのまま討伐に向かえば確実に返り討ちにされるし、カツミは間違い無く報復に出る。カツミの逆鱗に触れた王国は最悪、滅亡しかねない。僕も博士も流石にその作戦を実行させるのはまずいと思ったから、僕らは作戦の要である剣をもう一度奪い、ここに逃げてきたんだ。
だけどリストと博士、メイナは連れて来られたけど、フーは無理だった。彼には祖母がいて、フーの収入と介護無しには生活できなかったからね。
でも今振り返ってみれば、無理矢理にでも連れて来るべきだった。剣が盗まれたことはすぐ分かることだったし、いなくなった僕たちが犯人だってことも容易に推理できることだ。
そうなればずっと一緒に行動してきたフーが素性を疑われないわけは無いし、相当の報復も受けることになる。恐らくは、フーの身に全部、その嫌疑も恨みも押し付けられただろうね。
悪いことを、したよ」
話し終えたエルスの顔には、悔恨の色が浮かんでいた。
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「セイナ……、セイナ! しっかりして!」
「……う、うう? ……エルス? エルスか?」
晴奈はエルスに抱き起こされた状態で、目を覚ました。
「一体どうしたんだ!? こんなところで、君が倒れているなんて!?」
エルスの問いに応じず、晴奈はフラフラと起き上がり、ナイジェル邸の様子を確かめる。
そして既に賊たちの姿が無いことを確認し、晴奈はエルスの前に土下座した。
「ちょっ、ちょっと、セイナ? どうしたんだよ、一体? 説明してほしいんだけど」
「すまない、エルス! 屋敷に賊が押し入ったのを見ておきながら、逃してしまった!」
「何だって!? 賊!?」
エルスは驚き、慌てて2階に上がる。戻ってきたエルスは、額に汗を浮かべていた。
「うん、確かに、君の言う通り、賊に侵入されてたみたいだね。『剣』が、無くなってる」
「賊を撃退しようとしたのだが、……くっ」
晴奈は自分のふがいなさに肩が震え、それ以上言葉を続けられない。
だが、エルスはいつものように笑みを浮かべながら、晴奈を慰めてくれた。
「剣なんかより君の方が大事だよ。セイナ、君が無事で良かった」
「エルス……! すまない! 本当に、すまない……っ」
それでも晴奈は顔を伏せ、謝り続けていた。
エルスは晴奈を居間に座らせて落ち着かせ、何があったのかを聞き出した。
「状況は大体分かった。それで、他に何か覚えていることは無いかな? 例えば、何か話をしてたとか、そう言うの」
晴奈はしばらく考え込んでいたが、何も出てこない。
「すまぬ、良く覚えていない。さっき話した通りだ」
「そっか。セイナ、ともかく今日はゆっくり休んで。今日のことは気にしなくていいから」
「……」
何も言えず、セイナはヨロヨロと立ち上がる。
と、居間を出ようとしたところで、晴奈は洋巾のことを思い出した。
「あ……、確か洋巾をかぶっていた者がいたのだが、他の者の名を呼んでいた覚えがある。確か『バリー』、『ドール』、『スミス』、それから、『フー』と。
そうだ、それに確か、片目の虎獣人は『日上』と呼ばれていた」
名前を告げた瞬間、エルスは椅子を倒して立ち上がった。
「本当に、そう言ってたの?」
「あ、ああ」
「そんな……、そう、か、……いや、でも」
「知っているのか?」
恐る恐る尋ねた晴奈に対し、エルスは引きつった笑顔を浮かべながら、コクリとうなずいた。
「ああ……。4人とも、僕が北方にいた時の知り合いだ。
特にフー、日上風とは1年ほど、一緒にチームとして行動していたんだ」
エルスは過去、北方にいた時のことを説明してくれた。
「僕は元々、北方の軍事大国――ジーン王国の諜報員をしていた。ある国や組織に忍び込んで、情報や強力な武器を奪うのが主な仕事だったんだ。
僕と一緒に行動していたのは2人。情報収集と援護を担当するリスト・チェスター。そして戦闘要員の日上風。そこに僕がリーダーとして入り、チームで活動していた。
僕がここ、央南に来たきっかけもその仕事がらみだった。黒炎教団の総本山、黒鳥宮にあのタイカ・カツミを撃退できると言われている剣が運び込まれたと言う情報をつかみ、乗り込んだんだ。
剣はあった。古代の戦争でカツミを刺し、瀕死の重傷を負わせた魔剣、『バニッシャー』――教団はカツミの弱点と見なし、破壊しようと企んでいた。長年にわたってカツミ討伐を目論んでいた王国側も、この剣をカツミ討伐の切り札だと考え、何としてでも奪うよう、僕たちに命じた。
で、何とかその剣を奪った僕らは、首尾よく王国に帰還した。そこまでは何の問題も無かった。メイナも助けられたし、上々の成果だった。
だけどそこで、王国軍は暴挙に出ようとした。剣が手に入っただけでカツミを倒せると判断し、討伐チームを組もうとしたんだ。
確かに『バニッシャー』は教団も破壊できない魔剣だったし、魔力を封じる効果があることも分かっていたから、魔術師であるカツミに有効な打撃を与えうる武器なんだろう。だけど剣は剣、単なる刃物だ。カツミに並ぶかそれ以上か、それくらい腕のある剣の達人でもいなけりゃ、倒せるわけが無い。
そのまま討伐に向かえば確実に返り討ちにされるし、カツミは間違い無く報復に出る。カツミの逆鱗に触れた王国は最悪、滅亡しかねない。僕も博士も流石にその作戦を実行させるのはまずいと思ったから、僕らは作戦の要である剣をもう一度奪い、ここに逃げてきたんだ。
だけどリストと博士、メイナは連れて来られたけど、フーは無理だった。彼には祖母がいて、フーの収入と介護無しには生活できなかったからね。
でも今振り返ってみれば、無理矢理にでも連れて来るべきだった。剣が盗まれたことはすぐ分かることだったし、いなくなった僕たちが犯人だってことも容易に推理できることだ。
そうなればずっと一緒に行動してきたフーが素性を疑われないわけは無いし、相当の報復も受けることになる。恐らくは、フーの身に全部、その嫌疑も恨みも押し付けられただろうね。
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