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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第4部

    蒼天剣・悔恨録 4

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    晴奈の話、第163話。
    長い旅の始まり。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     黄屋敷に戻った晴奈はそのまま部屋に閉じこもり、自分の不覚を恥じた。
    (ああ……! 賊の存在に気付いておきながら、むざむざ取り逃がすとは! 何が剣士だ、何が免許皆伝だ! 情けない、本当に情けなさ過ぎる……)
     延々と自分を罵り、なじる。晴奈はうずくまり、自分を呪っていた。
    (この愚か者が、一体どうして許されようか……!)《あのさ》
     不意にどこからか、声が聞こえてくる。男とも女ともつかぬ、中性的な声だ。
    《いつまで、そーしてる気なのさ?》
    「え……」
    《いつまでそんな、ムダなコトするのさ? キミの悪いトコだよ、セイナ》
     いつの間にか、声の主――いつか、明奈と共に見たあの白猫が、目の前にいた。

    《いつもは勇敢なお侍さんなのに、失敗するとすぐ、ウジウジ悩む。誰かが引っ張ってやらなきゃ立ち上がれない、前に進めない。そこがキミの、一番悪いトコ》
    「む……」
     白猫に指摘され、晴奈は顔をしかめる。
    (しかし、言われてみれば確かに、白猫の言う通りでは、……ある。否定出来ない)
     その様子を見て、白猫はニヤニヤ笑っている。
    《キミ、自分に滅茶苦茶自信持ってるでしょ、いっつも》
    「……ああ」
     素直にうなずいた晴奈に、白猫はため息をつきつつ、彼女の肩に手を置いた。
    《身の程わきまえたら? キミはそんな簡単に自信満々になれるほど、強くて偉いの?》
    「な、に?」
     突然の罵倒に、晴奈は面食らう。
    《確かに剣の腕はいいよ。運にも恵まれてる。人柄もまあ良し。それなりの実績も持っている。ま、評価はできるよ。でもソレで偉いって? はっ、バカじゃないの?
     今、こうして落ち込んでるキミの姿を見て、昨日までキミを慕ってきた人たちはどう言う反応をするだろう? ボクはきっと、ガッカリしちゃうんじゃないかと思うんだ。
    『ああ、この人は安っぽい自尊心しか持ってなかった、薄っぺらい人だったんだな』ってね》
    「き……、貴様ッ!」
     白猫の挑発じみた話に晴奈は憤り、胸倉をつかもうとするが――。
    《フン》
     つかもうとした手を、白猫は事も無げにくるりとひねり、晴奈の背に回って腕を極める。
    「あ、だ……っ!?」
     腕を極めたまま、白猫は晴奈の背後で話を続ける。
    《キミは確かに良く似てるよ、あの『狼』に。キミがもし違う道を歩んでいたなら、あの時流されていったのはウィルバーじゃなく、キミだったかも知れない。
     キミは何も変わってないし、何も成長してないんだ。免許皆伝試験の際、家元に己の慢心をたしなめられた、あの時と。
     いくら強くなっても、いくら奥義を会得しても。心の中はまだ、19歳の小娘。心は全然、成長してない。
     キミは自分の中に巣食う『幼い修羅』に、心をつかまれたままなんだ》
    「……!」
     白猫のその言葉に、晴奈は雷に打たれたような衝撃を受けた。
    《もういっこ、言うとくとな》
     と――白猫に手を離されたところで、白猫とは違う声が聞こえてくる。
    《ただただ栄養を注がれるだけやったら、作物は腐るもんや。厳しい日照や風雨があるから、たくましい作物が出来上がるんやで》
     晴奈の目の前に、金色の装飾具をまとった豪奢な身なりの、金髪に赤毛が所々混じった狐獣人が現れた。
    《失敗した、負けてしもた、ソレでただ凹んで打ちひしがれるだけやったら、何もならへんわ。ソコから何が悪いんか、何したらよーなるんか、糧にせなアカンで》
     金狐も妙な口調で語りつつ、晴奈を諭す。
     晴奈はこの時、この二人が人間ではない、別の何か――神か仙人の類では無いかと感じ始めていた。
    《セイナの精神っちゅう土壌はコレまで成功っちゅう栄養ばっかりで、グズグズに腐りそうになっとった。その上にある自信なんて作物、すぐダメになって当然や。
     アンタくらい力量あるんやったらな、その心も、もっと苦しい目に遭うても揺るがへんような、たくましいもんに鍛えなアカンよ》
     金狐に続いて、白猫も諭しだす。
    《そう言うコトさ。
     だからコレはチャンスかも知れないよ、セイナ。キミの中にいる修羅を御するための、そしてキミがもっと、成長するための、ね。
     さあ、そろそろ現実的に考えよう、セイナ。今キミは、何をするべき?》
    「何、……を?」
     唐突に尋ねられ、晴奈は戸惑う。
    《今起きている問題を解決するには、どうしたらいいのかってコトさ》
    「それは……」
     言われて晴奈は、頭の中を整理する。
     何が起こったのか、今何が起こっているのか、そして、これから何が起きるのかを考える。
    (賊は逃げた。だが逃げて、すぐ北方に戻れるものだろうか? いや、黒炎殿ではあるまいし、一瞬で戻ることなどできぬ。何らかの手段を以って逃走しているだろう。
     では、何を使って? 可能であるのは2つ。陸路か海路だが、後者は無理だ。夜の港は閉まっているし、明日発つとしてもエルスが手を回し、港を封鎖するだろうからな。敵もそれを予測できぬような、愚かな奴らではあるまい。
     それよりも陸路だ。黄海とは別の港から逃走する可能性の方が、ずっと高い。今から探せば、追いつけるかも知れぬ)
     結論を出し、晴奈は答えた。
    「追いかける」
    《よし。じゃあ、そろそろ起きようか。
     いい旅を、セイナ》



     旅立つ旨を手紙にしたため、次に晴奈は身支度を整えた。
     昨夜から着ていた着物を脱ぎ捨て、動きやすい袴姿になる。刀も大小二本腰に差し、帽子をかぶり、外套を羽織る。少し大きめの袋を肩から提げ、丈夫な靴を履く。
    (……よし)
     手紙を持って部屋を出て、隣の明奈の部屋にそれを差し込み、晴奈はそのまま、外へと向かった。
    「後は頼んだ、明奈」
     玄関の前でそうつぶやきながら、晴奈は家を出る。
     まだ日も差さぬ早朝、庭の空気はひんやりと澄み切っている。晴奈の好きな、夏の景色だ。
    (しばらく、この景色を拝むことはあるまい)
     晴奈はその景色に向かって、一礼する。
    (昔発った時はこう言うこともできなかったな、そう言えば)
     顔を上げ、今度は家に向かって一礼した。
     顔を挙げ、そのまましばらく庭でじっと佇んだ後、大きく息を吸い、拳を握りしめ――そして、背を向けて歩き出した。
    「待っていろ、日上風。絶対に、追いついてやる」



     これより、晴奈の2年に渡る長い旅が始まる。

    蒼天剣・悔恨録 終

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2016.04.14 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    夢の中で出て来るモノなんてそんなもんです。
    何回か見たら、流石に覚えもするでしょうが。

    NoTitle 

    今になって読み返して思ったけど、あとの話を知っているから白猫が重要キャラだってわかるが、最初に読んだときはモールさんとキャラがかぶっているところがあるせいか、存在すらまったく覚えていなかったなあ、白猫……。

    NoTitle 

    職業病ですね……。
    自分もよく、執筆中のキャラの思考になることがあります。

    その上での、「彼らがこの状況で、どう考えて動くか」と考えた結果です。
    僕の考えはこうでした。

    NoTitle 

    快楽殺人者ではないですが、目撃者を残すと残さないとではえらい違いだと思うわけですよ荒廃モードの頭では。

    結果論ですが、現に賊の連中は狙う相手に正体をつかまれているわけですし。しつっこい追跡者が延々とついてくるわけですし。

    それを考えれば、喉をえぐるなり心臓を突き刺すなりするほんの数秒を惜しむこともないのではないかなあ、と思うわけであります。もとより当人たちは捕まる気ゼロなわけですから、捕まった後の罪の軽重など考えることもない。

    だめだおれやっぱり荒廃モードだ(汗) なにを読んでもうちのナミだったらこう考える、となってしまう(汗汗)

    「紅蓮の街」が終わったらしばらく休養しようかな(^^;)

    NoTitle 

    荒廃モードですねぇ。
    人を見たら殺せ、って思考はちょっと……(;´∀`)
    フーたちも別に快楽殺人者なわけではないので、わざわざ殺そうとはしないでしょうし。

    現状を判断するに、泥棒の最中なわけで。
    晴奈が(異常に気付いて屋内に入ってきた人が)いる時点で、犯行が発覚するおそれ大ですから、逃げることが最優先でしょう。
    仲間を残しておいたら、それも行き先なんかが発覚する危険があるわけで。

    例えば自分がとあるビルに忍び込んでる最中、警備員に気づかれた場合。
    警備員が気絶してくれたなら、自分なら全速力で逃げます。
    わざわざ殺して、罪を重くする理由が無いですし。

    NoTitle 

    荒廃モードですねぇ。
    人を見たら殺す、って思考はちょっと……(;´∀`)
    フーたちも別に快楽殺人者なわけではないので、わざわざ人を殺そうとはしないでしょうし。

    現状を判断するに、泥棒の最中なわけで。
    晴奈が(異常に気付いて屋内に入ってきた人が)いる時点で、犯行が発覚するおそれ大ですから、逃げることが最優先でしょう。
    仲間を残しておいたら、それも行き先なんかが発覚する危険があるわけで。

    例えば自分がとあるビルに忍び込んでる最中、警備員に気づかれた場合。
    警備員が気絶してくれたなら、自分なら全速力で逃げます。
    わざわざ殺して、罪を重くする理由が無いですし。

    NoTitle 

    ダメじゃん仲間助ける余裕があるならその前に倒した晴奈にとどめ刺さないと。剣術は人の命を奪うための技ではないかい。

    ……とすぐに考えてしまうところを見ると、あんな小説書きすぎてわたしの頭は荒廃モードになっているらしいであります。

    うーむ……。(汗)

    NoTitle 

    ダメじゃん仲間助ける余裕があるならその前に倒した晴奈にとどめ刺さないと。剣術は人を殺すための技ではないかい。

    ……とすぐに考えてしまうところを見ると、あんな小説書きすぎてわたしの頭は殺伐モードになっているらしいであります。

    うーむ……。

     

    いつもありがとうございます(*´∀`)
    まだまだ続きますよっ。

    3部は物語の基礎づくり、方向性を定める役目を担っていたので、色んな要素が盛り込まれていました。
    ライバル登場とか、数多くの伏線とか。
    4部以降は、割とのんびり目に進んでいきます。特に4部は、他の部と比べてのほほんとした展開が多めだったり。
    これからもどうぞ、よろしくです。
    短編完成されたら、また読ませていただきますね。

     

    第4部!!160話!!
    ……長くなりましたね。
    良く自分でもここまで読みましたね。
    どうも、LandMです。

    ケバイお方が出てこられて、装い新たに…な感じですね。……と思ったら旅に出るか~~って感じですね。話がスピーディですね。私はこのへんのんびりですからね。。。
    3部は3部でグッゲンハイムでも短編で取り上げたいですね。いろいろな要素があって面白いですし。
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