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結論殺人事件 / ポール・ブリッツさんへの献作
「クリスタルの断章」のポール・ブリッツさんが不定期的に連載している作品、「名探偵 深見剛助」シリーズ。
去る2014年7月頃に集中連載されていた折、「自分にも一筆書かせてほしい」とお願いしたところ、
ポールさんから快諾を得られたため、このシリーズの二次創作を制作しました。
それがこちら。
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結論殺人事件
名探偵、深見剛助は額に冷汗を浮かべながら、そう締めくくった。
「とにかく、これで今回の事件は解決したと言えるでしょう」
さる大学の学長の死体が発見され、その捜査は難航を極めていた。
その原因の一つは、被害者は大学の内外に敵を多く作っており、もしも事件である場合、犯人と思しき者が多数いたことだった。
「次期学長の座を狙う大学の古株に、論文をこき下ろされた准教授、単位を落とされ卒業できず、中退した元ゼミ生が数名、共同論文を単独で発表されて仲違いした旧友、特許で争っていた大手製造会社役員、さらには遺産狙いの妻に娘に愛人1号、2号、3号、……と」
「まるで見本市ですね、犯人役の」
嘲るような深見剛助の言葉に、赤塚刑事も空笑いで返す。
「はは……、まったくですね。最も疑わしい人物だけでも、なんと21名! こんなにうじゃうじゃいたら、捜査会議のホワイトボードが人名だけで真っ黒ですよ」
「でしょうね」
「……しかし、その時点で既に、ある程度の目星は付いてはいたんです」
深見剛助の言葉に、たった一人、重要参考人として連れて来られたその人物は息を呑んだ。
さらに捜査を難航にしていたのは、被害者がここ数日、その怪しい人物のオンパレードに恐れをなし、自宅からも離れた遠方のペンションに引き籠もっていたことだ。
「見て下さいよ、深見さん。これ全部、脅迫状なんですよ」
赤塚刑事が見せてくれたその手紙の束、いや、山を見て、深見剛助は目を疑った。
「な、何通あるんです? とても10や20で収まりそうには見えませんが……」
「ええ、単なるイタズラ程度のものも含めると、59通です」
「半端なストーカーより性質が悪い。そりゃ、怯えもするでしょうね」
「ええ。そのため被害者は、ペンションに鍵をかけ、庭一面に鉄条網を撒いて、誰も入れないようにしていたんです」
「しかし籠もって3日後、突然警備会社がペンションからの警報を確認し、向かったところ……」
「リビングの真ん中で、大の字になって死んでいるのを発見した、とのことです」
「死体には外傷が無く、また、死因も心臓麻痺とのことでした。勿論自然死ですから、これだけでは事故か事件かは、断定できません。
しかし詳しい状況を知っていくにつれ、ぼくは確信を深めていました。あなたが犯人である、これができるのはあなたしかいない、と」
「……」
深見剛助にはっきりと指差され、重要参考人のその初老の男性、かつて被害者の共同研究者だった博士は、表情を硬くした。
「ええ、ご明察です。私が彼を殺しました」
「そうですか」
赤塚刑事をはじめ、警察官らが博士を囲む。
「しかし何故です? あの精密かつ緻密な、私が考え得る限りで最高、最密度のトリックによって、私は完璧、完全なるアリバイを確立できたはずです。
どこであなたは、私のトリックを見破ったのですか?」
「……詳しい話は、署の方で行った方がよろしいでしょう。連行して下さい」
「分かりました」
なおも硬い表情を崩さない博士を、刑事たちが連行していった。
「いやあ、深見さん。今回もお見事でした。
正直な話、今もわたしには、何がどうなっているのか」
赤塚刑事の言葉に、深見剛助は一瞬、顔を背ける。
「……」
「……深見さん?」
「ああ、いえ。そうですね、ええ、非常に難解なトリックでした。まあ、詳しいことは仕掛けた本人がすべて、包み隠さず話してくれると思います、ええ」
「え? 深見さんが明かしてくれるんじゃないんですか? いつもの流れなら犯人を前にして、あなたが色々と理屈を並べて……」
意外そうな目を向け、尋ねてきた赤塚刑事に、深見剛助は淡々と、こう返答した。
「隠しておくべきものも有ると言うことです。
赤塚さん、どうかこの事件は、犯人からの言葉だけで、全容を考えて下さい」
その言葉に、何かしらの含みを感じ取ったらしく、赤塚刑事はそれ以上、追及しようとはしなかった。
「……分かりました」
この時――深見剛助は部屋を去って行く赤塚刑事に聞こえぬよう、ぼそっと、こうつぶやいていた。
「順序や細かい論拠はどうあれ、まあ、筋は通るんだから、いや、通ったんだから、いいじゃないか。
結果さえきっちりしていればいいだろ」、……と。
結(果)論殺人事件 完
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去る2014年7月頃に集中連載されていた折、「自分にも一筆書かせてほしい」とお願いしたところ、
ポールさんから快諾を得られたため、このシリーズの二次創作を制作しました。
それがこちら。
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結論殺人事件
名探偵、深見剛助は額に冷汗を浮かべながら、そう締めくくった。
「とにかく、これで今回の事件は解決したと言えるでしょう」
さる大学の学長の死体が発見され、その捜査は難航を極めていた。
その原因の一つは、被害者は大学の内外に敵を多く作っており、もしも事件である場合、犯人と思しき者が多数いたことだった。
「次期学長の座を狙う大学の古株に、論文をこき下ろされた准教授、単位を落とされ卒業できず、中退した元ゼミ生が数名、共同論文を単独で発表されて仲違いした旧友、特許で争っていた大手製造会社役員、さらには遺産狙いの妻に娘に愛人1号、2号、3号、……と」
「まるで見本市ですね、犯人役の」
嘲るような深見剛助の言葉に、赤塚刑事も空笑いで返す。
「はは……、まったくですね。最も疑わしい人物だけでも、なんと21名! こんなにうじゃうじゃいたら、捜査会議のホワイトボードが人名だけで真っ黒ですよ」
「でしょうね」
「……しかし、その時点で既に、ある程度の目星は付いてはいたんです」
深見剛助の言葉に、たった一人、重要参考人として連れて来られたその人物は息を呑んだ。
さらに捜査を難航にしていたのは、被害者がここ数日、その怪しい人物のオンパレードに恐れをなし、自宅からも離れた遠方のペンションに引き籠もっていたことだ。
「見て下さいよ、深見さん。これ全部、脅迫状なんですよ」
赤塚刑事が見せてくれたその手紙の束、いや、山を見て、深見剛助は目を疑った。
「な、何通あるんです? とても10や20で収まりそうには見えませんが……」
「ええ、単なるイタズラ程度のものも含めると、59通です」
「半端なストーカーより性質が悪い。そりゃ、怯えもするでしょうね」
「ええ。そのため被害者は、ペンションに鍵をかけ、庭一面に鉄条網を撒いて、誰も入れないようにしていたんです」
「しかし籠もって3日後、突然警備会社がペンションからの警報を確認し、向かったところ……」
「リビングの真ん中で、大の字になって死んでいるのを発見した、とのことです」
「死体には外傷が無く、また、死因も心臓麻痺とのことでした。勿論自然死ですから、これだけでは事故か事件かは、断定できません。
しかし詳しい状況を知っていくにつれ、ぼくは確信を深めていました。あなたが犯人である、これができるのはあなたしかいない、と」
「……」
深見剛助にはっきりと指差され、重要参考人のその初老の男性、かつて被害者の共同研究者だった博士は、表情を硬くした。
「ええ、ご明察です。私が彼を殺しました」
「そうですか」
赤塚刑事をはじめ、警察官らが博士を囲む。
「しかし何故です? あの精密かつ緻密な、私が考え得る限りで最高、最密度のトリックによって、私は完璧、完全なるアリバイを確立できたはずです。
どこであなたは、私のトリックを見破ったのですか?」
「……詳しい話は、署の方で行った方がよろしいでしょう。連行して下さい」
「分かりました」
なおも硬い表情を崩さない博士を、刑事たちが連行していった。
「いやあ、深見さん。今回もお見事でした。
正直な話、今もわたしには、何がどうなっているのか」
赤塚刑事の言葉に、深見剛助は一瞬、顔を背ける。
「……」
「……深見さん?」
「ああ、いえ。そうですね、ええ、非常に難解なトリックでした。まあ、詳しいことは仕掛けた本人がすべて、包み隠さず話してくれると思います、ええ」
「え? 深見さんが明かしてくれるんじゃないんですか? いつもの流れなら犯人を前にして、あなたが色々と理屈を並べて……」
意外そうな目を向け、尋ねてきた赤塚刑事に、深見剛助は淡々と、こう返答した。
「隠しておくべきものも有ると言うことです。
赤塚さん、どうかこの事件は、犯人からの言葉だけで、全容を考えて下さい」
その言葉に、何かしらの含みを感じ取ったらしく、赤塚刑事はそれ以上、追及しようとはしなかった。
「……分かりました」
この時――深見剛助は部屋を去って行く赤塚刑事に聞こえぬよう、ぼそっと、こうつぶやいていた。
「順序や細かい論拠はどうあれ、まあ、筋は通るんだから、いや、通ったんだから、いいじゃないか。
結果さえきっちりしていればいいだろ」、……と。
結(果)論殺人事件 完
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ポールさん、ありがとうございました!
ちなみに「クリスタルの断章」での掲載はこちら。
好評価を得て、ほっとしています。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
さて、次週9月20日より、1年ぶりにウエスタン小説、「DETECTIVE WESTERN」を連載します。
今回も「妄想の荒野」の矢端想さんに、魅力的なイラストを描いていただきました。
お楽しみに!
ポールさん、ありがとうございました!
ちなみに「クリスタルの断章」での掲載はこちら。
好評価を得て、ほっとしています。
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さて、次週9月20日より、1年ぶりにウエスタン小説、「DETECTIVE WESTERN」を連載します。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
いや、あることはありますよ。
ディケンズの「エドウィン・ドルードの謎」とか、作者が書いている途中で死んじゃって、誰も結末を知らないんだけれど、それまでの展開が面白いので、いまだに本が売れているなんての。
イギリスでこの小説の舞台劇をやったときには、このことを逆手にとって、
「毎回違った犯人」で結末をつける
というイギリス人らしい遊び心の趣向で演じられたそうです。
ディケンズの「エドウィン・ドルードの謎」とか、作者が書いている途中で死んじゃって、誰も結末を知らないんだけれど、それまでの展開が面白いので、いまだに本が売れているなんての。
イギリスでこの小説の舞台劇をやったときには、このことを逆手にとって、
「毎回違った犯人」で結末をつける
というイギリス人らしい遊び心の趣向で演じられたそうです。
NoTitle
むしろ結果、結末が無いミステリは無いですよね。
複雑なトリックを披露しておいて、結末は読者の想像に委ね、
……ってこれではただの放棄ですね。
複雑なトリックを披露しておいて、結末は読者の想像に委ね、
……ってこれではただの放棄ですね。
NoTitle
ミステリって、「結果オーライ」な文学様式だと思います。(^^)
文学はみんなそうであるといったらそうですが(^^;)
文学はみんなそうであるといったらそうですが(^^;)
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NoTitle
むしろ未完の名作なら、舞台で脚色するにはうってつけですね。