DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 3 ~19世紀の黄金銃~ 2
ウエスタン小説、第2話。
保険請負詐欺。
2.
「最後の黄金王、射殺さる!!!
今月3日、O州クレイトンフォードに在住の資産家、グレッグ・ポートマン氏が頭と背中を撃たれ、死亡しているのが見つかった。
氏は57年、C州において金脈を発見したことを発端として巨財を成したことから、『西海岸最後の黄金王』と呼ばれていた。当局は金銭目的での強盗殺人事件と言う観点から、捜査を進めている模様」
「と言うわけだ」
「へ?」
パディントン局長からいきなりニューヨーク・タイムズの地方欄を見せられ、アデルバート・ネイサンはきょとんとしていた。
「これが……、何です?」
「これに関連して、2つの依頼があった。
1人目の依頼者はイギリスの、ニコルズ保険組合のブローカー(仲介人)であるレオン・ゴーディ氏。
この事件の被害者であるポートマン氏から、ある美術品についての損害保険を請け負っていた」
「ある美術品?」
尋ねたアデルに、局長は肩をすくめてみせる。
「なんでも、グリップから銃身から、果ては弾丸一発に至るまで、すべて黄金で造られたコルト・SAA(シングルアクションアーミー)だそうだ。
何とも馬鹿げた、いかにも成金趣味のじじいが好みそうな美術品だ。そう思わんかね?」
「え、ええ、確かに」
アデルは同意してみせたが、直後に声が投げかけられる。
「うそおっしゃい。ちょっと欲しいと思ったでしょ」
「ぅへ? あ、いや、まさかぁ」
アデルは苦笑いしつつ、声をかけてきた相手――相棒のエミル・ミヌーに振り返る。
「俺がそんな、悪趣味な代物に興味持ったりするかって」
「『全パーツが黄金製ってんなら、少なくとも1、2万ドルは堅いだろうな』って言いたげな顔してたわよ」
「おっ、……う」
内心を見抜かれ、アデルは顔を覆う。
その様子を眺めていた局長は呆れた顔をしつつも、話を続ける。
「実際にはもっと高値が付いている。氏本人の弁では、5万ドルで買い取りたいと言う者もあったそうだ」
「ごま……っ!?」
予想の3倍近い評価額を聞かされ、アデルの目が点になった。
「そのため、この美術品が万一盗難に遭った場合、氏に降りる保険金は4万7千ドルと、これまた破格の金額となっていた。
それが、ゴーディ君が慌てて私に依頼してきた理由でもある」
「まさかそんなバカみたいな代物、盗む奴はいない。掛け金だけガッポリいただいてしまえ。……そう呑気に考えたそのゴーディさんは、その損害保険を引き受けちゃったって感じかしら?」
「その通り。しかしゴーディ君は方々回ってみたものの、シティ(イギリス・ロンドン市内に設けられた、金融独立行政区)には真面目にこの黄金銃に美術的価値を見出してくれるような紳士はおらず、この保険金を支払ってくれる引受人を集められなかった。
しかし金払いのいい氏からの金だけは得たい。そう考えたゴーディ君は虚偽の引受人をでっち上げ、その掛け金を丸ごと、自分の懐に入れてしまったのだ」
「バカね」
冷笑したエミルに、局長も深々とうなずいて同意する。
「まったくだ。そして事が起こった今、彼は背任と横領、そして詐欺の罪による投獄の危機にさらされている。
そしてそれは、第2の依頼人も同様だ。破産と言う点において、ね」
「第2の依頼人って?」
尋ねたエミルに、局長は応える代わりに、事務所の入り口に向かって声をかけた。
「どうぞ、お入り下さい」
「はい……」
事務所のドアが開かれ、いかにも田舎紳士的な、もっさりとした金髪の青年が入ってきた。
「紹介しよう。彼が2人目の依頼人、グレッグ・ポートマンJr(ジュニア)だ。依頼はゴーディ君と同様に、……おっと、肝心の依頼内容を言い忘れていたな。
依頼内容はその黄金銃、SAAの奪還だ」
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保険請負詐欺。
2.
「最後の黄金王、射殺さる!!!
今月3日、O州クレイトンフォードに在住の資産家、グレッグ・ポートマン氏が頭と背中を撃たれ、死亡しているのが見つかった。
氏は57年、C州において金脈を発見したことを発端として巨財を成したことから、『西海岸最後の黄金王』と呼ばれていた。当局は金銭目的での強盗殺人事件と言う観点から、捜査を進めている模様」
「と言うわけだ」
「へ?」
パディントン局長からいきなりニューヨーク・タイムズの地方欄を見せられ、アデルバート・ネイサンはきょとんとしていた。
「これが……、何です?」
「これに関連して、2つの依頼があった。
1人目の依頼者はイギリスの、ニコルズ保険組合のブローカー(仲介人)であるレオン・ゴーディ氏。
この事件の被害者であるポートマン氏から、ある美術品についての損害保険を請け負っていた」
「ある美術品?」
尋ねたアデルに、局長は肩をすくめてみせる。
「なんでも、グリップから銃身から、果ては弾丸一発に至るまで、すべて黄金で造られたコルト・SAA(シングルアクションアーミー)だそうだ。
何とも馬鹿げた、いかにも成金趣味のじじいが好みそうな美術品だ。そう思わんかね?」
「え、ええ、確かに」
アデルは同意してみせたが、直後に声が投げかけられる。
「うそおっしゃい。ちょっと欲しいと思ったでしょ」
「ぅへ? あ、いや、まさかぁ」
アデルは苦笑いしつつ、声をかけてきた相手――相棒のエミル・ミヌーに振り返る。
「俺がそんな、悪趣味な代物に興味持ったりするかって」
「『全パーツが黄金製ってんなら、少なくとも1、2万ドルは堅いだろうな』って言いたげな顔してたわよ」
「おっ、……う」
内心を見抜かれ、アデルは顔を覆う。
その様子を眺めていた局長は呆れた顔をしつつも、話を続ける。
「実際にはもっと高値が付いている。氏本人の弁では、5万ドルで買い取りたいと言う者もあったそうだ」
「ごま……っ!?」
予想の3倍近い評価額を聞かされ、アデルの目が点になった。
「そのため、この美術品が万一盗難に遭った場合、氏に降りる保険金は4万7千ドルと、これまた破格の金額となっていた。
それが、ゴーディ君が慌てて私に依頼してきた理由でもある」
「まさかそんなバカみたいな代物、盗む奴はいない。掛け金だけガッポリいただいてしまえ。……そう呑気に考えたそのゴーディさんは、その損害保険を引き受けちゃったって感じかしら?」
「その通り。しかしゴーディ君は方々回ってみたものの、シティ(イギリス・ロンドン市内に設けられた、金融独立行政区)には真面目にこの黄金銃に美術的価値を見出してくれるような紳士はおらず、この保険金を支払ってくれる引受人を集められなかった。
しかし金払いのいい氏からの金だけは得たい。そう考えたゴーディ君は虚偽の引受人をでっち上げ、その掛け金を丸ごと、自分の懐に入れてしまったのだ」
「バカね」
冷笑したエミルに、局長も深々とうなずいて同意する。
「まったくだ。そして事が起こった今、彼は背任と横領、そして詐欺の罪による投獄の危機にさらされている。
そしてそれは、第2の依頼人も同様だ。破産と言う点において、ね」
「第2の依頼人って?」
尋ねたエミルに、局長は応える代わりに、事務所の入り口に向かって声をかけた。
「どうぞ、お入り下さい」
「はい……」
事務所のドアが開かれ、いかにも田舎紳士的な、もっさりとした金髪の青年が入ってきた。
「紹介しよう。彼が2人目の依頼人、グレッグ・ポートマンJr(ジュニア)だ。依頼はゴーディ君と同様に、……おっと、肝心の依頼内容を言い忘れていたな。
依頼内容はその黄金銃、SAAの奪還だ」
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