DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 3 ~19世紀の黄金銃~ 6
ウエスタン小説、第6話。
事件の痕跡。
6.
「赤い筋……? 血か?」
「ええ、多分」
買い出しから戻ってきたアデルに、エミルは地下室に残っていた血痕のことを伝えた。
「恐らく、ポートマンSrのものだな。……ふむ」
アデルを伴い、エミルとグレッグは再度、地下室へと降りる。
「なるほど。確かに血だな、こりゃ」
「名探偵さん。ここから何か導き出せるかしら?」
「ああ。まずその前に、だ。情報の整理をしとこう」
アデルは廊下の奥にある部屋を指差す。
「情報によれば、あの部屋でポートマンSrが殺害されているのが見つかったそうだ。
遺体は扉に頭を向け、仰向けになった状態で見つかった。遺体に引きずった跡は無く、その部屋で殺されたことは間違いない。
だが左腕の辺りに右腕でつかまれたような跡があったそうだ。と言うのも、遺体の左手と左手首辺りに血だまりがあったんだと。
で、そこから犯人は左利きだって話になった」
「どうしてそんなことが分かるんです?」
尋ねてきたグレッグに、エミルが答える。
「あたしがこうやってあんたに背を向けてた場合、あんたはどっちの手であたしの左腕をつかむかしら?」
「そりゃ……」
グレッグは左手を挙げかけて、「あれ?」とつぶやく。
「そう。両手に何にも持ってない状態なら、百人中百人が左手で左腕をつかむ。でもその犯人は、わざわざ右手で左腕をつかんでた。
理由は簡単。左手に銃を持ってたからよ。ポートマンSrも、彼を背中から撃った犯人もね」
「あ、そうか。ええ、確かに親父も左利きでした」
「で、さっきのお前さんの質問だが」
アデルは廊下に設置されている、豪奢なガス灯を指差した。
「事件当時、老齢のポートマンSrがこのガス灯を使わずに地下の廊下を行き来していたとは考えにくいし、恐らく点いていただろう。
一方、この廊下は大の大人が3人突っ立ってても左右に隙間があるくらいには広い。その幅広の廊下を犯人が行き来したとして、だ。どうしてここに、血の跡が付くのか?」
「手を壁に付きつつ、……じゃないですか?」
答えたグレッグに、アデルはもったいぶった様子でうなずく。
「その通り。犯人は血の着いた右手を壁に付けつつ、廊下を歩いていたんだ。この幅のある、明るいはずの廊下を、だぜ?」
「そうなると……、脚が悪かったか、目が悪かったかってことになるわね」
「後者だろう。手すりがあるとは言え、脚の悪い奴が階段を昇り降りするのは辛い。
これである程度、犯人像が絞れたわけだ。左利きで、目の悪い奴。そして珍妙な美術品に目が無い、と。
……この条件に適う奴に、俺は一人だけ思い当たるのがいる」
「へえ?」
「だ、誰です?」
尋ねたエミルたちに、アデルはニヤッと笑って答えた。
「狙う獲物はいつでも一風変わった代物だが、一度狙えば決して逃さない。西部にゃ不釣合いの白いスーツに白いシルクハット、極めつけはクラシックな片眼鏡。
通称、『イクトミ』。人呼んで、西部の怪盗紳士さ」
「いく……と、み?」
「変わった名前ですね。ニッポンかどこかの人なんですか?」
「いや、一説によればフランス系とインディアンの混血だそうだ。『イクトミ』ってのは、インディアン神話に出てくる怪人でな。本来は好色な蜘蛛男だって話だ。
ま、ともかくそのイクトミが今回の件に絡んできてると、俺はにらんでる。黄金銃なんてけったいな代物を狙うってやり口はどうも奴っぽいし、目が悪いってのも一致してる。それに、うわさじゃ左利きらしいからな」
「……で?」
尋ねたエミルに、アデルは「え?」と返す。
「そのイクトミが犯人であるとして、どうやって取り返すのよ? そいつの居場所、知ってんの?」
聞かれた途端、アデルは得意げな様子から一転、しゅんとした顔をする。
「……怪盗だからな。神出鬼没、住所不定って奴だ」
「はあ……」
エミルは頭を抱え、ため息をついた。
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事件の痕跡。
6.
「赤い筋……? 血か?」
「ええ、多分」
買い出しから戻ってきたアデルに、エミルは地下室に残っていた血痕のことを伝えた。
「恐らく、ポートマンSrのものだな。……ふむ」
アデルを伴い、エミルとグレッグは再度、地下室へと降りる。
「なるほど。確かに血だな、こりゃ」
「名探偵さん。ここから何か導き出せるかしら?」
「ああ。まずその前に、だ。情報の整理をしとこう」
アデルは廊下の奥にある部屋を指差す。
「情報によれば、あの部屋でポートマンSrが殺害されているのが見つかったそうだ。
遺体は扉に頭を向け、仰向けになった状態で見つかった。遺体に引きずった跡は無く、その部屋で殺されたことは間違いない。
だが左腕の辺りに右腕でつかまれたような跡があったそうだ。と言うのも、遺体の左手と左手首辺りに血だまりがあったんだと。
で、そこから犯人は左利きだって話になった」
「どうしてそんなことが分かるんです?」
尋ねてきたグレッグに、エミルが答える。
「あたしがこうやってあんたに背を向けてた場合、あんたはどっちの手であたしの左腕をつかむかしら?」
「そりゃ……」
グレッグは左手を挙げかけて、「あれ?」とつぶやく。
「そう。両手に何にも持ってない状態なら、百人中百人が左手で左腕をつかむ。でもその犯人は、わざわざ右手で左腕をつかんでた。
理由は簡単。左手に銃を持ってたからよ。ポートマンSrも、彼を背中から撃った犯人もね」
「あ、そうか。ええ、確かに親父も左利きでした」
「で、さっきのお前さんの質問だが」
アデルは廊下に設置されている、豪奢なガス灯を指差した。
「事件当時、老齢のポートマンSrがこのガス灯を使わずに地下の廊下を行き来していたとは考えにくいし、恐らく点いていただろう。
一方、この廊下は大の大人が3人突っ立ってても左右に隙間があるくらいには広い。その幅広の廊下を犯人が行き来したとして、だ。どうしてここに、血の跡が付くのか?」
「手を壁に付きつつ、……じゃないですか?」
答えたグレッグに、アデルはもったいぶった様子でうなずく。
「その通り。犯人は血の着いた右手を壁に付けつつ、廊下を歩いていたんだ。この幅のある、明るいはずの廊下を、だぜ?」
「そうなると……、脚が悪かったか、目が悪かったかってことになるわね」
「後者だろう。手すりがあるとは言え、脚の悪い奴が階段を昇り降りするのは辛い。
これである程度、犯人像が絞れたわけだ。左利きで、目の悪い奴。そして珍妙な美術品に目が無い、と。
……この条件に適う奴に、俺は一人だけ思い当たるのがいる」
「へえ?」
「だ、誰です?」
尋ねたエミルたちに、アデルはニヤッと笑って答えた。
「狙う獲物はいつでも一風変わった代物だが、一度狙えば決して逃さない。西部にゃ不釣合いの白いスーツに白いシルクハット、極めつけはクラシックな片眼鏡。
通称、『イクトミ』。人呼んで、西部の怪盗紳士さ」
「いく……と、み?」
「変わった名前ですね。ニッポンかどこかの人なんですか?」
「いや、一説によればフランス系とインディアンの混血だそうだ。『イクトミ』ってのは、インディアン神話に出てくる怪人でな。本来は好色な蜘蛛男だって話だ。
ま、ともかくそのイクトミが今回の件に絡んできてると、俺はにらんでる。黄金銃なんてけったいな代物を狙うってやり口はどうも奴っぽいし、目が悪いってのも一致してる。それに、うわさじゃ左利きらしいからな」
「……で?」
尋ねたエミルに、アデルは「え?」と返す。
「そのイクトミが犯人であるとして、どうやって取り返すのよ? そいつの居場所、知ってんの?」
聞かれた途端、アデルは得意げな様子から一転、しゅんとした顔をする。
「……怪盗だからな。神出鬼没、住所不定って奴だ」
「はあ……」
エミルは頭を抱え、ため息をついた。
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