DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 3 ~19世紀の黄金銃~ 11
ウエスタン小説、第11話。
金庫の中の蜘蛛。
11.
「大変お待たせいたしました。どうぞ、お入り下さい」
宝物庫の扉が開き、ワットウッド翁がまず中へと入る。それに続く形でグレッグ、ジェンソン刑事が入り、そして最後にエミルとアデルが入室した。
「……っ」
アデルは三度、絶句する。
そこにはあちこちに、ギラギラと光る美術品や金塊が積まれていたからだ。
「皆様は紳士とお見受けしておりますし、あり得ないこととは思いますが、この部屋の物には一切、お手を触れないようお願いいたします」
「え、ええ。勿論」
壁に飾られた、金糸で編まれた蝶ネクタイに腕を伸ばしかけたアデルは、慌てて引っ込める。
「こちらに飾っておりますのが件の黄金銃、イギリス拳銃ウェブリーの全パーツを黄金で拵えたものです。
勿論、易々と盗まれぬよう、こうして合金製の箱に鍵をかけて収めております」
そう前置きし、ワットウッド翁は箱の鍵を開けようとした。
「待って」
と、それをエミルが止める。
「如何されました、お嬢さん?」
自慢の一品を披露しようとしていたワットウッド翁は、当然むっとした顔をする。
「ワットウッドさん。今、その鍵を開けたらあなた、殺されるわよ」
「何ですって?」
エミルは拳銃を取り出し――グレッグに向けた。
「な、何するんですか!?」
「お芝居はそこまでよ、グレッグ・ポートマンJr。……いいえ、イクトミ」
「は……?」
目を白黒させるグレッグに、エミルはこう尋ねる。
「どこからどう見ても、片田舎の三流アメリカ紳士。そんなあなたが、どうしてフランスの諺なんか知ってたのかしら?」
「え?」
「『何一つ失敗せざる者は何一つ行動せざる者である(Il n'y a que celui qui ne fait rien qui ne se trompe jamais)』よ」
「あ……と」
「フランスびいきが仇になったわね、キザったらし」
「い、いや、ミヌーさん」
「あと、もう一つ。あなたは少なくとも昨日までは、右利きだったはずだけど? ポートマン邸でご飯食べた時、右手でフォークをつかんでたし。
そんなあなたがサルーンに寄って以降は、左手にフォークを持って、左手でかばんを提げて。
まるで列車に乗った途端、人が変わったみたいじゃない。『入れ替わりました』って言ってるようなもんよ」
「……」
「極めつけは、ここの廊下。
昨夜、ポートマン邸の地下にいた時は普通に歩いてたのに、ここじゃずっと、壁に右手を付いてたわね。裸眼じゃ右に何があるか分からないくらい、目が悪いみたいね」
「……マジでか?」
ジェンソン刑事も拳銃を取り出し、グレッグに向ける。
「……」
ワットウッド翁は目を剥き、箱を抱きしめるように構える。
「逃がしゃしないぞ、言っとくけどな」
アデルはいつの間にか、部屋の出入口に陣取っている。
「……ふ、ふふ」
と、グレッグが笑い出す。
その声は今までの頼りないものではなく、フランス訛りをわざと付けたような、勿体ぶったものに変わっていた。
「失礼、マドモアゼル。少々お待ちいただきたい」
「その二重あごでもはがすつもり?」
エミルは拳銃を構えたまま、相手のあごをぐい、とつかみ、引きちぎった。
「いだっ……」
「そう言うの、もう飽きてんのよ」
「ああ、局長のお家芸だからな」
「……つくづく人の見せ場を奪ってくれる方々だ」
あごをさすりながら、グレッグだったもの――イクトミはそうつぶやく。
「しかしどうか、せめて普通には、変装を解かせていただきたい」
「どうぞ。さっさと脱ぎなさいよ」
「……ええ」
「ちょっと聞くけどな」
と、アデルが尋ねる。
「本者のポートマンJrはどうした? その服と言い、かばんと言い、彼が持っていたものに見えるんだが」
「彼なら生きていますよ。ただ、人目に出られない格好ですので、今日、明日は貨物車の中で、ジャガイモやオクラなどと一緒に潜んでおられることでしょう」
「殺してないんだな?」
「不要な殺人は、しないに越したことはありませんからね」
「ポートマンSrは殺したくせに、か?」
この質問にも、イクトミはしれっと答える。
「彼の場合、黄金銃のある部屋の鍵は、彼しか持っていなかったもので」
「じゃあワットウッド氏も……、か?」
「状況が同じなら、結果も然るべきでしょう」
「……ふてぶてしい奴め」
ジェンソン刑事はイクトミをにらみながら、手錠を懐から出した。
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金庫の中の蜘蛛。
11.
「大変お待たせいたしました。どうぞ、お入り下さい」
宝物庫の扉が開き、ワットウッド翁がまず中へと入る。それに続く形でグレッグ、ジェンソン刑事が入り、そして最後にエミルとアデルが入室した。
「……っ」
アデルは三度、絶句する。
そこにはあちこちに、ギラギラと光る美術品や金塊が積まれていたからだ。
「皆様は紳士とお見受けしておりますし、あり得ないこととは思いますが、この部屋の物には一切、お手を触れないようお願いいたします」
「え、ええ。勿論」
壁に飾られた、金糸で編まれた蝶ネクタイに腕を伸ばしかけたアデルは、慌てて引っ込める。
「こちらに飾っておりますのが件の黄金銃、イギリス拳銃ウェブリーの全パーツを黄金で拵えたものです。
勿論、易々と盗まれぬよう、こうして合金製の箱に鍵をかけて収めております」
そう前置きし、ワットウッド翁は箱の鍵を開けようとした。
「待って」
と、それをエミルが止める。
「如何されました、お嬢さん?」
自慢の一品を披露しようとしていたワットウッド翁は、当然むっとした顔をする。
「ワットウッドさん。今、その鍵を開けたらあなた、殺されるわよ」
「何ですって?」
エミルは拳銃を取り出し――グレッグに向けた。
「な、何するんですか!?」
「お芝居はそこまでよ、グレッグ・ポートマンJr。……いいえ、イクトミ」
「は……?」
目を白黒させるグレッグに、エミルはこう尋ねる。
「どこからどう見ても、片田舎の三流アメリカ紳士。そんなあなたが、どうしてフランスの諺なんか知ってたのかしら?」
「え?」
「『何一つ失敗せざる者は何一つ行動せざる者である(Il n'y a que celui qui ne fait rien qui ne se trompe jamais)』よ」
「あ……と」
「フランスびいきが仇になったわね、キザったらし」
「い、いや、ミヌーさん」
「あと、もう一つ。あなたは少なくとも昨日までは、右利きだったはずだけど? ポートマン邸でご飯食べた時、右手でフォークをつかんでたし。
そんなあなたがサルーンに寄って以降は、左手にフォークを持って、左手でかばんを提げて。
まるで列車に乗った途端、人が変わったみたいじゃない。『入れ替わりました』って言ってるようなもんよ」
「……」
「極めつけは、ここの廊下。
昨夜、ポートマン邸の地下にいた時は普通に歩いてたのに、ここじゃずっと、壁に右手を付いてたわね。裸眼じゃ右に何があるか分からないくらい、目が悪いみたいね」
「……マジでか?」
ジェンソン刑事も拳銃を取り出し、グレッグに向ける。
「……」
ワットウッド翁は目を剥き、箱を抱きしめるように構える。
「逃がしゃしないぞ、言っとくけどな」
アデルはいつの間にか、部屋の出入口に陣取っている。
「……ふ、ふふ」
と、グレッグが笑い出す。
その声は今までの頼りないものではなく、フランス訛りをわざと付けたような、勿体ぶったものに変わっていた。
「失礼、マドモアゼル。少々お待ちいただきたい」
「その二重あごでもはがすつもり?」
エミルは拳銃を構えたまま、相手のあごをぐい、とつかみ、引きちぎった。
「いだっ……」
「そう言うの、もう飽きてんのよ」
「ああ、局長のお家芸だからな」
「……つくづく人の見せ場を奪ってくれる方々だ」
あごをさすりながら、グレッグだったもの――イクトミはそうつぶやく。
「しかしどうか、せめて普通には、変装を解かせていただきたい」
「どうぞ。さっさと脱ぎなさいよ」
「……ええ」
「ちょっと聞くけどな」
と、アデルが尋ねる。
「本者のポートマンJrはどうした? その服と言い、かばんと言い、彼が持っていたものに見えるんだが」
「彼なら生きていますよ。ただ、人目に出られない格好ですので、今日、明日は貨物車の中で、ジャガイモやオクラなどと一緒に潜んでおられることでしょう」
「殺してないんだな?」
「不要な殺人は、しないに越したことはありませんからね」
「ポートマンSrは殺したくせに、か?」
この質問にも、イクトミはしれっと答える。
「彼の場合、黄金銃のある部屋の鍵は、彼しか持っていなかったもので」
「じゃあワットウッド氏も……、か?」
「状況が同じなら、結果も然るべきでしょう」
「……ふてぶてしい奴め」
ジェンソン刑事はイクトミをにらみながら、手錠を懐から出した。
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