DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 3 ~19世紀の黄金銃~ 13
ウエスタン小説、第13話。
岩の中の宝物庫。
13.
イクトミが忠告していた通り、レッドロック砦跡に到着する頃には既に、夕日が地平線の向こうに沈もうとしていた。
「こちらが我が宝物庫です。どうぞ、お入り下さい」
依然、ジェンソン刑事に背中をつつかれながらも、イクトミは恭しい態度で一行を招き入れた。
「外から見た分には、赤茶けた岩が積んであるようにしか見えなかったが……」
「確かにこれは、立派な砦ね」
巧妙に積まれた岩の隙間をぬうようにして入ると、そこには大きめのリビング程度の空間が広がっていた。
そしてそのあちこちに、一見ガラクタとしか思えないようなものが、無造作に置かれている。
「なんだこりゃ? 『ピアノ協奏曲ロ短調 F・F・チョピン』……、変な名前だな」
「ショパンも知らないのですか!? 何という無学な方だ! それはフランスから移民してきた音楽家を先祖に持つ実業家から……」「いい、いい。うんちくなんか聞きたくない」
「こっちの裸婦画もフランス関係? いい趣味してるわね」
「おお、お目が高い! マネの作品です。さすがマドモアゼル・ミヌー」
「そう言う意味で言ったんじゃないけどね」
「おい、この設計図ってまさか……?」
「そう、お察しの通り、ベドロー島に建立されている『自由の女神』像の設計図原案です。ただ、実際に建てられたものと違って、そちらは旗を持っていますがね」
物品を指す度、イクトミが嬉々として説明するが、エミルたちの目にはただただ、胡散臭いものが並んでいるようにしか映らなかった。
「……で、肝心の黄金銃はどこだ?」
「ああ、そうでした。ええ、あちらに飾ってあります」
イクトミは壁を指差す。
そこには確かに、ギラギラと光る黄金製のSAAが飾られていた。
「確かにそれらしいな。
探偵、約束の品だ。持って帰れ」
「ああ」
アデルはうなずき、壁へと近付く。
と、途中で立ち止まり、振り返ろうとした。
「おい、椅子かなんか……」
が――アデルが振り返りかけたその瞬間、室内にパン、パンと音が響いた。
「うぐっ……」「……っ」
アデルが胸を押さえて倒れ、エミルもどさりと倒れこむ。
「……」
硝煙のたなびく室内に立つのは、イクトミとジェンソン刑事だけになった。
「……へっ」
と、ジェンソン刑事が短く笑い、イクトミの手錠を外す。
「お前も下手打ったな、え?」
「ええ、確かに」
ジェンソン刑事の問いに、イクトミが肩をすくめて答える。
「まったく、この二人がクレイトンフォードに現れた時は、どうしようかと思いましたよ」
「追い返したつもりだったがな、あの時は。ま、こうやってノコノコ付いてくることも考えてはいたからな。
まったくアホな奴らだよ。こっちがちょっと下手に出りゃ、簡単に信用しやがって。俺とお前がグルになってるって可能性を考えてなかったらしいな」
「わたくしとしては、お二人がそうであって助かりましたがね。これで妙な追っ手は消え、これまで通りあなただけが、わたくしを追う『振り』をしてくれるわけなのですから」
「そう言うことだ。……さてと、それじゃさっさと始末しちまうか、こいつら」
「外に出しておけば十分でしょう。あなたの『お仲間』が綺麗さっぱり片付けてくれますよ」
「はっ、『お仲間』か。違いねえや、ひひひ……」
ジェンソン刑事が下卑た笑いを漏らしたところで――ぼそ……、と声が聞こえてきた。
「なるほどな。あんたが『コヨーテ』ってわけか」
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岩の中の宝物庫。
13.
イクトミが忠告していた通り、レッドロック砦跡に到着する頃には既に、夕日が地平線の向こうに沈もうとしていた。
「こちらが我が宝物庫です。どうぞ、お入り下さい」
依然、ジェンソン刑事に背中をつつかれながらも、イクトミは恭しい態度で一行を招き入れた。
「外から見た分には、赤茶けた岩が積んであるようにしか見えなかったが……」
「確かにこれは、立派な砦ね」
巧妙に積まれた岩の隙間をぬうようにして入ると、そこには大きめのリビング程度の空間が広がっていた。
そしてそのあちこちに、一見ガラクタとしか思えないようなものが、無造作に置かれている。
「なんだこりゃ? 『ピアノ協奏曲ロ短調 F・F・チョピン』……、変な名前だな」
「ショパンも知らないのですか!? 何という無学な方だ! それはフランスから移民してきた音楽家を先祖に持つ実業家から……」「いい、いい。うんちくなんか聞きたくない」
「こっちの裸婦画もフランス関係? いい趣味してるわね」
「おお、お目が高い! マネの作品です。さすがマドモアゼル・ミヌー」
「そう言う意味で言ったんじゃないけどね」
「おい、この設計図ってまさか……?」
「そう、お察しの通り、ベドロー島に建立されている『自由の女神』像の設計図原案です。ただ、実際に建てられたものと違って、そちらは旗を持っていますがね」
物品を指す度、イクトミが嬉々として説明するが、エミルたちの目にはただただ、胡散臭いものが並んでいるようにしか映らなかった。
「……で、肝心の黄金銃はどこだ?」
「ああ、そうでした。ええ、あちらに飾ってあります」
イクトミは壁を指差す。
そこには確かに、ギラギラと光る黄金製のSAAが飾られていた。
「確かにそれらしいな。
探偵、約束の品だ。持って帰れ」
「ああ」
アデルはうなずき、壁へと近付く。
と、途中で立ち止まり、振り返ろうとした。
「おい、椅子かなんか……」
が――アデルが振り返りかけたその瞬間、室内にパン、パンと音が響いた。
「うぐっ……」「……っ」
アデルが胸を押さえて倒れ、エミルもどさりと倒れこむ。
「……」
硝煙のたなびく室内に立つのは、イクトミとジェンソン刑事だけになった。
「……へっ」
と、ジェンソン刑事が短く笑い、イクトミの手錠を外す。
「お前も下手打ったな、え?」
「ええ、確かに」
ジェンソン刑事の問いに、イクトミが肩をすくめて答える。
「まったく、この二人がクレイトンフォードに現れた時は、どうしようかと思いましたよ」
「追い返したつもりだったがな、あの時は。ま、こうやってノコノコ付いてくることも考えてはいたからな。
まったくアホな奴らだよ。こっちがちょっと下手に出りゃ、簡単に信用しやがって。俺とお前がグルになってるって可能性を考えてなかったらしいな」
「わたくしとしては、お二人がそうであって助かりましたがね。これで妙な追っ手は消え、これまで通りあなただけが、わたくしを追う『振り』をしてくれるわけなのですから」
「そう言うことだ。……さてと、それじゃさっさと始末しちまうか、こいつら」
「外に出しておけば十分でしょう。あなたの『お仲間』が綺麗さっぱり片付けてくれますよ」
「はっ、『お仲間』か。違いねえや、ひひひ……」
ジェンソン刑事が下卑た笑いを漏らしたところで――ぼそ……、と声が聞こえてきた。
「なるほどな。あんたが『コヨーテ』ってわけか」
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何点か注釈。
1)F・F・チョピンの楽曲……フレデリック・フランソワ・ショパン(1810年3月1日? ~ 1849年10月17日)。ワルシャワ(現ポーランド)生まれで、後にフランスで活躍した作曲家兼ピアニスト。
言わずと知れた「ピアノの詩人」で、彼の作曲したピアノ曲の多くは名曲とされている。ただし現在までに発見された、彼の作品とされるものの大部分は改竄されたものが多く、その真偽性が問われている。つまり胡散臭い曲が多い。
2)マネの裸婦画……エドゥアール・マネ(1832年1月23日 ~ 1883年4月30日)。フランスの画家。
「草上の昼食」や「オランピア」などの裸婦画を制作したことで知られる。しかし、これらを発表した当時はフランスの風潮に合わず、「不謹慎」「不道徳的」とされ強い反感を買ったと言われている。つまり胡散臭いヤツと思われていた。
3)ベドロー島の「自由の女神」像……「ベドロー島」とは現在のニューヨーク湾内、リバティ島のこと。公式にその名前が付いたのは1956年。
自由の女神像(正式名称:世界を照らす自由)はアメリカの独立100周年を記念し、独立運動を支援していたフランスによって1886年に寄贈、建立された。
元ネタはフランスの絵画「民衆を導く自由の女神」中の女性、マリアンヌから。建立に当たってはあの有名な政治結社、フリーメイソンが関わっている。つまり経緯が胡散臭い。ラングドン教授やゲイツ博士が嬉々として飛びつくレベルの眉唾もの。
結論:全部胡散臭い。
何点か注釈。
1)F・F・チョピンの楽曲……フレデリック・フランソワ・ショパン(1810年3月1日? ~ 1849年10月17日)。ワルシャワ(現ポーランド)生まれで、後にフランスで活躍した作曲家兼ピアニスト。
言わずと知れた「ピアノの詩人」で、彼の作曲したピアノ曲の多くは名曲とされている。ただし現在までに発見された、彼の作品とされるものの大部分は改竄されたものが多く、その真偽性が問われている。つまり胡散臭い曲が多い。
2)マネの裸婦画……エドゥアール・マネ(1832年1月23日 ~ 1883年4月30日)。フランスの画家。
「草上の昼食」や「オランピア」などの裸婦画を制作したことで知られる。しかし、これらを発表した当時はフランスの風潮に合わず、「不謹慎」「不道徳的」とされ強い反感を買ったと言われている。つまり胡散臭いヤツと思われていた。
3)ベドロー島の「自由の女神」像……「ベドロー島」とは現在のニューヨーク湾内、リバティ島のこと。公式にその名前が付いたのは1956年。
自由の女神像(正式名称:世界を照らす自由)はアメリカの独立100周年を記念し、独立運動を支援していたフランスによって1886年に寄贈、建立された。
元ネタはフランスの絵画「民衆を導く自由の女神」中の女性、マリアンヌから。建立に当たってはあの有名な政治結社、フリーメイソンが関わっている。つまり経緯が胡散臭い。ラングドン教授やゲイツ博士が嬉々として飛びつくレベルの眉唾もの。
結論:全部胡散臭い。
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