「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・宰遺抄 2
麒麟を巡る話、第433話。
おくやみ。
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2.
プラティノアール王国宰相、ネロ・ハーミット卿の逝去と言う悲報は、その日のうちに国内のみならず、西方全土にまで伝わった。
《卿のご自宅にかけてみたが、まったくつながらん! 交換手から『電話回線がパンクした』と伝えられる始末だ!》
「落ち着いて下さい、閣下」
《これが落ち着いてなどいられるものか! 本当にお亡くなりになったのか!? いつのことだ!? 死因は一体!?》
わめき立てる電話相手に、王室政府外務省の電話担当官が、丁寧に説明する。
「極めて残念ですが、事実です。本日の未明、自宅において、急性心不全により亡くなられました」
《……う、うぐっ》
電話の向こうで、泣き出す声が聞こえてくる。
《ああ、何と言うことだ!
うぐっ、……吾輩にとって、ひっく、……吾輩にとってあの方は、命の恩人であり、長年に渡る諸事の鑑であった。まったく、……ひっく、此度のことは国家的、いや、世界的損失に違いなかろう。
ぐすっ、ぐすっ……、し、失礼した。ま、また、……うぐ、また日を改め、弔問させていただく。葬儀の日程は決まっておるか?》
「いえ、本日のことですので。近日中に当局広報より公表される予定です」
《う、うう……、相分かった。……遅れたが、お悔やみ申し上げる》
「痛み入ります、マーニュ将軍閣下」
電話が切れたところで、ふたたび次の電話が鳴り響く。
「……本当に、大人気だこと」
電話担当官は軽く咳払いし、電話に出た。
ハーミット邸にも大勢の客が押し寄せ、庭はおろか、通りにまで人があふれている。
「出遅れた、……って感じね」
「だな」
いずれも黒いスーツ姿の、いかにも元軍人らしき集団が、人だかりの前で立ち往生していた。
「これじゃ、話を聞いたりとかはできそうにないな」
「ええ。恐らく明日か明後日、改めて葬儀が行われるでしょうし、今日は引き返した方がいいわね」
「しゃーねーな」
一同は揃って諦めの表情を浮かべ、踵を返しかける。
「みんな、久しぶりね。コレだけ集まると、まるで同窓会って感じ」
と、彼らに声をかける者が現れた。
「チェスター将軍!」
揃って敬礼した一同に対し、相手――リスト・チェスターも、敬礼して返す。
「元将軍よ、退役したし」
彼女がやって来た方角から見るに、どうやら一足先にハーミット邸を訪れていたらしい。
「中に入れたんですか?」
「ええ。現役じゃないけど、去年まで軍の最高司令だったもの。優先して入れてくれたわ」
「様子はどうでしたか?」
「誰の?」
薄く笑ったリストに、茶色い兎耳がこう返す。
「ベルちゃん、……じゃなくて、ご遺族です」
「ベルは泣きっぱなし。未亡人もね。シュウヤは泣いてはなかったけど、上の空って感じだったわ。
いつも通りだったのはカズラちゃんくらいよ。そりゃ、多少はショック受けてた様子はあったけど、すごくしっかりした感じで弔問客を相手してたわ」
「そうですか……」
「葬儀の日程も聞いたわ。……ソレなんだけどね」
「何かあったんですか?」
リストは被っていた帽子を脱ぎ、半ば呆れたような、そしてもう半分は納得したような顔を、一同に見せた。
「邸内に、閣僚と軍司令部首脳が雁首揃えててね。その場で話し合って、国葬がほぼ決まったわ」
「国葬!? ……ああ、いや」
一同はどよめきかけたが、一様に納得した表情を浮かべた。
「卿の偉業を考えれば、当然でしょうね」
「アタシも同感。幹部陣も満場一致だったわ。話し合う前からみんな心に決めてた、って感じだったわね。
まず明日、身内とごく親しい者で葬儀が行われるわ。国葬は政府首脳で協議した上で、改めて告知されるそうよ」
「親しい者で、……ですか」
「ま、そんなコト言ったって意味ないでしょうけどね」
リストは肩をすくめ、こう続けた。
「この国に住む人間で、卿を慕ってない人間なんて、ほとんどいるはずが無いもの。
明日もきっと、今日みたいに人が押し寄せるわ」
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おくやみ。
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プラティノアール王国宰相、ネロ・ハーミット卿の逝去と言う悲報は、その日のうちに国内のみならず、西方全土にまで伝わった。
《卿のご自宅にかけてみたが、まったくつながらん! 交換手から『電話回線がパンクした』と伝えられる始末だ!》
「落ち着いて下さい、閣下」
《これが落ち着いてなどいられるものか! 本当にお亡くなりになったのか!? いつのことだ!? 死因は一体!?》
わめき立てる電話相手に、王室政府外務省の電話担当官が、丁寧に説明する。
「極めて残念ですが、事実です。本日の未明、自宅において、急性心不全により亡くなられました」
《……う、うぐっ》
電話の向こうで、泣き出す声が聞こえてくる。
《ああ、何と言うことだ!
うぐっ、……吾輩にとって、ひっく、……吾輩にとってあの方は、命の恩人であり、長年に渡る諸事の鑑であった。まったく、……ひっく、此度のことは国家的、いや、世界的損失に違いなかろう。
ぐすっ、ぐすっ……、し、失礼した。ま、また、……うぐ、また日を改め、弔問させていただく。葬儀の日程は決まっておるか?》
「いえ、本日のことですので。近日中に当局広報より公表される予定です」
《う、うう……、相分かった。……遅れたが、お悔やみ申し上げる》
「痛み入ります、マーニュ将軍閣下」
電話が切れたところで、ふたたび次の電話が鳴り響く。
「……本当に、大人気だこと」
電話担当官は軽く咳払いし、電話に出た。
ハーミット邸にも大勢の客が押し寄せ、庭はおろか、通りにまで人があふれている。
「出遅れた、……って感じね」
「だな」
いずれも黒いスーツ姿の、いかにも元軍人らしき集団が、人だかりの前で立ち往生していた。
「これじゃ、話を聞いたりとかはできそうにないな」
「ええ。恐らく明日か明後日、改めて葬儀が行われるでしょうし、今日は引き返した方がいいわね」
「しゃーねーな」
一同は揃って諦めの表情を浮かべ、踵を返しかける。
「みんな、久しぶりね。コレだけ集まると、まるで同窓会って感じ」
と、彼らに声をかける者が現れた。
「チェスター将軍!」
揃って敬礼した一同に対し、相手――リスト・チェスターも、敬礼して返す。
「元将軍よ、退役したし」
彼女がやって来た方角から見るに、どうやら一足先にハーミット邸を訪れていたらしい。
「中に入れたんですか?」
「ええ。現役じゃないけど、去年まで軍の最高司令だったもの。優先して入れてくれたわ」
「様子はどうでしたか?」
「誰の?」
薄く笑ったリストに、茶色い兎耳がこう返す。
「ベルちゃん、……じゃなくて、ご遺族です」
「ベルは泣きっぱなし。未亡人もね。シュウヤは泣いてはなかったけど、上の空って感じだったわ。
いつも通りだったのはカズラちゃんくらいよ。そりゃ、多少はショック受けてた様子はあったけど、すごくしっかりした感じで弔問客を相手してたわ」
「そうですか……」
「葬儀の日程も聞いたわ。……ソレなんだけどね」
「何かあったんですか?」
リストは被っていた帽子を脱ぎ、半ば呆れたような、そしてもう半分は納得したような顔を、一同に見せた。
「邸内に、閣僚と軍司令部首脳が雁首揃えててね。その場で話し合って、国葬がほぼ決まったわ」
「国葬!? ……ああ、いや」
一同はどよめきかけたが、一様に納得した表情を浮かべた。
「卿の偉業を考えれば、当然でしょうね」
「アタシも同感。幹部陣も満場一致だったわ。話し合う前からみんな心に決めてた、って感じだったわね。
まず明日、身内とごく親しい者で葬儀が行われるわ。国葬は政府首脳で協議した上で、改めて告知されるそうよ」
「親しい者で、……ですか」
「ま、そんなコト言ったって意味ないでしょうけどね」
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