「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・宰遺抄 3
麒麟を巡る話、第434話。
ハーミット家と国家の今後。
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3.
リストが予見していた通り、翌日の葬儀にもまた、大量の人が弔問に訪れていた。
最初のうちは「あくまで家族とごく親しい者だけで」と断ろうとしていたのだが、あまりに弔問を希望する者が押し寄せたため、秋也・ベル夫妻が「挨拶だけなら」と言う制限を付けて、彼らも招き入れた。
「ものすごい人だかりだけど、……まあ」
「ああ。みんな落ち着いて並んでくれてるからな。
……ソレだけに、つくづく思うよ」
「何を?」
「お義父さん、本当にみんなから愛されてたんだなって」
「……そだね」
前日、ネロが亡くなった直後には茫然自失の状態にあった二人も、今はどうにか平静を取り戻していた。
「ベルちゃん、シュウヤくん」
と、その二人に、先端が少し茶色がかった、白い耳の兎獣人が声をかける。
「あ、アルピナさんじゃないっスか」
振り返った二人に、かつて共に戦った上官、アルピナが手を振って挨拶する。
「お久しぶり。それと、……この度はご愁傷様でした」
「痛み入ります」
「……本当、悔やまれるわね。卿が亡くなって、王室政府は大騒ぎらしいし」
「ええ。昨日も卿の屋敷で話し合ってましたよ。後継者をどうするかって。
何しろ突然の話ですからね。卿は後継者について、何ら言及していなかったそうですし」
「ふうん……?」
意外そうな顔をしたアルピナを、秋也たちはいぶかしむ。
「あの、何か……?」
「卿らしくないな、って。こうなることを見越して、遺言状の一筆でも遺してあるかと思ってたわ。
卿の性格上、考え得る可能性に対しては、でき得る限りの対処をしそうなものだけど」
「……確かに」
「パパならそうだよね……?」
夫婦揃ってうなずいたところで、アルピナが続けて尋ねた。
「カズラちゃんはどうしてるの?」
「葛なら、今はオレたちの家で休んでます。……お恥ずかしい話、昨日はオレもベルも、おたおたしっぱなしだったんですが、葛がほとんど代わりに応対してくれてまして。
その疲れもあるでしょうし、今日は何とかオレたちで対応できそうなんで、家に帰しました」
「そう。……本当にしっかりした子になったわね、そう聞くと」
「ええ。本当、しっかり者になりましたよ。昔は葵にべったりだったせいか、ちょっと抜けてたトコもありましたけど」
「アオイちゃん、……ね」
黙り込んだアルピナに、秋也はまた、けげんな顔をした。
「葵がどうかしたんですか?」
「……ううん、何でも。
そうね、弔問も終わったし、良ければカズラちゃんの顔を見たいんだけど、家に寄ってもいいかしら?」
「ええ、どうぞ。しっかり者とは言え、昨日の今日ですから、葛も不安がってると思います。声、かけてやってください」
「ありがとね。それじゃ」
「それでは臨時御前会議を始めます」
「うむ」
プラティノアール王宮、ブローネ城。
閣僚と各省庁の高官らが国王、ロラン・ザンティア8世の前に集められていた。
「知っての通り昨日、我が国総理大臣のネロ・ハーミット卿が亡くなった。大変悔やまれることだ。
まずは皆で、卿に黙祷を捧げようと思う」
「かしこまりました。……全員、黙祷」
国王を含め、全員が立ち上がり、胸に手を当てて黙祷する。
1分ほどの沈黙の後、国王が着席し、皆もそれに続いて席に着いた。
「一つ目の議題だ。余は彼を弔うにあたり、国葬を行いたいと考えておる。
この半世紀、彼の成した業績は先々代、先代、そして余の代に至るまで連綿と続くものであり、これは国葬を行うに値するものと考えておる。
これに異論のある者はおるか?」
「……」
国王自らのその問いかけに、反対する者は一人もいない。それが国王の本意であることだけではなく、その内容が心から納得するものだったからであろう。
「分かった。では日程など細かい点については、諸君らに一任する。
二点目、彼の後任について。卿は遺言状などを遺していなかったそうだな?」
「はい」
その問に、ネロの第一秘書だった官僚、アテナ・エトワールが答えた。
「卿の死去に伴い、私と秘書室職員とで卿の執務室およびご自宅を捜索しましたが、遺書もしくは今回の事態についての指示書に該当する書類等を発見することはできませんでした。
そのため、卿の後任については、卿からの指示が一切無い状況となっています」
「ふむ。……腑に落ちんな」
アテナの報告に対し、ロラン王は表情を曇らせる。
「我々とは比べ物にならぬほどの聡明さと先見の明を持っていた卿が、まさか自分の死と、その後の後釜について、何ら考えを遺していないとは。らしくない」
「……」
「しかし、遺書が存在していないのは事実、か。仕方あるまい」
ロラン王は自分の前に並ぶ大臣たちに、続けてこう尋ねた。
「では、後任はこの中から選出することになるな。立候補する者はおるか?」
「……」
大臣たちは顔を見合わせ、互いの表情を読み合う。
その様子を見て、ロラン王はこう続けた。
「何かしら、人には軽々に言えぬような野望を抱いているとしても、今は構わん。結果的に王国のためになるならば、余は容認しよう。
その上で、なりたいと思う者は?」
「……で、では」
おずおずと、数名から手が上がる。
「私も立候補いたします」
そして、それらに続く形で、アテナも挙手した。
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ハーミット家と国家の今後。
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リストが予見していた通り、翌日の葬儀にもまた、大量の人が弔問に訪れていた。
最初のうちは「あくまで家族とごく親しい者だけで」と断ろうとしていたのだが、あまりに弔問を希望する者が押し寄せたため、秋也・ベル夫妻が「挨拶だけなら」と言う制限を付けて、彼らも招き入れた。
「ものすごい人だかりだけど、……まあ」
「ああ。みんな落ち着いて並んでくれてるからな。
……ソレだけに、つくづく思うよ」
「何を?」
「お義父さん、本当にみんなから愛されてたんだなって」
「……そだね」
前日、ネロが亡くなった直後には茫然自失の状態にあった二人も、今はどうにか平静を取り戻していた。
「ベルちゃん、シュウヤくん」
と、その二人に、先端が少し茶色がかった、白い耳の兎獣人が声をかける。
「あ、アルピナさんじゃないっスか」
振り返った二人に、かつて共に戦った上官、アルピナが手を振って挨拶する。
「お久しぶり。それと、……この度はご愁傷様でした」
「痛み入ります」
「……本当、悔やまれるわね。卿が亡くなって、王室政府は大騒ぎらしいし」
「ええ。昨日も卿の屋敷で話し合ってましたよ。後継者をどうするかって。
何しろ突然の話ですからね。卿は後継者について、何ら言及していなかったそうですし」
「ふうん……?」
意外そうな顔をしたアルピナを、秋也たちはいぶかしむ。
「あの、何か……?」
「卿らしくないな、って。こうなることを見越して、遺言状の一筆でも遺してあるかと思ってたわ。
卿の性格上、考え得る可能性に対しては、でき得る限りの対処をしそうなものだけど」
「……確かに」
「パパならそうだよね……?」
夫婦揃ってうなずいたところで、アルピナが続けて尋ねた。
「カズラちゃんはどうしてるの?」
「葛なら、今はオレたちの家で休んでます。……お恥ずかしい話、昨日はオレもベルも、おたおたしっぱなしだったんですが、葛がほとんど代わりに応対してくれてまして。
その疲れもあるでしょうし、今日は何とかオレたちで対応できそうなんで、家に帰しました」
「そう。……本当にしっかりした子になったわね、そう聞くと」
「ええ。本当、しっかり者になりましたよ。昔は葵にべったりだったせいか、ちょっと抜けてたトコもありましたけど」
「アオイちゃん、……ね」
黙り込んだアルピナに、秋也はまた、けげんな顔をした。
「葵がどうかしたんですか?」
「……ううん、何でも。
そうね、弔問も終わったし、良ければカズラちゃんの顔を見たいんだけど、家に寄ってもいいかしら?」
「ええ、どうぞ。しっかり者とは言え、昨日の今日ですから、葛も不安がってると思います。声、かけてやってください」
「ありがとね。それじゃ」
「それでは臨時御前会議を始めます」
「うむ」
プラティノアール王宮、ブローネ城。
閣僚と各省庁の高官らが国王、ロラン・ザンティア8世の前に集められていた。
「知っての通り昨日、我が国総理大臣のネロ・ハーミット卿が亡くなった。大変悔やまれることだ。
まずは皆で、卿に黙祷を捧げようと思う」
「かしこまりました。……全員、黙祷」
国王を含め、全員が立ち上がり、胸に手を当てて黙祷する。
1分ほどの沈黙の後、国王が着席し、皆もそれに続いて席に着いた。
「一つ目の議題だ。余は彼を弔うにあたり、国葬を行いたいと考えておる。
この半世紀、彼の成した業績は先々代、先代、そして余の代に至るまで連綿と続くものであり、これは国葬を行うに値するものと考えておる。
これに異論のある者はおるか?」
「……」
国王自らのその問いかけに、反対する者は一人もいない。それが国王の本意であることだけではなく、その内容が心から納得するものだったからであろう。
「分かった。では日程など細かい点については、諸君らに一任する。
二点目、彼の後任について。卿は遺言状などを遺していなかったそうだな?」
「はい」
その問に、ネロの第一秘書だった官僚、アテナ・エトワールが答えた。
「卿の死去に伴い、私と秘書室職員とで卿の執務室およびご自宅を捜索しましたが、遺書もしくは今回の事態についての指示書に該当する書類等を発見することはできませんでした。
そのため、卿の後任については、卿からの指示が一切無い状況となっています」
「ふむ。……腑に落ちんな」
アテナの報告に対し、ロラン王は表情を曇らせる。
「我々とは比べ物にならぬほどの聡明さと先見の明を持っていた卿が、まさか自分の死と、その後の後釜について、何ら考えを遺していないとは。らしくない」
「……」
「しかし、遺書が存在していないのは事実、か。仕方あるまい」
ロラン王は自分の前に並ぶ大臣たちに、続けてこう尋ねた。
「では、後任はこの中から選出することになるな。立候補する者はおるか?」
「……」
大臣たちは顔を見合わせ、互いの表情を読み合う。
その様子を見て、ロラン王はこう続けた。
「何かしら、人には軽々に言えぬような野望を抱いているとしても、今は構わん。結果的に王国のためになるならば、余は容認しよう。
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