「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・宰遺抄 4
麒麟を巡る話、第435話。
宰相の椅子取りゲーム。
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4.
「うん?」
それに対し、ロラン王や大臣たちがけげんな顔をする。
「エトワール君?」
「君が、……か?」
「卿の第一の後継と目されていたのは、他ならぬ私です。
卿自身より、今後の展望や計画を常日頃から聞き及んでおりますし、それを実行できるだけの手腕も培っていると自負しております。
であれば、私がその任に就いても問題は無いと思われますが」
「大有りだ!」
アテナの主張に対し、大臣たちが挙って反論した。
「若輩者ではないか、君は! 少しばかり卿の手助けをしたからと言って、それで務まるような職務ではないのだぞ!」
「卿が総理大臣となったのは、現在の私とほぼ同年代の頃です。
その若輩者の時分から半世紀に渡る業績を成している卿の前例があるにもかかわらず、何故わたくしがその座に就けないと判ずるのでしょうか?」
「確かに卿は若くして総理となったが、しかしそれは、並々ならぬ彼の才気と、どんな者をも惹きつけてやまぬ人柄故だ。
君がそれと同様のものを手にしているとは、私たちには、とてもそうは見えん」
「才能に関しては、認めるところです。優れた手腕をお持ちであることは、常々聞き及んでおりますよ。
ですが人柄とくれば、果たしてどうでしょうかね?」
「同感です。卿はいつもにこにこと微笑んでおられ、終始さわやかで、親しみの持てるお方でした。
しかし比べるにあなたは、少しばかり、いや、はっきりと強く、我々の目には冷淡に映る」
「確かに。卿が君の能力を信頼していらっしゃったことは、良く存じている。
しかし君の笑顔なるものを私も、同輩らも、どこの誰もが、見たことが無い。これも広く知られているところと思うが」
「……」
大臣らの評価に対し、アテナは――今まさに取り沙汰されている、その冷淡な無表情を浮かべつつ――無言で佇んでいる。
と、成り行きを眺めていたロラン王が、ぱた、と手を打った。
「よい、よい。言った通り、腹の底でどんな本意を抱えていようと、宰相を志す者があれば、余は積極的に応じるつもりだ。
ついては、今立候補した者の中で誰が適任であるか、国民に問うてみてはどうだ?」
「つまり、選挙と言うことでしょうか?」
「うむ。余がその独断と偏見で指名すると言うのも方法の一つではあろうが、総理大臣は余一人だけを構っていれば済むような職ではない。我が国民すべてを賄わねばならぬ、我が国における要職中の要職だ。それを余の一存で決めては、国民も憤慨するだろう。
してみるにこれは、最も公平な選出方法であると思うが、皆はどうだ?」
この問いに対し、大臣たちは顔を見合わせる。
「ええ、まあ……」
「確かにそうでしょうな」
「よし。では国葬の時期に合わせ、新たな宰相を決定するための選挙を告示することにしよう」
こうして国王の鶴声により、ネロの後任を決めるための選挙が行われることになった。
選挙には一時期、大勢の候補者が現れた。ハーミット卿の後釜に収まれば、絶大な権力が得られるからである。
しかしそれも束の間――ある大臣が出馬を表明した途端、辞退者が続出した。
「すみませーん、アニェント新聞の街頭アンケートです。今回の国民選挙ですが、ズバリ、誰を選びますか?」
「うーん……。色々いるみたいだけど、やっぱりあの人かなぁ」
「あの人、と申しますと?」
「リヴィエル卿だろうなぁ。卿に並ぶって言ったら、あの人くらいだし」
「はい、ありがとうございまーす」
「ねえ?」
「はい、なんでしょうか?」
「今のところ、一位って誰?」
「まあ、ご想像の通りですかねぇ」
「あー、……やっぱり」
前内閣で内務大臣を務めていたアンリ・リヴィエル氏は――ハーミット卿ほどの人気と実力は無いにせよ――優れた手腕を有しており、かねてから「ハーミット卿の右腕」と称されていた。
その彼が出馬を表明したため、それまで出馬を目論んでいた者の多くは「彼には到底敵わない」と見切りを付け、軒並み辞退。
残った候補者はリヴィエル卿と他4名、そしてアテナの計6名となった。
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「うん?」
それに対し、ロラン王や大臣たちがけげんな顔をする。
「エトワール君?」
「君が、……か?」
「卿の第一の後継と目されていたのは、他ならぬ私です。
卿自身より、今後の展望や計画を常日頃から聞き及んでおりますし、それを実行できるだけの手腕も培っていると自負しております。
であれば、私がその任に就いても問題は無いと思われますが」
「大有りだ!」
アテナの主張に対し、大臣たちが挙って反論した。
「若輩者ではないか、君は! 少しばかり卿の手助けをしたからと言って、それで務まるような職務ではないのだぞ!」
「卿が総理大臣となったのは、現在の私とほぼ同年代の頃です。
その若輩者の時分から半世紀に渡る業績を成している卿の前例があるにもかかわらず、何故わたくしがその座に就けないと判ずるのでしょうか?」
「確かに卿は若くして総理となったが、しかしそれは、並々ならぬ彼の才気と、どんな者をも惹きつけてやまぬ人柄故だ。
君がそれと同様のものを手にしているとは、私たちには、とてもそうは見えん」
「才能に関しては、認めるところです。優れた手腕をお持ちであることは、常々聞き及んでおりますよ。
ですが人柄とくれば、果たしてどうでしょうかね?」
「同感です。卿はいつもにこにこと微笑んでおられ、終始さわやかで、親しみの持てるお方でした。
しかし比べるにあなたは、少しばかり、いや、はっきりと強く、我々の目には冷淡に映る」
「確かに。卿が君の能力を信頼していらっしゃったことは、良く存じている。
しかし君の笑顔なるものを私も、同輩らも、どこの誰もが、見たことが無い。これも広く知られているところと思うが」
「……」
大臣らの評価に対し、アテナは――今まさに取り沙汰されている、その冷淡な無表情を浮かべつつ――無言で佇んでいる。
と、成り行きを眺めていたロラン王が、ぱた、と手を打った。
「よい、よい。言った通り、腹の底でどんな本意を抱えていようと、宰相を志す者があれば、余は積極的に応じるつもりだ。
ついては、今立候補した者の中で誰が適任であるか、国民に問うてみてはどうだ?」
「つまり、選挙と言うことでしょうか?」
「うむ。余がその独断と偏見で指名すると言うのも方法の一つではあろうが、総理大臣は余一人だけを構っていれば済むような職ではない。我が国民すべてを賄わねばならぬ、我が国における要職中の要職だ。それを余の一存で決めては、国民も憤慨するだろう。
してみるにこれは、最も公平な選出方法であると思うが、皆はどうだ?」
この問いに対し、大臣たちは顔を見合わせる。
「ええ、まあ……」
「確かにそうでしょうな」
「よし。では国葬の時期に合わせ、新たな宰相を決定するための選挙を告示することにしよう」
こうして国王の鶴声により、ネロの後任を決めるための選挙が行われることになった。
選挙には一時期、大勢の候補者が現れた。ハーミット卿の後釜に収まれば、絶大な権力が得られるからである。
しかしそれも束の間――ある大臣が出馬を表明した途端、辞退者が続出した。
「すみませーん、アニェント新聞の街頭アンケートです。今回の国民選挙ですが、ズバリ、誰を選びますか?」
「うーん……。色々いるみたいだけど、やっぱりあの人かなぁ」
「あの人、と申しますと?」
「リヴィエル卿だろうなぁ。卿に並ぶって言ったら、あの人くらいだし」
「はい、ありがとうございまーす」
「ねえ?」
「はい、なんでしょうか?」
「今のところ、一位って誰?」
「まあ、ご想像の通りですかねぇ」
「あー、……やっぱり」
前内閣で内務大臣を務めていたアンリ・リヴィエル氏は――ハーミット卿ほどの人気と実力は無いにせよ――優れた手腕を有しており、かねてから「ハーミット卿の右腕」と称されていた。
その彼が出馬を表明したため、それまで出馬を目論んでいた者の多くは「彼には到底敵わない」と見切りを付け、軒並み辞退。
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