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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第4部

    蒼天剣・世俗録 2

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    晴奈の話、第165話。
    双月世界の経済情勢。

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    2.
     何とか無事に出された焼鯖定食を食べた後、話好きの店主に色々と聞き込み、晴奈は世界情勢について学んだ。
     まず今、世界の命運を左右している戦争のこと。
     中央大陸の北中部にその勢力を誇る政治組織、中央政府が大火の傀儡であるとして、反大火姿勢を採る北方、ジーン王国が516年に宣戦布告。
     今なお北方と央北を結ぶ海――北海で、戦いが続いているのだと言う。

     続いて央南の隣、央中の情勢。
     以前に師匠から「狐と狼の世界」とは聞いていたが、店主はその中で最も力ある富豪、ゴールドマン家とネール家についてより詳しい話をしてくれた。この二大名家は現在、小競り合いを続けているらしい。
     昨今はネール家が密かに北方へ協力することで莫大な利益を上げており、それを良しとしないゴールドマン家は央北、つまり中央政府に対して大規模な貿易を展開していると言う。この二大富豪の競争が激化しているため、央中の経済は非常に活発化、加熱している。
     また、央南に玄銭があるように、央中にも地域通貨「エル」が存在する。央中経済に比例してエルもまたその価値を高めており、このこともクラム安、ひいては中央政府の弱体化に拍車をかけている。
     二大名家のケンカは、世界全体をも巻き添えにするほど激しいようだ。



    「央中もなかなか、立て込んでいるのだな」
    「ああ、それだけに胡散臭い奴らも良く、雲隠れするのにそこを選ぶ」
    「そうか……」
     店主の話に、晴奈は日上のことを考える。
    (もしかすれば、日上もそこに立ち寄るか……? いや、もしかしたら)
     晴奈に直感が働き、店主にこう質問した。
    「大将、この店に灰縞の『虎』が来なかったか?」
    「ん? うーん、虎獣人ねぇ。央南には、わりと多い人種だからねー。俺も『虎』だし。ま、赤縞だけど」
    「左目に眼帯をはめた、若い男なのだが……」
    「片目ねー……? ああ、そういやいたな、そんな客」
     店主の言葉に、晴奈は立ち上がり、問いつめる。
    「本当か! いつだ? この店に来たのか? どこへ行ったか知らないか?」
    「お、おいおいお客さん、いっぺんに聞かれても答えきれないよ~。
     えーとね、うん。来たのは一昨日くらい。兎獣人のやかましい女と、もう一人やかましい長耳と、あと熊獣人のでっかい男、それからいかにも胡散臭いフードを被った奴と、その虎獣人の5人組だったな。割と羽振りが良くて、結構儲けさせてもらったなー。
     そう言や話してた時に、『俺、央中にも女いるんすよ』とか、『しばらく遊んでくのもいいかなって』とか言ってたし、もしかしたら央中に行ったかもねぇ」
    「かたじけない、大将! おかげで奴の手がかりがつかめた!」
     晴奈は深々と頭を下げ、礼を言う。その様子を見て、店主がきょとんとする。
    「……お客さん、ワケアリだね。ま、一介の店主風情が口出しすることじゃないし、詳しくは聞かないさ。
     でも、まあ。お客さん美人だから、応援の意味を込めてサービスしたげるよ」
     店主は調理場から、ほこほこと湯気を立てる桃まんじゅうを持って来た。
    「さーびす?」
    「オマケ、ってことさ。食っちゃってくれ」



     店主のもてなしを受けた後、晴奈はまた街へと繰り出した。店主の助言に従い、手持ちの玄銭を、いくつか中央通貨のクラムに換えようとしたのだ。
    (……とは言え、どこで換えればいいのだ?)
     街を見渡しても、それらしい施設が見当たらない。と言うよりも、どこがそれを請け負っているのか、旅人になったばかりの晴奈には見当が付かなかった。
    「むぅ……」
     観光都市なので、世界中から人が集まってくる。そのためここでは基軸通貨、クラムを持っておく方が何かと便利であり、よってクラムを取り扱う施設が、どこかに必ず、あるはずなのだが――。

    「いらっしゃ……、あれ、お客さん?」
    「すまぬ……。クラム、どこで換えれば良いのだ?」
     侍の晴奈にはそれがどこであるか、分かるわけも無かった。



     見かねた食堂店主により、ふたたび講義が始まった。(ちなみ晴奈は授業料代わりに、桃まんじゅう2個と茶を注文した)
    「まあ、銀行ってのが世界中にあるんだ。ここが、玄銭とクラムを換金してくれる。って言うか、それが奴らの金儲けの方法の一つなんだ」
    「どう儲けるのだ?」
    「ま、さっきも言ったようにレートは変動する。今日1クラム5玄だったのが、明日には1クラム8玄になることもある。この時、今日1000玄を200クラムに換えて、次の日また玄銭に換えれば、どうなる?」
    「え、と……。1000玄が、200クラムになる。で、次の日1クラム8玄のレートだから、1600玄に?」
    「そーゆーこと。たった一日で600玄も儲けることができる。ま、次の日1クラム4玄になったりとか、逆の場合もありえるけどな。世界中のお金を取引して、その利ざやで儲かってる。
     ま、他に儲け方って言うと、預金だな」
     まるで先生と生徒のように、晴奈がぽん、と手を挙げる。
    「あ、それは分かる。人々から金を預かって、それを一時的に何らかの事業に回す。で、利益が出たらそれを銀行に還元して、差し引いた利益を自分たちの懐に……、と言うことだろう?」
    「そーそー、それだよ。でな、これとさっき言った両替の金儲けを組み合わせて、とんでもない稼ぎ方もしてるらしい。
     世界中に支店を持ってる銀行とかあるんだけど、あちこちからかき集めた金を使って両替する。さっきと同じレートの動きで、預金で集めた1億玄を今日、2千万クラムに換える。で、次の日玄銭に戻せば……」
    「6千万玄の儲け、か」
     晴奈は額の大きさに、目を丸くした。
    「ま、そんな感じだな。
     今の世界情勢はかなり流動的だし、レートの動きも激しい。この数年で何十億、何百億も稼いだり、反対に失ったりしてる奴は一杯いる。央南とか央北も戦争してるけど、『こっち』の方でも大戦争の真っ只中なんだよ。
     ま、ともかく。央中に行くなら気を付けなよ? 夕べまで大金持ちだったのに、次の日になったら一文無し、って事態も少なくないから」
    「ああ、うん」
     店主の壮大な話に、晴奈は若干呑まれ気味になっている。
    「んで、良かったら俺の友達が勤めてる銀行、紹介するよ。ついでに預金もしといてくれれば、そいつも喜ぶし」
    「はは、かたじけない」

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    2016.04.14 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    むしろ晴奈の方が聞いてなかったかも知れませんね。
    「剣士に世俗の知識など無用」とか思い込んで。

    だからこそのこのキャラ。

    NoTitle 

    師匠、剣の道と人の道以外にも、世の中の仕組みを教えておくべきでしたねえ(^^;)
    そうでもしないとこの娘たいへんなことになりかねん(^^;)

    ならないと小説にならないか(爆)。
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