「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・暗雲抄 2
麒麟を巡る話、第438話。
国士無双。
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2.
密葬から半月後、ハーミット卿の国葬が行われた。
それは6世紀最大級と言っても過言ではない、文字通り国を挙げての大規模な葬儀となった。
当然、国外からも多数の弔問客が訪れ――。
「シュウヤ、ベル、久方ぶりであるな」
「どもっス、サンデルさん。……あ、いや。マーニュ将軍ってお呼びした方がいいっスよね」
「かっか、何を寝ぼけたことを!」
何年か振りに秋也たちと顔を合わせ、サンデル・マーニュ中将は豪快に笑い飛ばした。
「吾輩とお前たちの仲ではないか! 水臭い肩書きの掛け合いなぞ、我々には無用、無用!
……っと、挨拶がまだであったな。この度は誠に、愁傷であった」
「痛み入ります」
秋也とベルに揃って頭を下げられ、サンデルと、その傍らにいた兎獣人の女性も礼で返す。
「しかし、既に冬に入ろうかと言う頃であるのに、この熱気はたまらんな。まるで熱帯ではないか。汗がまったく引かん」
「人がいっぱいいますからね。もう会場、満員どころじゃないらしいっス」
それを聞いて、サンデルはうんうんと深くうなずく。
「うむ、やはり卿の人気、改めて実感するところであるな。
ノエル、暑くはないか?」
尋ねたサンデルに、彼の横にいた女性はこく、とうなずく。
「ええ、少し暑いです」
「脱がせてやろう」
そう言って、サンデルは彼女の肩に手をかけた。
「まだ奥さん、肩の方……?」
ベルの問いに、サンデルはフン、と鼻を鳴らす。
「あれだけの大怪我を負ってしまったのだ、そう簡単に治るものではない。いや、治ることなど、期待するべくもあるまい? もう30年は経つと言うのに、未だに肩より上に、腕が上がらんのだからな。……あ、いや」
一転、ばつの悪そうな顔をしたサンデルに、ノエルと呼ばれた女性は笑って返す。
「その事件が縁で、あなたと結ばれましたから。いい思い出ですよ。こうして何かにつけて、かいがいしくお世話もしてもらえますし」
「う、うむ、そうで、あるな、うむ」
顔を真っ赤にしながら、サンデルはノエルのコートを脱がせた。
「お、オッホン。……まあ、なんだ。
吾輩のことを指すわけではないが、西方のあちこちから著名人やら政財界の大物、将軍級や大臣級の重鎮、果ては各国首脳までもが続々やって来ておるようだな。
本当に、卿の成した業(わざ)は並大抵のものではない。これが半世紀前であれば、大臣が死んだ程度でこれほどの人が集まりはしなかったであろうからな。いやむしろ、半世紀前なら西方三国時代のこと、隣国二国に嘲笑われて終いだったろう。
それを考えれば――誠に、卿の業績は天下に誇れるものだ。こうして隣国将軍たる吾輩が、公然と彼を偲ぶことができるのだからな」
「ええ、本当に。……本当に、義父は立派な人でした。
ソレだけに、今後のコトが心配だって人も、大勢います。オレもその一人ですけどね」
「うむ。卿ほどの実力と人柄を併せ持つ傑人が、果たしてこの国にいるものか……。
いや、世界中を探したとて、卿に並ぶ者などそうそう、居はしないだろう。誠に国士無双と称されるべきお方であったからな」
「一人、いたんスけどね……」
秋也の言葉に、サンデルは目をむいた。
「うん? そんな簡単にいると言うのか?」
「いえ、……今はもう、ドコにいるかも、さっぱりっス」
「アオイちゃん、……のことですか?」
と、ノエルが口を挟んできた。
「アオイ? 誰だ、それは?」
「覚えていないんですか、貴方? シュウヤさんたちの……」「ああ、いえいえ、ソレ以上は」
秋也が慌てて、話を遮る。
「今はいない子のコトです。……そもそも、義父に並ぶと言ってしまっては、流石に言い過ぎっスから」
「ふむ……?」
サンデルは良く分からない、と言いたげな表情を浮かべたが、その疑問に答える者はいなかった。
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国士無双。
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2.
密葬から半月後、ハーミット卿の国葬が行われた。
それは6世紀最大級と言っても過言ではない、文字通り国を挙げての大規模な葬儀となった。
当然、国外からも多数の弔問客が訪れ――。
「シュウヤ、ベル、久方ぶりであるな」
「どもっス、サンデルさん。……あ、いや。マーニュ将軍ってお呼びした方がいいっスよね」
「かっか、何を寝ぼけたことを!」
何年か振りに秋也たちと顔を合わせ、サンデル・マーニュ中将は豪快に笑い飛ばした。
「吾輩とお前たちの仲ではないか! 水臭い肩書きの掛け合いなぞ、我々には無用、無用!
……っと、挨拶がまだであったな。この度は誠に、愁傷であった」
「痛み入ります」
秋也とベルに揃って頭を下げられ、サンデルと、その傍らにいた兎獣人の女性も礼で返す。
「しかし、既に冬に入ろうかと言う頃であるのに、この熱気はたまらんな。まるで熱帯ではないか。汗がまったく引かん」
「人がいっぱいいますからね。もう会場、満員どころじゃないらしいっス」
それを聞いて、サンデルはうんうんと深くうなずく。
「うむ、やはり卿の人気、改めて実感するところであるな。
ノエル、暑くはないか?」
尋ねたサンデルに、彼の横にいた女性はこく、とうなずく。
「ええ、少し暑いです」
「脱がせてやろう」
そう言って、サンデルは彼女の肩に手をかけた。
「まだ奥さん、肩の方……?」
ベルの問いに、サンデルはフン、と鼻を鳴らす。
「あれだけの大怪我を負ってしまったのだ、そう簡単に治るものではない。いや、治ることなど、期待するべくもあるまい? もう30年は経つと言うのに、未だに肩より上に、腕が上がらんのだからな。……あ、いや」
一転、ばつの悪そうな顔をしたサンデルに、ノエルと呼ばれた女性は笑って返す。
「その事件が縁で、あなたと結ばれましたから。いい思い出ですよ。こうして何かにつけて、かいがいしくお世話もしてもらえますし」
「う、うむ、そうで、あるな、うむ」
顔を真っ赤にしながら、サンデルはノエルのコートを脱がせた。
「お、オッホン。……まあ、なんだ。
吾輩のことを指すわけではないが、西方のあちこちから著名人やら政財界の大物、将軍級や大臣級の重鎮、果ては各国首脳までもが続々やって来ておるようだな。
本当に、卿の成した業(わざ)は並大抵のものではない。これが半世紀前であれば、大臣が死んだ程度でこれほどの人が集まりはしなかったであろうからな。いやむしろ、半世紀前なら西方三国時代のこと、隣国二国に嘲笑われて終いだったろう。
それを考えれば――誠に、卿の業績は天下に誇れるものだ。こうして隣国将軍たる吾輩が、公然と彼を偲ぶことができるのだからな」
「ええ、本当に。……本当に、義父は立派な人でした。
ソレだけに、今後のコトが心配だって人も、大勢います。オレもその一人ですけどね」
「うむ。卿ほどの実力と人柄を併せ持つ傑人が、果たしてこの国にいるものか……。
いや、世界中を探したとて、卿に並ぶ者などそうそう、居はしないだろう。誠に国士無双と称されるべきお方であったからな」
「一人、いたんスけどね……」
秋也の言葉に、サンデルは目をむいた。
「うん? そんな簡単にいると言うのか?」
「いえ、……今はもう、ドコにいるかも、さっぱりっス」
「アオイちゃん、……のことですか?」
と、ノエルが口を挟んできた。
「アオイ? 誰だ、それは?」
「覚えていないんですか、貴方? シュウヤさんたちの……」「ああ、いえいえ、ソレ以上は」
秋也が慌てて、話を遮る。
「今はいない子のコトです。……そもそも、義父に並ぶと言ってしまっては、流石に言い過ぎっスから」
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