「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・暗雲抄 3
麒麟を巡る話、第439話。
エトワール評。
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3.
ハーミット卿の国葬が済み、王国は落ち着きを取り戻しかけていた。
しかし間もなく、巷は次の大きな話題――総理大臣選挙のうわさで持ちきりとなり、再び騒然とし始めた。
「新聞では、リヴィエルさんが優勢って聞いてますよー」
「そうらしいね」
葛が大学のレポート作成のためにハーミット邸を訪れたところ、偶然、最有力候補と目されているリヴィエル卿に出会った。彼も今後の政治討論などに備えて、この屋敷の書斎を利用しようとしていたとのことだった。
「あたしもリヴィエルさんが一番だと思いますよー。じーちゃんとよく話されているの、見たコトありますし。じーちゃんの後を継ぐなら、リヴィエルさんが適任だと思います」
「ありがとう、カズラ君。君にそう言ってもらえれば、不安が吹き飛ぶよ」
前総理である祖父との関係で、葛とリヴィエル卿には少なからず面識があり、相応に親しくしている。この時も互いの課題と資料作成を互いに手伝いながら、楽しく談笑していた。
「しかし、卿の遺してくれたこの書斎には、本当に助けられる。
卿自らの著書に加え、古今東西の名著が揃っているから、半端な図書館よりもずっと頼りになるよ」
「ホントですよねー。もしこの書斎が無かったら、あたしが大学生になれたかも怪しいですよ」
「このまま私と君だけの図書館にしておくには、惜しいものだ」
「そうですねー」
と、リヴィエル卿が筆を置く。
「……そう。そこが少し、気になるところでもあるのだ」
「え?」
「君は、アテナ・エトワールと言う女性を知っているか?」
「えっと……、確か今回の選挙に出てる人、ですよね?」
「確かにその通りなのだが、かつては卿の秘書を務めていたこともあるのだ。即ち、卿がこれほどの蔵書を有していることも知っているはずだし、であれば私同様、彼女も選挙戦に備え、ここを訪れてもおかしくないと思っていたのだが……」
「言われてみれば、あたしも何度もココに来てますけど、ソレっぽい人を見た覚え、全然無いですねー……?」
「ここ以上に資料がある場所を抑えているのか、それとも単に近寄りづらいのか……。
カズラ君、今から私が言うことは、誰にも話さないでほしいのだが――私はエトワール氏に、少なからず不信感を抱いているのだ」
「どうしてですか?」
「彼女は氷のような女だ。秘書であった頃も一切感情を示さず、我々に対し淡々と応対していた。その態度はまるで、彼女の中に心が存在しないかのようにさえ思えた。
素晴らしく理知的であることは確かだし、その点では次期総理の資格はある。だがその人柄に関しては、卿とは比べるべくも無い。
そんな彼女が万が一、この国の総理となったら、30年前に隣国で起こった悪夢が再現されるのではないか? ……そう思わずにはいられないのだ。
かつて隣国において、心ない、悪魔のような男が国の実権を握った結果、隣国は一時、地獄の様相を呈することとなったと聞いているからね」
「……」
アテナの評判を聞き、葛もまた、寒々しいものを感じていた。
「そう、ですねー……。国葬の時も密葬の時も、エトワールさんが来た覚え、無いですもん」
「そうなのか? ……確かに弔問を強制するような義務はないが、それでも国家的大恩のある卿の葬儀に参加しないとは。
やはり彼女には、人間らしい情が感じられないな」
この半月後――新聞は矛盾する、2つの事実を報道した。
一つは、アテナ・エトワールが国民投票の結果、新総理となったこと。そしてもう一つは、そのエトワール卿が国民の大多数の支持を得ていないことだった。
(リヴィエルさんが、……負けちゃったの?)
葛もこの事実を新聞によって知り、不安にかられていた。
(まさか、とは思うけど。でも……、ホントに、リヴィエルさんの言ったコトが本当になりそうな気がする)
姉と違って予知能力を持たない葛だったが――この予感は、残念ながら的中した。
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3.
ハーミット卿の国葬が済み、王国は落ち着きを取り戻しかけていた。
しかし間もなく、巷は次の大きな話題――総理大臣選挙のうわさで持ちきりとなり、再び騒然とし始めた。
「新聞では、リヴィエルさんが優勢って聞いてますよー」
「そうらしいね」
葛が大学のレポート作成のためにハーミット邸を訪れたところ、偶然、最有力候補と目されているリヴィエル卿に出会った。彼も今後の政治討論などに備えて、この屋敷の書斎を利用しようとしていたとのことだった。
「あたしもリヴィエルさんが一番だと思いますよー。じーちゃんとよく話されているの、見たコトありますし。じーちゃんの後を継ぐなら、リヴィエルさんが適任だと思います」
「ありがとう、カズラ君。君にそう言ってもらえれば、不安が吹き飛ぶよ」
前総理である祖父との関係で、葛とリヴィエル卿には少なからず面識があり、相応に親しくしている。この時も互いの課題と資料作成を互いに手伝いながら、楽しく談笑していた。
「しかし、卿の遺してくれたこの書斎には、本当に助けられる。
卿自らの著書に加え、古今東西の名著が揃っているから、半端な図書館よりもずっと頼りになるよ」
「ホントですよねー。もしこの書斎が無かったら、あたしが大学生になれたかも怪しいですよ」
「このまま私と君だけの図書館にしておくには、惜しいものだ」
「そうですねー」
と、リヴィエル卿が筆を置く。
「……そう。そこが少し、気になるところでもあるのだ」
「え?」
「君は、アテナ・エトワールと言う女性を知っているか?」
「えっと……、確か今回の選挙に出てる人、ですよね?」
「確かにその通りなのだが、かつては卿の秘書を務めていたこともあるのだ。即ち、卿がこれほどの蔵書を有していることも知っているはずだし、であれば私同様、彼女も選挙戦に備え、ここを訪れてもおかしくないと思っていたのだが……」
「言われてみれば、あたしも何度もココに来てますけど、ソレっぽい人を見た覚え、全然無いですねー……?」
「ここ以上に資料がある場所を抑えているのか、それとも単に近寄りづらいのか……。
カズラ君、今から私が言うことは、誰にも話さないでほしいのだが――私はエトワール氏に、少なからず不信感を抱いているのだ」
「どうしてですか?」
「彼女は氷のような女だ。秘書であった頃も一切感情を示さず、我々に対し淡々と応対していた。その態度はまるで、彼女の中に心が存在しないかのようにさえ思えた。
素晴らしく理知的であることは確かだし、その点では次期総理の資格はある。だがその人柄に関しては、卿とは比べるべくも無い。
そんな彼女が万が一、この国の総理となったら、30年前に隣国で起こった悪夢が再現されるのではないか? ……そう思わずにはいられないのだ。
かつて隣国において、心ない、悪魔のような男が国の実権を握った結果、隣国は一時、地獄の様相を呈することとなったと聞いているからね」
「……」
アテナの評判を聞き、葛もまた、寒々しいものを感じていた。
「そう、ですねー……。国葬の時も密葬の時も、エトワールさんが来た覚え、無いですもん」
「そうなのか? ……確かに弔問を強制するような義務はないが、それでも国家的大恩のある卿の葬儀に参加しないとは。
やはり彼女には、人間らしい情が感じられないな」
この半月後――新聞は矛盾する、2つの事実を報道した。
一つは、アテナ・エトワールが国民投票の結果、新総理となったこと。そしてもう一つは、そのエトワール卿が国民の大多数の支持を得ていないことだった。
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