黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第9部

    白猫夢・暗雲抄 4

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    麒麟を巡る話、第440話。
    不穏。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     アテナは総理大臣に就任してすぐ、自分の政治方針を次のように述べた。
    「まず大前提として、私は前総理の路線を踏襲することを宣言します。即ち、工業を軸とした大規模な産業振興と技術革新による、富国強兵政策です。
     そのためにはまず、都市部と地方との産業規模の格差を是正しなければなりません。私はまず、この1年で工業に従事する人口を3倍にし、さらなる工業力の上昇と生産力の拡大を目指すことを宣言します。
     それに伴い、かねてより不足気味とされていた食料自給率を大幅に補うべく、貿易の拡大も目指します。工業振興政策が成功すれば、貿易の拡大は容易に行えるでしょう。
     この国をさらに豊かに、そして強い国にするため、皆様のご理解とご協力を願います」

     この宣言を新聞で知った葛は顔を真っ青にして、リヴィエル卿のところに駆け込んだ。
    「リヴィエルさん、コレってホントに、エトワール卿がやろうとしてるの!?」
    「ああ。……私個人の意見としては、効果があるかは微妙だと思っているがね」
    「ソレどころの話じゃないです!」
     葛はぶんぶんと首を振り、新聞を叩く。
    「こんなコトしたら、王国は半世紀前に戻っちゃいますよ!?」
    「カズラ君」
     しかし、リヴィエル卿はばっと、葛の口に掌を当てて黙らせる。
    「むぐっ!?」
    「落ち着きなさい。エトワール閣下には閣下なりの考えがあるのだろう」
     リヴィエル卿はそっと、葛を屋敷の中に引き寄せる。
    「ともかく、往来では迷惑になる。中で話そう」
    「はい……?」
     リヴィエル卿の様子に、葛は不穏なものを感じ、素直に付いて行った。
    「……何かあるんですか?」
    「いや、特に何が、と言うわけではない。単に公共の迷惑ではないか、と、ね」
     そう口で言いつつ――リヴィエル卿は、手帳に何かを書き付け、懐の前に掲げた。
    《監視されている 適当に話を合わせて欲しい》
    「……!」
     葛は辺りを見回しかけ、慌ててリヴィエル卿に視線を戻す。
    「すみません、ちょっと、ニュースにびっくりしちゃったので」
    「いいんだ。若い君には、まだ理解できない部分もあるだろう」
    《エトワールがSSを掌握している まもなく君のご両親も更迭される だろう》
    「……っ、……あの、リヴィエルさん。やっぱり腑に落ちない点がありますから、ご意見を伺いたいんですが、お時間は大丈夫でしょうか?」
    「構わんよ」
    《SSが私を監視している エトワールは独裁制を敷くつもりだ 私は恐らく》「あ、あのっ!」
     葛は大声を上げ、リヴィエル卿を遮る。
    「な、何かね?」
    「どこか座れる場所、無いですか? 急いで走ってきたから、疲れちゃって」
    「ははは……、いいとも。応接間に案内しよう」
     葛も自分の手帳に、密かに書き付ける。
    《逃げましょう》
    《できない》
     当り障りのない会話を交わしながら、二人は筆談する。
    《妻と子供が昨日から帰ってきていない 恐らくSSに拉致されている 私はエトワールの言うことを聞く他無いのだ》
    《あたしが何とかします》
    「……っ」
     リヴィエル卿は目を見開き、震える字でこう続ける。
    《無茶だ》
    《何とかしてみせます》
    《危険過ぎる》
    《任せて下さい 絶対に助け出します あたしを信じて》
    「……」
     リヴィエル卿の手が止まり――そして口から、言葉が漏れた。
    「……君の意見を、是非、尊重したい、ところだ」
    「ありがとうございます」
     葛は立ち上がり、そしてリヴィエル卿に、深々と頭を下げた。
    「それじゃ、またっ!」



    「リヴィエル卿の動きは?」
    「前総理の孫と何か会話を交わしていた、とのことです。内容は、閣下の政策に対する批判を孫側が行い、それをリヴィエル卿がなだめていた、と」
     SS――王国が擁する特殊部隊からの報告を受け、アテナは冷たい目で尋ねる。
    「その、孫は? まだリヴィエル卿の屋敷に?」
    「いえ。リヴィエル卿に諭され、そのまま帰宅したそうです」
    「孫の行方は追っていますか?」
    「いえ」
    「何故?」
    「『元』隊長の家に戻るでしょうし、そこも既に、我々の監視下にありますから」
    「何故そのまま、まっすぐ帰ると?」
    「え……?」
    「彼女の性格とリヴィエル卿の現状から考えて、彼女はSS本部ないし拘置所を強襲し、両親とリヴィエル卿の家族を奪還するはずです」
    「ま、まさか?」
    「忘れたのですか? 10年前、当時たったの15歳であった彼女の姉が、あなた方SS以上の働きを見せたことを。
     同じ血を持つその妹が、このまま何もしないと思うのですか?」
    「……至急、警戒態勢を執らせます。万一拘束した場合、どういたしましょうか」
    「特別公務執行妨害ならびに機密侵害で逮捕しなさい」
    「了解です」
     SS隊員は敬礼し、アテナの前から去る。
     一人残ったアテナは――珍しく、うっすらと笑みを浮かべていた。
    「どう転ぼうと、ハーミット卿の縁者はこれで全滅でしょうね。
     これで、私の独裁が実現するでしょう」

    白猫夢・暗雲抄 終
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    無能な愚君であるか、それとも優秀な名君であるか。
    評価は結果でご判断を、と言うことで。

    NoTitle 

    絶対君主制は君主がアホやと機能せんからなあ……。

    そして中途半端に能力があると地雷原に突っ込むからなあ……。

    アテナはんはどっちやろ。
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