「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・飛葛抄 1
麒麟を巡る話、第441話。
SS再編成。
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1.
葛がリヴィエル卿の家族を救うべくSS本部に向かう、その1時間前――秋也とベルもまた、新総理となったアテナから直々に、SS本部へと呼び出されていた。
「何だろな……?」
「さあ?」
何も聞かされていない二人は、首を傾げながら向かう。
「SSに呼び付けたってことは、それ絡みだよね」
「って言うか、ソレ以外無いだろ? オレたち、アイツとソコ以外に関わり合い、まったく無いし」
「だね。……ま、仲良くしたくないタイプだし」
「同感。アイツ、オレたちのコトはみんな、バカか足手まといにしか思ってないっぽいし」
「うんうん。なんでパパ、あんなヤツを秘書にしてたのかなぁ」
夫婦揃ってアテナへの悪口をつぶやいていたところに、SS隊員が現れる。
「おつかれさま、フレッド」
「おつかれさまです、隊長。既に本部司令室にて、エトワール新総理がお待ちです。お早めに……」
「うん、分かった。ありがとね」
軽く敬礼を交わし、そのまますれ違う。
「……?」
と、秋也がけげんな顔をする。
「どしたの?」
「いや……、なんか、妙だなって」
「何が?」
「フレッドのヤツ、武器を装備してたぞ。今、特に指令なんか出して無いよな?」
「うん。……変だね?」
「アテナから何か言われたのかな……?」
「かなぁ? ねえフレッド、……あ、もういないや」
振り返ったが既に、隊員の姿は無い。
「ま、いいや。もう来てるっつってたし、さっさと行こう」
「うん」
司令室に着き、秋也たちはアテナに敬礼して見せる。
「就任おめでとうございます、新総理」
「ありがとう。早速ですが、お二人に通知することがあります」
これまでSSにおける、彼女の場所だった参事官席に座っていたアテナが、ゆっくりと立ち上がる。
「私が総理となるに当たって、まずは前総理の裁量と権限において設置されていた各部署の統廃合と整理を行おうと考えています」
「はあ……?」
「それが、何か……?」
何の話をしているか分からず、秋也もベルも、いぶかしげな声を上げた。
「このセクレタ・セルヴィス、通称SSも、前総理の『重大な犯罪に対する対抗措置を設ける』と言う理念の元、設置されたものです。
しかし設立より15年以上が経過し、その間、実際に犯罪捜査に動いたのはたった9件。うち2件はその理念に見合う働きができていません」
「……」
苦い顔をするベルに構わず、アテナは話を続ける。
「これは軍事予算の無駄遣いであると判断せざるを得ません。である以上、より実行力と存在価値のある組織に編成し直すべきと、私はそう考えています」
「えっ?」
「じゃあ、まさか」
「そのまさかです。調査隊としてのセクレタ・セルヴィスは、現時点を以って解散。
同部隊はこれより総理大臣直属の戦闘部隊、即ち親衛隊として再編成します」
「ソレって……」
「つまり……」
「ええ。こう言うことです」
司令室の出入口がバン、と乱暴に蹴り開かれ、武装した隊員たちがなだれ込む。
そして彼らは一斉に、秋也とベルに向けて小銃を構えた。
「なっ……」
「お前ら!?」
「すみません、隊長、副隊長!」
隊員たちは一様に、沈痛な表情を浮かべている。
「コイツに、何を言われたんだ!?」
「……すみません!」
と、アテナが隊員たちの方へと歩きながら、こう告げた。
「既にあなた方2名はSS隊長と副隊長ではありません。軍務規定違反の罪により更迭、除隊、および拘束します」
「軍務規定違反だと!? オレたちが何したってんだ!」
「総理である私の命令に背いた、と言うことにします」
「『します』!? 何バカなこと言ってるのよ!?」
「どの道、あなた方二人は私に背くでしょう。これまでにも幾度と無く、私と意見の対立がありましたから」
「何だよ、そりゃ? お前一人の恨みのために、SSを弄ったのかよ?」
「私怨が理由ではありません。これは今後の展望を見据えた上での、対抗措置です。
ハーミット家の一員であるあなた方に自由に振る舞われては、今後の私の政治活動に少なからず支障が出ると予想されますので」
その言葉に、二人の顔から血の気が引く。
「テメエ、まさか……!」
「独裁する気なの!?」
「私が考える、最も合理的な政治体制です。
この政治体制には事実上、一切の反対意見が発生しません。反対意見が無ければ、行動は容易です。行動が容易であるのなら、結果は迅速に出ます。そして結果が迅速に出るのなら、それによる利益もまた、速やかに得ることができます。
この国は私によって、より素晴らしき大国へと変貌するでしょう。前総理体制以上の速度を伴って」
「ふざけんな……! 全部テメエの、勝手な理屈じゃねーか!」
秋也が反論しかけたところで、アテナが隊員に命じる。
「二人を拘置所へ送りなさい。これは首相命令です」
「……了解です」
10を超える元同僚たちに囲まれては、流石の秋也とベルも従うしかなかった。
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葛がリヴィエル卿の家族を救うべくSS本部に向かう、その1時間前――秋也とベルもまた、新総理となったアテナから直々に、SS本部へと呼び出されていた。
「何だろな……?」
「さあ?」
何も聞かされていない二人は、首を傾げながら向かう。
「SSに呼び付けたってことは、それ絡みだよね」
「って言うか、ソレ以外無いだろ? オレたち、アイツとソコ以外に関わり合い、まったく無いし」
「だね。……ま、仲良くしたくないタイプだし」
「同感。アイツ、オレたちのコトはみんな、バカか足手まといにしか思ってないっぽいし」
「うんうん。なんでパパ、あんなヤツを秘書にしてたのかなぁ」
夫婦揃ってアテナへの悪口をつぶやいていたところに、SS隊員が現れる。
「おつかれさま、フレッド」
「おつかれさまです、隊長。既に本部司令室にて、エトワール新総理がお待ちです。お早めに……」
「うん、分かった。ありがとね」
軽く敬礼を交わし、そのまますれ違う。
「……?」
と、秋也がけげんな顔をする。
「どしたの?」
「いや……、なんか、妙だなって」
「何が?」
「フレッドのヤツ、武器を装備してたぞ。今、特に指令なんか出して無いよな?」
「うん。……変だね?」
「アテナから何か言われたのかな……?」
「かなぁ? ねえフレッド、……あ、もういないや」
振り返ったが既に、隊員の姿は無い。
「ま、いいや。もう来てるっつってたし、さっさと行こう」
「うん」
司令室に着き、秋也たちはアテナに敬礼して見せる。
「就任おめでとうございます、新総理」
「ありがとう。早速ですが、お二人に通知することがあります」
これまでSSにおける、彼女の場所だった参事官席に座っていたアテナが、ゆっくりと立ち上がる。
「私が総理となるに当たって、まずは前総理の裁量と権限において設置されていた各部署の統廃合と整理を行おうと考えています」
「はあ……?」
「それが、何か……?」
何の話をしているか分からず、秋也もベルも、いぶかしげな声を上げた。
「このセクレタ・セルヴィス、通称SSも、前総理の『重大な犯罪に対する対抗措置を設ける』と言う理念の元、設置されたものです。
しかし設立より15年以上が経過し、その間、実際に犯罪捜査に動いたのはたった9件。うち2件はその理念に見合う働きができていません」
「……」
苦い顔をするベルに構わず、アテナは話を続ける。
「これは軍事予算の無駄遣いであると判断せざるを得ません。である以上、より実行力と存在価値のある組織に編成し直すべきと、私はそう考えています」
「えっ?」
「じゃあ、まさか」
「そのまさかです。調査隊としてのセクレタ・セルヴィスは、現時点を以って解散。
同部隊はこれより総理大臣直属の戦闘部隊、即ち親衛隊として再編成します」
「ソレって……」
「つまり……」
「ええ。こう言うことです」
司令室の出入口がバン、と乱暴に蹴り開かれ、武装した隊員たちがなだれ込む。
そして彼らは一斉に、秋也とベルに向けて小銃を構えた。
「なっ……」
「お前ら!?」
「すみません、隊長、副隊長!」
隊員たちは一様に、沈痛な表情を浮かべている。
「コイツに、何を言われたんだ!?」
「……すみません!」
と、アテナが隊員たちの方へと歩きながら、こう告げた。
「既にあなた方2名はSS隊長と副隊長ではありません。軍務規定違反の罪により更迭、除隊、および拘束します」
「軍務規定違反だと!? オレたちが何したってんだ!」
「総理である私の命令に背いた、と言うことにします」
「『します』!? 何バカなこと言ってるのよ!?」
「どの道、あなた方二人は私に背くでしょう。これまでにも幾度と無く、私と意見の対立がありましたから」
「何だよ、そりゃ? お前一人の恨みのために、SSを弄ったのかよ?」
「私怨が理由ではありません。これは今後の展望を見据えた上での、対抗措置です。
ハーミット家の一員であるあなた方に自由に振る舞われては、今後の私の政治活動に少なからず支障が出ると予想されますので」
その言葉に、二人の顔から血の気が引く。
「テメエ、まさか……!」
「独裁する気なの!?」
「私が考える、最も合理的な政治体制です。
この政治体制には事実上、一切の反対意見が発生しません。反対意見が無ければ、行動は容易です。行動が容易であるのなら、結果は迅速に出ます。そして結果が迅速に出るのなら、それによる利益もまた、速やかに得ることができます。
この国は私によって、より素晴らしき大国へと変貌するでしょう。前総理体制以上の速度を伴って」
「ふざけんな……! 全部テメエの、勝手な理屈じゃねーか!」
秋也が反論しかけたところで、アテナが隊員に命じる。
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今日の旅岡さん

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- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
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NoTitle
アテナさんダメだよ、こういうやつらは殺しておけるときに殺しておかないと、後で後悔することになるよ。僭主制って、徹底的にやらないとダモクレスの剣だよ(^_^;)
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NoTitle
適当な理由を付け、抵抗が無意味な箇所へと移送、すなわち投獄し、しかる後ひっそり「自然死」させておこう、……とでも考えていたのかもしれません。
もっともポールさんの言うとおり、この場で殺さなかったために、次話にて面倒な事態に発展しますが。