「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・飛葛抄 4
麒麟を巡る話、第444話。
葛とアテナの議論。
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4.
と、ぴいー……、と言う、金属を引っかいたような音が響く。
「うひゃ、……あーっ、もお! 鳥肌ぶわって出た! 何、今の!?」
猫耳を抑え、顔を引きつらせたベルに、葛が答える。
「拡声器、……だったかなー? なんか音を電気信号にして、増幅してもっかい音に戻すって装置。電話のでっかい版みたいな感じ」
「あー、そー。……あー、まだ鳥肌立ってる」
葛の言った通り、アテナの声が大音量で聞こえてくる。
《犯人に告ぐ。抵抗を止め、速やかに投降しなさい》
「ケッ、犯人扱いかよ。何の犯人だっつーの!」
負けじと怒鳴り返した秋也に、アテナの冷たい声が返ってくる。
《特別公務執行妨害ならびに機密侵害、および国家反逆の罪があなた方に問われています。
こうして政府管轄の建物内に無断で侵入し、拘置所にいる人間を不正規な方法で解放。さらには軍の人間、即ち公務に当たっていた者を襲撃し、傷害を追わせています。
さらには総理たる私の意向に沿わない、こうした行動と思想。これはれっきとした、国家に対する反逆であると認識できます》
「ふざけんな! お前みたいに非人道的なやり方を平然とやってのけるようなヤツなんかの意向に、誰が沿うかよッ!」
《あなた方との議論は不要です。権力を有しているのは私であり、あなた方は犯罪者です。公に正当性を問うた場合、どちらに賛成が投じられるかは明白でしょう》
「王様気取りだね、エトワールさん!」
と、葛が口を開いた。
「あなたのやろうとしてるコトは、ソレこそ、国家反逆罪に問われるコトじゃないの!?」
《その論拠は?》
「あなたは誰の意見も抹殺し、自分の意見だけを押し通そうとしてる! そう、きっとあなたは、いずれは王様さえ無視するつもりなんでしょ!?
ソレこそ国家への、『王国』としてのこの国の在り方に、真っ向から対立してる! 反逆、そのものだよ!」
《話が飛躍しています。論拠に値しません》
「こんな話の論拠にならなくても、世論は間違いなく、そう思うよ! あなたは世論の結果である選挙によって、首相になったはずでしょ!?」
《だから?》
「こんなやり方、誰も賛成なんかしやしない! きっとあなたは失脚し、首相の地位を失うよ! 国民の総意で、ね!」
《愚論です》
アテナの冷え冷えとした声が、拘置所に響いた。
《あなた方犯罪者が何をわめこうと、それが正当性を有することは決してありません。総理たる私にのみ、正義があるのです。
国民の多く、いや、ほとんどすべては、無条件に正義を信じ、そして無条件に、そこに正当性があると信じます――それが道理です。
SS全隊に告ぐ。犯人らの抵抗の意思は、極めて強いものと断定。投降の意思が一切見られないため、実力行使にて、彼らを排除しなさい》
「……」
押し黙ったままのSSたちに、アテナは再度命じた。
《繰り返す。排除しなさい!》
「……了解、……です」
兵士たちは一斉に、小銃を構えた。
その時だった。
拘置所を照らしていたサーチライトが、突然ボン、と言う音とともに砕け散った。
「なっ……!?」
「何だ!?」
サーチライトは次々に破壊され、その光を失う。
さらには周囲の街灯も全て消え、辺りは闇に包まれた。
「見えない!」
「バカ、しゃべるな!」
突然真っ暗になり、兵士たちは騒然としている。拡声器からも一瞬、アテナが息を呑んだ様子が漏れ聞こえた。
「……今だ!」
兵士たちに気付かれぬよう、秋也がそっと扉を開け、外へ飛び出す。ベルと葛もリヴィエル一家の手を引き、外へ出た。
「な、何をしているのです! 排除しなさい!」
アテナの混乱する様子が、地の声で聞こえてくる。
「目標、視認できません! 今銃撃すれば、同士討ちの危険があります!」
「くっ……!」
相手が混乱しているうちに、秋也が拘置所の門前に陣取っていた兵士たちに、無言でタックルした。
「おわっ!?」
「痛えな、誰だよ!?」
「勝手に動くな! 動くんじゃない!」
どうやら味方同士でぶつかり合っていると勘違いしたらしく、兵士たちはあたふたとしている。
その隙を縫うように、葛たちも続く。
「落ち着きなさい! 誰か、誰か光を……」
と、その中心にいたアテナを見つけ、葛はニヤ、と笑う。
(えいっ)
葛はそっと、アテナに足払いをかけて転ばせた。
「きゃあっ!」
首相の慌てふためいた声を背中で聞きながら、葛たちは全員、無事に拘置所から脱出した。
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葛とアテナの議論。
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と、ぴいー……、と言う、金属を引っかいたような音が響く。
「うひゃ、……あーっ、もお! 鳥肌ぶわって出た! 何、今の!?」
猫耳を抑え、顔を引きつらせたベルに、葛が答える。
「拡声器、……だったかなー? なんか音を電気信号にして、増幅してもっかい音に戻すって装置。電話のでっかい版みたいな感じ」
「あー、そー。……あー、まだ鳥肌立ってる」
葛の言った通り、アテナの声が大音量で聞こえてくる。
《犯人に告ぐ。抵抗を止め、速やかに投降しなさい》
「ケッ、犯人扱いかよ。何の犯人だっつーの!」
負けじと怒鳴り返した秋也に、アテナの冷たい声が返ってくる。
《特別公務執行妨害ならびに機密侵害、および国家反逆の罪があなた方に問われています。
こうして政府管轄の建物内に無断で侵入し、拘置所にいる人間を不正規な方法で解放。さらには軍の人間、即ち公務に当たっていた者を襲撃し、傷害を追わせています。
さらには総理たる私の意向に沿わない、こうした行動と思想。これはれっきとした、国家に対する反逆であると認識できます》
「ふざけんな! お前みたいに非人道的なやり方を平然とやってのけるようなヤツなんかの意向に、誰が沿うかよッ!」
《あなた方との議論は不要です。権力を有しているのは私であり、あなた方は犯罪者です。公に正当性を問うた場合、どちらに賛成が投じられるかは明白でしょう》
「王様気取りだね、エトワールさん!」
と、葛が口を開いた。
「あなたのやろうとしてるコトは、ソレこそ、国家反逆罪に問われるコトじゃないの!?」
《その論拠は?》
「あなたは誰の意見も抹殺し、自分の意見だけを押し通そうとしてる! そう、きっとあなたは、いずれは王様さえ無視するつもりなんでしょ!?
ソレこそ国家への、『王国』としてのこの国の在り方に、真っ向から対立してる! 反逆、そのものだよ!」
《話が飛躍しています。論拠に値しません》
「こんな話の論拠にならなくても、世論は間違いなく、そう思うよ! あなたは世論の結果である選挙によって、首相になったはずでしょ!?」
《だから?》
「こんなやり方、誰も賛成なんかしやしない! きっとあなたは失脚し、首相の地位を失うよ! 国民の総意で、ね!」
《愚論です》
アテナの冷え冷えとした声が、拘置所に響いた。
《あなた方犯罪者が何をわめこうと、それが正当性を有することは決してありません。総理たる私にのみ、正義があるのです。
国民の多く、いや、ほとんどすべては、無条件に正義を信じ、そして無条件に、そこに正当性があると信じます――それが道理です。
SS全隊に告ぐ。犯人らの抵抗の意思は、極めて強いものと断定。投降の意思が一切見られないため、実力行使にて、彼らを排除しなさい》
「……」
押し黙ったままのSSたちに、アテナは再度命じた。
《繰り返す。排除しなさい!》
「……了解、……です」
兵士たちは一斉に、小銃を構えた。
その時だった。
拘置所を照らしていたサーチライトが、突然ボン、と言う音とともに砕け散った。
「なっ……!?」
「何だ!?」
サーチライトは次々に破壊され、その光を失う。
さらには周囲の街灯も全て消え、辺りは闇に包まれた。
「見えない!」
「バカ、しゃべるな!」
突然真っ暗になり、兵士たちは騒然としている。拡声器からも一瞬、アテナが息を呑んだ様子が漏れ聞こえた。
「……今だ!」
兵士たちに気付かれぬよう、秋也がそっと扉を開け、外へ飛び出す。ベルと葛もリヴィエル一家の手を引き、外へ出た。
「な、何をしているのです! 排除しなさい!」
アテナの混乱する様子が、地の声で聞こえてくる。
「目標、視認できません! 今銃撃すれば、同士討ちの危険があります!」
「くっ……!」
相手が混乱しているうちに、秋也が拘置所の門前に陣取っていた兵士たちに、無言でタックルした。
「おわっ!?」
「痛えな、誰だよ!?」
「勝手に動くな! 動くんじゃない!」
どうやら味方同士でぶつかり合っていると勘違いしたらしく、兵士たちはあたふたとしている。
その隙を縫うように、葛たちも続く。
「落ち着きなさい! 誰か、誰か光を……」
と、その中心にいたアテナを見つけ、葛はニヤ、と笑う。
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