黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第9部

    白猫夢・飛葛抄 6

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    麒麟を巡る話、第446話。
    ハーミット卿の功罪。

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    6.
     葛たちは隣国、グリスロージュ帝政連邦へと亡命した。
     秋也から事情を聞いた皇帝、フィッボ・モダスは、非常に落胆した様子を見せた。
    「そうか……。何と嘆かわしい。卿の遺志は潰された、と言うことか」
     フィッボは秋也の手を取り、力強く握りしめた。
    「シュウヤ君、君には大恩があるし、卿にも少なからず助けられてきた。是非とも歓迎するよ。この国で問題なく生活できるよう、あらゆる便宜と援助を惜しまないつもりだ」
    「ありがとうございます、陛下」
    「おいおい、シュウヤ君」
     フィッボはにこっと笑い、首を振った。
    「私と君の仲だ。気軽に呼んでくれて構わない。昔のようにね」
    「はは、ども。じゃあ、フィッボさん。これからしばらく、ご厄介になります」
    「うむ。当面は城の客間で生活するといい。諸君の家や仕事などについてはおいおい、検討するとしよう。
     ……しかし、王国がよもや、そのような愚行・蛮行を許すとは。一体ロラン王は何を考えているのか。
     そもそも国家の要、政治の中核と言える宰相を、己の裁量と判断で指名しようともしなかったこと自体、私には考えられないことだ」
    「多分、ですけどー」
     と、葛が手を挙げる。
    「うん?」
    「ロラン陛下、……だけじゃなくて、じーちゃんが居た頃に王様だった人はみんな、責任逃れしてたんじゃないかなって思うんです」
    「ほう……?」
    「こんなコト言ったらじーちゃん、嫌な顔するかも知れませんけど――じーちゃんはあんまりにもスゴ過ぎた気がします。
     ソレこそ、王様が何も考えなくていいくらいの仕事をし過ぎちゃったと思うんです」
    「なるほど、一理ある。
     確かに卿の手腕は素晴らしかった。彼がいれば勝手に国が豊かになる、とすら評されるほどに。
     しかしそれは、一方で甚(はなは)だしい放任を生むことにもなる。何しろ彼一人で経世済民の構想から発案、計画、策定までが済んでしまうのだからな。
     となればロラン王を含め、誰も能動的に政治に手を出そうとはしなくなるだろう。それよりも卿の意見に任せ、受動的でいた方が、よほど良い結果を生む。
     皆、そう考えてしまうだろうな」
    「お恥ずかしい話です。思い当たる節は、少なからずございます」
     フィッボの意見に、リヴィエル卿が苦々しい顔で同意する。
    「そしてそれは、危機意識をも鈍らせていたのでしょう。
     まさか今回のエトワールのように、卿の遺志を軒並み消し去り、己が欲と横暴を正当化するような人間の台頭を易々と許す結果になろうとは、国民の誰もが――恐らくは卿を除いて――危惧していなかったでしょう」
    「こんな意見は、諸君にはひどく辛辣であるとは思うが――『いい人』過ぎたのだろうな。卿も、王国の民も。
     然るに平和と言うものは、場合によっては恐ろしいものだな。長く続けば続くほど、突然の危機にまったく対応できなくなる。……かと言って不安が続くことも、それはそれで良しとは、到底言えないが」



     一方、プラティノアール王国では、いよいよアテナの独断専行が強まりつつあった。
     実はアルピナのように、ネロから遺書を預けられた者は若干名いたのだが、拘置所での「事件」でその存在に勘付いたアテナによっていち早く手を打たれ、そのほとんどが逮捕・投獄された。
     さらに、それと並行してSSの人員を大幅に拡大させ、アテナは総勢400名を超える「私兵団」を確立した。
     ネロの遺書とその実行者をことごとく葬り去り、己に反発する者を武力で黙らせ、完膚なきまでに敵対勢力を殲滅(せんめつ)したアテナは、公約していた政策を実行に移し始めた。

    「くくく……、今日も紙面は大混乱だな。『製造業さらに加熱 政府援助150億キュー追加を決定』。これは本気かね、総理殿?」
    「ええ。来月より実施します」
    「あと、これも本気か?」
     男は新聞をめくり、小さな記事を指差した。
    「『農業振興政策が完全凍結へ 工業従事人口の拡大が目的か』」
    「ええ。既に産業省内の該当部門は解体しています」
    「くくく……」
     男の笑い方が癇に障ったらしく、アテナの目がほんのわずかに吊り上がる。
    「何か問題が?」
    「いや、別に。思い切ったことをするな、とね」
    「改革は断行あるのみです。少しでも非合理性を感じたものは、即刻排除すべきでしょう」
    「なるほど、なるほど」
     男はニヤ、と笑みを浮かべ、アテナに近寄る。
    「では私との交流はどうだ? 合理的でない部分は少なくないと思うが?」
    「いいえ。あなたと交流を持つことは、私に多大な利益をもたらします。であれば総括して、合理的と言えるでしょう」
    「詭弁だな。一つの重大な非合理性を、もっともらしい理屈でごまかしているに過ぎん」
     男はアテナを背後から抱きしめながら、その長い耳にささやいた。
    「愛だの恋だのは、最も非合理的なものだ。私はそう思うがね」
    「……その意見に関しては、私の負けを認めましょう」
     アテナは男の腕に、自分の手を載せた。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    合理化を行おうとすること自体、誰かの独断による部分が少なくない行為ですし、個人の意見を重視・偏重することは、そのまま他の誰かにとっては非合理につながる、……というのが自分の意見ですね。
    アテナも自分の視点からしか物事を計らなかった結果、とんでもないミスをやらかします。詳しくは次話。

     

    共産主義の実験の教訓のひとつは、

    「過度の合理化と能率化は不合理と非能率をもたらす」

    ということですからねえ……。

    だからといって最初から非能率と不合理の精神で国を動かすのがいいというわけではまったくないですが。
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