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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第4部

    蒼天剣・世俗録 3

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    晴奈の話、第166話。
    あの人とあの人の関係。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     店主に案内してもらい、晴奈は銀行にたどり着くことができた。
    「ほれ、ここが友達の勤めてる金火狐銀行、弧月支店だ」
    「金火狐?」
    「ゴールドマン家の通称だよ。一族みんな金毛の『狐』だから、そんな呼び名が付いたらしい」
    「ほう」
     その後、晴奈は店主の友人と会い、早速クラム交換と多少の預金を行った。
    「これで世界中の金火狐銀行で、金が引き出せるようになった。これで旅の途中、何万クラムもかばんに入れてうろつかなくて良くなったわけだ」
    「いやいや……。本当に、何から何まで助けていただき、ありがたい限りだ。
     あ、申し遅れた。私の名は黄晴奈。良ければ大将、お主の名前を伺いたいのだが……」
     店主はその仰々しい言い方に吹き出し、笑いながら自己紹介した。
    「ぶっ、ははは……。いやいや、ご丁寧にどーも。へーぇ、アンタがあの猫侍か……。
     俺は風木(カザキ)って言うんだ。また弧月に来ることがあったら、ぜひとも立ち寄ってくれよな」
     風木はにっこり笑って、晴奈の手を握った。



     風木と別れた後、晴奈は央中へ向かう旅支度をするべく、商店街を歩いていた。
     その途中、手に持ったクラム銀貨を眺めながら、思索をめぐらせている。
    (ふむ、この女性がクラムと言う名の由来か)
     クラム銀貨の表面には金額が、裏面には美しいエルフの女性が彫像されている。
     偽造防止も兼ねているのか、かなり小さな字で「クラム・タイムズ 双月暦35年の肖像を基に意匠作成 ……」などと彫られていた。
    (まずは登山具か。
     店主から聞いた日上の情報が正しければ、奴らは央中へ向かったはずだ。ここから央中へ向かうとなれば、あの黒炎教団の総本山、黒鳥宮のある屏風山脈を越えねばならぬ。
     ……彼奴らに因縁はないからすんなり通れるだろうが、私は散々、教団とやり合ってきた身であるからな。果たして通してくれるものだろうか)
     今後の道中を考え、晴奈の気は重くなる。
     ともかく登山具と山道の地図を買い、他に揃えるものは無いかと思案していると――しゃらん、と言う鈴の音と共に、自分に声をかけてくる者がいた。
    「あれ……? 晴奈ちゃん?」
    「え?」
     振り向くとそこには、かつて父に自分の道を示す時に、その(大きな)胸を借りたエルフの魔術師、橘小鈴の姿があった。
    「橘殿?」
    「やっぱり晴奈ちゃんだ。ひっさしぶりー」
    「お、お久しぶりです。一体何故、ここに?」
     小鈴はクスクス笑い、同じ質問を返す。
    「それはこっちの台詞よ。晴奈ちゃんこそ、何でココにいんの?」
    「そ、その……」
     口ごもる晴奈を見て、小鈴はぱたぱたと手を振ってさえぎる。
    「あ、いいのいいの、言いたくなかったら言わなくても」
    「は、はぁ」
    「あたし、ココの出身なのよ。あっちこっち旅して、久々に帰ってみようかなーと思ってココに来たら、晴奈ちゃんと会ったってワケ」
     と、ここで小鈴が何か思い付いたらしく、ポンと手を打った。
    「あ、そうそう晴奈ちゃん、お腹空いてない?」
    「え? えー、まあ多少、小腹は空いております」
    「それなら丁度いいかも。美味しいお店、連れてってあげる。あたしの兄さんがやってるトコなんだけどね」
    「ほう……。では、お言葉に甘えて」
     小鈴は嬉しそうに、晴奈の手を引いて促す。
    「そう来なくっちゃ! さ、行こっ」
     小鈴に手を引かれるまま、晴奈は市街地を北に上がっていく。
    (あれ……? ここはさっき、通ったような?)
    「こっち、こっち。あの道を右に曲がったトコ」
    「え」
     その先へ進んだところで晴奈は驚き、立ち止まる。小鈴が店の戸を開けたところで、店主の驚くような声が返って来た。
    「いらっ……、あれ? 今度はどうしたの、黄さん?」
    「ん? 晴奈ちゃん、兄さんと知り合い?」
    「まあ、その。……何と言うか、まあ」
     風木と小鈴のきょとんとした顔を見て、晴奈は気恥ずかしさを覚えた。



    「だははは……、まさか、小鈴と知り合いだったとはなー」
     風木は妹と晴奈を前にし、大笑いしていた。
    「まさか、一日に三度も同じ店に立ち寄るとは」
    「ホント面白い子ねー、晴奈ちゃんって」
     小鈴の言葉に、風木はまた笑い出す。
    「ぶ、くくく……。面白いのはお前だよ、小鈴。俺の上客、引っ張ってくるとはなー」
    「偶然よ、偶然」
     口をとがらせる小鈴を見て、晴奈も思わず、クスッと笑ってしまう。
    「それにしても、兄妹だとは思いもよらなかった」
    「『虎』とエルフだしね、顔もあんまり似てないし」
    「血、つながってんのになー」
     そう言ってまた、2人は笑う。
    「んで、旅はどうだった?」
    「うん、大変だったわー」
     小鈴はコキコキと首を鳴らしながら、しみじみと語る。
    「もーね、日上関係がうざいのうざくないのって!
     央中も央北も、酒場や食堂、喫茶店や宿でちょっと耳を傾ければすぐ、北方がどーの、北海でこーの……!
     持ってたクラムもどインフレで一時期ゴミみたいになっちゃうし、克が日上中佐をボコボコにしてなきゃ、絶対クラム安、止まってなかったわよ!」
    「日上が、やられた!?」
     晴奈は仇の情報に、猫耳をピンと立てる。
    「やられたっつっても1年前のコトだし、死んでないわよ。
     北海で王国軍と中央軍が衝突して、最初は王国側の日上中佐が大活躍してたのよ。で、ずっと王国軍が優勢だったんだけど、そこで中央軍が克を呼んで、日上を倒すように依頼したらしいのよ。
     んで、日上は左目を潰される重傷を負って敗走、王国側は北海の大部分から撤退。今は膠着状態が続いてるって話よ。
    ま、そんなだから風向きが変わってクラムの価値も大分戻ってきてるし、央中・央北を旅するなら、今が行き時かもね」
    「ふむ……」
     晴奈は懐から銀貨を取り出して机の上でコロコロと転がし、眺める。
    「まったく、世俗と言うのはややこしいな」

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    2016.04.14 修正
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