「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・飛葛抄 8
麒麟を巡る話、第448話。
アテナを操っていた男。
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8.
ネロが50年もの長きにわたって安寧に統治し、安定して成長させてきた王国をたったの2年で潰したことにより、アテナは当然、国王をはじめとする政府首脳らに糾弾されることとなった。
ところが――いざ問責されるかと言うところで、アテナは突如、首都シルバーレイクから姿を眩ませてしまった。
「何故あなたは、こうなると教えてくれなかったのです?」
シルバーレイク郊外に逃げたアテナは、同行した長耳の男性をなじっていた。
「何を言うかと思えば」
しかし、長耳は馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべるばかりである。
「君がやったことだ。他でもない君が、自信満々に『この国をより一層反映させる手段だ』と言って、あれらの政策を強行したんじゃないか」
「……っ」
「私は預言者でも無ければ、経済アナリストでも無い。私に言えることなど、元から無いのだよ。
そもそも君は元々、他人の意見に一切耳を傾けない性格だろう? 私が何を言ったとしても、なんやかやと反論して追い払われるのが関の山だったろう」
「それは……」
返答に窮し、アテナは顔を伏せる。
「まあ、しかしだ。助けてやれないことも無い」
男の言葉に、アテナは一転して顔を上げる。
「本当ですか?」
「本当だとも。私の古いツテを頼れば、どんな不況もすぐ好景気に変わる」
「お願いします。そのツテを、私に紹介して下さい」
「それは構わんが、勿論タダとは言わん。分かるな、アテナ?」
「……何が望みです?」
「分かるはずだ。聡明な君だ、予想は付くだろう?」
「私自身を、でしょうか」
「そう。そしてもう一つ、私が、いや、ある団体が欲しがっているものがあるんだ」
男のギラギラとした、欲深い瞳に射抜かれ、アテナはぐったりとした声を出した。
「……この国の政治権力を、と言うわけですか」
「そう。ご明察だ」
「……あなたは……」
アテナの表情が歪む。
「あなたは、そのために私を籠絡し、この国を傾けた、と?」
「君がもし健闘できていれば、それはそれで私の利益になったのだがね。あいつらを介入させずにも済んだだろう。
しかしまあ、こうなることはいずれ分かっていた。思い返してみれば、何もかも『預言』通りだったよ」
「えっ……?」
「『預言者』氏が4年ほど前に、私に預言したのさ。『あなたがこの国に潜り込んでアテナさんを操れば、あたしたちはこの国を手に入れられる』とね」
「よげ……ん……しゃ?」
顔を真っ青にしたアテナに、長耳はニヤリと笑って、その名を告げた。
「君もよく知っている女性だよ。アオイ・ハーミット嬢だ」
「……あ……お……い……」
その名を聞いた瞬間――アテナ・エトワール女史は壊れた。
「……あ……あ……あお……アオイ……が……わた……わたくし……わたくしを……」
「おや、どうした?」
「わたくしを……にど……も……こけに……っ」
「……くくくく……」
「こけ……こけっ……こけっ、こっこ……」
「くく……ははっ、あはははは……」
目をうつろにし、へたり込んだアテナを見下ろし、長耳はげらげらと笑い出した。
1時間後――長耳は電話線に機械を取り付け、ダイヤルを回した。すると機械からガリガリと音が鳴り、やがて人の声が聞こえてくる。
《ドミニオン城通信局です》
長耳は機械に備え付けられていた受話器を取り、応答した。
「白猫党党首、シエナ・チューリン閣下を呼んでくれ。ヴィッカーと言えば分かる」
《かしこまりました。少々お待ちください》
少し間を置いて、相手が出た。
《ヴィッカー博士? チューリンよ》
「お久しぶりです、閣下。4年前に『預言者』氏から命じられていた作戦が、『第二段階』に移行しました」
《そう。じゃ、すぐに準備するわ。エトワール氏は?》
「残念ながら……」
《『預言』通りってワケね。じゃ、先にあの子を送っとくわ。
それじゃ、また》
「ええ。また一週間後、この時間に連絡します。お忘れなきよう」
電話を切り、長耳の男――4年前の568年、白猫党を追われたはずのデリック・ヴィッカー博士は、唐突に笑い出した。
「ふふっ、ふっ、く、くくく、はははは……! すべてが思い通りだ!
この国はもう既に――我らが白猫党のものだッ!」
白猫夢・飛葛抄 終
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アテナを操っていた男。
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ネロが50年もの長きにわたって安寧に統治し、安定して成長させてきた王国をたったの2年で潰したことにより、アテナは当然、国王をはじめとする政府首脳らに糾弾されることとなった。
ところが――いざ問責されるかと言うところで、アテナは突如、首都シルバーレイクから姿を眩ませてしまった。
「何故あなたは、こうなると教えてくれなかったのです?」
シルバーレイク郊外に逃げたアテナは、同行した長耳の男性をなじっていた。
「何を言うかと思えば」
しかし、長耳は馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべるばかりである。
「君がやったことだ。他でもない君が、自信満々に『この国をより一層反映させる手段だ』と言って、あれらの政策を強行したんじゃないか」
「……っ」
「私は預言者でも無ければ、経済アナリストでも無い。私に言えることなど、元から無いのだよ。
そもそも君は元々、他人の意見に一切耳を傾けない性格だろう? 私が何を言ったとしても、なんやかやと反論して追い払われるのが関の山だったろう」
「それは……」
返答に窮し、アテナは顔を伏せる。
「まあ、しかしだ。助けてやれないことも無い」
男の言葉に、アテナは一転して顔を上げる。
「本当ですか?」
「本当だとも。私の古いツテを頼れば、どんな不況もすぐ好景気に変わる」
「お願いします。そのツテを、私に紹介して下さい」
「それは構わんが、勿論タダとは言わん。分かるな、アテナ?」
「……何が望みです?」
「分かるはずだ。聡明な君だ、予想は付くだろう?」
「私自身を、でしょうか」
「そう。そしてもう一つ、私が、いや、ある団体が欲しがっているものがあるんだ」
男のギラギラとした、欲深い瞳に射抜かれ、アテナはぐったりとした声を出した。
「……この国の政治権力を、と言うわけですか」
「そう。ご明察だ」
「……あなたは……」
アテナの表情が歪む。
「あなたは、そのために私を籠絡し、この国を傾けた、と?」
「君がもし健闘できていれば、それはそれで私の利益になったのだがね。あいつらを介入させずにも済んだだろう。
しかしまあ、こうなることはいずれ分かっていた。思い返してみれば、何もかも『預言』通りだったよ」
「えっ……?」
「『預言者』氏が4年ほど前に、私に預言したのさ。『あなたがこの国に潜り込んでアテナさんを操れば、あたしたちはこの国を手に入れられる』とね」
「よげ……ん……しゃ?」
顔を真っ青にしたアテナに、長耳はニヤリと笑って、その名を告げた。
「君もよく知っている女性だよ。アオイ・ハーミット嬢だ」
「……あ……お……い……」
その名を聞いた瞬間――アテナ・エトワール女史は壊れた。
「……あ……あ……あお……アオイ……が……わた……わたくし……わたくしを……」
「おや、どうした?」
「わたくしを……にど……も……こけに……っ」
「……くくくく……」
「こけ……こけっ……こけっ、こっこ……」
「くく……ははっ、あはははは……」
目をうつろにし、へたり込んだアテナを見下ろし、長耳はげらげらと笑い出した。
1時間後――長耳は電話線に機械を取り付け、ダイヤルを回した。すると機械からガリガリと音が鳴り、やがて人の声が聞こえてくる。
《ドミニオン城通信局です》
長耳は機械に備え付けられていた受話器を取り、応答した。
「白猫党党首、シエナ・チューリン閣下を呼んでくれ。ヴィッカーと言えば分かる」
《かしこまりました。少々お待ちください》
少し間を置いて、相手が出た。
《ヴィッカー博士? チューリンよ》
「お久しぶりです、閣下。4年前に『預言者』氏から命じられていた作戦が、『第二段階』に移行しました」
《そう。じゃ、すぐに準備するわ。エトワール氏は?》
「残念ながら……」
《『預言』通りってワケね。じゃ、先にあの子を送っとくわ。
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