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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第9部

    白猫夢・腐国抄 1

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    麒麟を巡る話、第449話。
    三人の登城者。

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    1.
     双月暦572年の暮れ、「エトワール病」により混乱の渦中にあったプラティノアール王国、ブローネ城に、三人の人間が現れた。
     一人は、国を傾けたその責任を逃れ、どこかへ逃亡したはずの、アテナ・エトワール女史。
    「現在起こっている国内不安を解決するべく、私は一時、央北に渡っておりました」
    「何を今更……!」
     淡々と弁解するアテナに対し、当然、ロラン国王をはじめとする首脳陣は非難の言葉を並べる。
    「これほど国を引っかき回しておいて、よくもまあ、戻って来られたものだな!
     ハーミット卿の頃と同様、貴様の裁量に一任したその結果、国民は日々の食べ物にすら困るほどの、困窮した生活を送る羽目になったのだ!
     こやつを即刻、引っ捕らえよ! 即日、縛り首にしてくれる!」
    「まあ、お待ちください、陛下」
     アテナと共に現れた長耳の工学博士、デリック・ヴィッカー氏が手を挙げる。
    「確かにお怒りはごもっともです。このまま放っておくと言うのならば、それは確かに、万死に値する行為でしょう。
     しかし現在起こっている問題を、完全に解消できる策を持参してきたのです。その案を聞いてから処分を言い渡しても、まだ間に合うのでは?
     それとも陛下、あなたご自身がこの問題に対し、積極的に介入するおつもりだったのでしょうか?」
    「……む……う」
     ヴィッカー博士がそう尋ねた途端、ロラン王は言葉を濁す。
    「いや……うむ……そうだな、聞くだけ聞いてみようではないか」
    「陛下!?」
     唖然とする閣僚たちを尻目に、アテナが話し始めた。
    「現在、央北の大部分をその統治下に置いている、白猫党と呼ばれる組織をご存知でしょうか?」
    「いや……、詳しくは知らぬ。相当強引な方法で、領土を拡大しているとしか」
    「その認識はさておき、事実として白猫党は、相当の資金と需要を有しております。そう、この国にあふれ返る工業製品を、丸ごと受け入れられる程度には」
     ヴィッカー博士の説明を、アテナが継ぐ。
    「現在、貿易におけるネックとなっている、工業製品の供給過剰を解消することができれば、当然の結果として、我が国には大量の外貨が流入し、下落傾向にあったキューの価値も回復します。
     そうなれば食糧品の輸入を円滑に行うことができ、国民の大多数が苦しんでいる食糧問題を解決することが可能です」
    「ああ……うむ……そう……か、うむ」
     明らかに理解しきっていない様子を見せたロラン王に対し、ヴィッカー博士が畳み掛ける。
    「如何でしょう、陛下? 我が白猫党と関係を結べば、国民は救われるのです。これ以上の良策は、そうは無いものと思いますが」
    「ううむ……」
     渋るロラン王に、閣僚が反対意見を述べる。
    「白猫党などの意見に耳を傾けてはなりませんぞ、陛下!」
    「彼奴らはことごとく卑怯な手段で、多数の国を乗っ取ってきた卑劣漢どもです!」
    「一度、こんな輩の侵入を許せば、我が国は骨の髄まで喰らい尽くされ、跡形も残らんでしょう!」
     と、ヴィッカー博士がそれらを遮る。
    「批判は結構。そんなものは何の利益ももたらしません。
     今、国王陛下があなた方に望まれているのは、白猫党への誹謗中傷や悪口雑言では無いはず。困窮するこの国を救う方法でしょう?
     我々と手を結ぶ以外に、この国の経済を鮮やかに復活させ、国民を貧困から救う方法をお持ちであるならば、益体もない我々への悪口など怒鳴り散らさず、それだけを陛下にお伝えすれば良いのです。陛下も二つ返事で了承されることでしょう。
     さあ、どうです? 何か良案がおありなら、どうぞ述べて下さい」
    「うぐ……」
    「ぬう……」
    「それは……」
     ヴィッカー博士の意見に、誰も言い返せない。
     場が静まり返ったところで、三人目の登城者――白猫党党首、シエナ・チューリンが口を開いた。
    「如何でしょうか? 我々と手を結び、国民を救うか。我々を排斥し、国民を見捨てるか。
     陛下、お答え下さい」
    「……他に手は無いようだ。閣僚らも黙った以上、貴君らの提案を受け入れるしかあるまい」
    「賢明なご判断を下されたこと、誠にありがたく存じます、陛下」
     シエナはロラン王に向かって、静かに、しかし会釈程度に、頭を下げた。
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