「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・腐国抄 3
麒麟を巡る話、第451話。
頑固者司令への説得。
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3.
《納得が行かんのです》
電話に出たミゲル・ロンダ司令はいきなり、シエナに食ってかかった。
《私は党支配圏内の安寧秩序を維持するために、白猫軍司令の職を拝領したつもりです。決して無用な争いを自ら起こし、戦火を広げるために就いたのではありません。
ましてや今回、西方進出を手引きしたのは、かつて央北西部戦争で非人道的兵器を開発し、多くの人間を必要以上に殺傷・殺戮(さつりく)する結果を生んだ、あのヴィッカー博士だと言うではありませんか!
私は、彼と党とは既に手を切った関係であるとそう考えて、いや、信じていたのに――まさかその裏でずっと連携を取り、あまつさえ今回の騒動を起こすべく、閣下御自らが指示していたとは!
これは私に対する、二重の裏切りに他なりません! これに対する釈明も無しに、恥知らずにも『軍を率いよ』などと仰るのであれば、私は軍司令の職を辞させていただきます!》
「そうね、……確かに、あなたには裏切りに映るでしょうね」
長年に渡って党首を務め、増上慢になっていたシエナも、自分に真っ向から噛み付いてくるロンダを容赦なく更迭することは、流石にできなかった。
何故ならロンダも党内では少なからず人気を得ており、彼をいきなり党から追放するようなことをすれば、確実に党が分裂するからである。
「でもコレは預言者の……」《例え預言者殿のお言葉としても、です!》
なだめようとするシエナに対し、ロンダはあくまで態度を崩さない。
《はっきり言わせていただきますが、私は党の方向性について、懐疑的であります!
無論、預言者殿のお言葉が遥か未来を見通した、正しき道を示すものであることは、何ら疑ってなどおりません。それに関しては、私は堅く正当性があるものと信じております。
信じられぬのは総裁閣下、あなたの言動です。その正当なる預言を牽強・曲解し、己の政治思想に都合のいいように読み替えているのではないか、と、私は少なからず疑っておるのです》
「……」
《どうかお答え下さい、閣下。どうか私があなたを信じるに足るだけの、正当性のある理由を、述べていただきたいのです。
でなければ今度という今度は、袂を分かつ所存であります》
「……落ち着いて、聞いて欲しいのよ。いいかしら?」
極めて落ち着き払ったシエナの声色に、ロンダも応じ始める。
《ええ、沈着冷静な態度で拝聴させていただきます》
「まず、あなたにデリック・ヴィッカー博士のコトをずっと秘密にしていた件。
コレは西方進出の足がかりのための極秘任務であり、最高幹部にすら伝えていなかった、アタシと預言者だけが関わっていた案件だったのよ。だからコレは、あなただけに伝えていなかったワケじゃないの」
《なるほど。しかし……》「待って。まだ続きがあるの」《……分かりました。どうぞ》
ロンダが再度黙り込んだのを確認して、シエナは説明を続ける。
「あなたにはこの案件は、アタシが西方侵略を目論んでいる何よりの証拠だと、そう思っているコトは良く分かってるわ。誰だってそう思うでしょうしね。
でも、何度も言ったけど、コレは預言者からの言葉、……いいえ、お願いだったのよ」
《『お願い』と言うのは、どう言う意味ですか?》
「そのままの意味よ。預言者は、『そうしなければ、プラティノアールは潰れてしまう』と言っていたわ。ソレは、彼女にとっては何より回避したいコトだったのよ」
《何故です?》
「プラティノアール王国は、彼女の故郷だからよ」
《……ふむ》
「あなたも覚えがあるはずよ。あなたの故郷、チェビー王国でも我が白猫党が介入する以前は、『天政会』の自分勝手な金融政策と国王自ら主導した杜撰な産業改革で、国内経済はズタズタ。内戦が起こる寸前だった。
ソレと同じコトが起こると、預言者は見抜いていた。だから故郷を守るために、何としてでも国政に介入したかったし、そのための極秘計画だったのよ。
そして今まさに、プラティノアールはかつてのチェビーになろうとしている。そしてその周辺国も、放っておけばいずれは同じ道をたどると、預言者は言っているわ」
《その根拠は?》
「政治経済の話ならアタシに聞くより、トレッドとオラースに聞いた方が早いわよ。
ともかくアタシが、いいえ、アタシたち白猫党がやろうとしているコトは、今も昔も同じよ。愚劣な権力者の下で腐りゆく国を彼らから奪い、その構造を糺(ただ)し、その下にある国民、市民を救う。アタシたちの統治の下、人民が等しく公平に生きられる社会を形成する。
コレまでもその理念で行動してきたつもりだし、コレからもその理念の下で、アタシは党を動かすつもりよ」
《……》
しばらく沈黙が続いた後、ロンダが口を開いた。
《分かりました。今一度、閣下を信じることにいたしましょう。
ですが、閣下。もしもその理念すら嘘であったその場合には、今度こそ、私は見限ります。どうか私にそんな真似をさせぬよう、清廉潔白であるよう努めていただきたい》
「言われなくても分かってるわ。それじゃ、計画が進行したらまた連絡するわね」
《了解であります。では、また》
電話が切れたところで、シエナはふーっ、とため息をついた。
「骨が折れるわね、まったく! 頑固者なんだから……」
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頑固者司令への説得。
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《納得が行かんのです》
電話に出たミゲル・ロンダ司令はいきなり、シエナに食ってかかった。
《私は党支配圏内の安寧秩序を維持するために、白猫軍司令の職を拝領したつもりです。決して無用な争いを自ら起こし、戦火を広げるために就いたのではありません。
ましてや今回、西方進出を手引きしたのは、かつて央北西部戦争で非人道的兵器を開発し、多くの人間を必要以上に殺傷・殺戮(さつりく)する結果を生んだ、あのヴィッカー博士だと言うではありませんか!
私は、彼と党とは既に手を切った関係であるとそう考えて、いや、信じていたのに――まさかその裏でずっと連携を取り、あまつさえ今回の騒動を起こすべく、閣下御自らが指示していたとは!
これは私に対する、二重の裏切りに他なりません! これに対する釈明も無しに、恥知らずにも『軍を率いよ』などと仰るのであれば、私は軍司令の職を辞させていただきます!》
「そうね、……確かに、あなたには裏切りに映るでしょうね」
長年に渡って党首を務め、増上慢になっていたシエナも、自分に真っ向から噛み付いてくるロンダを容赦なく更迭することは、流石にできなかった。
何故ならロンダも党内では少なからず人気を得ており、彼をいきなり党から追放するようなことをすれば、確実に党が分裂するからである。
「でもコレは預言者の……」《例え預言者殿のお言葉としても、です!》
なだめようとするシエナに対し、ロンダはあくまで態度を崩さない。
《はっきり言わせていただきますが、私は党の方向性について、懐疑的であります!
無論、預言者殿のお言葉が遥か未来を見通した、正しき道を示すものであることは、何ら疑ってなどおりません。それに関しては、私は堅く正当性があるものと信じております。
信じられぬのは総裁閣下、あなたの言動です。その正当なる預言を牽強・曲解し、己の政治思想に都合のいいように読み替えているのではないか、と、私は少なからず疑っておるのです》
「……」
《どうかお答え下さい、閣下。どうか私があなたを信じるに足るだけの、正当性のある理由を、述べていただきたいのです。
でなければ今度という今度は、袂を分かつ所存であります》
「……落ち着いて、聞いて欲しいのよ。いいかしら?」
極めて落ち着き払ったシエナの声色に、ロンダも応じ始める。
《ええ、沈着冷静な態度で拝聴させていただきます》
「まず、あなたにデリック・ヴィッカー博士のコトをずっと秘密にしていた件。
コレは西方進出の足がかりのための極秘任務であり、最高幹部にすら伝えていなかった、アタシと預言者だけが関わっていた案件だったのよ。だからコレは、あなただけに伝えていなかったワケじゃないの」
《なるほど。しかし……》「待って。まだ続きがあるの」《……分かりました。どうぞ》
ロンダが再度黙り込んだのを確認して、シエナは説明を続ける。
「あなたにはこの案件は、アタシが西方侵略を目論んでいる何よりの証拠だと、そう思っているコトは良く分かってるわ。誰だってそう思うでしょうしね。
でも、何度も言ったけど、コレは預言者からの言葉、……いいえ、お願いだったのよ」
《『お願い』と言うのは、どう言う意味ですか?》
「そのままの意味よ。預言者は、『そうしなければ、プラティノアールは潰れてしまう』と言っていたわ。ソレは、彼女にとっては何より回避したいコトだったのよ」
《何故です?》
「プラティノアール王国は、彼女の故郷だからよ」
《……ふむ》
「あなたも覚えがあるはずよ。あなたの故郷、チェビー王国でも我が白猫党が介入する以前は、『天政会』の自分勝手な金融政策と国王自ら主導した杜撰な産業改革で、国内経済はズタズタ。内戦が起こる寸前だった。
ソレと同じコトが起こると、預言者は見抜いていた。だから故郷を守るために、何としてでも国政に介入したかったし、そのための極秘計画だったのよ。
そして今まさに、プラティノアールはかつてのチェビーになろうとしている。そしてその周辺国も、放っておけばいずれは同じ道をたどると、預言者は言っているわ」
《その根拠は?》
「政治経済の話ならアタシに聞くより、トレッドとオラースに聞いた方が早いわよ。
ともかくアタシが、いいえ、アタシたち白猫党がやろうとしているコトは、今も昔も同じよ。愚劣な権力者の下で腐りゆく国を彼らから奪い、その構造を糺(ただ)し、その下にある国民、市民を救う。アタシたちの統治の下、人民が等しく公平に生きられる社会を形成する。
コレまでもその理念で行動してきたつもりだし、コレからもその理念の下で、アタシは党を動かすつもりよ」
《……》
しばらく沈黙が続いた後、ロンダが口を開いた。
《分かりました。今一度、閣下を信じることにいたしましょう。
ですが、閣下。もしもその理念すら嘘であったその場合には、今度こそ、私は見限ります。どうか私にそんな真似をさせぬよう、清廉潔白であるよう努めていただきたい》
「言われなくても分かってるわ。それじゃ、計画が進行したらまた連絡するわね」
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「骨が折れるわね、まったく! 頑固者なんだから……」
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