「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・腐国抄 4
麒麟を巡る話、第452話。
腐りゆく国へ。
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4.
党内の意見調整に成功し、白猫党とプラティノアール王国との貿易が開始された頃になって、シエナたち最高幹部は密かに、アテナの私邸を訪ねた。
「貿易に関しては順調、かつ、アタシたちの予想通りに進んでるわ。
王国はこの貿易に対し、関税を掛け始めた。平均80%程度の、ね」
「政府側としては仕方の無いこと、と思っているだろう。『本物の』エトワール氏が断行した各種改革の失敗は、国の構造をスカスカにし、傾かせたわけだからな。
政府も現在、以前の体制に戻そうと躍起になっている。『エトワール氏』もそれに同意した。そうだな?」
「はい」
ヴィッカー博士の横に座るアテナは、こくりとうなずく。それを見て、博士が続ける。
「しかし国内産業はご存知の通り、ほぼ壊滅状態にある。国内からカネを集めようにも、集まらないのが現状だ。
となれば活発化し始めた貿易に頼るしかない。その結果が80%の関税と言うわけだ」
「これでは国民にとっては、景気回復など露ほども実感できないでしょうな。入ってくるカネの大部分が、政府に吸い取られているわけですから。
事実、国内の各種新聞は混沌とした情勢を伝えています。貿易拡大や国内産業の業績回復を伝える一方で、失業者の増加や物価の高騰が依然として続いていることを嘆いており、国民からの投書欄にも、それに対する不満、ひいては王政に対する疑念や不信感が、ぎゅうぎゅうに詰まっています」
「この状況が何ヶ月も続けば、いずれ国民が暴動を起こすことは必至でしょう」
「と言うワケよ」
シエナはニヤっと、笑いを浮かべる。
「預言者によれば、最初の暴動は3月に起こるわ。勿論、王国はソレを鎮圧するけど、間もなく第二、第三の騒ぎが起こり、国内情勢は一気に悪くなる。
ソコでアタシたちが、国民側に加担する。アタシたちの支援によって、国民たちの暴動は王室政府を倒すクーデターへと変貌するわ。アタシたちの力添えがあれば当然、達成されるでしょうね。
後はアタシたちが、彼らに代わって支配するだけ。プラティノアール王国は、今年中に倒れるわ」
「そう言うことだ。君の責務は4、5ヶ月もすれば消える。『エトワール氏』役を演じるのは、そこで終わりだ」
「本当、助かります」
そう言ってアテナは――いや、アテナに扮した白猫党員はふう、とため息をついた。
「一応、政治経済は前もって勉強してましたけど、いつボロが出るかとヒヤヒヤしっぱなしですから」
「おまけに閣僚たちは、『エトワール氏』を諸悪の根源と扱っているからな。
主だって非難しはしないまでも、ちょっとした嫌がらせはちょくちょく受けているそうじゃないか」
「ええ。届くはずの書類が届かなかったり、命令しても無視してきたりで。
関税の件も一応、私は止めたんですけどね。みんな勝手に進めちゃってました」
「クク……、馬鹿な奴らだ。それが自分の首を締めるとも知らずにな」
ヴィッカー博士が嫌味な笑みを浮かべたところで、シエナが尋ねる。
「ちなみに『本物の』エトワール氏は今、ドコにいるの?」
「この屋敷の中に居ますよ。ただ、私に操られていたことと、預言者氏が彼女の失敗を見抜いていたことを知ったせいで発狂し、今も床に伏せっていますが、ね」
「あの人、もう『こけっ、こけっ』としかしゃべらないですよ。私や博士が何しても、まったく反応しませんし」
「あははは……、何それ、ニワトリ?」
本物のアテナの末路を聞き、シエナはゲラゲラと笑う。それを受けて、ヴィッカー博士もニヤニヤと笑って返した。
「まあ、言い得て妙ですな。
こうして『アテナ・エトワール』を別の人間が演じ、その権力を我々白猫党が掌握している以上、あの女には最早、卵を産むくらいの存在価値しかありませんからな」
「……あっそ。結構なご発言だこと」
ヴィッカー博士のこの皮肉に対しては、流石のシエナも顔をしかめていた。
「預言」と白猫党幹部陣の所見の通り、王国には次第に国民の怒りが渦巻き始め、やがて暴動が頻発し始めた。
そしてその後の展開もまた、白猫党の思惑通りとなり――双月暦573年4月、プラティノアール王室政府は、大多数の国民からの支持を得た白猫党によって、その権力を奪われることとなった。
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腐りゆく国へ。
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党内の意見調整に成功し、白猫党とプラティノアール王国との貿易が開始された頃になって、シエナたち最高幹部は密かに、アテナの私邸を訪ねた。
「貿易に関しては順調、かつ、アタシたちの予想通りに進んでるわ。
王国はこの貿易に対し、関税を掛け始めた。平均80%程度の、ね」
「政府側としては仕方の無いこと、と思っているだろう。『本物の』エトワール氏が断行した各種改革の失敗は、国の構造をスカスカにし、傾かせたわけだからな。
政府も現在、以前の体制に戻そうと躍起になっている。『エトワール氏』もそれに同意した。そうだな?」
「はい」
ヴィッカー博士の横に座るアテナは、こくりとうなずく。それを見て、博士が続ける。
「しかし国内産業はご存知の通り、ほぼ壊滅状態にある。国内からカネを集めようにも、集まらないのが現状だ。
となれば活発化し始めた貿易に頼るしかない。その結果が80%の関税と言うわけだ」
「これでは国民にとっては、景気回復など露ほども実感できないでしょうな。入ってくるカネの大部分が、政府に吸い取られているわけですから。
事実、国内の各種新聞は混沌とした情勢を伝えています。貿易拡大や国内産業の業績回復を伝える一方で、失業者の増加や物価の高騰が依然として続いていることを嘆いており、国民からの投書欄にも、それに対する不満、ひいては王政に対する疑念や不信感が、ぎゅうぎゅうに詰まっています」
「この状況が何ヶ月も続けば、いずれ国民が暴動を起こすことは必至でしょう」
「と言うワケよ」
シエナはニヤっと、笑いを浮かべる。
「預言者によれば、最初の暴動は3月に起こるわ。勿論、王国はソレを鎮圧するけど、間もなく第二、第三の騒ぎが起こり、国内情勢は一気に悪くなる。
ソコでアタシたちが、国民側に加担する。アタシたちの支援によって、国民たちの暴動は王室政府を倒すクーデターへと変貌するわ。アタシたちの力添えがあれば当然、達成されるでしょうね。
後はアタシたちが、彼らに代わって支配するだけ。プラティノアール王国は、今年中に倒れるわ」
「そう言うことだ。君の責務は4、5ヶ月もすれば消える。『エトワール氏』役を演じるのは、そこで終わりだ」
「本当、助かります」
そう言ってアテナは――いや、アテナに扮した白猫党員はふう、とため息をついた。
「一応、政治経済は前もって勉強してましたけど、いつボロが出るかとヒヤヒヤしっぱなしですから」
「おまけに閣僚たちは、『エトワール氏』を諸悪の根源と扱っているからな。
主だって非難しはしないまでも、ちょっとした嫌がらせはちょくちょく受けているそうじゃないか」
「ええ。届くはずの書類が届かなかったり、命令しても無視してきたりで。
関税の件も一応、私は止めたんですけどね。みんな勝手に進めちゃってました」
「クク……、馬鹿な奴らだ。それが自分の首を締めるとも知らずにな」
ヴィッカー博士が嫌味な笑みを浮かべたところで、シエナが尋ねる。
「ちなみに『本物の』エトワール氏は今、ドコにいるの?」
「この屋敷の中に居ますよ。ただ、私に操られていたことと、預言者氏が彼女の失敗を見抜いていたことを知ったせいで発狂し、今も床に伏せっていますが、ね」
「あの人、もう『こけっ、こけっ』としかしゃべらないですよ。私や博士が何しても、まったく反応しませんし」
「あははは……、何それ、ニワトリ?」
本物のアテナの末路を聞き、シエナはゲラゲラと笑う。それを受けて、ヴィッカー博士もニヤニヤと笑って返した。
「まあ、言い得て妙ですな。
こうして『アテナ・エトワール』を別の人間が演じ、その権力を我々白猫党が掌握している以上、あの女には最早、卵を産むくらいの存在価値しかありませんからな」
「……あっそ。結構なご発言だこと」
ヴィッカー博士のこの皮肉に対しては、流石のシエナも顔をしかめていた。
「預言」と白猫党幹部陣の所見の通り、王国には次第に国民の怒りが渦巻き始め、やがて暴動が頻発し始めた。
そしてその後の展開もまた、白猫党の思惑通りとなり――双月暦573年4月、プラティノアール王室政府は、大多数の国民からの支持を得た白猫党によって、その権力を奪われることとなった。
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