「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・腐国抄 5
麒麟を巡る話、第453話。
シエナの理想。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「国王とその一族は首都郊外に軟禁、閣僚は全員更迭して内閣解散、軍は司令部以下その全てが白猫軍の統治下――いつも通りね」
つい数日前までプラティノアール王国のものだったブローネ城で、シエナは淡々と報告を受けていた。
「一応、今回も『王国』として残しはするけれど、王族には二度と、この城に立ち入らせないコト。案の定この国の王族も、政治音痴のアホ揃いだったし」
「こうして制圧・征服する度に思うのですが……」
そう前置きし、トレッドが苦々しくこぼす。
「一体、『国王』とは何なのでしょうな? 主だって政治に介入すれば失策を繰り返し、この国のように他人任せで平然と税をむさぼる者も、少なくない。
彼らの存在意義を考えるに、私には無用のものとしか思えないのですがね」
トレッドの言葉に、シエナは肩をすくめる。
「そりゃ『新央北』のトラス王みたいに、中にはそこそこ真面目に、堅実に政治を取り仕切ってる王様ってのもいるけど、大部分は親や先祖の七光りで、玉座にあぐらかいてるってのばっかりだったわね。
……本当、そう言うのはムカつくわ」
「総裁?」
苛立った目で宙をにらみ付けるシエナに、トレッドが尋ねる。
「アタシが何故、白猫党にいるのか。あなたは知ってる?」
「いえ……? そう言えば、その辺りの経緯は存じませんな」
「ココのボンクラ国王みたいに、自分には大して実力も見識も無いクセして、玉座に偉そうにふんぞり返ってるヤツを、その玉座から蹴っ飛ばしたかったからよ。
昔のコト、あんまり話したくないけど――アタシも白猫党に入る前は、何の地位も持たない貧民だったのよ。独学で魔術の勉強して工房に入って、どうにか生計立てて、で、カネ貯めて天狐ゼミに逃げて……」「逃げて?」
トレッドが尋ね返した途端、シエナの顔に険が差す。
「そう、逃げたのよ。工房の親方から、色々ひどいコトされたからね」
シエナはスーツの袖をめくり、左腕を見せた。
「……っ」
その傷だらけの腕を見て、トレッドは口をつぐむ。
「魔術の腕はアタシの方が断然良かったから、妬まれたのよ。オマケに多少殴られたって、他に行くトコも無かったし。好き放題されても、何もやり返せなかった。
地位しか持ってないヤツが、その地位を笠に着て、何も持たないアタシを、無力な人たちを嬲り者にする――そう言うのが憎くて憎くて仕方無かった。だからアオイに白猫党への加盟を打診された時は、嬉しかった。本当に、嬉しかったわ。
だからアタシは、コレからも国を潰して回るつもりよ。ろくでもないヤツがトップに収まってる国を、ね」
「なる……ほど」
シエナの過去を聞き、トレッドは表情を硬くする。
「何故、あなたがこれほどまでに侵略を強行するのか、ようやく分かった気がします」
「……ゴメンね、変な話しちゃって」
「いえ。……私こそ、謝らなければなりません」
「え?」
トレッドは小さく頭を下げ、こう続けた。
「私は、あなたが権力を得て暴走しているのではないかと、少なからず危惧していましたが、しかし実際は理想を叶えんがため、ひたすら邁進しているだけなのですな。
失礼な考えを抱いていたこと、謝罪します」
「いいのよ。暴走って言われたら、否定しづらいトコあるし。実際、ロンダとかイビーザには、かなり迷惑かけてるもの。……後、あなたにも、大分」
照れた顔を見せたシエナに、トレッドは笑って返した。
「苦になりません。あなたに確固とした理想があり、それを達成しようとされているのなら、私はこれからも、身を粉にしてお助けしていく所存です」
「……ありがとね」
と――。
「おはよ」
「……アオイ?」
シエナたちの前に、いつの間にか葵が立っていた。
「これはアオイ嬢。お目覚めは如何ですか?」
恭しく挨拶したトレッドに、葵は目をこすりながら返す。
「ねむぃ」
その返事に、シエナはクスクスと笑う。
「あはは……、5日も寝てたクセして、まだ眠いの?」
「うん。……でも、そろそろ起きなきゃなって」
「何かある、と?」
「んーん」
ぷあ、と欠伸をしながら、葵はこう返した。
「今のところ、政治的には動きは無いよ。マチェレ王国以東も、あたしたちが何かするなんて夢にも思ってない。だから今は、しっかり準備してて大丈夫だよ。
あたし、ちょっと用事があるから、3日くらい出かけるよ」
「ほう?」
「実家にでも顔出すの?」
「そんなとこ。……じゃ、行ってくるね」
踵を返しかけた葵に、シエナが声をかける。
「ちょっと待って、アオイ」
「なに?」
「その格好で行くつもり? まだパジャマじゃない」
「あれ?」
葵は自分の着ている服をのろのろと確認し、「……あー」と声を上げた。
「とりあえず、服着替えてきなさいよ。ソレから一緒に、ご飯でも食べない?」
「……そうする」
二人のやり取りを見ていたトレッドが、ぷっと噴き出す。
「姉妹か母娘のようですな」
「みたいなもんよ。手がかからないようでかかるから、この子」
「……ふあっ」
葵は眠たそうに、また欠伸をした。
白猫夢・腐国抄 終
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シエナの理想。
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「国王とその一族は首都郊外に軟禁、閣僚は全員更迭して内閣解散、軍は司令部以下その全てが白猫軍の統治下――いつも通りね」
つい数日前までプラティノアール王国のものだったブローネ城で、シエナは淡々と報告を受けていた。
「一応、今回も『王国』として残しはするけれど、王族には二度と、この城に立ち入らせないコト。案の定この国の王族も、政治音痴のアホ揃いだったし」
「こうして制圧・征服する度に思うのですが……」
そう前置きし、トレッドが苦々しくこぼす。
「一体、『国王』とは何なのでしょうな? 主だって政治に介入すれば失策を繰り返し、この国のように他人任せで平然と税をむさぼる者も、少なくない。
彼らの存在意義を考えるに、私には無用のものとしか思えないのですがね」
トレッドの言葉に、シエナは肩をすくめる。
「そりゃ『新央北』のトラス王みたいに、中にはそこそこ真面目に、堅実に政治を取り仕切ってる王様ってのもいるけど、大部分は親や先祖の七光りで、玉座にあぐらかいてるってのばっかりだったわね。
……本当、そう言うのはムカつくわ」
「総裁?」
苛立った目で宙をにらみ付けるシエナに、トレッドが尋ねる。
「アタシが何故、白猫党にいるのか。あなたは知ってる?」
「いえ……? そう言えば、その辺りの経緯は存じませんな」
「ココのボンクラ国王みたいに、自分には大して実力も見識も無いクセして、玉座に偉そうにふんぞり返ってるヤツを、その玉座から蹴っ飛ばしたかったからよ。
昔のコト、あんまり話したくないけど――アタシも白猫党に入る前は、何の地位も持たない貧民だったのよ。独学で魔術の勉強して工房に入って、どうにか生計立てて、で、カネ貯めて天狐ゼミに逃げて……」「逃げて?」
トレッドが尋ね返した途端、シエナの顔に険が差す。
「そう、逃げたのよ。工房の親方から、色々ひどいコトされたからね」
シエナはスーツの袖をめくり、左腕を見せた。
「……っ」
その傷だらけの腕を見て、トレッドは口をつぐむ。
「魔術の腕はアタシの方が断然良かったから、妬まれたのよ。オマケに多少殴られたって、他に行くトコも無かったし。好き放題されても、何もやり返せなかった。
地位しか持ってないヤツが、その地位を笠に着て、何も持たないアタシを、無力な人たちを嬲り者にする――そう言うのが憎くて憎くて仕方無かった。だからアオイに白猫党への加盟を打診された時は、嬉しかった。本当に、嬉しかったわ。
だからアタシは、コレからも国を潰して回るつもりよ。ろくでもないヤツがトップに収まってる国を、ね」
「なる……ほど」
シエナの過去を聞き、トレッドは表情を硬くする。
「何故、あなたがこれほどまでに侵略を強行するのか、ようやく分かった気がします」
「……ゴメンね、変な話しちゃって」
「いえ。……私こそ、謝らなければなりません」
「え?」
トレッドは小さく頭を下げ、こう続けた。
「私は、あなたが権力を得て暴走しているのではないかと、少なからず危惧していましたが、しかし実際は理想を叶えんがため、ひたすら邁進しているだけなのですな。
失礼な考えを抱いていたこと、謝罪します」
「いいのよ。暴走って言われたら、否定しづらいトコあるし。実際、ロンダとかイビーザには、かなり迷惑かけてるもの。……後、あなたにも、大分」
照れた顔を見せたシエナに、トレッドは笑って返した。
「苦になりません。あなたに確固とした理想があり、それを達成しようとされているのなら、私はこれからも、身を粉にしてお助けしていく所存です」
「……ありがとね」
と――。
「おはよ」
「……アオイ?」
シエナたちの前に、いつの間にか葵が立っていた。
「これはアオイ嬢。お目覚めは如何ですか?」
恭しく挨拶したトレッドに、葵は目をこすりながら返す。
「ねむぃ」
その返事に、シエナはクスクスと笑う。
「あはは……、5日も寝てたクセして、まだ眠いの?」
「うん。……でも、そろそろ起きなきゃなって」
「何かある、と?」
「んーん」
ぷあ、と欠伸をしながら、葵はこう返した。
「今のところ、政治的には動きは無いよ。マチェレ王国以東も、あたしたちが何かするなんて夢にも思ってない。だから今は、しっかり準備してて大丈夫だよ。
あたし、ちょっと用事があるから、3日くらい出かけるよ」
「ほう?」
「実家にでも顔出すの?」
「そんなとこ。……じゃ、行ってくるね」
踵を返しかけた葵に、シエナが声をかける。
「ちょっと待って、アオイ」
「なに?」
「その格好で行くつもり? まだパジャマじゃない」
「あれ?」
葵は自分の着ている服をのろのろと確認し、「……あー」と声を上げた。
「とりあえず、服着替えてきなさいよ。ソレから一緒に、ご飯でも食べない?」
「……そうする」
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