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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第4部

    蒼天剣・世俗録 4

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    晴奈の話、第167話。
    まじゅつし こすずが なかまになった!

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    4.
     その後も小鈴から仇の日上について聞き出し、敵についておおよその事情がつかめた。

     日上風中佐、北方に帰化した央南人の孫で、虎獣人の男性。
     元は軍の諜報部で戦闘要員として活動していたが、後に軍の特殊強化訓練を経て、尉官、佐官と異例の昇格。中央政府との戦争で頭角を表し、対大火の急先鋒として活躍していると言う。
     事実、それまで誰も歯が立たなかったと言う「黒い悪魔」と互角に渡り合い、重傷を負うも大火を退かせることに成功し――小鈴によればこれは北方側の誇張であり、実際のところは大火が日上を倒したところで大火の興が冷めたらしく、そのまま「契約履行」として帰ってしまったそうだ――今や北方では、英雄として名が通っている。



    「何が英雄だ!」
     小鈴の話を聞き終えた途端、晴奈は憎々しげにつぶやいた。その様子を見た橘兄妹は顔を見合わせ、風木が尋ねる。
    「なあ、黄さん。アンタの旅の目的って、もしかして日上か?」
    「そうだ。彼奴は私の友人、エルスが持っていた剣を盗み、黄海から逃げたのだ」
    「ま、日上らしいっちゃ、らしい話ねー」
     小鈴の言葉に、風木もうなずく。
    「うんうん。日上中佐って北方じゃ英雄って言われてるけど、ぶっちゃけ大陸じゃ評判悪いもんな。
     無類の女好きで、暇さえありゃあっちこっちで口説いたり遊んだりしてるらしいし。奴が使ってる鎧にしても、ネール家から奪ったとか、言いくるめて譲り受けたとか言われてるし。
     あんまり、まともな人間じゃ無さそうだなー」
    「うーん……」
     と、小鈴は心配そうな顔で、晴奈に尋ねてくる。
    「ねー、晴奈ちゃん。もし日上に追いついたら、どーすんの?」
    「どうすると言っても……、奪い返すしか」
    「できると思う? 相手は克と張り合った実力を持ってんのよ?」
    「……うーむ。確かに問題無いとは言えません。(黒炎殿には戦わずして負けているし)ですが……」
     反論しかける晴奈を、小鈴は人差し指をピンと立てて制する。
    「勿論あたしも、晴奈ちゃんの噂は聞いてるわよ。19で焔流免許皆伝、黒炎教団との戦争でも大活躍した。すごいわ、確かにそう思う。
     でも、たった一人で立ち向かうには、あまりにも強い敵でしょ?」
    「それは、そうですが……。しかし、やらねばならぬのです」
     晴奈は強い語調で返す。
     それを聞いて、小鈴は「うんうん」と首を振る。
    「そー言うと思ったわ。良かったら、あたしが手伝ってあげるわよ。あたしもまだ、旅しようと思ってたしね」
    「本当ですか!?」
     思いもよらない小鈴の言葉に、晴奈は目を丸くした。
    「ホント、ホント。あたしもそれなりに腕には自信があるし、この杖がある限り負けたりしないわ」
     そう言って小鈴は杖をしゃらん、と鳴らす。
    「以前から思っていたのですが、その杖、相当な業物のようですね。何と言うか、強い力を感じておりました」
    「んふふ……、そりゃそうよ。この『橘果杖 鈴林』は『神器』なんだからね」
     風木も腕を組み、自慢げに首を振る。
    「橘家に伝わる家宝だ。そいつと小鈴の魔術がありゃ、並の兵士くらいじゃ相手にならん。
     ま、それに小鈴が付いてりゃ、黄さんも旅先で困ったりしないだろ。人間、そうそう『旅の賢者』や『白猫の夢』なんて言う吉兆、お導きに出会えたりしないからな」
    「賢者と、白猫……」
     脳裏にモールの憎たらしげな笑顔や、夢の中で会った「猫」の姿が蘇るが、残念ながらそれらの話については、聞く機会を逸してしまった。
    「見知らぬ土地への旅は慣れてる奴と一緒じゃないと、危険だからな。
     その点、小鈴が付いてりゃ超安心だぜ」
    「ってコトでよろしくね、晴奈ちゃん」



     その晩、晴奈は小鈴と風木の家、橘家に泊まらせてもらうことになった。
     晴奈は床に就く前、小鈴に尋ねてみた。
    「橘殿は、何故ずっと旅を?」
    「ん? まあ、この杖が理由かな」
     そう言って小鈴は、傍らに置いていた杖、「橘果杖 鈴林」を手に取った。
    「ずーっと昔にひいばあちゃんが、この杖をもらったのよ。ある人に貢献した、そのお礼ってコトで。
     この杖、さっきも言ったけどすごい杖なのよ。あたし一人じゃせいぜい、小石を飛ばすくらいしかできないけど、この杖があれば岩だって飛ばせる。
     ソレだけでも十分すごいけど、も一つこの杖だけが持つ、不思議な力があるの」
     そこで小鈴は言葉を切った。妙な間が置かれ、晴奈は困惑する。
    「橘殿?」
    「ま、持ってみて」
     橘はそれだけ言って、杖を晴奈に差し出す。晴奈は言われるがまま、杖を握ってみた。
    《……》
    「……む?」
     すると一瞬だが、声のようなものが聞こえた気がした。
    「聞こえた?」
    「は、い」
     ぎこちなくうなずく晴奈に苦笑しつつ、小鈴が続ける。
    「これが杖の、本当の力。意思を持っているのよ、杖が。
     旅好きな子でね、何年か、何十年かに一度、『連れてって』って夢に出てくんのよ。ソレを見たウチの人間が、その役目を務めるってワケ。だから、あたしは旅をしてるの。この杖を楽しませてあげるために、ね。
     あ、そうそう。実はね、この杖をくれたのは……」
     晴奈には何となく、誰がこの杖を作ったのか察していた。
     こんな「神器」を創れる人間は晴奈の知る限り、この世に一人しかいないからだ。



     晴奈は夢を見た。
     白猫の夢ではない。手首や足首に鈴を山ほど付けた、エルフの少女の夢だ。
    《こんにちはっ、晴奈》
    「こんにちは、……?」
     一体この子は誰なのだろうと考え、すぐに思い当たった。
    「杖、か?」
    《当たりっ。ちょっとだけ、話をしようと思ってねっ。
     昔、アタシを刀で思いっきし叩いたでしょっ? 痛かったんだよっ、あれっ》
    「あ」
     晴奈の脳裏に、小鈴と戦った時の記憶が蘇る。
    「そう言えばそんなことも……。大変、失礼した」
     杖はケラケラ笑い、手を振る。それに合わせて、手首の鈴がシャラシャラと鳴る。
    《まあ、謝ってもらうだけでいーよっ。これから一緒に旅するんだし、それだけ言っときたかったんだっ。
     よろしくね、晴奈っ》
     そこで目が覚め、晴奈は自然と笑みを浮かべた。
    (杖の夢、か。……ふふっ)
     笑っていると、小鈴の傍らにあった杖がちり、と鳴った。

    「それじゃ、元気でな」
    「うん、兄さんもお店、頑張ってね」
    「それでは、行って参ります」
     風木に別れを告げ、晴奈と小鈴は弧月を後にした。
     次の目的地は屏風山脈、その頂上部にある黒炎教団の総本山、黒鳥宮である。

    蒼天剣・世俗録 終

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    2016.04.14 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    私見ですが、現実の世界を鑑みるに、今日平和じゃない国や地域のほとんどは、「向こうが自分たちの考えを否定するからだ」「うちの言ってることが絶対に正しい」という、宗教や思想の相違から争うことが多いように思えます。
    それを考えると、一人だけ、一組織・団体だけが唱える「世界平和」というものは、成立し得ないんじゃないか。
    もし成立したとしても、それは組織外の人にとっては平和でもなんでもない、単なる「押し付け」ではないか、と。
    ポールさんと自分とは、どうも対極的な考え方をしているみたいですね(;´∀`)
    参考になります。

    NoTitle 

    うちのほうでは、「ローマ帝国」や「中華帝国」に範を取った文字通りの「一極的な平和」の世界からズレていった人間たちの物語を書いております。
    「平和な世界」というものがあったとしたら、それは必然的に「一極的なもの」としてしか顕現しない、と考えるところで、もしかしたらおれは帝国主義者なのかもしれん(爆)

    NoTitle 

    この話(『蒼天剣』だけじゃなく、『火紅狐』や今後の話にも関わってきますが)の根底として、「一元的な文化や文明、一極的な平和や秩序は有り得ない」というポリシーがあります。
    通貨がバラバラだったり、「世界平定」をうたう組織が衰えていくのは、その一例ですね。
    分かりにくい人には分かりにくいですが、そういう思惑があるので、今後もこだわり続けます。

    NoTitle 

    貨幣制度もつくられているんですね。
    結構びっくりですね。ファンタジーではあまりないですよね。
    その辺こだわりがあると以前おっしゃっていましたよね。
    そういうのも作ると世界観が広がりますもんね。
    ・・・まあ、ウチはバトルファンタジーなのであまり関係ないですけどね。


    グッゲンハイムは読者的分かりやすさ重視で、すべての世界をイェンで統一しておりますね。めちゃくちゃ分かりやすさ重視な貨幣制度ですけどね。
    どうも、LandMでした。
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