「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・晩秋抄 2
麒麟を巡る話、第455話。
順調な生活。
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2.
「そろそろさ」
ある日の夕食後、秋也が嬉しそうに話し始めた。
「予定額が貯まりそうなんだよ、道場開こうって言ってたヤツの」
「おめでとー、パパ」
葛はにっこりと笑い、秋也を労う。
「へへ……、ありがとな。
明日は休みだから、不動産屋行ってくるよ」
「あたしも行こっか?」
そう尋ねたベルに、秋也は「あ、いや」と返す。
「行ってすぐ買うってワケじゃないし、話して物件のメモもらうだけのつもりだから。二人で行くほどじゃねーよ」
「そっか。……たまにはデートしようかなー、なんて思ってたのに」
いたずらっぽく笑う妻に、秋也は表情をにへら、と崩す。
「まあ、そうだな。たまにはいいな。
つっても、ほら、ただメモもらうだけのために不動産屋に付き合わせるのも悪いし、だからさ、その後で合流して、……ってのはどうかな?」
「……そんなにあたしと一緒に見るの、嫌なの?」
口を尖らせたベルに、秋也は慌てて答える。
「い、いや、そうじゃなくって、……あー、何て言ったらいいかなぁ、……いや、さ。
ちょっとアレだよ、何て言うか、その、……さ、サプライズプレゼントとか用意して、驚かせようかなって、……あー、くっそ、言っちまった」
「……ぷっ」
夫の言葉に、ベルは口を押さえて笑い出した。
「あははは……。あなたって、本当に隠し事できないね」
「単純だからな」
「うふふ、ふふ……。うん、分かった、いいよ。どんなステキなプレゼント贈ってくれるのか、楽しみに待ってる」
「……おう」
照れる秋也と、嬉しそうに微笑むベルを横目で眺めながら、葛とジーナは二人に聞かれないよう、こそこそと会話を交わしていた。
「……歳考えなよー……見てるこっちが恥ずいわー……」
「いやいや、まだ若い」
「かなぁ」
その晩。
「ふあー……っ」
葛は欠伸をしながら廊下を進み、自分の部屋へ戻ろうとしていた。
(……あれ)
と、灯りの消えた居間に誰かがいるのに気付く。
「パパ?」
「うぉっ……、お、おお? 葛か?」
火術灯にほんのりと照らされた、父の驚いた顔が見える。
「どしたの? 部屋の灯り、点けたらいいのに」
「いや、もう寝ようかなって思ってたところだったし」
「何してたの?」
「ん……、いやな、コイツがなんか、気になった」
そう言って秋也は、居間に飾られた刀を指差した。
「気になった……?」
「オレも何でだか、分かんねーけどな。……そう言やお前に、コレのコト話したっけ?」
「ううん。おばーちゃんからもらったってコトくらい」
「そっか。……元々はそのばーちゃん、つまりオレのお袋が尊敬してた、楢崎って大先輩が持ってた刀らしいんだ。
で、その楢崎さんが亡くなって、お袋の手に渡ったのが519年、つまり50年以上前の話なんだ」
「50年!? もう骨董品じゃない、その刀」
「だよな。だけど……」
秋也は刀を手に取り、鞘から抜く。
「見ての通りだ。全然、キレイなんだよ。錆一つ浮いてねーし、ドコも刃こぼれしてねー。
一応、オレも手入れはしてるけど、ソレでも未だにこうして使える状態だってのは、相当不思議なんだよな」
「んー」
葛はぴん、と人差し指を立てる。
「神器ってヤツじゃない?」
「神器、か。ココまで綺麗に残ってるんなら、確かにソレっぽい気がするな。けど、お袋はそんなコト、全然言ってなかったけどなー」
「そのナラサキって人から譲り受けてたって言うなら、セイナばーちゃんも知らなかったんじゃない?」
「かもな。……ま、今度渾沌が来たら、調べてもらうかな」
「コントンさんかー。……最近、って言うか3年くらい、見てないよね?」
「言われてみれば……」
刀を元に戻しながら、秋也もいぶかしむ。
「随分会ってないな。こっちに亡命したとは言え、アイツがソレを知ったら、こっちに来るはずだろうし」
「なんかあったのかな?」
「あったかも知れねーけど……、渾沌だからなぁ。例え街が一つ引っくり返るような事件があっても、ひょいっとかわして戻ってきそうなもんだけど」
「だよねー」
二人でクスクスと笑い合い、葛がぱたぱた、と手を振った。
「じゃ、あたしそろそろ寝るね。おやすみー」
「おう。おやすみ、葛」
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順調な生活。
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「そろそろさ」
ある日の夕食後、秋也が嬉しそうに話し始めた。
「予定額が貯まりそうなんだよ、道場開こうって言ってたヤツの」
「おめでとー、パパ」
葛はにっこりと笑い、秋也を労う。
「へへ……、ありがとな。
明日は休みだから、不動産屋行ってくるよ」
「あたしも行こっか?」
そう尋ねたベルに、秋也は「あ、いや」と返す。
「行ってすぐ買うってワケじゃないし、話して物件のメモもらうだけのつもりだから。二人で行くほどじゃねーよ」
「そっか。……たまにはデートしようかなー、なんて思ってたのに」
いたずらっぽく笑う妻に、秋也は表情をにへら、と崩す。
「まあ、そうだな。たまにはいいな。
つっても、ほら、ただメモもらうだけのために不動産屋に付き合わせるのも悪いし、だからさ、その後で合流して、……ってのはどうかな?」
「……そんなにあたしと一緒に見るの、嫌なの?」
口を尖らせたベルに、秋也は慌てて答える。
「い、いや、そうじゃなくって、……あー、何て言ったらいいかなぁ、……いや、さ。
ちょっとアレだよ、何て言うか、その、……さ、サプライズプレゼントとか用意して、驚かせようかなって、……あー、くっそ、言っちまった」
「……ぷっ」
夫の言葉に、ベルは口を押さえて笑い出した。
「あははは……。あなたって、本当に隠し事できないね」
「単純だからな」
「うふふ、ふふ……。うん、分かった、いいよ。どんなステキなプレゼント贈ってくれるのか、楽しみに待ってる」
「……おう」
照れる秋也と、嬉しそうに微笑むベルを横目で眺めながら、葛とジーナは二人に聞かれないよう、こそこそと会話を交わしていた。
「……歳考えなよー……見てるこっちが恥ずいわー……」
「いやいや、まだ若い」
「かなぁ」
その晩。
「ふあー……っ」
葛は欠伸をしながら廊下を進み、自分の部屋へ戻ろうとしていた。
(……あれ)
と、灯りの消えた居間に誰かがいるのに気付く。
「パパ?」
「うぉっ……、お、おお? 葛か?」
火術灯にほんのりと照らされた、父の驚いた顔が見える。
「どしたの? 部屋の灯り、点けたらいいのに」
「いや、もう寝ようかなって思ってたところだったし」
「何してたの?」
「ん……、いやな、コイツがなんか、気になった」
そう言って秋也は、居間に飾られた刀を指差した。
「気になった……?」
「オレも何でだか、分かんねーけどな。……そう言やお前に、コレのコト話したっけ?」
「ううん。おばーちゃんからもらったってコトくらい」
「そっか。……元々はそのばーちゃん、つまりオレのお袋が尊敬してた、楢崎って大先輩が持ってた刀らしいんだ。
で、その楢崎さんが亡くなって、お袋の手に渡ったのが519年、つまり50年以上前の話なんだ」
「50年!? もう骨董品じゃない、その刀」
「だよな。だけど……」
秋也は刀を手に取り、鞘から抜く。
「見ての通りだ。全然、キレイなんだよ。錆一つ浮いてねーし、ドコも刃こぼれしてねー。
一応、オレも手入れはしてるけど、ソレでも未だにこうして使える状態だってのは、相当不思議なんだよな」
「んー」
葛はぴん、と人差し指を立てる。
「神器ってヤツじゃない?」
「神器、か。ココまで綺麗に残ってるんなら、確かにソレっぽい気がするな。けど、お袋はそんなコト、全然言ってなかったけどなー」
「そのナラサキって人から譲り受けてたって言うなら、セイナばーちゃんも知らなかったんじゃない?」
「かもな。……ま、今度渾沌が来たら、調べてもらうかな」
「コントンさんかー。……最近、って言うか3年くらい、見てないよね?」
「言われてみれば……」
刀を元に戻しながら、秋也もいぶかしむ。
「随分会ってないな。こっちに亡命したとは言え、アイツがソレを知ったら、こっちに来るはずだろうし」
「なんかあったのかな?」
「あったかも知れねーけど……、渾沌だからなぁ。例え街が一つ引っくり返るような事件があっても、ひょいっとかわして戻ってきそうなもんだけど」
「だよねー」
二人でクスクスと笑い合い、葛がぱたぱた、と手を振った。
「じゃ、あたしそろそろ寝るね。おやすみー」
「おう。おやすみ、葛」
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今日の旅岡さん

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NoTitle
サブタイといい、会話といい、「死亡フラグ」が立ちまくっていて読むのがつらいんですけど……(^^;)
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