「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・晩秋抄 3
麒麟を巡る話、第456話。
壊れる日常。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
翌日、昼前。
秋也は上機嫌で、街を歩いていた。
(へっへー……。今日はマジ、ツイてるな)
まず、不動産屋で予算より大分安い値で、物件を提示されたこと。
元々の持ち主が早々に処分したいと申し出たため、値が下げられたのだ。当然、秋也はこの提案に乗り、物件を購入した。
さらに幸運だったのが、プレゼントを買いに寄った店で、1万人目の来店者として祝されたことだ。
その特典として、買おうと思っていたプレゼントを無料で手に入れることができたため、秋也は今、プレゼントと余った金、約100万キューをその懐に収めていた。
(こんなに幸運が続くなんてな~。
ま、金はちゃんと貯金に回しとくか。今、特に使うようなコトも無いし。……あー、いや、待てよ。一応道場で使う竹刀とか防具とかは予算に入れてるけど、何人来るか分かんねーしな。多少予算オーバーしちまうかも知れない。ソレか、全然人が集まらなくて赤字になるか。
いやいや、アホなコト考えんな、オレ。プラティノアールでも割と盛況だったんだから、こっちでも入門者は一杯いるさ、……多分)
最も大きい買い物と、最も重要な買い物を済ませた秋也の心は既に、明日のことへと向いている。
心が浮ついていることに自分でも気付き、秋也は軽く、ふるふると頭を振る。
(その前に、だ。とりあえず、ベルとデートだな。ドコ行こうかなー……)
秋也は懐に収めたプレゼント――ベルが以前に「かわいい」と評していた、ルビーのおごられた指輪をコートの上から撫で、微笑んでいた。
その微笑みが凍りついたのは、前方から歩いてくる、緑髪の猫獣人の姿を確認した瞬間だった。
「……え?」
すれ違った瞬間、秋也の心の中に様々な疑問と、そして直感が湧き上がる。
(今のは……見覚えあるぞ……え……いや……まさか……まさか!?)
疑問が彼を立ち止まらせ、そして直感が、彼を大きくのけぞらせた。
「うおっ!?」
のけぞったその瞬間、彼の鼻先をひゅん、と刃が通り抜ける。
(……っぶねえッ! おい、お前なんで、オレを攻撃するんだ!? なんで何も言わねーんだよッ!?)
秋也はのけぞった状態からそのまま後方に倒れて手を付き、ぐるんと一回転して着地する。
「てめっ……、このッ!」
秋也は怒りに任せ、猫獣人の肩をつかもうと手を伸ばす。
だが、その瞬間には既に、猫獣人の姿はどこにも無かった。
「……葵……ッ」
帰宅した秋也に、ベルは明るく声をかける。
「おっかえりー、シュウヤ! ね、ね、道場はどう……」「悪い」
それに対し、秋也は――自分でも驚くほど――凍てついた声で返した。
「……シュウヤ?」
「ちょっと、……用事が、できた。悪いけど、デートはもうちょっと待っててくれ。すぐ、帰ってくるから、……さ」
「う、うん? 待つけど、どれくらいかかるの?」
ベルの問いに、秋也は一瞬黙り込み、ぼそ、と返した。
「……すぐ、だよ」
秋也はそのまま居間へ入り、そして刀を持ち出して、家を飛び出した。
それから20分ほど後、秋也は郊外にたどり着いた。
「……」
そこに、彼女は静かに佇んでいた。
「葵」
呼びかけた秋也に、葵はくる、と振り返る。
「久しぶり」
「久しぶり、……じゃねーだろうが」
秋也は急いで佩いた刀に、右手をかける。
「どう言うつもりだ? 街中でいきなり、オレに斬りかかりやがって」
「その答えはもう、知ってるんじゃない?」
「知らねーよ」
そう答えてはみたが、実際は、秋也には心当たりがあった。
秋也の返答に何も言わない葵に、秋也はしびれを切らし、その心当たりを口に出す。
「チッ、……白猫だな」
「そう」
葵が刀を抜く。
「あの方に、命じられた。パパ――あなたを、狙えと」
「アホか」
秋也も刀を抜き、構える。
「そんなバカみてーな命令、白猫を一発ブン殴って、断りゃいいんだよ」
「パパはそうしたけど、あたしにはできない」
「やりゃいいじゃねーか」
「あたしがそれをやったら、今度は誰が不幸になると思う?」
「は?」
葵も刀を構え、秋也と対峙した。
「パパはあの方からの命令に背いた。そしてあたしが、その代わりに選ばれた。
じゃああたしがあの方を裏切ったら、誰があたしとパパの代わりに選ばれると思う?」
「……なにを」
秋也の返答を聞かず、葵は秋也に襲いかかった。
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3.
翌日、昼前。
秋也は上機嫌で、街を歩いていた。
(へっへー……。今日はマジ、ツイてるな)
まず、不動産屋で予算より大分安い値で、物件を提示されたこと。
元々の持ち主が早々に処分したいと申し出たため、値が下げられたのだ。当然、秋也はこの提案に乗り、物件を購入した。
さらに幸運だったのが、プレゼントを買いに寄った店で、1万人目の来店者として祝されたことだ。
その特典として、買おうと思っていたプレゼントを無料で手に入れることができたため、秋也は今、プレゼントと余った金、約100万キューをその懐に収めていた。
(こんなに幸運が続くなんてな~。
ま、金はちゃんと貯金に回しとくか。今、特に使うようなコトも無いし。……あー、いや、待てよ。一応道場で使う竹刀とか防具とかは予算に入れてるけど、何人来るか分かんねーしな。多少予算オーバーしちまうかも知れない。ソレか、全然人が集まらなくて赤字になるか。
いやいや、アホなコト考えんな、オレ。プラティノアールでも割と盛況だったんだから、こっちでも入門者は一杯いるさ、……多分)
最も大きい買い物と、最も重要な買い物を済ませた秋也の心は既に、明日のことへと向いている。
心が浮ついていることに自分でも気付き、秋也は軽く、ふるふると頭を振る。
(その前に、だ。とりあえず、ベルとデートだな。ドコ行こうかなー……)
秋也は懐に収めたプレゼント――ベルが以前に「かわいい」と評していた、ルビーのおごられた指輪をコートの上から撫で、微笑んでいた。
その微笑みが凍りついたのは、前方から歩いてくる、緑髪の猫獣人の姿を確認した瞬間だった。
「……え?」
すれ違った瞬間、秋也の心の中に様々な疑問と、そして直感が湧き上がる。
(今のは……見覚えあるぞ……え……いや……まさか……まさか!?)
疑問が彼を立ち止まらせ、そして直感が、彼を大きくのけぞらせた。
「うおっ!?」
のけぞったその瞬間、彼の鼻先をひゅん、と刃が通り抜ける。
(……っぶねえッ! おい、お前なんで、オレを攻撃するんだ!? なんで何も言わねーんだよッ!?)
秋也はのけぞった状態からそのまま後方に倒れて手を付き、ぐるんと一回転して着地する。
「てめっ……、このッ!」
秋也は怒りに任せ、猫獣人の肩をつかもうと手を伸ばす。
だが、その瞬間には既に、猫獣人の姿はどこにも無かった。
「……葵……ッ」
帰宅した秋也に、ベルは明るく声をかける。
「おっかえりー、シュウヤ! ね、ね、道場はどう……」「悪い」
それに対し、秋也は――自分でも驚くほど――凍てついた声で返した。
「……シュウヤ?」
「ちょっと、……用事が、できた。悪いけど、デートはもうちょっと待っててくれ。すぐ、帰ってくるから、……さ」
「う、うん? 待つけど、どれくらいかかるの?」
ベルの問いに、秋也は一瞬黙り込み、ぼそ、と返した。
「……すぐ、だよ」
秋也はそのまま居間へ入り、そして刀を持ち出して、家を飛び出した。
それから20分ほど後、秋也は郊外にたどり着いた。
「……」
そこに、彼女は静かに佇んでいた。
「葵」
呼びかけた秋也に、葵はくる、と振り返る。
「久しぶり」
「久しぶり、……じゃねーだろうが」
秋也は急いで佩いた刀に、右手をかける。
「どう言うつもりだ? 街中でいきなり、オレに斬りかかりやがって」
「その答えはもう、知ってるんじゃない?」
「知らねーよ」
そう答えてはみたが、実際は、秋也には心当たりがあった。
秋也の返答に何も言わない葵に、秋也はしびれを切らし、その心当たりを口に出す。
「チッ、……白猫だな」
「そう」
葵が刀を抜く。
「あの方に、命じられた。パパ――あなたを、狙えと」
「アホか」
秋也も刀を抜き、構える。
「そんなバカみてーな命令、白猫を一発ブン殴って、断りゃいいんだよ」
「パパはそうしたけど、あたしにはできない」
「やりゃいいじゃねーか」
「あたしがそれをやったら、今度は誰が不幸になると思う?」
「は?」
葵も刀を構え、秋也と対峙した。
「パパはあの方からの命令に背いた。そしてあたしが、その代わりに選ばれた。
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秋也の返答を聞かず、葵は秋也に襲いかかった。
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NoTitle
背いたらターゲットにされるのは葛ちゃんだったということですか。そりゃー葵ちゃんもいうこと聞きますわなあ……。
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NoTitle
親譲りの無鉄砲さがありますからね……。