「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・晩秋抄 4
麒麟を巡る話、第457話。
秋也と葵、父娘対決。
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4.
ひゅん、と音を立てて向かってきた刃をかわし、秋也は刀の峰で葵の脇腹を叩く。
「……っ」
わずかながら、葵が息を詰まらせるのが聞こえる。
「なめんなよ」
秋也は葵との距離を取り、淡々と声をかける。
「お前は確かに、オレの道場じゃ一番だったし、アレから10年は経ってるから、さらに腕を上げただろうな。
だがソレでもバカ娘の初太刀を見切って隙を突くくらい、ワケねーよ。オレは何十年も剣士やってんだ。年季が違うぜ」
「……」
葵は叩かれた右脇腹を軽くさすりながら、秋也をうっすらとにらむ。
「本当に、パパは変わらないね」
「あん?」
「自分勝手。乱暴。人のこと、すぐバカって言う。自分が気に食わないもの、全部バカだって思ってるでしょ」
「なワケねーだろ」
「ううん、そう。あの方のこともパパは大嫌いだったし、だからバカにしてた」
「実際、バカだからだよ。アイツは自分が世界のカミサマだと勘違いしてた。そんなもん、バカ以外の何でもねーだろ?」
「了見が狭いよ。未来を見通せるってことは、そのまま、未来の知識を持ってるってことだよ。
いくらでも未来のことが分かるなら、それは、無限の知識を持ってるってことだよ」
「オレの考えは違うな。未来が分かるってコトは、その未来に縛られるってコトだ。
もしかしたら自分の妄想かも知れねー『予知した未来』なんてモノを頭っから信じきって、他のコト、他の可能性を考えようともしない。
オレに言わせりゃ、そっちの方が了見が狭いってもんだ」
「未来が間違いなく本物だったら? それ以外を考えるのは無駄じゃないの?」
「じゃあ逆に聞くぜ。その未来を選ぶのは誰だ? 選ばなきゃ、その未来はやって来ねーだろ?
第一、お前がここに来なきゃ、オレが死ぬなんて予知は実現しないんじゃないのか?」
「予知じゃない。これは、実際に今日、起こることだよ。
ううん、あたしが起こす」
葵は刀を構え直し、秋也との距離を詰める。
「あたしの予知では、パパが死ぬのは4割。死なないまでも、剣士として生きられなくなるのは6割。それ以外の未来は、今のところ見えない」
「ご大層なお言葉、ありがとよ。だけどオレは、予知なんてもんは白猫をブン殴った時から信じねーコトにしてるんだよ」
秋也も刀を正眼に構え、にじり寄る。
「予知なんて結局、今現在の自分の行動で、どうとでも覆せるんだよ。
明日散歩に出た時に犬に噛まれるって分かってりゃ、誰も散歩なんかしねーだろ? じゃあ予知は外れるってコトだ。
葵、お前も未来だの何だの言う前に、今この時、自分が何しようとしてんのか、ちゃんと把握しろよ」
次の瞬間、秋也が一気に葵に迫る。
「いつまで寝ぼけてやがるんだッ!」
「もう起きてるよ」
秋也の一撃を、葵はぎりぎりで受け止め、横にいなす。
「っ……」
秋也は体勢を崩してよろけ、葵の脇にそれる。
わずかに下がった秋也の頭を、葵は刀の柄で殴りつけた。
「うぐっ……」
鋭い痛みを覚え、秋也の視界がかすむ。その一瞬の隙に、葵が刀を振り下ろす。
しかし秋也は痛みをこらえ、自分から体勢を大きく崩し、ごろっと転がって避けた。
「痛ってえなぁ、くそっ」
「目、覚めた?」
「意趣返しのつもりか? 元から覚めてるっつの」
フラフラと立ち上がった秋也の額から、つつ……、と血が滴る。
「ふー……。でも、まあ、そうだな、お前の言う通りだった。
確かにちっと寝ボケてたな、オレ。平和過ぎて忘れてたぜ、こーゆー戦いを」
秋也は大きく深呼吸し、刀を一旦、鞘に納める。
「本気出してやるよ。大先生直伝の、居合い斬りだ」
「……」
葵はとん、と後方に跳んで距離を取り、刀を正眼に構える。
「いいよ。やって」
「言ったな」
秋也の姿が、その場から消えた。
そして次の瞬間――葵は刀を弾き飛ばされ、数メートルほど転がっていった。
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秋也と葵、父娘対決。
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ひゅん、と音を立てて向かってきた刃をかわし、秋也は刀の峰で葵の脇腹を叩く。
「……っ」
わずかながら、葵が息を詰まらせるのが聞こえる。
「なめんなよ」
秋也は葵との距離を取り、淡々と声をかける。
「お前は確かに、オレの道場じゃ一番だったし、アレから10年は経ってるから、さらに腕を上げただろうな。
だがソレでもバカ娘の初太刀を見切って隙を突くくらい、ワケねーよ。オレは何十年も剣士やってんだ。年季が違うぜ」
「……」
葵は叩かれた右脇腹を軽くさすりながら、秋也をうっすらとにらむ。
「本当に、パパは変わらないね」
「あん?」
「自分勝手。乱暴。人のこと、すぐバカって言う。自分が気に食わないもの、全部バカだって思ってるでしょ」
「なワケねーだろ」
「ううん、そう。あの方のこともパパは大嫌いだったし、だからバカにしてた」
「実際、バカだからだよ。アイツは自分が世界のカミサマだと勘違いしてた。そんなもん、バカ以外の何でもねーだろ?」
「了見が狭いよ。未来を見通せるってことは、そのまま、未来の知識を持ってるってことだよ。
いくらでも未来のことが分かるなら、それは、無限の知識を持ってるってことだよ」
「オレの考えは違うな。未来が分かるってコトは、その未来に縛られるってコトだ。
もしかしたら自分の妄想かも知れねー『予知した未来』なんてモノを頭っから信じきって、他のコト、他の可能性を考えようともしない。
オレに言わせりゃ、そっちの方が了見が狭いってもんだ」
「未来が間違いなく本物だったら? それ以外を考えるのは無駄じゃないの?」
「じゃあ逆に聞くぜ。その未来を選ぶのは誰だ? 選ばなきゃ、その未来はやって来ねーだろ?
第一、お前がここに来なきゃ、オレが死ぬなんて予知は実現しないんじゃないのか?」
「予知じゃない。これは、実際に今日、起こることだよ。
ううん、あたしが起こす」
葵は刀を構え直し、秋也との距離を詰める。
「あたしの予知では、パパが死ぬのは4割。死なないまでも、剣士として生きられなくなるのは6割。それ以外の未来は、今のところ見えない」
「ご大層なお言葉、ありがとよ。だけどオレは、予知なんてもんは白猫をブン殴った時から信じねーコトにしてるんだよ」
秋也も刀を正眼に構え、にじり寄る。
「予知なんて結局、今現在の自分の行動で、どうとでも覆せるんだよ。
明日散歩に出た時に犬に噛まれるって分かってりゃ、誰も散歩なんかしねーだろ? じゃあ予知は外れるってコトだ。
葵、お前も未来だの何だの言う前に、今この時、自分が何しようとしてんのか、ちゃんと把握しろよ」
次の瞬間、秋也が一気に葵に迫る。
「いつまで寝ぼけてやがるんだッ!」
「もう起きてるよ」
秋也の一撃を、葵はぎりぎりで受け止め、横にいなす。
「っ……」
秋也は体勢を崩してよろけ、葵の脇にそれる。
わずかに下がった秋也の頭を、葵は刀の柄で殴りつけた。
「うぐっ……」
鋭い痛みを覚え、秋也の視界がかすむ。その一瞬の隙に、葵が刀を振り下ろす。
しかし秋也は痛みをこらえ、自分から体勢を大きく崩し、ごろっと転がって避けた。
「痛ってえなぁ、くそっ」
「目、覚めた?」
「意趣返しのつもりか? 元から覚めてるっつの」
フラフラと立ち上がった秋也の額から、つつ……、と血が滴る。
「ふー……。でも、まあ、そうだな、お前の言う通りだった。
確かにちっと寝ボケてたな、オレ。平和過ぎて忘れてたぜ、こーゆー戦いを」
秋也は大きく深呼吸し、刀を一旦、鞘に納める。
「本気出してやるよ。大先生直伝の、居合い斬りだ」
「……」
葵はとん、と後方に跳んで距離を取り、刀を正眼に構える。
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今日の旅岡さん

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- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
~ Comment ~
……というやりとりを予知して自分でもその通りに発言し動くから、世界は結局その予知通りになる、と考える業の深い決定論者。(^_^;)
というか、未来の確率が何割、と発言している時点で、それは予知じゃないだろ、現在の状況をもとにした高度な推測にすぎないだろ、無限の時間が与えられていれば、原理的には誰にでもできることだろ、白猫に騙されてるぞ葵ちゃん目を覚ませ、と考えてしまう業がとてもとても深い決定論者。(笑)
というか、未来の確率が何割、と発言している時点で、それは予知じゃないだろ、現在の状況をもとにした高度な推測にすぎないだろ、無限の時間が与えられていれば、原理的には誰にでもできることだろ、白猫に騙されてるぞ葵ちゃん目を覚ませ、と考えてしまう業がとてもとても深い決定論者。(笑)
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NoTitle
その点においては決定論的と言えるかもしれません。
後々の話で語りますが、麒麟はもしかしたら、
自分の予知を葵ほどには信じていない、……かも。