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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第9部

    白猫夢・晩秋抄 5

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    麒麟を巡る話、第458話。
    葵の黄家仮説。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     再びその場に現れた秋也は、大きく一息をつく。
    「ふー……っ」
     もう一度刀を納め、遠くに転がったままの葵を眺めて、声をかけた。
    「葵、どうだ? 今度こそ、目ぇ醒めただろ?」
    「……」
     葵は答えない。
    「お前がこの10年、何してたかなんて聞かねー。そんなコト、オレにはどうでもいいしな。……戻ってこいよ、葵。また母さんと葛に、顔見せてやれよ」
    「ううん」
     何事も無かったかのように、葵が起き上がる。
     しかし秋也と同様、葵も頭から血を流しており、まったく無事と言うわけでは無いらしい。
    「あたしにはやるべきことがある。それまで、あたしに帰る場所は無いよ」
    「何べんも言わせんな。んなもん放っぽって、帰ってくればいいんだよ」
    「堂々巡りだね、話が」
     葵は鞘を手に取り、構えて見せる。
    「まだやる気か?」
    「ちょっと、試しにね」
    「あん?」
     葵の言わんとすることが分からず、秋也は首を傾げた。

     直後――今度は秋也の方が、弾き飛ばされた。
    「ぐっ……!?」
     どうやら、葵が刀の鞘を使い、居合い斬りを放ったらしい。
    (マジかよ……!? 一瞬だったが、今の太刀筋――まんま、オレのじゃねーかッ!)
     どうにか体勢を立て直し、秋也は刀を抜こうとする。
     だが、腰に当てた右手が、刀の柄を捕まえられない。そこでようやく、秋也は刀が鞘に無いこと、そしてその刀を、葵が構えていることに気付いた。
    「なんであたしが、パパのとこに来たと思う?」
    「あ……?」
     動揺を隠そうと、秋也は声を作ってごまかそうとする。
     しかしそれも、葵には見通されていたらしい。
    「分からない? あたしは、パパの技が欲しかった」
    「……だから、わざとオレの前に姿を見せたと? だから、わざとオレを挑発して、オレの奥義を見て、……覚えたって言うのか」
    「うん」
     葵は刀を右手一本で上げ、ぼそ、とつぶやいた。
    「これ、返しとくね」
     ひゅっ、と音を立て、葵は刀を投げ付けた。
    「……がは……っ……」
     秋也の胸に、刀が突き刺さる。
    「あ……お……い……っ」
     秋也は立ちすくんでいたが、やがて仰向けに倒れた。



    「仮説だけど」
     秋也が動かなくなったのを確認して、葵はまた、ぼそぼそとしゃべりだした。
    「パパの血筋――コウ家の血筋だけど、ばーちゃんの代くらいから、変な伝説があるよね」
    「……」
    「セイナばーちゃんは央北の事件で一回殺されたけど復活して、殺した相手を返り討ちにしたって。
     パパもトッドレール皇帝僭称事件でトッドレールに殺されかけたけど、いつの間にか傷一つ無くなってて、逆にトッドレールを討ったって。
     おかしいって、思わない? 死んだはずの人、死にそうな人が、いつの間にか復活してるなんて。自分を簡単に殺すような相手を、ほんの数分で返り討ちにしてしまえるなんて。
     あたしはこう考えてる――コウ家の血筋には、並外れた『超回復力』と『適応能力』があるんじゃないか、って」
     葵は独り言のようにしゃべりながら歩き出し、遠くに飛んで行った自分の刀を取る。
    「死ぬほどのダメージを受けても、到底敵わない相手に相見えても、それらをすべて克服し、乗り越える力。それこそがコウ家が二代に渡って英雄になれた、その大きな理由。
     ……3分も時間をあげたんだから、もうそろそろ、復活するでしょ? この3分間、パパは死の淵で葛藤してたはずだよね。『こんなトコで死んでたまるかッ』とか、『このバカ娘め、いっぺん説教してやるッ』とか、そんなこと考えてたでしょ?
     それとも、もう諦める? あたしに負けて死んで、それでパパの人生、満足?」
     葵が刀を納めたところで、秋也の声が弱々しくながらも、聞こえてくる。
    「……な……ワケ……」
     自分で胸に刺さった刀を抜き、秋也が上半身を起こした。
    「ねえ……だろが……ッ」
    「やっぱり」
     葵は再び、刀を抜いた。
    「仮説は実証されたね。やっぱりあたしたちの血筋には、その力がある。
     で、これはあたしの仮説の延長だけど、いくら死ぬ寸前から一気に回復できる力があったとしても、二度も耐えられると思う? 今度あたしが致命傷を負わせたら、流石に耐えられないんじゃないかな。
     その実証にも、協力してくれるの?」
    「するかよ」
     秋也は立ち上がり、自分の血で濡れた刀を構えた。
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