「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第9部
白猫夢・晩秋抄 6
麒麟を巡る話、第459話。
終わりと、始まり。
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6.
立ち上がったとは言え、秋也の顔色は未だ、悪い。やや浅黒かった肌は、今は異様に青白く染まっている。
「真っ青だね。立ってるのもやっと、……じゃないよね。
多分体が、急速に回復してきてるから、かな。今、パパの体は体力と魔力を目一杯使ってる。エネルギー的なものがいっぺん、全部空になるくらいに。
だから本当に仕留めるのは、今。もう一回立ち上がるチャンスを無くした、今しか無い」
「ゴチャゴチャうるせえええッ!」
一転、秋也の顔色に、急速に紅が差していく。葵の言う回復に加え、秋也の怒りが相乗されているのだろう。
「いい加減にしやがれ、葵いいいいッ!」
先程より数段早く、秋也が跳ぶ。
その瞬間、ぼんやりとしていた葵がわずかに、表情を強張らせた。
「……!」
ガキン、と金属音を響かせ、秋也と葵の刀が交錯する。
しかしどこにも、秋也の姿が無い。
「……ちょっとやりすぎたかな」
葵は後方に跳びつつ、周囲を警戒する。再度放たれた斬撃を受け、葵は呪文を唱えた。
「『エアリアル』」
葵は風をまとい、上空高く飛び上がる。
「『星剣舞』。パパは完全に習得できたわけじゃないって言ってたけど、今、本当にギリギリだからかな。ほとんど無意識で『星剣舞』を発動させて、駆け回ってるっぽい。
でも、本当に完全じゃないみたいだね。……見切った」
葵は空中で刀を構え、ぐるんと縦回転しながら地上に降りた。
「やっ」
「……ッ!?」
地表が裂け、血しぶきが飛ぶ。
秋也は再び姿を表し、血塗れで転がっていった。
「……ぐ……うっ……」
秋也は左肩を抑え、荒い息を立てている。
「完全には捉えられなかったけど、肩はやったみたいだね。それに、超回復から全力で動き回ってたから、体力は今度こそ空っぽ。もう一歩も動けないでしょ?」
「……っ……ざけんなっ……」
秋也の強がった言葉も弱々しい声のために、ほとんど聞こえない。
「とどめ刺そうか? 放っておこうか?
どっちにしても、パパはもう、完全に負ける。剣士としての人生は、ここで終わる。
娘に、完膚なきまでに負けたあなたを、誰が剣士として尊敬するかな?」
「……っ……の……」
「何よりパパ自身の心が、もう折れてる。もうこれで、終わりだよ」
「……」
辛うじて上半身を起こしていた秋也はやがて、ばたりと倒れた。
葵は刀を納め、くるりと振り返る。
「カズラ。いるんでしょ」
「……」
木の陰から、葛が姿を表す。
「見てた?」
「……見てた」
「あたしのこと、許せないって思ってる?」
「思ってるよ」
「だよね。でも、あたしと戦おうと思わないで。戦えば、あんたはパパと同じ目に、ううん、それ以上の痛い目に遭う。死ぬかも知れない。
だから、そこから動かないで」
葵の言葉に構わず、葛は木の陰から飛び出し、秋也の側に駆け寄る。
「パパ、大丈夫?」
「……」
秋也は空を見つめ、何も答えない。
「借りるね、刀」
「……」
葛は秋也の手から刀を取り、葵に向けて構える。
「バカにしないでよ」
「バカになんか、してない。本当にそうなる、って言ってるの」
「ソレがバカにしてるって言ってるのよ!」
葛は怒りに満ちた声で、葵に叫ぶ。
「ドコからどう見ても、バカにしてるじゃない!
パパを散々いたぶって、あんなひどいコト言って! その上あたしと戦えば死ぬ? お姉ちゃんが殺すんじゃない!」
「そう。だから、させないで」
「パパも言ってたでしょ!? お姉ちゃんがココからいなくなれば、そんなコトなんか絶対起こらないはずだった!
ソレを実際にやったのは他でもない、お姉ちゃんじゃないの! こんなひどいコトをしたのは他の誰でもない――アンタだーッ!」
「……っ」
葵の顔が、ほんのわずかだが強張る。
「カズラ……」「もう何も言うな! アンタは、あたしの手で仕留めてやるッ!」
葛は刀を振り上げ、葵に向かって駆け出した。
だが、次の瞬間――葛の目の前が、真っ白に染まった。
「なに……っ!?」
「ソコまでだ」
光の中から、何者かが声をかけてくる。
「葵。オレに勝てると思うのか?」
「……」
「いいや、その未来が見えるか? 見えねーだろう? じゃあ退いとけ」
葵は答えない。いや、息づかいや衣ずれの音もしない――どうやら既に、逃げたらしい。
「葛、……だっけ?」
光が弱まっていく。
現れたのは、黒髪に黒い肌、そして黒衣と黒い帽子をまとった、短耳の少女だった。
「そうだけど、……誰?」
きょとんとしつつ尋ねた葛に対し、黒衣の少女はパチ、とウインクして返した。
「おっと、こりゃ失礼。
申し遅れたな、オレはカズセ・タチバナって者だ。ちっと手を貸してもらいてーコトがある。勿論、ソレだけの見返りはさせてもらうが、な」
「カズセ、ちゃん?」
葛は面食らいつつも、その少女――一聖に応じた。
白猫夢・晩秋抄 終
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終わりと、始まり。
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6.
立ち上がったとは言え、秋也の顔色は未だ、悪い。やや浅黒かった肌は、今は異様に青白く染まっている。
「真っ青だね。立ってるのもやっと、……じゃないよね。
多分体が、急速に回復してきてるから、かな。今、パパの体は体力と魔力を目一杯使ってる。エネルギー的なものがいっぺん、全部空になるくらいに。
だから本当に仕留めるのは、今。もう一回立ち上がるチャンスを無くした、今しか無い」
「ゴチャゴチャうるせえええッ!」
一転、秋也の顔色に、急速に紅が差していく。葵の言う回復に加え、秋也の怒りが相乗されているのだろう。
「いい加減にしやがれ、葵いいいいッ!」
先程より数段早く、秋也が跳ぶ。
その瞬間、ぼんやりとしていた葵がわずかに、表情を強張らせた。
「……!」
ガキン、と金属音を響かせ、秋也と葵の刀が交錯する。
しかしどこにも、秋也の姿が無い。
「……ちょっとやりすぎたかな」
葵は後方に跳びつつ、周囲を警戒する。再度放たれた斬撃を受け、葵は呪文を唱えた。
「『エアリアル』」
葵は風をまとい、上空高く飛び上がる。
「『星剣舞』。パパは完全に習得できたわけじゃないって言ってたけど、今、本当にギリギリだからかな。ほとんど無意識で『星剣舞』を発動させて、駆け回ってるっぽい。
でも、本当に完全じゃないみたいだね。……見切った」
葵は空中で刀を構え、ぐるんと縦回転しながら地上に降りた。
「やっ」
「……ッ!?」
地表が裂け、血しぶきが飛ぶ。
秋也は再び姿を表し、血塗れで転がっていった。
「……ぐ……うっ……」
秋也は左肩を抑え、荒い息を立てている。
「完全には捉えられなかったけど、肩はやったみたいだね。それに、超回復から全力で動き回ってたから、体力は今度こそ空っぽ。もう一歩も動けないでしょ?」
「……っ……ざけんなっ……」
秋也の強がった言葉も弱々しい声のために、ほとんど聞こえない。
「とどめ刺そうか? 放っておこうか?
どっちにしても、パパはもう、完全に負ける。剣士としての人生は、ここで終わる。
娘に、完膚なきまでに負けたあなたを、誰が剣士として尊敬するかな?」
「……っ……の……」
「何よりパパ自身の心が、もう折れてる。もうこれで、終わりだよ」
「……」
辛うじて上半身を起こしていた秋也はやがて、ばたりと倒れた。
葵は刀を納め、くるりと振り返る。
「カズラ。いるんでしょ」
「……」
木の陰から、葛が姿を表す。
「見てた?」
「……見てた」
「あたしのこと、許せないって思ってる?」
「思ってるよ」
「だよね。でも、あたしと戦おうと思わないで。戦えば、あんたはパパと同じ目に、ううん、それ以上の痛い目に遭う。死ぬかも知れない。
だから、そこから動かないで」
葵の言葉に構わず、葛は木の陰から飛び出し、秋也の側に駆け寄る。
「パパ、大丈夫?」
「……」
秋也は空を見つめ、何も答えない。
「借りるね、刀」
「……」
葛は秋也の手から刀を取り、葵に向けて構える。
「バカにしないでよ」
「バカになんか、してない。本当にそうなる、って言ってるの」
「ソレがバカにしてるって言ってるのよ!」
葛は怒りに満ちた声で、葵に叫ぶ。
「ドコからどう見ても、バカにしてるじゃない!
パパを散々いたぶって、あんなひどいコト言って! その上あたしと戦えば死ぬ? お姉ちゃんが殺すんじゃない!」
「そう。だから、させないで」
「パパも言ってたでしょ!? お姉ちゃんがココからいなくなれば、そんなコトなんか絶対起こらないはずだった!
ソレを実際にやったのは他でもない、お姉ちゃんじゃないの! こんなひどいコトをしたのは他の誰でもない――アンタだーッ!」
「……っ」
葵の顔が、ほんのわずかだが強張る。
「カズラ……」「もう何も言うな! アンタは、あたしの手で仕留めてやるッ!」
葛は刀を振り上げ、葵に向かって駆け出した。
だが、次の瞬間――葛の目の前が、真っ白に染まった。
「なに……っ!?」
「ソコまでだ」
光の中から、何者かが声をかけてくる。
「葵。オレに勝てると思うのか?」
「……」
「いいや、その未来が見えるか? 見えねーだろう? じゃあ退いとけ」
葵は答えない。いや、息づかいや衣ずれの音もしない――どうやら既に、逃げたらしい。
「葛、……だっけ?」
光が弱まっていく。
現れたのは、黒髪に黒い肌、そして黒衣と黒い帽子をまとった、短耳の少女だった。
「そうだけど、……誰?」
きょとんとしつつ尋ねた葛に対し、黒衣の少女はパチ、とウインクして返した。
「おっと、こりゃ失礼。
申し遅れたな、オレはカズセ・タチバナって者だ。ちっと手を貸してもらいてーコトがある。勿論、ソレだけの見返りはさせてもらうが、な」
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葛は面食らいつつも、その少女――一聖に応じた。
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