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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第9部

    白猫夢・探葵抄 1

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    麒麟を巡る話、第460話。
    来訪者、一聖。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     ふらっと自宅に戻ってきた秋也を見て、ベルが慌てて駆け寄ってきた。
    「あっ、シュウヤ! やーっと帰ってきた! ねえ、何があったの?」
    「……」
    「シュウヤってば!」
    「……ん? あれ? ……家?」
    「はい?」
     きょとんとしている秋也の額に、ベルがぴと、と手を当てる。
    「熱は無いね。……ボーっとしてるだけ?」
    「……ああ。……ボーっとしてる、かも」
    「どこ行ってたの?」
    「ほら、不動産屋行って、お前へのプレゼント買って、……で、……えーと?」
    「体調悪そうだね……。あれ?」
     と、ベルが気付く。
    「刀は?」
    「刀? オレのか?」
    「さっき持って行ったじゃない」
    「誰が?」
    「あなたが持って行ったじゃない。今持ってないけど、どうしたの?」
    「は? いや、床の間に……」
    「だーかーらー、持って行ったじゃないってば、さっき」
    「何の話だよ……?」
     と、開いたままの玄関から、葛が入ってくる。
    「ただいまー」
    「おう、お帰り、葛」
    「お帰りなさい。……あっ!」
     葛が刀を持っているのに気付き、ベルが口をとがらせる。
    「なんであなたが持ってるのよ、カズラ」
    「持ってるって言うか、パパがボーっとしてたから、ココまで引っ張って連れてきたのよ。刀も足元に落としてたしー」
    「……マジで?」
    「マジだよー」
     葛の言葉に、秋也は顔をしかめた。
    「マジで今日のオレ、何かおかしいみてーだな……。
     悪い、ベル。今日のデート、また今度でいいか?」
    「いいよ。シュウヤ、本当に疲れてるみたいだし」
    「悪いな……」
     夫婦揃って居間へ向かったところで、葛が玄関の陰に隠れていた一聖に声をかける。
    「大丈夫そう。ありがとね、カズセちゃん」
    「おう。ま、オレの術だし、今日起きたコトは死ぬまで、いいや、死んでも思い出さねーはずだ」

     秋也と葵の一戦の直後、突如葛の前に現れた一聖は、茫然自失となっていた秋也に治療術を施し、さらにこの1、2時間の間に起こった出来事を全て忘れるよう、忘却術をかけた。
     そのため今の秋也は、葵に敗北し剣士としての挟持を粉々に打ち砕かれたことなど、まったく覚えていない。

    「コレから道場やるって言うのに、自信無くしちゃってたらどうしようも無いもんねー」
    「だな。ソレに、葵のコトも覚えてちゃ色々まずいだろうし、な」
    「どうして?」
    「考えても見ろよ。葵がいるって分かったら、秋也はどうする?」
    「……追いかけるだろうねー」
    「そうなりゃ同じコトの繰り返しだ。葵は既に、秋也の力量、技量を見切ってる。能力も桁違いだ。
     もっぺん戦えば、今度こそ秋也は殺される」
    「……」
     葛は握っていた刀をわずかに鞘から抜き、刀身を覗き込みながら尋ねる。
    「お姉ちゃんは、どうしてパパを襲ったの?」
    「恐らくだが、理由は3つだ」
    「3つ?」
    「一つ、秋也から技を盗みたかったからだろう。
     葵には予知能力なんて言うふざけた力の他に、他人の技や術を一目見ただけで完璧に習得できちまう、いわゆる『ラーニング』能力も持ってる。
     葵は秋也の技を覚えたかったんだろう。特に晴奈の姉(あね)さんが極めたって言う、『星剣舞』をな」
    「せいけんぶ?」
    「知らねーのか? 秋也から、何にも聞いてねーの?」
    「うん」
     うなずいた葛に、一聖は腕を組んでうなる。
    「ま、秋也も完全にできたワケじゃねーっつってたしな。伝えようにも伝えられねーか」
    「って言うかカズセちゃんさー」
     葛は口をとがらせ、一聖をたしなめようとする。
    「パパを呼び捨てにしないでよ。パパの半分、3分の1も生きてないのに」
     その言葉に、一聖はニヤッと笑う。
    「そう見えるか? 実際にゃ秋也の方がオレの半分、3分の1どころか、10分の1にも満たねーんだぜ?」
    「マジで?」
    「おうよ」
     一聖がふふん、と薄い胸を反らせたところで、ベルが戻ってくる。
    「その子、誰?」
    「あ、えっとー、ソコで会った友達。カズセちゃんって言うのー」
    「お邪魔してまーす」
     一転、一聖は(見た目の)年相応の、あどけない少女を演じ、にっこりと笑って見せる。
    「あら、そうだったの? いらっしゃい、カズセちゃん」
    「えへへ」
    「もう夕方だけど、良かったらご飯食べてく?」
    「いいんですか?」
    「いいよ。お友達ってことは、同じ大学の子? 下宿かな?」
    「あ、はい。そうなんですー」
    「じゃ、たっぷり食べて行ってね」
    「はーい、ごちそうになりますー」
     にこにこ笑う一聖の横で、葛は呆気に取られていた。
    (コイツ、……図々しーなー)
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    例えばスープを一口飲んだだけで原材料や調理法をすらすらと応える美食家がいるように、葵も相手の技をちょっと見れば、その真髄までもを見通せてしまえるようです。
    「立葵抄」や「深闇抄」などで、その片鱗を見せていました。

    ちょっと気になりました 

    ラーニング能力というのは技をトレースできるだけでなくて、技の肝みたいなとこも理解してしまうものなのでしょうか?

    技を盗みたかった、ということですけど
    娘相手なら、死なない程度にセーブされたものだったんじゃないかな?と思いましたし
    不完全にしか使えない技、てのもみせましたけど
    そういうのからでも完璧な状態の技を繰り出せるようになってしまうものなのでしょうか?
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