「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第4部
蒼天剣・黒峰録 1
晴奈の話、第168話。
克大火の昔話。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「しつこい奴だ」
大火は毒づきながら、その急坂を滑るように下る。いや、まさに立て板に水のごとく流れ落ちているのだ。飛翔の術、「エアリアル」の応用である。
彼の背後から、いかにもと言った風体の戦士が追いかけてくる。大火とは違い、己自身の脚力をもって追っているのだが、魔術の達人である大火の強力な術に離されること無く、じりじりと追い上げている。
「ただの人間では、ないな。……面倒だ。『テレポート』」
呪文を唱えた途端、大火の姿は消え始める。追いかけていた男は一瞬動きを止めたが――。
「『フォースオフ』! 逃がさんぞ!」
「何……!?」
消えかけていた大火がふたたび現れ、地面に着地した。
「俺の術を破っただと?」
「お前のやりそうなことは、すべてアレフから聞いている! 観念しろ、タイカ!」
「アレフ? ……ああ、あのフードの男か? まったく何十年もかけて、くだらないことばかりしてくれるものだ」
大火はまた毒づき、刀を抜いた。
「そんなに相手をしてほしいなら、存分にしてやろう。……容赦せんぞ、リュークとやら」
大火の体から、あの煤のような闘気が噴き出した。
「く、……やるな」
数時間後。
大火は思わぬ劣勢に立たされていた。相手の力量を読み違えたのだ。
左腕の肘から先が、無残に断たれている。敵のリュークが無理矢理に、素手で引き千切ったのだ。
「度し難い馬鹿力だ。まさか『漆黒のコート』ごと、俺を千切るとは」
リュークはコートの袖が絡まったままの大火の左腕を投げ捨て、勝ち誇ったように笑う。
「さあ、そろそろ死んでもらうぞ……!」
「フン。左腕を奪ったくらいで、俺に敵うと思うのか?」
「思うさ。……さあ解体してやる、『黒い悪魔』!」
リュークが叫び、両手を挙げたその瞬間――。
「たーッ!」
リュークの背後から、棍棒が飛んできた。
「ぐあ!?」
リュークの集中が一瞬、棍棒を投げた「狼」に飛ぶ。
「だ、誰だ!? いきなり、何をする!?」
その油断を、大火は見逃さなかった。
「お前な。敵と対峙する、生きるか死ぬかの瀬戸際で……」
残っている右腕で、後ろを向いたリュークの頭をつかむ。
「な、何を」
「……油断するような阿呆が、俺に勝てると思うな。『ショックビート』」
リュークは一瞬ビク、と震え、耳、鼻、そして目と口から、血を垂れ流した。
「百年早いぜ」
「助かった。礼を言うぞ」
10分後、自身の腕を魔術で完全に治した大火は、助太刀した「狼」に礼を述べた。猟師風のその狼獣人は、照れくさそうに笑みを返す。
「いえ、そんな……、へへ」
「一つ聞く」
大火は使い物にならなくなったコートを脱ぎ捨てながら、狼獣人に尋ねた。
「あ、はい」
「何故俺の方を助けた? あの状況なら俺ではなく俺の敵に加勢したとしても、不思議は無いが」
「えーと、そのー……、はは」
「狼」はまた、恥ずかしそうに笑う。
「何だ?」
「あなたの方が、かっこよかったから」
「クッ」
思いもよらない答えに、大火は吹き出した。
「クククク、ハハハ……、俺は人気俳優か? そんなことを言った奴は、今までお前だけだぞ」
「いえ、でも。本当に、かっこいいですよ。何か、迫力あるし。超大物、って雰囲気がプンプンしてますもん」
「ククク……」
大火は初対面のこの狼獣人を、すぐに気に入った。
「俺は克大火と言う。お前の名は?」
「あ、はい。ウィリアム・ウィルソンと言います。あ、ちなみにオレの家系、皆W2個なんですよ。代々ずーっと」
それを聞いて、大火はまた破顔する。
「ククク……、まったく面白い奴だな、ウィリアムとやら」
ウィリアムと呼ばれ、「狼」はチ、チ、と指を振る。
「ウィルと呼んでください、カツミさん」
狼獣人ウィルは、人懐っこそうに笑った。
「……と、コレが黒炎教団の開祖、ウィリアム1世と克大火の出会いだそうよ」
「ほう……。やはり何と言いますか、おとぎ話のようですね」
「ま、そりゃねぇ」
屏風山脈を登る道中、晴奈は小鈴から、黒炎教団の起源とされる逸話を教えてもらっていた。
「んで、この山がウィリアムと克の出会った場所。
元々ウィリアムはこの山で猟師をしていたんだけど、克と出会い、彼を助けたコトでその人生は一変。
その後は克の親友として彼を支え続け、出会ってから10年後の双月暦340年、この山脈の頂上部に――」
小鈴は杖で、山頂の黒い建物を指し示した。
「あの黒鳥宮を建立し、黒炎教団を創設したの」
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克大火の昔話。
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「しつこい奴だ」
大火は毒づきながら、その急坂を滑るように下る。いや、まさに立て板に水のごとく流れ落ちているのだ。飛翔の術、「エアリアル」の応用である。
彼の背後から、いかにもと言った風体の戦士が追いかけてくる。大火とは違い、己自身の脚力をもって追っているのだが、魔術の達人である大火の強力な術に離されること無く、じりじりと追い上げている。
「ただの人間では、ないな。……面倒だ。『テレポート』」
呪文を唱えた途端、大火の姿は消え始める。追いかけていた男は一瞬動きを止めたが――。
「『フォースオフ』! 逃がさんぞ!」
「何……!?」
消えかけていた大火がふたたび現れ、地面に着地した。
「俺の術を破っただと?」
「お前のやりそうなことは、すべてアレフから聞いている! 観念しろ、タイカ!」
「アレフ? ……ああ、あのフードの男か? まったく何十年もかけて、くだらないことばかりしてくれるものだ」
大火はまた毒づき、刀を抜いた。
「そんなに相手をしてほしいなら、存分にしてやろう。……容赦せんぞ、リュークとやら」
大火の体から、あの煤のような闘気が噴き出した。
「く、……やるな」
数時間後。
大火は思わぬ劣勢に立たされていた。相手の力量を読み違えたのだ。
左腕の肘から先が、無残に断たれている。敵のリュークが無理矢理に、素手で引き千切ったのだ。
「度し難い馬鹿力だ。まさか『漆黒のコート』ごと、俺を千切るとは」
リュークはコートの袖が絡まったままの大火の左腕を投げ捨て、勝ち誇ったように笑う。
「さあ、そろそろ死んでもらうぞ……!」
「フン。左腕を奪ったくらいで、俺に敵うと思うのか?」
「思うさ。……さあ解体してやる、『黒い悪魔』!」
リュークが叫び、両手を挙げたその瞬間――。
「たーッ!」
リュークの背後から、棍棒が飛んできた。
「ぐあ!?」
リュークの集中が一瞬、棍棒を投げた「狼」に飛ぶ。
「だ、誰だ!? いきなり、何をする!?」
その油断を、大火は見逃さなかった。
「お前な。敵と対峙する、生きるか死ぬかの瀬戸際で……」
残っている右腕で、後ろを向いたリュークの頭をつかむ。
「な、何を」
「……油断するような阿呆が、俺に勝てると思うな。『ショックビート』」
リュークは一瞬ビク、と震え、耳、鼻、そして目と口から、血を垂れ流した。
「百年早いぜ」
「助かった。礼を言うぞ」
10分後、自身の腕を魔術で完全に治した大火は、助太刀した「狼」に礼を述べた。猟師風のその狼獣人は、照れくさそうに笑みを返す。
「いえ、そんな……、へへ」
「一つ聞く」
大火は使い物にならなくなったコートを脱ぎ捨てながら、狼獣人に尋ねた。
「あ、はい」
「何故俺の方を助けた? あの状況なら俺ではなく俺の敵に加勢したとしても、不思議は無いが」
「えーと、そのー……、はは」
「狼」はまた、恥ずかしそうに笑う。
「何だ?」
「あなたの方が、かっこよかったから」
「クッ」
思いもよらない答えに、大火は吹き出した。
「クククク、ハハハ……、俺は人気俳優か? そんなことを言った奴は、今までお前だけだぞ」
「いえ、でも。本当に、かっこいいですよ。何か、迫力あるし。超大物、って雰囲気がプンプンしてますもん」
「ククク……」
大火は初対面のこの狼獣人を、すぐに気に入った。
「俺は克大火と言う。お前の名は?」
「あ、はい。ウィリアム・ウィルソンと言います。あ、ちなみにオレの家系、皆W2個なんですよ。代々ずーっと」
それを聞いて、大火はまた破顔する。
「ククク……、まったく面白い奴だな、ウィリアムとやら」
ウィリアムと呼ばれ、「狼」はチ、チ、と指を振る。
「ウィルと呼んでください、カツミさん」
狼獣人ウィルは、人懐っこそうに笑った。
「……と、コレが黒炎教団の開祖、ウィリアム1世と克大火の出会いだそうよ」
「ほう……。やはり何と言いますか、おとぎ話のようですね」
「ま、そりゃねぇ」
屏風山脈を登る道中、晴奈は小鈴から、黒炎教団の起源とされる逸話を教えてもらっていた。
「んで、この山がウィリアムと克の出会った場所。
元々ウィリアムはこの山で猟師をしていたんだけど、克と出会い、彼を助けたコトでその人生は一変。
その後は克の親友として彼を支え続け、出会ってから10年後の双月暦340年、この山脈の頂上部に――」
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「あの黒鳥宮を建立し、黒炎教団を創設したの」



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